✜13 ここって、本当に異世界?
テレビはさすがに見れないだろう……見れた。日本でやっているテレビドラマがやっていて、チャンネルを変えると、アニメ、ニュースなど本当にここが異世界なのかさえ怪しくなってくる。衛星放送や動画配信プラットフォームまでもれなくやっている。
シュリとヤコが不思議そうに薄型テレビの裏面を覗いているのをみるとちょっと面白い。
さてと、少しお腹も空いてきた。いつもならクリエイティブでコンビニおにぎりやパンで夕食は簡単に済ませるのだが……。
「せっかくだからなにか作ろうかな?」
「アラタ様、料理なさるんですか」
「うん、まあ適当だけど」
食材の品ぞろえから簡単に作れる料理を探し、さっそく調理を始める。
豚肉に薄力粉をまぶし、先に準備しておいた醤油、砂糖、料理酒、すりおろしたしょうがをボウルのなかでよく混ぜ合わせる。そして酸味を加えるため梅肉を少々入れた。
キャベツの千切りはシュリに任せるものの、千切り自体をしたことがないそうだ。包丁の代わりにスライサーを渡して、細かくおろしてもらっている間に梅肉入りしょうが焼きが完成した。
「な、なんだこれは? こんなすごくおいしいぞ」
「おいしすぎてホッペが落ちてしまいそうです~~ッ」
それはなによりだ。あまり料理のレパートリーは多くないが、しょうが焼きは豚肉さえあれば手軽に作れるので親が不在の時はよく自分で作っていた。
「じゃあ先にお風呂に入って」
「わかった」「はい」
ふたりを先に風呂へ入るようすすめた。彼女らが入っている間に食器やフライパンなどの洗い物を済ませる。
「キャァァァ―――ッ」
「──ッ!?」
シュリの悲鳴? ──浴室へ急ぐと湯煙で前が見えない。って、なんで浴室だけ広くて洋風?
「シュリ大丈夫、って、うわぁ!」
後ろから急に押されて広い大理石でできた浴槽へとダイブした。お湯が熱いので目を閉じたまま慌てて起き上がろうと、もがいたら手になにか触れたので、掴まえて水面から顔を出す。
「あわわわわわ///」
「へ?」
右手で掴んでいたのは、まだ絶賛成長中のシュリの双丘のひとつ。
顔が風呂でのぼせたのか羞恥のあまりなのか、シュリが浴槽のなかで顔を赤らめている。
「ごごご、ごめんッ」
あわててワシワシしていた手を引き剥がして、浴槽から出ようと後ろを向くとボワンっと弾力のあるものにぶつかり尻もちをついた。
「どうした、アラタ? 一緒に入ろうではないか」
ヤコの肢体は伸びるところは伸びていて、出るところは出ている。ゴメン、刺激が強すぎてめまいがしてきた。
「せっかくシュリへ悪戯してお前をおびき寄せたのに」
ヤコさんの仕業だったのか……ってか、お願いだから前を隠して? 未成年には刺激が強すぎるから。
嫌がる自分の服を無理やり剥ぎ取り、しっかり背中を半ば強引に洗われた。
「意外といいカラダをしているな?」
背中を洗い終わったあと、ヤコが肩や背中を触ってくるので「ひゃん!」と自分でもどうかしていると思う変な声をあげてしまった。
「じゃあアタイたちは先に上がっておくから、アラタはゆっくり入ってたらいい」
「え?」
「なんだ? 一緒に長湯したいのか?」
「いえいえ、そんなことはありません」
ヤコへなぜか敬語で返す。──うん、別になにか期待してたわけじゃないし……。
風呂から出て洗い物の続きをやる。シュリは手伝ってくれるが、ヤコはソファでくつろぎながら、缶チューハイを片手にテレビをみている。
1階でやることがなくなったので2階へ上がる。3部屋あって、そのうちひとつにゲーミングチェア、ゲーミングモニター、ゲーミングPCと3種の神器が揃っている。どうみても自分用に用意されたものとしか思えない。PCを起動すると大好きなサンドボックス系のゲームがデスクトップにアプリがすらりと並んでいる。
それからどれくらいゲームをやり込んだのかわからない。気が付いたら寝落ちしていて、目が覚めたら同じ部屋のベッドで寝ていた。
なんか久しぶりに熟睡した感じ……冒険者の街で泊まった宿屋でもこんなに深い眠りにはならなかった。これも日本ではスタンダードの高性能なベッドのおかげ……。
いやー実によく寝た。
窓の外は砂漠だが、家のなかはエアコンが効いてて快適だなー。
でもひとつ気になるなー。
布団のなかで、こんもりしている2つのモノはいったい……。
布団をそっとめくると、やはり赤い髪と白い巻き毛が見えた。って、薄着すぎん? ふたりとも!?
目のやり場に困りながらも、ふたりを起こさないようにそっとベッドから這い出て、服を着替え、朝食の準備へ取り掛かった。
「おはよう」
「お……よう、アラタ……」
先にヤコが起きてきた。それは大いに結構だが、まだ寝ぼけているのかパジャマが乱れていて、パジャマの襟が肩からズレ落ちててかなりきわどい。目を半分閉じた状態なので、2階から降りる時に階段を踏み外して落ちなくてよかった。
「昨日って寝落ちしてた?」
「アラタがか?」
「うん」
冷蔵庫から500mlの水が入ったペットボトルを取り出し、直接口をつけて飲んでいるヤコへ訊ねた。
「覚えてないのか?」
「ゲームをしていたところまでしか」
「そうか……ふふっ、それは好都合」
「え、なにが?」
「さて、なんだろうな?」
それより朝食はなんだ? と質問され、こちらの質問を曖昧にされてしまった。
どうしても思い出せない……なんかとても気になるんだけど?
【ファンタジー小噺(12)】
面倒くさい男は序盤の街から出られない、のお話
受付「では、こちらが初心者のギルドが発行した冒険者登録票です」
麺堂「ほほう、していかに活用するのかな?」
受付「冒険者票はクラスに応じて受ける依頼が変わってきます」
麺堂「なぜ?」
受付「なぜ、と申しますと?」
麺堂「こんなもので、依頼の難易度が変わるのはなぜかと聞いている」
受付「これは冒険者の安全や依頼の達成確率を上げるために作られた……」
麺堂「そもそもギルドで依頼をなぜ受けなきゃならん?」
受付「ボソボソ……冒険者ギルドは皆さんのお手伝いをするために」
麺堂「じゃあ、無償でよかろう。賃金をもらっているのでは?」
受付「ええ、もちろん、組織というものは何かと金が要るものです」
麺堂「ほらみろ! 本性を現したな、この女狐め!」
受付「もう結構です。冒険者票をどうぞ、このギルドに来ないで下さい」
麺堂「ほう、慈善活動組織が差別的な発言をするとはな?」
受付「いえ、区別です。ってか、早く帰ってください」
麺堂「我はこれからどうすればよい?」
受付「んなの知るか……ゴホンッ、当ギルドには説明する義務はありません」
麺堂「ふっ、まあ、明日も来るから語り合おうではないか、サラバ!?」
受付「マスター、玄関に塩を撒きたいんですけど、あります?」