表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
繋がりのドミグラスソース  作者: 山いい奈
1章 再生の時
10/55

第10話 親子の会話

どうぞよろしくお願いします!( ̄∇ ̄*)

少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

 (ゆう)ちゃんを見送ったあと、守梨(まもり)は一目散に「テリア」に向かい、厨房で灯りを点け、フロアに向かう。


 両親は今もいてくれているだろうか。フロアに着いた守梨はぐるりと店内を見渡す。いるのかいないのか、そもそも幽霊が見えない守梨には分からない。だが、いてくれると信じて。


 守梨は厨房に近い席の椅子を引き、腰を下ろした。


「お父さん、お母さん、松村(まつむら)さんのお店に行って来たで。……ドミグラス、ビーフシチューにしてもろて、いただいて来たで。ちゃんとお父さんの味やった」


 思い出すと、また口の中にあの濃厚な味が蘇る。旨味とコクが豊かで、そして懐かしい。その暖かさは守梨を包み込んだ。


 守梨は言葉を切って、また店内に視線を巡らす。やはり両親の姿は見えないが、「マルチニール」に行く前に両親が立っていたと祐ちゃんが教えてくれたあたり、厨房とフロアを繋ぐドア付近に目線を向ける。


「松村さん、お父さんの味を守ってくれてはった。他のもんは松村さんの好みとかが反映されとったと思うんやけど、ドミグラスソースは同じやったよ」


 それは本当に心が震えるほどに喜ばしいことだった。松村さんが惚れ込んだお父さんのドミグラスソース。それを正確に引き継いでくれている。だからこそ守梨はまたあの味に出会うことができた。それでも。


「お父さん、お母さん、ドミグラスソースを駄目にしてしもて、ほんまにごめんな」


 そのことに対する自分への嫌悪感、罪悪感は、まだ守梨の中で(くすぶ)っていた。「テリア」の、お父さんの宝物を、お父さん本人が(いつく)しみ育てたものを破棄せざるを得ない羽目にしてしまったことは、本当に悔やまれてならない。


 それでも松村さんに譲られたドミグラスソースにも、お父さんの料理人としての魂が込められている。そこに松村さんの魂が加わり、そして次には。


「祐ちゃんがな、お父さんのドミグラスソースを守ってくれるんやて。ほら、私、お父さんに全然似ぃひんで、お料理できひんやん? せやから私が引き継ぐんは難しいて思ってたんやけど、祐ちゃんが代わってくれるて言うてくれてん。祐ちゃん、お料理もできるんやて。せやからうちか祐ちゃんの家に、お父さんのドミグラスソースが戻って来るかも知れへんのよ」


 守梨は穏やかに微笑む。本当にそれが叶えば、なんて素晴らしいことだろう。まるで両親が(よみがえ)って来る様な、そんな錯覚まで覚えてしまう。


「祐ちゃんに頼ることになってしまうんやけど、今度こそ守るから。せやからお父さん、お母さん、見守っとってな」


 返事は無い。守梨が口を閉じれば、この店内は静寂に包まれる。それでも守梨は両親の存在を信じる。祐ちゃんがいると言ったのだから。守梨がここにいるのだから。


 守梨はそっと立ち上がり、今できる精一杯の笑顔を浮かべる。まだ心の底からは笑えない。だが両親に少しでも安心して欲しくて。


「お父さん、お母さん、おやすみ」


 守梨は言うと、厨房で店内の明かりを落とし、2階に上がった。




 翌日は土曜日。会社は休みである。午前中、守梨は家事をすませ、その流れのまま「テリア」の掃除もする。厨房もフロアも、ダスターで綺麗に磨き上げた。休日の今日は床も()いた。


「お父さん、お母さん、私な、まだここ手放すとか、そんな勇気が出えへんのよ。せやからもうちょっとここにおらしてな。その代わり、毎日綺麗にするから」


 これまでは黙って手だけを動かしていた。だが今、ここには両親がいる。きっといる。まだ心は癒えていないが、嬉しくて、守梨は両親に語りかける。


 霊に詳しくは無い。だが漠然と、幽霊は怖いものだと思っていた。幼いころには心霊番組を見て、恐ろしい思いをしたものだ。だからか、最近はそういう番組からも遠のいていた。


 だが両親の幽霊だと思ったら、怖さなんて微塵(みじん)も無い。むしろ、暖かな空気が「テリア」に流れている様な気すらする。


 守梨には感じることすらできないのだが、できればずっとこのままでいて欲しい、なんて思ってしまうのだ。

ありがとうございました!( ̄∇ ̄*)

次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ