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1章 運命の卵8

トロポメリ=肉屋の息子

正直、名前なんて可能な限り製作コスト下げるために適当ですが。

「トロポメリ。日が落ちる前には戻って来いよ。いくらレイトルのヤツの娘でも、花嫁を待たせるなんてあり得ないからな」


「分かっているよ、親父。けどあまりレーシャのことは悪く言わないでくれ」


 何と言っても俺の花嫁になるのだから。

 我が父親ながら。無神経なヤツだ。

 いくら、嫌いな男の娘とは言え、それで当たるのは意地が悪い。

 少なくとも、あの男の血は流れていない。


「そうだな。あの弟のほうじゃあるまいし。そういえば昼間来たらしいな、あの忌々しいガキが」


「ああ、化物を獲って来やがった」


「相変わらず気味の悪いガキだ。父親と同じように戦場へ行けば良いものを」


「気味が悪いどころの話じゃねえよ。家の入り口よりもデカイ熊を仕留めて来やがった」


「そりゃおかしい。ウサギの化物を仕留めてくるだけでも奇妙だっていうのに。やっぱりあれには悪魔が潜んでいるに違いない。狩人の爺さんを殺したのもやっぱりあのガキなのかもな」


 悪魔ね。俺はそうは思わないが。

 何にせよ気味が悪い。あいつの父親もそうだった。誰よりも力が強く、素手で化物を仕留めるほどの巨漢。そして何より、灰の目。

 悪魔に憑かれている、まさか。あれは化物そのものだ。


「少し軍の方々に挨拶をしてくるだけだから、すぐだよ。どうしても確認しなければならない事があるんだ」


 広場を離れて、酒場の扉を開く。

 テーブル1つを囲うように椅子に座る4人。服装はバラバラ。それぞれ戦士のような風体だけれど統一感はない。唯一、四人がはめている指輪は同じデザインのもので、ユマノ軍の将校がはめているものだった。

 国の兵隊と話すのは初めてじゃない。

 いつもは鉄板を首にぶら下げた兵がやってくる。どこかから徴兵された農夫がほとんどで、相手をするのに困らない。大抵は脱走兵か、徴税や食料の調達を任されたならず者だ。

 どちらにしろ目的は保存が利く干し肉や麦で、それさえ渡せば酷いことにはならない。

 いくらか代わりに仕留めたばかりの獲物を持ってくる事もあるので、何時の間にかに俺の肉屋が食料交換所みたいになってしまっていた。

 その分。不作で不猟のクソみたいな最近でも、それなりに食えているのだが。


「ゼー。これから山に入る事になるかもしれないのです。酒はほどほどにして水でも浴びてきたらどうです」


「大丈夫だって。グラブリーが酒に弱すぎるのさ。葡萄酒で酔っ払うなんて他に聞いたことがねえ。お前が克服してくれりゃあ。湯を沸かす薪だの水場を探す手間が減るんだがね」


「まあそれは諦めてください。僕の一族は代々酒を飲むと病気になるんですよ。僕に言われても、突然慣れましたもう大丈夫ですとはならんのです」


「ゼー。そういうことじゃないと思うぞ」


 大男が豪快に酒を飲む。一見して、この男がリーダーに見える。椅子が壊れそうな程のがたい。肥大な筋肉、無骨な獲物。

 だが彼らの中心にいるのは確かにこの男だ。

 薄ら笑いが顔に張り付いているこの男。穏やかな口調とは裏腹に、いかにも乱暴な大男も従える。何より、この人が一番怖い。

 歓談しているように見えてどこかが俺たちとは違う。こう、近くにいるだけで居心地が悪い。親父はこう言っていた。軍の奴らはどこかおかしい。目の前に居る今も戦場に立っているようだと。


「おや、どうしましたか」


「あんたら。山に入るんだろう」


 幽鬼を振り絞り話しかけようかという所。逆にあちらから話しかけられてしまった。そんなに視線が分かりやすかっただろうか。

 咄嗟に吐いた言葉はうわずっていた。


「道案内ならいりませんよ。何日も森に入っていない狩人など連れて行っても役に立ちません。普通の村人なんてもっての他です」


「そうじゃなくて。実は今日、山から帰ってきたヤツがいたんだよ」


「それは良かったじゃないですか」


 全くもってダメだ。あいつは帰ってきてはダメだったんだ。

 どうせならそのまま山で死んじまえば良かったのに。

 

「全然良くないね。そいつ、ソーンベアとか言う熊の化物を仕留めて来やがった。これがその頭骨だ」


 家から持ってきた、ヤツの証拠品を見せびらかす。


「優秀な狩人なんですね」


「まさか。あいつは無能な狩人だ。あんな大物が取れる訳がねえ」


「へえ。それじゃあどうやってその獲物を獲ってきたんです。もしや、大きな咬傷か獣爪があったりしませんでしたか。もっと強力な化物に襲われたのかもしれない」


「いや矢傷だった」


「何だ。それじゃあ違いますね」


 だがヴィニートルにそんな腕前はねえ。

 ヴィニートルに限らず、村のどんな狩人だってコイツは狩れやしない。

 そんな奴は英雄か怪物だ。


「さっさと要件を話せヒョロガキ。俺たちをおちょくってるんじゃないだろうな。だとしたら大した覚悟だ。間違いだが」


 大男に怒鳴られ膝が震える。

 

「まあまあ。なら、どうしたって言うんです」


 だから薄ら笑い男の問いに。必死に答えた。


「女だ」


「女」


「ああ。何でも森で商人の女と会ったらしいんだが。どう考えてもそんなのありえねえだろ。街道で会ったって言うならまだ分かるが。針山だぞ。迷い込んだにしても生きているはずがない」


「なるほど。それは確かに変だ。その女性が熊を仕留めたのかもしれませんね。それで」


「そりゃ。針山の先にあるものと言えば1つしかねえだろ。ヴィニートルの奴、モンストルムの間者と通じたんじゃなんじゃねえかって話だよ」


「なるほど。おおよそあり得ない話ではありますが。もし本当なら、それは穏やかではありませんね」


 


 何だこれ。俺たちも村が焼けている。レーシャが、皆が焼けている。人々が逃げ惑い、悲鳴と建物の倒壊する音が木霊する。誰かが助けを呼ぶ声が耳に張り付く。

 

「何だよこれ」


「おや、肉屋の息子さんではありませんか。えっと、トロポメリさんでしたっけ。助かりました。おかげで、モンストルムの間者と思わしき女を発見できましたよ」


「グラブリー。その女には逃げられちまっただろうが、ガキにも逃げられ女にも逃げられ。何をやっているんだよ勇者様。」


「問題ありません。モンストルムとは確かに直線距離で近いですけれど、怪物と毒気で行き来なんて出来やしませんよ今頃隣の町に逃げている頃じゃないですか。我々はゆっくりと歩いて向かいましょう。そこで周囲の町などに知らせを送ればやがて捕まるでしょう。モンストルムの半人間とは言え、飲まず食わずでは生きてはいけない。ましてや、あの少年は生身の一般人。いずれ捕まりますよ」


 暢気に。まるで昼食時に今後の予定を立てるように、話をしている。

 この異物達が、放火の犯人であることは、疑いようもなく明らかだ。

 

「何でだ。どうしてなんだよ。なんで村が燃えているんだよ。ヴィニートルを捕まえるんじゃないのかよ」


「あれ、知りませんか。確かに、内通行為は死刑ではありますが。今回はその間者が問題です。半人間出あれば良くない技術や知識をを村人に教えている可能性があります。今回のようなケースは、村ごと焼くのが通例です。確かにお気の毒だとは思いますが、諦めてください」


 理解不能。理解不能だ。

 何を言っているの分からない。どうしてなんだよ。


「おい、さっさと片付けろよ。逃げられるたら面倒だ。この人数では山狩りなんて出来ないぞ」


「そうですね。それではモナハ祈りを」


「背信者なれど、大いなる主神の加護の元に、全ての罪を乞い許したまえ。来世の安寧と、灯火の導きがあらんことを。此の世に残る者に何か言い残すことはありますか」


「殺してやる。こんな結末は狂っている」


「そうですか。それでは、来世があればまた会いましょう」


 分厚い鉄の板が、肉の筒を通り抜けて。悔いすら思う暇もなく唐突に終わりを迎えたのだった。


「しかし。おかしな村でしたね。村の仲間を庇いも弁明も、我々を疑いもしないとは。なんとも薄情な人々です。あまつさえ、あの子供を売ろうとするとは。きっと良い来世は彼らにはないでしょうね」

 今日はストック全部吐き出す。

 良いね。賛否感想お持ちしております。

 読み終わったら、星マークの評価をよろしくお願いします。何卒。

 

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