1章 運命の卵4
「ライブラって。なんだよそれ。たしかエリクシアもライブラなんだっけ」
「私の場合はある精霊種と混ざっていてね。今回は連れてきていないのだけれど、私とその精霊種の魂を相互に交換している。ライブラとは狭間に生きる者。化物にして化物にあらず。人にして人にあらず。此岸を揺蕩う半端者。それがライブラだよ」
遙か昔。まだ人の国すらもなく、化物共が地上を跋扈していた。人と化物が血みどろの殺し合いをしていた時代。魔女達は化物殺し、人類の希望を生み出すことを考えたらしい。結果として、化物の因子を人間に混ぜることで、人は地上の支配者となった。
ところが化物殺しは様々な問題があった。
まず死亡率が高すぎた。化物と戦う事を強いられ続けた人間兵器、化物と対等ぐらいでは当然すり減っていく。また化物殺しを生み出す儀式もほとんどは失敗し、三日三晩、苦しみもだえて死んだとか。
化物殺しは子供を作る事が出来ない。優れた戦士を化物殺しに変えていけば、次第に戦士の数も減っていく。長期的に見れば明らかに失敗だったとか。
「それから改良を重ね、化物殺しの役割も変わり現在の形になったのがライブラ。二種の魂を混ぜて、人と化物の性質を併せ持つ存在に作り替えるわけ」
「それでドラゴンと戦えたりするのか。凄いな古の魔法、英雄製作魔法って」
「そんな良いものじゃないさ。ドラゴンに勝てたのは出産で体力を消耗していたのと、身動きが取れなかったからだけどね。ドラゴンなんて基本人が戦う相手じゃないのさ」
ライブラ。そんなものに僕もなっていくというのか。
実感は湧かない。
だってそうだろう。森に出かけて、少し無茶をして。よく分からないうちに力を手に入れましたって。僕に何をやれと言うのだろう。何を僕に求められているのだろう。
「今ではライブラの役割も随分変わっているけどね。昔が兵器なら、今は私刑執行人だ。化物や亜人種と人間種との諍いに、依頼を受けて介入し、バランスを取る。人が悪であったなら人を罰し、亜人が悪であったならそちらを罰する。時には問題を解決する。人間以外の便利な専門家。それがライブラの仕事さ。取り引きや孤児あるいは報酬としてライブラに託された子供達は、そう教えられてライブラになる。君の場合は、必ずしもそうである必要は無いけど、どう生きるかの参考になれば幸いだね」
少し違うけれど、ユマノ王国で言うところの傭兵みたいなものか。出自や特性はともかく、あまり難しく考えることはないのかもしれない。
「待てよ。その古の魔法を何でドラゴンが使ってくるんだ。ライブラに関しては少し理解が進んだけれど、全然僕の状況と結びつかないんだが」
「おいおい。化物ってのは魔の物だぜ。そりゃ人が思いついた魔法ぐらい簡単に使えるに決まっているだろう。それをまさかこんな方法で使ってくるとは思わなかった。まさか赤子どころか、卵の中の存在が魔法を使ってしまうとは、まさか親のドラゴンも思ってはいなかっただろうさ」
「ともかくその卵の中身は身に危険を殻に危険を感じたのかな。親に危険を感じたのかもしれないけれど、もしそうなら私はドラゴンをあの場で切り刻むべきじゃなかったということになる。私のせいで君を守り手に、あるいは相棒に選んだ。ヴィニートルの魂を自分の魂と、無理矢理スクランブルエッグみたいにかき混ぜてしまった訳だ」
「上手いことを言っているようで、僕がしっかりと調理されてしまっているよ。火を通されてしまっているよ」
その場合、僕の魂とドラゴンエッグの魂は一体誰に食べられてしまうのかね。死神か悪魔か、この場合は半分だけは魔の物であるエリクシアとかだろうか。
「そう、本来ライブラはかき混ぜただけなんだけどヴィニートル、君は違う。ドラゴン。母親の方がが卵のために何かしらの魔法を行使したみたい。自分の代わりに卵を守る守護やにしては頼りなさ過ぎるからね」
さっきから僕の知らないところで、僕の体が勝手に改造されている。
「細かい事はいいや、魔法がどうのこうのといわれても正直よく分からなからさ。正直なんで僕が選ばれたのかもよく分からないんだ今はもっと聞いておかなければならないことがある」
少なくともあの瞬間。僕は確かに化物を討ち取ろうとしていたはずだ、僕は僕の信念に従って敵対したはずだ。状況としては確かに僕だろう。僕以外に選択肢は存在しなかったのだろう。それは分かる。仮にもその卵を壊そうとした存在にだぞ。まして己をたった今殺そうとしている、人という種だ。恨めしかろう。苦しかろう。
なぜ僕に託すことが出来るのだろうか。
人に子を預けることが出来るのだろうか。
まあ良い。
竜の心など分からない。
死んだそれに、聞くことなど出来ないのだから。
「それで僕の体は結局どうなったんだ」
「分からない」
「これだけ長々と語っておいてかい」
何だったんださっきまで散々僕の不安をかき立てていた話は。
「だって私が魔法を使ったわけじゃないもの。こればっかりは詳しく検査するしかない。ヴィニートルがライブラに限りなく近い何か、になっているのは間違いないよ」
「ちなみにそれはどこで受けられるんだ」
「モンストルムだったら多分。ユマノでも魔法使いとかを見つけたら大丈夫だと思うけど、ヴィニートルには難しいでしょうね」
「それじゃあモンストルムに行くしかないのか。家族を見捨てるみたいで忍びないな。速く戻ってこられると良いのだけれど」
何か食べ物を取ってこなければきっと皆飢えてしまう。ドラゴンが原因だったのなら、それが消えた今。いずれ動物は戻ってくるだろうけれど、作物が不作なのはどうにもならない。
僕が獲物を獲ってこなければ。きっと酷いことになってしまう。
「何言ってるのさ。君は半分は化物なんだよ。卵を守る以外の選択肢なんてないんだよ。大体、この国に居場所がある訳がないじゃない」
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