2章 エピローグ
一旦、この話の投稿は終わりです。
3章以降に関しては投稿が遅くなることを謝罪いたします。
全体をブラッシュアップしました。
次回は別の小説を投稿することになるかと思われます。youtubeかTwitterで告知すると思うのでそちらを登録してお待ちくださるとありがたいです。
また作者のモチベーションに繋がるため、小説下部の☆マークでの評価や感想などお待ちしております。
「まさか町の近くにこんな場所があるとはね」
「領主所有の土地らしいよ。守り神に守られた土地とか。その守り神を殺しかけて、大事になってしまうところだったのだけれど」
「何をやっているんだ君は」
そう呆れた声を出さないで欲しい。そうなった原因は領主の娘。僕の友人であるシャルーンの発案の行動が元である。
僕が、衛兵を動かしたエリミシーを探ろうとしたため起きたとも言えるけれど、その場合はきっとシャルーンは死んでいただろうから、どちらの結末が良かったかなど、比べるのは残酷というものだろう。
「その主も、そのおかげで大人しくしていると考えれば、あながちこの物語ではヴィニートルが主人公だったというのも間違いじゃないのかもね」
僕とシャルーンを角切りにしようとした大鹿は、すっかりとエリクシアのソファーになってしまっている。
随分と大人しいものだ。それも当然だが。
「この子。頭は少し物騒だが。良い毛並みだね。持ち帰ってしまおうか。毛皮だけでも」
「勘弁してくれ。今度こそ、僕の友人が怒られるでは済まなくなる。というか、ほんと大人しいな、そいつ。僕のときはサイコロ状にされるところだったというのに」
「きっと出目は1だけだね」
誰の骨が太陽か。そんなファンブルは御免だね。
時折見せる、ナチュラル暴君。この王のような振る舞いと、僕のことを気にかけている姿。どちらが自然なのか。
どちらでも良い。エリクシアはエリクシア。僕の師匠なのだから。
ふと、誤魔化しきれない足音が、こちらに近づいてくる。大鹿が体を震わせ立ち上がる。
エリクシアが首筋から腹まで撫でる。なだめているつもりなのだ。しかし、こうも見える。急所に刃を突きつけているように。
そうして、再びそこに座る。
自分の上にそれほどの脅威が居ながら、逃げ出したくなる。そうだろう。僕も同じ立場なら、きっと逃げ出したくなってしまう。
いや。僕は立ち向かったのだったかな。なんというか、クシャミに。
そいつは静かに帰ってきた。
空の王者?
違う。
コイツは化物の中で王。王子なんてとんでもない。
生まれながらにして王なのだ。幼き王。
「お帰り」
紅い巨体。馬ほどだったその体は更に一回り、二回りも大きくなっている。大人の男2人は難しくとも。小柄な僕とエリクシア2人を乗せるのには。苦労しないほどに。
その頭を撫でる。
抵抗することなく、顔を僕に差し出す。
コイツが何を思っているか。僕にはまだ分からない。魂で繋がっていながら。お互い距離を確かめる。歩みを合わせる奇妙な関係。
エリクシアが言うには、少し勉強すればいずれ人の言葉も分かるようになると言う。人と契約できるほど賢い種族は。思うだけで会話する事も可能とか。
いつか、コイツとたわいのない会話をするのかもしれない。
「ヴィニートルいい加減、その子に名前をつけてあげたらどうだい。呼び名がない問いのは不便だし、名があれば君たちの仲もふかまるだろう」
「そうは言っても名前なんてつけたことがなくてね。言葉が分かるんだ。コイツの気に入らない名前をつけるのは可哀想だろう」
「そうは言ってもね。そんな事をもう14日は続けて居るぞ」
勇者を穴に投げ捨てて。逃げ出した僕たちは。子の森に潜伏していた。
元々。領主一族命でしか立ち入れない土地。化物も。大鹿のテリトリーには踏み入らない。怪我をさせた。大鹿を刺激するまいと、領主も人を送れない。絶好の隠れ場所だった。
何、見つかったなら見つかったで、今度はモンストルムとユマノを遮る国境方面に逃げれば良いこと。エリクシアは元々そこを抜けてきたのだ。僕が空の上に逃げられるようになった今。食料や水ぐらいが心配の種。
いつか話した、追跡の魔法ほどではないにしても。空の目を手に入れた僕たちは遭難するリスクはほぼない。
後はどれだけ楽をするかという話になる。
「この子の鞍も、もうすぐ出来るよ。ヴィニートルの皮膚はともかく空を飛ぶ度に、服をボロ布にされてはたまらないからね」
僕の皮膚は竜の鱗の頑丈さを一部手に入れている。コイツと魂が混ざり合い。竜のような特性を獲得しているからだ。なのでこの鋭利な竜鱗に触れてもズタズタにならないで済む。それでも服は傷むし、摩れれば真っ赤に腫れ上がる。
そこで、エリクシアは馬の鞍に似た、竜のための鞍を即席で作ってくれた。
「元になる革があれば良かったんだけどね。ただ毛を焼き落としてそれっぽい形にした急ごしらえ。あぶみがある分、安定感はあるだろうけれど長く使える物じゃない。空中で急に外れるなんてことはないだろうけれど。ひと月も使えば壊れるだろうね。なに、なるべく素早く抜けるとしよう」
エリクシアは出来損ないの鞍、鞍擬きだと言う。何でも以前 馬が逃げ出した時にこしらえた事があるとか言っているけれど、器用なのか何なのか。誰でも彼女のように鞍擬きを作れてしまっては。世界の鞍職人は失業してしまうだろう。
「それでも助かるよ。こいつはともかく。僕はあの山脈を歩いて抜ける気にはならない」
「案外、安全かもしれないけれどね。この子にちょっかいをかけようとするのは、よほどの自信家だろうね。いくら弱くたって竜は竜だ」
「そう願っているよ」
国境に位置する山脈。エリクシアに助けられた針山以上の魔境と知られる一帯は、化物が跋扈する危険地帯。僕が1人足を踏み入れようものなら、サイコロどころか、骨1つ残るまい。
遙か上空を飛び、地上ですら、化物が裂ける生き物。竜。
実感はないが、王というのは、伝承、伝説通り確からしい。
全く大した相棒だ。
その恐怖の山脈も、エリクシア1人なら問題も無し。準備さえあれば通過できるというのだから、この人も大概、化物じみている。
実際、竜を追ってやって来たこの人は、旅先で足を休める暇もなく。余裕綽々と首を落として見せた。つまり蛮勇の妄言ではなく。1度は実践済みである。
付け加えるなら。その後勇者とも戦闘し、引き分けたとはいえ、傷は負っていなかったはずだ。
今に思えば僕が彼女の心配をするなど、あまりに烏滸がましかったな。
「おっと、君のサイコロ仲間がやって来たぞ」
「シャルーン。どうしてここに」
「ヴィニートル。お願いだからそんな疑問を口にしないで。なぜなら、今にも目の前にある疑問に卒倒しそうなのは、私なのだから」
そう言って泡を吹くシャルーン。どうやら、不意にドラゴンににらみつけられたとき、普通の人はこのように反応するらしい。
「それで、町を逃げ出したはずのあなたがどうしてここに」
「行き先には当てがあったのだけれど、経路が予定変更でね。想定よりも食料や水が必要になったから小休憩。もうすぐ出発する予定だったのだけれど、まさか君が来るとは。会いたかったよ」
「それはどうも。して、その後ろの、口に出すのも恐ろしい化物は?」
「僕の相棒みたいな」
「はあ。もう良いです。こんな事ならキャンバスかノートを持ってくれば良かった」
この娘は筋金入りか。
「所でどうしてシャルーンはここに」
「実はね、ここ数日、周辺の森から生き物の気配が失われてしまって。それで この森の様子を見に来たの」
シャルーンが僕に耳打ちする。
「もし、大鹿が周囲の森を荒らしていたら、【化物を隠していた領主】なんて事になりかねないでしょう」
なるほど。それは確かに大鹿の機嫌以上に優先すべき事項だ。何せ大鹿は最悪、武力でなんとかなるが、民は武力だけでは片付かない。
「あなたたちを探しながら、勇者を名乗る3人が、王都に報告すると息巻いていたわよ」
「よーいドンのかくれんぼでは直ぐに追いつかれたからね。ここは1つ立ち止まってみる事にしたのさ。人の動きを予測するのが上手なみたいだけれど、まさか、町のすぐ側で、立ち止まっているとは思わないだろう」
「灯台もと暗しというやつね」
こちらには、村を焼かれ、フューメンをやられた恨みがある。
精々、意味もなく奔走しているがいいさ。
シャルーンは護衛を連れて居なかった。随分と薄情な父親である。
「護衛なんて連れて、警戒される方が嫌。ヴィニートルぐらい腕利きじゃなきゃ、連れて行くだけ無駄じゃない。その姿を見るとバカバカしいけれどね」
ふと思い出す。僕の村で獲物が取れなくなった理由を。そして申し訳なくなる。
「動物たちは直ぐに戻るよ。僕たちがいなくなれば」
エリクシアと、ドラゴンを視線で追った。
シャルーンも語らずとも納得したらしい。
「適当に誤魔化しておくわ。あなたには驚かされてばかりね」
エリクシアが鹿の上で手を振る。どうやら気を遣ってくれたみたいだ。
シャルーンが居場所をバラさない代わりに、何があったのか話せというので、洗いざらい吐いた。当事者達はもうこの国には居ない。フューメンの生徒達が少し可哀想だが。シャルーンに、あるいは領主に知られたからどうなることは何一つとない。
ついでなので、僕がどうして村を出ることになったのかもはなしてやった。
ライブラ関連の事情は誤魔化したので、ドラゴンの事に関して聞きたげだったが、僕が話せないと言えば追求はされなかった。
「それじゃあ改めて別れを言うよ。きっと僕は会いに来られない。ずっと遠い所へこれから行くから。それでも僕の友人で居てくれるかい。シャルーン」
「ええ。あなたが年老いてしまおうと。私はあなたを忘れないわ。じゃあね、ヴィニートル」
お互い背を向けて歩み出した。
「もう良いのかい」
「うん。丁度良かったよ。大体準備は終わっただろう。簡易だけど干し肉も出来た。旅立つには頃合いさ」
「それはそうだけど。随分と熱烈なプロポーズだったじゃないか。さらってしまえば良かったのに。私がしたから行けば竜に乗せられただろう」
「プロポーズって。そうなのかな」
確かに愛し合った仲ではあるけれど、彼女は領主の娘だぞ。
「鈍感なヤツだな。まあ、いいさ。生きていればまた会うこともあるものだ」
「急に大人ぶらないでよ」
女の人というものは、色恋話が好物だとレーシャに聞いたことがあるけれど。国をまたいでも変わらないみたいだ。
「エリクシア。僕はライブラになろうと思うよ」
「良いんじゃないかい、向いていると思うよ」
「それはどうして。化物も人も助けたからかい」
「いいや。気に入らないヤツを躊躇なくぶっ殺したからさ。勇者どもだけじゃない。君はエミリシーのことも場合によっては殺すつもりだっただろう」
確かに、ティシエがあの場で来なければ僕はエミリシーを殺していた。それはエリクシアに殺されるよりは僕がやった方が、決まりが良いと思ったからだ。
「確かに正体を暴いた責任みたいなものもあったかもしれない。けど君の行動原理にあるのは正義感に則った行動じゃなだろうね。現にもしフューメンが犯人だったらためらいなく殺していただろう。かと言ってエミリシーの過去に同情した訳でもない」
いわれてみればそうかもしれない。けれど、それが何だっていうのだろうか。
「ユマノでは化物はすべからく悪だ。存在知ることが罪であり、迷いなく人を生かし化物を殺せばいい。けれど、モンストルムでは違う。善悪など様々だ。化物が悪いことも、人が悪いこともある。人に依頼を受けて向かえば、化物の方がいじめられていたり、それを助ければ依頼主に罵られていたりすることもある」
気分の悪い話だ。
「モンストルムも楽園ではないね」
「そりゃそうさ。だから、最後に信じられるのは自分だ。法は確かに大事だが、私たちは裁判官じゃない。私たちはそれぞれ、殺したい者を殺し、助けたい者を助ける。それが正しかったのかは世界が教えてくれるのさ」
「それは随分と身勝手な天秤だ」
良いね。批判、感想お持ちしております。
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