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2章 英雄の卵24


 倒壊した下水道の壁。

 崩れた石材を踏みつけちょっとした洞窟を抜けると、そこに青白く見える遺跡があった。現代の者とは明らかに違う建築。倒壊した建物。何らかの石像。確かに文明があった事を感じさせる。

 門なんて装置があるぐらいだ。今のユマノよりもよほど発展していたのかもしれない。それも、つわものどもが夢の跡。今では廃墟が人知れず埋まっているのみ。


「ここを見つけたのは町からあぶれたならず者。何百年も前に発見されてから、遺跡はモンストルムに保護されていました。町が出来たのはその後のことです。ここに大きな城塞都市が出来たという噂を聞き、ユマノから人や物を動かすために使えるのでは。そう提案したフューメンさんは自らこの地に赴き管理してきました」


「盗掘していた野盗を殺して、自分のものとしたヒューメンは。上手いこと自身と

 遺跡をかくした。今となってはこの場所を知っているのも私たちしかいない。そしてこの門のことも」

 

「これが門」


 それは一見してただ石を積み上げた。オブジェクトに見えた。

 確かにアーチ状に石を積み上げた所は、風流に見える気もする。いかにも自然の岩石で建てられているからであって、整形した建材でならありふれた光景だ。モルタルと時間があれば誰にでも出来そうなものだ。

 この門がさんなただの積み石と違うのは、石から粘性の液体のような何かが漏れ出して見えている事だろう。


「この青い靄は」


「ヴィニートルも見えるようになったかい。きっと魂の変異が進んでいるからだろうね。それは魔力だよ。魔力がこの 石を門に変えている。旧時代の遺物に感謝だね」


 エリクシアが門に触れると石を持ったかのように浮かび上がる。ただの輪だったそこには魔力の膜とも言うべきものが出来上がっていた。


「これをくぐればモンストルムに行けるのね」


 そう言って手を伸ばそうとしたエミリシーの手をが止まる。横から強い力で掴まれたためだ。止めたのは僕ではない。ティシエの小さな手とも違う。アマリアさんだ。


「今は起動したばかり。このまま安定させなければどこに飛ばされるか分からない。もし門が途中で止まれば最悪前後で幹竹割りよ」


「おっかないこと言わないでよ。というか早く言って」


 呪文を唱えるとか、儀式おWするとか。魔法にはそんな特別が必要なのだと思っていた。実際にはエリクシアが門に手を触れているだけ。

 顔に一筋汗が流れる。何か集中する必要があるのだ。

 青、赤、黄、紫、門の色合いは次々と変わり波打つ。その奇っ怪な光景は見つめるだけで吸い込まれそうだ。

 そんな事を考えていると、地面に転がる小石が揺れ動きどこかへ消える。

 シンドウで揺れ動いた小石は、何時の間にか門をくぐったのだ。それが向こう。モンストルムに飛んだのか、それとも世界のどこかも分からぬ場所で、バラバラにくだけちったか。それは誰にも分からない

 次第に

 ゴオオオオ ッと、音を立て。門は風景を吸い込み始める。

 どうにも気持ちが悪く、不安を感じる光景だ。

 

「これで、大丈夫。門が安定したはずさ」


 エリクシアがそう言うと、遺跡全体が大きく揺れる。地面に手を突き揺れが収まるのを待つ。遺跡の建物が倒壊し。空に穴が空いた。

 青空に穴なんて開いた日には、太陽でも落ちてくる事だろう。ここは地下。つまり空がすっかり露わとなった。

 天井が落石として降っている。

 見るからにただならない状況だ。


「エリクシア。一体何をしたの」


「おかしいな。別におかしな事は」


「見て門が」


 門に視線を戻すと、先ほどの勢いを失っている。今にも消えてしまいそうだった。


「不味い。これは門の寿命だ。この遺跡全体で魔力が不足している。このままでは生き埋めになる」


「どうするんだエリクシア」


 想定外の事態。

 どこかの姉弟を運がないだのやんよやんよ。勝手に哀れんでいたけれど。こっちも大概運がない。まさか突然崩れ去るとは。


「突然ではないよ。フューメンから聞いていた。元から限界だったんだ」


 エリクシアが激高してフューメンを問いただしていた事がある。丁度、下水道から戻った時だ。エリクシアはこの場所を探し当て。調べたらしい。すると明らかな異変を見つける。門が頻繁に使われ過ぎていたのだ。


「フューメンは子の遺跡の寿命が短いことを知っていたんだ。だからこそ、全ての逃すべき人を、モンストルムに送る必要があった」


 なるほど。僕らに門を使えなかったはずだ。既に門の機能が停止すること決まっていたのだから。

 エリクシアが僕に顔を近づける。


「ごめんヴィニートル」


 その言葉の意味を理解する暇もなく、エリクシアはそれを始めていた


「だから、対策も用意してあるのさ」


 門に近寄るとエリクシアの懐が光り出す。

 それは一見するとただの石。

 石を先端にこしらえた、短い杖だ。

 地面を支えるにも、人を叩くにも短すぎる。だから、もっと特別な用途があると察しがつく。

 エリクシアはその杖を門に向かって突き立てた。その仕草は鍵を開けるようだった。


「この門はもうすぐ壊れる。

「だからフューメンは無理をしてでもこの町から皆を逃さなければならなかった。アマリア、ティシエ、エミリシー君たち3人のことだ。

「そのために一人ずつ、時間を空けて行っていたモンストルムへの移送を、一度にこなしていた。アマリアは知っていたね」


 アマリアさんが顔を伏せる。きっと僕たちの事情も全て聞いていたのだろう。けれど、後ろめたく思うことはない。突然やって来たのは僕たちの方だ。事情ぐらい教えてくれてもと思うけれど。隠す理由も分かる。


「本来ならモンストルムに相談すべき事柄だろう。モンストルムでも固定された門は希少な技術。きっともっと戦略的な事情に使われるだろう。サキュバス数体などの為ではなくね。

 

「フューメンは命を選んだ。そんなフューメンの意地。最後の秘策がこれだ。

 

「魔力の結晶体。これを使って門を一時的に補強する」


 門が再び音を鳴らす。


「さあ今のうちだ。アマリア。ティシエ。エミリシー。早く中へ」


 エミリシーが少し躊躇う。その背をティシエが突き飛ばし。門の中へと消えた。

 アマリアが一礼して中に飛び込む。そして門は再び力を失った。


「これは門が一度は動くことを想定していた策だ。死にかけの門を5人も転送させるような代物ではない。その状況では良くて3人がギリギリだ。ごめんヴィニートル。私たちはモンストルムへは向かえない。フューメンの意思を叶えるには。私たちの席はない」


 その事実はどうしようもなく。重く天井の破片と共に僕たちに降りかかった。

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