2章 英雄の卵21
2章16 17話 1章9話 等加筆
「エリクシア。先にフューメンさんの部屋に。アマリアさんに聞きたいことがあるんだ」
アマリアさんを呼び出し少し話を聞いた。アマリアさんはサキュバスと人のハーフ。フューメンと付き合いが長く。ティシエとエミリシーについても詳しいはずだ。そして密告の容疑者の1人でもある。
「それじゃあ。殺されそうだった所をフューメンに?」
「ええ。私は化物からも人からも望まれない存在でしたから」
彼女も難儀な人生を送っている。ここで働いているのはフューメンに恩を返すための他に生きていく為必要な事情もあるみたいだった。サキュバスは人の食べ物だけでは生きていけない。補給をしなければ強烈な飢餓と渇望に襲われる事となる。
「普通はサキュバスは精を死ぬまで奪うだけ。子を成すことなど通常はあり得ないのです。しかし偶然か意図的か。人との間に生まれた子が時折生まれてくる。
「今となっては、あの2人のように純粋なサキュバスがユマノで見つかることの方が珍しい。今ユマノで生き残って居るのは、身を隠すのが得意な個体だけです。その他は殺されたか、既に逃げ出しました。なのでこの町に流れ着いた2人を見たときには驚きましたよ。まだユマノに人と暮らすことが出来る化物が残っていたのだと」
そう考えると。ユマノとモンストルムの架け橋とも言うべきフューメンの役割は。終わりを迎えようとしているのかもしれない。これから。きっともっと大きな戦争が起こるのだろう。
あの勇者と呼ばれる男達。国内の化物を始末するだけが仕事とは考えづらい。内部が終われば次は外だ。ユマノという国は侵略国家。目の前にモンストルムという目標があって止まるとは到底思えない。
そのときにはフューメンやアマリアもモンストルムに避難しなければならないだろう。
「その隠れているサキュバスはどうやって暮らして居るんです。小さな集落では息苦しいでしょう。大きな町で寝込みでも襲って居ると?」
「いえ。町中とは言えグールなどが現れないとは限りませんから。サキュバスだって鍵は開けられませんよ。大抵は、酒場で飲んだくれている男を眠らせてしまうというのが多いです。サキュバスは人を眠らせる魔法が得意ですけど、それ以外に対したことは出来ません」
なるほど。化物と言ってもあらゆる無法を押し通せる訳でもないか。僕が言葉を話す化物の経験が少ないせいか、もっと強大で恐ろしいものだと錯覚していたみたいだ。
アマリアが僕に耳打ちする。
「中には娼館で働いているのも居るみたいですけど、本当に力のあるサキュバスは山奥で暮らして、子供を攫ってしまうんです。そして置いて死ぬまで人を飼うんだとか」
「それは恐ろしい話だね」
話の真偽は分からないけれど、きっと本当の事なのだろう。谷間にある村に住んでいた僕にしてみれば、そら恐ろしい話である。
それはそれとして、頬を赤らめながら舌を出すアマリアは、きっと僕をからかっているのだろう。
「行きましょう。フューメンさんと話があるのでしょう」
もっと厳格な人かと思っていたけれど。こうして話してみると、愛嬌や親しみがある。1つ確かなのは。この人に僕は敵いそうにないことだけだ。
「全員集まったな」
「別に集められた覚えはないけれどね」
フューメンに部屋に入ると、見慣れた顔ぶれが揃っていた。
部屋の主であるフューメン。そして秘書のアマリア。
僕とエリクシア。
そして、ティシエとエミリシー。
知らないうちに勢揃いだ。
「エミリシーとティシエも一緒かい。そちらも何か進展があった?」
「いえ、あまり。私たちはただフューメンさんに来て欲しいと」
「う……」
エミリシーは顔を背けて、すっかりツンツンモードである。僕が何をしたというのか。
隣を見ると、エリクシアも意表を突かれたみたいだし。フューメンは分かったいたみたいだけれど。何か彼からあるのだろう。
けれどそれならそれで都合良い。僕も皆に用事があった。
「実は……」
僕が話をしようとした瞬間。それは起こった。
辺りが闇に包まれる。それはまるで、夜が襲ってきたかのよう。その光景にぼくは見覚えがあった。
思い出したのはとある姉弟が襲われている光景。つまり吸血鬼の襲撃である。
いつか僕がこじ開けた窓。そこの壁そのものが強引に押し倒された。
一番、壁から近い位置に居たのは。
「ティシエ」
「大丈夫です。けどヒューメンさんが」
近寄るとフューメンは血を流し怪我をしている。ティシエのことを庇ったのだろう。老体に波傷が痛々しい。血が止まる様子がない。かなりの重傷だ。
グルルルルルウル。
襲撃は別に終わっていない。
近くに居た腐敗した犬の顔面に剣鉈を叩き付ける。
「何をしている。俺のことは良い。皆を逃がせ」
フューメンを見るべきか。それとも。
「ヴィニートル。外は私が片付ける。だから皆を安全な場所に」
どうするべきか。どうして町中に化物がなど。疑問は尽きない。だがそれを考えている余裕は僕にはなかった。
外も囲まれているかもしれない。ティシエやエミリシーは衛兵に会わせられない。万が一があっては困る。
砂煙が落ちつき。夜目も利いてきた。部屋を見渡す。フューメン以外は今のところは無事だ。エリクシアは侵入を食い止めている。そのとき、床の敷物が目についた。
そうだ、ここから逃げるには最適な場所が1つあるじゃないか。
「下水道だ。下に逃げよう。皆、部屋の隅に」
僕が降りたときと同じ、跳ね上げ扉。その扉には簡単な錠前がされていた。
剣鉈は落としてしまっている。ナイフを取り出し柄を叩き付ける。そう複雑なものではない。叩き壊してしまえば開くはずだ。
「早く」
下に問題は無い。敵もまさか地下に逃げるとは思っていなかったようだ。
アマリアから順に、地下に降りる。後は僕とエリクシア。そしてフューメンだ。
「早くするんだフューメン」
フューメンがかがみ込んだまま動かない。聞こえていないのか、動けないのか。どちらにしても、連れていくのは難しいかもしれない。
けれど、生きているなら置いていきたくない。
フューメンを立ち上がらせるべく近寄ろうとしたとき。彼の頭が宙を舞った。
「え」
「ああああああああああああああ」
静寂。
そして衝撃。
アマリアさんが叫びを上げる。
耳障りなかなぎり声。その音はとても悲しげだった。
「久しぶりですね。いえ、ちゃんと対面するのは初めてでしたか」
「勇者」
そこに居るはずのない人物がそこに立っている。
反射的に弓を構える。
矢は既に放たれた。
目にも留まらぬ早撃ち。相手は、自分が攻撃された事に気がつく暇もないはずだった。
「野蛮で困りますね。君は。まずは話をと思っていたのですが」
矢をいともたやすく掴み取られる。必殺のはずの矢は、力なく地面に転がる。これが勇者。ユマノの誇る化物殺し。僕の村を焼いた張本人。
「僕の名前はグラブリー、この国の軍に所属する、木端男爵です。以後お見知りおきを。出来れば穏便に話を済ませたいものなのですが」
「グラブリーさん。嘘をつかないでください。あなたの身分は勇者であって、爵位はないはずですよ」
「モナハ。何ですぐにバラしてしまうんですか。もしかしたら、男爵という言葉に大人しく従ってくれたかもしれないのに」
何時の間にかに男がもう一人。一体なぜ、この最悪なタイミングでやって来たんだ。
「エリクシア」
エリクシアを呼ぶ。下の3人を逃すこと。勇者と戦っている暇はない。
エリクシアは剣を振って血糊を払う。勇者達と、ヒューメンを一瞥し。そして冷静言う。
「外のアンデットの数は際限がないよ、囲われている。けどどうやら私たちだけを狙って居るみたいだ。町が混乱している様子は無いよ。他の人は」
「この中」
エリクシアと勇者のにらみ合い。村でも決着がつかなかったのだ。お互い横やりを警戒しては手を出しづらい。
だが運はこちらの味方をした。
吸血犬が勇者に襲いかかる。そのすきに僕たちは下水道へと降りていった。
「モナハ、これを町に放つ訳にはいきません。補助とゼーに連絡を」
「分かりました」
「半魔の少年。また会いましょう。そのときは命を狙います。我々にだって、仇を討つぐらいの情がある」
別れ際に放たれた呪いの言葉、それを飲み込んでなお。僕は歩みを止めなかった。
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