2章 英雄の卵20
2章19話追記
「君のことを探していたんだ。そうしたら、領主の娘と一緒に居る君を見たって聞いてね」
朝焼けと共に屋敷から外に出る。澄み通る冷たい空気。彼女の白い髪が美しく見えた。
「まさか。どうやって 僕の事を見つけたんだい。エリクシア」
「そりゃ人に聞いたのさ。驚くような事じゃない。後は領主邸までの道を、歩いている人に聞いてね。土地勘のない町は困るよ、何せ目的地が正解かが分からない。それとも、それ以外の方法があると」
「言づてを頼んだ覚えがなかったもので。エリクシアなら何をやっても不思議じゃないって感じだよ。何をやっても驚かないどころか、驚きっぱなしだ。動物の声を聞いて僕のところにやって来たと言っても僕は信じるよ」
「森の中ならともかく、町では人に聞いた方が早いよ。君の位置を常に知らせる魔法を使っていたと言っても信じそうだね」
「使っていたのかい?」
「そんな魔法は知らないよ。是非、化物を追っている時に使いたいね」
なるほど。それは確かに使ってみたい。その日は村の英雄だろう。
「久しぶり」
「ヴィニートルもね」
他愛のない会話をした。
面白かったこと、つまらなかったこと。驚いたこと。話をする内に自然と目的地の前までたどり着いた。
離れていたのは少しの間だったけれど、随分と経ったように感じる。
「僕なりに調べ事をしていたのだけど、そっちはどうかな」
「それは良いね。こっちも準備万端さ。エリクシアさんに任せたまえ」
おかしな話だ。エリクシアと出会ってから何日経ったのか。些細な時間だ。だというのに、懐かしく、頼りになり、心地よい。きっと、彼女以外に心から僕の師と呼べる人は現れないだろう。
「勇者がこんなにも早くこの町にやって来るとはね。偶然なのか、この町に向かうと確信があったのか」
「どうだろうね」
「ヴィニートルが殺した斥候。何だったか」
「イスカーティンだよ」
「そうだった。イスカーティンを始末できたのは大きいね。この町を離れさえすれば人員を補充しない限り追跡は難しいと思う。ただ、あの勇者が読みだけで居場所を的中させたなら、ここで決着をつけておきたい。何としてでも門を利用してモンストルムまで行く」
どうやらエリクシアは門。モンストルムまでの転移装置を使える自信があるみたいだった。フューメンが同意するとは思えない。それに。
「エリクシア。それなんだけど」
「分かってる。サキュバスの2人もしっかり連れていくよ。全員ね」
「わかった。信じるよ」
扉を開ける前に
「さて、これから我々はこの町から出て行かなければならない訳だけれど。気持ちに整理は付いたかい」
「うん。覚悟が出来たよ。時間が必要でした。馬鹿になるだけの間が」
まともであればあるほど、ナーバスになっていく。憂鬱になっていく。いっそ復讐に曇るぐらいの気持ちがあれば良かった。酒に溺れる程だらしなければ良かった。
全てを忘れて、ひたむきになれれば良かった。
「僕は彼女が死んでもそんなに悲しきありませんでした。悲しくないことがショックでした。良き弟には僕はなれませんでした。良き従兄弟にはなれませんでした」
どうせ死ぬなら僕が順当だったはずだ。正解だったはずでだ。良きものと悪しきもの、明白だったはずでだ。
村の嫌われ者。詳しくは知らない。それでも忌み子とまで言われた僕よりも、彼らの命は大切で、レーシャは死んで良い人ではなかった。
僕に残されたたった1つの繋がり。姉さえも、家族さえも奪われた僕に何が残っているのだろうかと。
「人よりいい女を抱いている。
「人より勉強ができる。
「人よりも金を持っている。
「人よりも良い血が流れている。
「人よりも仕事ができる。
「そんな小さな妄想幻想の積み重ねが、人を馬鹿に自信を与えてくれるんだと思う。小さな目的が、人を前に進ませてくれるのだと思う。
「僕は出来たよ。生きていくための小さな幾つもの目的が」
「私には分からないけれど。見違える程良い男になったと思うよ」
それなら良かった。僕はようやく前に進めると、そう自信が持てる。
「ところでエリクシア」
「なんだい」
「いや、何でもないよ」
ドアを開こうとしたとき。独りでに扉が開いた。内側からは見覚えのある顔が現れる。
「うるさいぞ。朝から。ここはフューメン先生の邸宅だ。用がないなら帰れ、ってあんたらは」
「ああ、君。これから騒ぎが起きたりして大変だろうけれどこれからも頑張ってくれよ」
「お疲れ。アマリアさんに伝えてくれない。フューメンと話をするから来て欲しいって」
「は、お前ら。待て」
既視感のある光景に、エリクシアと笑ったのだった。
良いね。賛否感想お持ちしております。
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