2章 英雄の卵14
「ヴィニー何やってるの。早く持ってきてよ」
「ハイお嬢様」
「早くしてよね。絵の続きが描けないじゃない」
警備兵の目をかいくぐったつもりが、どうやら隣のたてものから見られていたらしい。はつらつとした声で急かされてしまった。
街の中でも一際大きな庭付きの建物。塀の内側に見える建物は全て領主の持ち物というのだから驚きだ。
その中でも最も大きな屋敷。そのどこかに書斎がある。僕は領主と会話する機会を得るか。書斎から誰が裏切り者か分かる書類があれば良い。
「お嬢様。戻りましたよ」
「ありがとうヴィニートル。これで続きが描ける」
僕が取ってきた箱には色とりどりの植物や石が保管されていた。どうやらこれらを油と混ぜることで絵の具というものが出来上がるらしい。
僕は色つきの絵なんて見たことがなかったが。この部屋には彼女の作品が幾つもならべられている。これほど多くの絵があるのは裕福な家でも珍しいらしい。この作品達は、お嬢様シャルーン・ディマニの作品らしかった。
彼女描いている絵では、勇ましい男が剣を掲げている。僕にも分かる。これは英雄の絵というヤツだ。彼女曰く練習らしい。これから作る作品を素晴らしいものにするための。
それは分からない。僕にとっては今砕かれている鮮やかな石のほうが、絵よりもよほど価値があるように見える。
「まだかかりそうですか。その絵には」
「そうね今日中には出来上がると思う。乾かして、その上から色を重ねたりも出来るけれど、この絵はこれでお終い。思っていたよりも早くあなたが来てくれたものね」
「僕は護衛の依頼と聞いていたのだけれど」
「それはそっちで勘違いしたんじゃない。あなたの仕事は。絵のモデルよ」
僕にとって、護衛よりもよほど難解な仕事だった。
手紙を持ってやって来た僕は、警備兵に迎えられて。すんなりと彼女の元に通される。それもなぜか弓も、懐の短剣も取り上げれれず。ここにやって来れたものだから不思議で仕方ない。手紙に対する信頼が高かったらしい。
あんな無造作に管理されていたというのに。
「あのお嬢様」
「黙っていて。私絵を描いている時は集中していたいの」
今僕は弓右手に持ったままずっと英雄的なポーズとやらを取らされている。実に間抜けだ。
きっとこのまま矢を放てば。明後日の方向に飛んでいくことだろう。
馬鹿馬鹿しいとは言わないけれど。いつまでこうしていれば良いのだろう。
何でもデッサンという下書きが終わるまではずっとこうしていなければならないらしい。本当は何日もじっとして田舎ればならなかったみたいだけれど。僕が不満を言うと引き下がってくれたみたいだった。
「ダメね全然ダメだわ。やっぱり実際に見てみないと」
彼女は炭を持つ手を止める。気迫すらも感じる気配が薄れるのを感じて。僕も自然体に戻った。
「実際にとは」
嫌な予感を抱きつつ。僕は彼女に尋ねた。
「それは当然戦いをよ」
「まさか」
「行くわよ怪物狩りに」
僕の護衛任務は。一筋縄では行かないらしい。
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