2章 英雄の卵12
「さてどうしようかな」
当初は2人にフューメンの部屋に忍び込んで貰うつもりだったのだけれど、1人じゃ心細くてとてもとても。
見張りだの、フューメンを連れ出す人員がいなければどうにもならない。
手っ取り早くフューメンの疑いを晴らす、あるいは探るには丁度良かったのだけれど。
「アマリアとフューメンを警戒しつつ、荒らすのは無理だろうね。そもそもフューメンをえ部屋から引き離す役が足りない」
フューメンは見た目相応に老人らしく、部屋に籠もりっきりだ。学徒達曰く外に出ることもあるそうだが、それを待ち続けるのは気が長い。何かで、誘い出したとしてもその場合はアマリアが部屋の側に居るのが気になるだろう。トラブルが偶然起きたとして僕だけが反対にフューメンの部屋に向かえば誰かしらに不審がられる。
「それならもう一つの方を当たろうか。そっちならこそこそする必要もないからね」
白ローブに矢筒を背負い、弓を手にする。そうして、意気揚々と街に出たのだった。
途中、矢を補充したり、剣鉈になおしたり。用事を済ませてから、そこへたどり着いた。
「おじさん。居るかい」
なんだか顔なじみになりつつある、さえないおじさんに会いに衛兵の詰所にやって来た。
詰所と言っても、寂れた小屋だ。剣を振るスペースもない。書類仕事を片付けるか、本当に人が待機するだけの場所みたいだ。大きさで言えば、町を囲う壁を警備していた所の方が規模が大きかった。
下水道の方に人が集まっていれば、人も減るというものだ。だというのに目的の人は直ぐに見つかる。胡散臭い顔をした、パッとしない衛兵。僕に森の様子を確かめるよう依頼したおじさんである。
「おじさん。中に入らせて貰うよ」
僕の姿に驚いたような面倒くさいような、なんとも複雑な表情をして。そして僕の目的が自分であることに気がつくと、確実に気だるそうにしてこちらに向かってきた。
「どうした坊。今のところ仕事は無いぜ」
今回は小銭を稼ぎに来た訳ではない。
それと本題ではなかったがこれも伝えておいた。フューメンに聞いた、犬型の化物の正体について。
おじさんは大げさにありがたがり、詳しく詰所の中で腰を据えで話をすることとなった。
内部に入っても、やはり人影はほとんどない。森にはまだ、吸血犬討伐隊が向かっていないというので、やはり今も、下水道を警戒しているのだろう。
少しでも戦力が分散すれば良いのだけれど、正体が分からないと兵を出せないと言っていたぐらいだ。今は足下にお熱だろう。
忙しいのは本当みたいで、更に下水道への人員が増やされるなんてことは無さそうで安心した。
しかし、ともすれば、なぜこのおじさんはまだここに居るのだろうか。同僚が心底忙しそうにしていると語っているのに。
十中八九サボりだろうけど。
「まさか吸血鬼なんて化物が居るとは。恐ろしい話だな」
血を吸い糧とし増殖する化物。
フューメンの話が本当なら。放っておくと大変なことになる。出来れば僕も手伝いたいところだけれど、衛兵や勇者にこそ相手をして貰いたいものだ。
「それで森の様子はどうだい」
わざとらしく部屋を見渡し、進捗を尋ねる。答えは想像できるが。
「今は別件に手がかかっていてな。調査して貰っておいて何だが、全然ダメだ。だがそれが本当ならより多くの人手が割かれることになるだろう」
これで下水道の衛兵も少しは減るだろう。勇者が来る前に、さっさとサキュバス2人組を脱出させたい。あわよくばそれに便乗して門を使いたい。
「おいおい。僕がせっかく調べてきたって言うのに、後回しかい。よほど重要な事態なんだろうね」
おじさんは顔を僕の側に寄せ、小さな声で話し始めた。
「実はな、下水道に人に化ける化物が入り込んだって話があってそれどころじゃないのさ。そいつを狩るまでは大忙しってわけよ」
そういうおじさんの顔は、確かに疲れているように見える。
「そいつは大変だ。けど、本当の話なのかい。下水道に化物が居る事なんて珍しくない。人に化け襲う化物が居れば確かに大変だけどね。大方、グール当たりを子供が忍び込んだときに見つけただけじゃないのか。全く疑わしい話だよ」
「それがな、俺たちは絶対に無視できない人からの話なのさ」
来た。誰だ。一体誰からその話を聞いた。
「このディマニウォールを治める領主様だよ」
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