2章 英雄の卵11
「ヴィニートルさんの言うことは大体分かりました。しかし協力は出来ません」
「それはなぜだい。僕も何か協力したいんだ。問題の早期解決のためにね」
さっきから様子のおかしいエミリシーはともかく、ティシエは納得してくれると思っていたのだけれど思惑が外れてしまった。
彼女たちにとっても悪い話では無いはず。裏切り者がいるかもしれないとなれば、計画が遅れるだけでは収まらない。僕の読みが外れていただろうか。
「ヴィニートルさんの話はもっともに聞こえますが、すべて推測に過ぎません。大体、彼が私たちやヴィニートルさんを殺したいならもっと良い方法があるはずです。フューメンさんが犯人だとしても何か事情があるのやも。何よりフューメンさんに動機があるようには思えません。フューメンさんが言っていたように、どこかから断片的に計画が漏れたと言う方が納得できます。あるいは、疑わしいと言う意味では、ヴィニートルさんはともかくエリクシアという人も怪しいです。私は話したことも無いですから」
なるほど、確かに。固執しているつもりは無かったけれど、僕の視点で思考を止めてしまっていたかもしれない。何もかも決めかねるよりはマシだが、思い込みすぎるのも良くない。そうやって化物の罠にかかった狩人を知っている。
「私たちはフューメンさんに恩がある。なのであまり容疑だけで疑ってかかりたくはありません。なのでこうしましょう。私たちはエリクシアさんを含め他の可能性を探る。ヴィニートルさんはフューメンさんを探りつつ真実を。どうですか」
「いいね。ティシエ。その提案はとても良い。僕は君を見くびっていたよ」
おどおどとしていただけの幼い少女が今日はまるで別人のようだ。エミリシーがダメそうだからだろうか。理由は分からないけど、頼もしいじゃないか。思惑は外れたが。
「それじゃあお互い頑張ろう、ティシエ、エミリシー」
僕の目的はフューメンやその他の敵にエリクシアの邪魔をさせないこと。もし裏切り者がフューメンだったときに、フューメンの事をエリクシアは斬れ無いかもしれない。だから僕はフューメンさえ警戒していれば良い。
「彼女たちのために、みたいな顔をしていれば協力してくれると思ったんだけど。やっぱり、門以外の脱出方法は必要なのかもしれない」
「もう行ったよ。ヴィニートルさんは」
エミリシーは等々落ち着きを取り戻す。
「本当に?」
「本当。昨日、彼を襲ったときに何かあったの」
私だってサキュバスの端くれ。その人が昨日誰と寝たかぐらいは分かる。そんな能力がなくたって、エミリシーならきっと何かアプローチするだろうと思っていたけれど。
だって、彼は魅力的だ。飢えているときには特に。
「あれは化物よ」
エミリシーの姿が本来のものに戻る。角は無残にも折れ、生気をかなり失っていた。首には強く締め付けられたような痣が残っている。
詳しくは聞いていないけれど。襲ったあげく、惨めにも失神していたらしい。サキュバスとしてはあるまじき事だ。
姿を惑わしていなければ、暴かれた姿は病のように変貌してしまっていた。
傷は直ぐに元に戻る。
けれど、どうして逆に生気を奪われているのだろう。
「魅了は確かに成功していたけど、理性を奪ってしまったのが失敗だったんだ。きっと彼は覚えてもいないだろうけど、夜に生きる私が、逆に力を奪われるだなんて」
エミリシーは言っていた。ヴィニートルはエリクシアとか言う白い女ライブラの弟子か従僕だろうと。大間違いだった。私たちは間違えていたのだ。
ライブラの脅威はよく知っている。ユマノに暮らす化物なら誰でも知っている。
化物でも人でも無い半端者。おぞましい異端の怪物。化物擬き。だが所詮は人。化物の中のには劣るはずだと決めつけた。人は恐ろしいと学んだはずだったというのに。私たちは侮り失敗した。
別に命を取ろうなんて考えていない。少し補充するぐらい、私たちには訳ないと思っていたのに。
「けど良かったの。彼を魅了できなかったのは困ったけれど、やっぱり一緒に行動した方が良かったんじゃ。門を使わないと私たちは逃げられないのだし」
エミリシーの希望で、もし門についての相談があっても断るように決めていた。
フューメンさんが裏切っているとは思えないけれど。誰か守ってくれる人がいる方が良い。ヴィニートルの信頼を勝ち取った方が良いと思うのだけれど。ダメみたいだった。
昨日からエミリシーは明らかに怯えている。
自業自得とは言え、プライドが傷つけられたのだ、思うところがあるのだと言うことにした。
「良いのティシエ。私たちは私たちで動きましょう。四六時中、竜に睨まれているのはきぶんがわるいもの」
エミリシーのたとえには同感できなかったかれど、彼女がそう感じるなら尊重しよう。
「そんな悪い人には見えなかったけどな」
良いね。賛否感想お持ちしております。
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