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1章 運命の卵10

1章終わり。


 川の流れに身を任せて、村の遙か遠くまで運ばれた僕は山を登った。針山に入った後は、遙か遠く下に見える明かりを見つめつつ歩いた。

 僕の体は。針山でドラゴンに襲われたときよりも、体力が増えていたみたいで、日が昇る前にかつてのドラゴンの巣にたどり着いたのだった。

 新しい体質のおかげか寒さは我慢できる。怪我はあまりない。焦げて酷い有様だった服は服の体を成していないがそれでも歩いてここまで来られた。それも以前なら走っているのと同等の速度でだ。

 僕の体が人ではない何かに変質し始めている事をひしひしと感じていた。

 水流の中も無事だった打ち金で焚き火を起こして、暗闇を耐え忍んだ。

 よく考えれば、この暗闇の中獣の姿を発見できるほどに視力が良くなっている。感覚も視覚に限らず、鋭くなっているみたいだった。

 だからその気配に気がつくことが出来た。

 

「誰だ」


 物陰から現れたのは人の形をしている。だがその姿に見覚えはなかった。

 奴らの仲間かと背中に手をやるが、そこに弓はない。

 長年愛用の弓もあの家に置いてきてしまった。遺体と共に。


「大丈夫、私だよ」


 その声には聞き覚えがあった。

 

「なんだ、エリクシアか。あまりビックリさせないでくれよ。どうしたんだい、その姿は」


 声はエリクシアのものだったけれど、姿は似ても似つかわない。白い女と、凄く大雑把な分類では整合していたけれど、その姿は更にもまして化物じみていた。

 肌には青筋が立ち、体格も隆起して一回り大きくなっている。頭には猫の耳のようなものが現れ、爪は鋭く、歯は牙に。瞳は暗闇で光り、存在は霊鬼のように透明だった。

 これがライブラ。

 魂を化物と半分分け合う存在。

 とても恐ろしく。美しい。

 僕もやがてこうなるのだろうか。

 竜のように。


「私もこんな姿で申し訳ないけれど、ヴィニートルもボロボロだね。これ、あげるよ」


 そう言ってエリクシアは革の鞄から取り出したローブをこちらに投げ渡した。

 分厚く丈夫に見えるがかなり軽い。そして白かった。何か特別なものなのだろうか。どうにも申し訳なかったが、半裸同然では町に入ることも出来ないだろう。サイズも背丈が近い事もあり問題は無かったが、なおさらお揃いで少し居心地が悪かった。


「村はどうなったんだ。レーシャとレイトルは」


 姿が変わったことについて聞きたかったが、それを尋ねるよりも先に知らなければならない事がある。


「村は酷い有様だったよ。あれは私のミスだ」


 エリクシアは詳しく語らなかった。けれど、僕は山を照らす炎を見ている。あれが家1つの明かりではない事ぐらい、僕にだって分かった。


「二人は」


「そっちは分からない」


「いや良いんだ。倒れ伏した所を見ているから」


 もしかしたらと、信じたかっただけなんだ。


「そう。すまない」


「良いんだ。もう良いんだ」


 僕にとっては。もう、終わったことだから。

 

「あいつらがこの村に来たのは、多分ドラゴンを追ってのことだろう。多分、どこかで姿を見られていたんだと思う。私以外に追跡者が居たとは。君を村に帰らせるべきじゃなかった。そうすればこんな事には」


「僕が村に一度戻りたいと言ったんだ、僕の責任だよ」


「……そうだね」


 奴ら。ユマノ軍の兵隊だろうに、まさか村すらも焼いてしまうだなんて。


「あいつら、一体何者なの」


「あれは勇者というユマノの先鋭だね。私も初めて見たけれど」


「モンストルムの兵では無いんだね」


「ああ、約束するよ。それだけは無いと」


 その言葉に嘘は感じない。僕もあれをモンストルムの兵だと思っていたわけではない。けれど、どこかまだ、信じたくなかったのだ。国を守るはずの軍が、あんな非道を行うだなんて。

 元々、軍に対しては良い印象は無い。今年の税は厳しすぎた。けれど決して粗暴だとは思わなかった。理性的とも言い難いけれど、少なくとも野盗ではなかった。それがどうして、こんな海賊まがいの蛮行を行うのだろう。


「私のミスだ。――ドラゴンの卵は」


「大丈夫、手放していないし。ひび割れてもいないみたいだ。あれ、少し大きくなっているような」


「それなら大丈夫。ドラゴンの卵なんだ。金剛石よりも頑丈さ。それを手放していないのなら君は大丈夫だ」


 これの魂が僕に、僕の魂がこの卵に。混ざり合っているという。よく分からない。


「それで。ミスって」


「彼らの目的は、ドラゴンの討伐から、私と君を殺す事に変わってしまった。村も、私が行かなければ焼かれることは無かっただろう。有効的なドラゴンと接触した村人がいれば初めから焼く予定だったのだろうが、私の存在はそれ以上に厄ネタだったんだ。化物の国であるはずのモンストルムからやって来た、私に教えを受けた可能性のある君。ユマノに獲って危険な思想が生まれかねない存在を勇者は許しておくことが出来ない」


 危険。確かにエリクシアは強い。けれどとても優しく。僕の事を何度も助けてくれた。とても危険な人とは思えない。


「勇者というのは、あんなことをなぜ許されているんだ。僕たちだってユマノの国民だろう。奪われる事もあるだろう、戦う事もあるかもしれない。だが、こんな突然と、一方的に奪われて良いものなんて、あそこには1つもなかったんだ。なかったはずだろう」


 国が僕たちの、絶対の味方だとは考えていない。僕たちの知らないうちに、領主が変わるかもしれない。国が変わることだってあるだろう。怪物に、村を奪われるかもしれない。

 だが、男は戦場へ向かい、麦は貴族の元に送った。それは統治者が変わろうと、決して変わらないだろう。

 村を焼くことに、何の価値があるというのだ。

 

「勇者はユマノを統べる王とは違う、もう一つの力。教会が。彼らの神が用意した兵器だと聞くよ。かつてモンストルムで化物を狩る怪物を生み出すべく、ライブラの原型が生まれたように、勇者は教会が生み出した化物を狩る兵器だ」


 教会。僕たちは、食し、戦いを、豊穣を神に祈る。だけれど、教会というのはこの地には無い。神はそのようなことを望まない。


「それはきっとこの村が古く、人が少ないからだろうね。私もいくつか町を巡ったけれど。この国には度家へ行っても教会がある。彼らは純粋な人間以外を魔として、滅ぼすべきものだと主張している。教会の影響は強く、ユマノ王国は急速に勢力を広げた。そうして今この大陸には、ユマノ王国と、モンストルム、そしてモンストルムに属さない、亜人種の小国家しか国が存在しない」


 ユマノは決して意思の疎通が出来る化物を、亜人種や人とは認めない。そんな連中と暮らす人のことも認めていない。それが戦争の真実だという。僕が知るような、化物に支配された人を救済するという言葉とどちらが正しいのか。

 僕にはエリクシアを否定できない。


「勇者は通例として3名の従者と行動する。どういう理屈か。神の加護だかで驚異的な身体能力を発揮する。もし、彼らの数が大幅に増えるようなことがあれば、私たちライブラも戦場で相見える事になるかもしれないね」


「僕はそんな人たち聞いたこともないけど」


「ある意味。ユマノよりもモンストルムで有名だからね。彼らがいなければ、いくら統率が取れたユマノと言えど、周辺の小国を統一するには戦力が足りなかった」


 僕の祖父の時代。この土地はユマノではなく、別の国だったと聞く。誰かに言われるまですっかり忘れていたけれど、そんな気がしてきた。ならばそういうこともあるのかもしれない。

 

「あいつら。なんて名前だったかな」


「選ばれし勇者様が確かグラブリー。コイツが一番の実力者だな。聖職者らしき男がモナハと言っていた。コイツもかなりの上位神官だ。おかしな魔法を使う、奴ら曰く奇跡だったか。ヴィニートルが戦っていたのがイスカーティンとゼーだったかな。ゼーが戦士で、イスカーティンが斥候だね」


「グラブリーにモナハ、イスカーティンとゼーか」


「あまり執着しない方が良いよ。私たちは命を狙われる側だしね」


 きっとエリクシアに匹敵するほどの強者。

 何が出来るわけでもないけれど。きっとその名前は僕が覚えておかなければならないものなのだ。

 話をする内にエリクシアの姿は元に戻った。

 どうやら一時的な変質らしい。あるいはあれが本来の姿なのか。

 

「ヴィニートルに怪我もないようだし、町に行こうか」


「今すぐにかい」


 怪我はないが疲れはある。エリクシアが来るまででずっと警戒をしていなければならなかった。あまり眠ることも出来ていない。

 もう少しゆっくりと休みたい。

 まだ、落ち着いて失ったものも数えられていない


「悪いがその暇はないんだ。奴ら、例のドラゴンを探しているはずだし。この森にも捜索の手が回るかも」


 そう言われては断ることも出来ない。

 こうして僕は得体の知れない力を手に入れ、多くのものを失った。

 どこへ向かうのかも分からずに。


  


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