Four Human Eyes
修学旅行最終日。
俺たちはようやく帰れる。自分たちの街に。
旅館の中で目覚めると、布団は六つもあるのに、眠っているのは俺と祿怨璽と倉崎の三人だけ。
そういえば最近不自然なことが多々起こると思っていたが、これもそういうことなのだろうか。
まるで誰かが本当はあと三人眠っていますよと怖がらせようとしているのか、それともーー
考えてもらちが明かない。
俺は祿怨璽と倉崎よりも早く起きてしまったため、何もすることがない。
ひとまず顔を洗おうと洗面台へ向かった。相変わらず朝は怖い顔をしている。自分の顔に嫌悪しつつ、俺は顔を水で洗い流した。
「木村、今日は早いな」
「ああ。たまたまだけどな」
「倉崎のこと起こす?」
「別に良いんじゃね。後で起きるだろうし」
倉崎を寝かしたまま、俺と祿怨璽は帰り支度を整えることにした。
一昨日昨日と、いろいろなことがあった。だがそれももう今日でお仕舞い。家に帰れば全てが終わる、終わるんだ。
あんな恐怖に襲われることももうない。
身支度を終えると、倉崎が大きなあくびをしながら起きた。
「なんか、すっげー怖い夢を見たんだけど……」
「怖いっていっても夢だろ。夢っていうのはその人の脳内にある情報からしか作られない。怖い夢見たのはお化け屋敷に行ったからだろ」
「お化け屋敷?行ったっけ?」
昨日は確かにテーマパークには行ったが、お化け屋敷はなかった気もするが……。
「そうだったか。まあ所詮、夢なんてまやかしだよ。そんなものに脅える必要なんてないって」
相変わらず祿怨璽は強い。
だが誰だって彼のように強いわけじゃない。俺だって、本当は強くなりたかった。
「倉崎、ひとまず帰り支度だけは済ませておけ。二十分後までにロビーに集合していないといけないんだし」
「ああ。分かったよ」
倉崎は目を擦りながら、帰り支度を次々と整えていった。
速やかに帰り支度を終えると、倉崎は大きな伸びをする。
「いやー。今日で修学旅行も終わりか」
「ああ。正直、すっげー怖い一日だったけどな」
「昨晩の肝試しで迷子になったもんな。そりゃトラウマもんか。しょんべん漏らしてないだろうな」
「も、漏らすか」
「冗談だよ。というか尿意がすぐそこまで来てるから、ちょっとトイレ行ってくる」
「気をつけてね」
「うん……」
なぜか動揺している倉崎は、目を擦って再び俺の方を見た。
しばらく首を傾げ、すぐに倉崎はトイレへと向かう。
顔に何かついているかな。後ろにいる祿怨璽に確認してもらおうと振り返る。一瞬だけ長い髪が映ったような気がしたが、どうやら気のせいらしい。
昨日の肝試しから少しおかしくなっているな。
「祿怨璽」
「そういえば先生に報告をしないと。すまん。ここで待っていてくれ」
祿怨璽は部屋から出ていってしまった。
部屋に一人取り残され、俺は洗面台に行って鏡に映る自分を見た。別に顔に何かついているわけでもないし、髪型が変というわけでもない。
一体何に驚いていたんだ……というか、あれ?
「俺、今何してたんだっけ?」
気付けば洗面台に俺はいた。
実際おかしなことだ。さっきまで何をしていたか、その記憶が全くないのだ。
「ここは……どこかの旅館か?」
そういえば修学旅行の最終日で、俺は今日ようやく帰れるところだったんだ。
部屋には六つも布団が敷かれている。俺は祿怨璽との二人で来たはずなのに、なぜか六つも敷いている。
面倒ながらもそれらの布団を片付け、俺はリュックを背負って帰り支度を万全に済ませた。そこへ祿怨璽が帰ってきた。
「よし。じゃあ帰るぞ」
俺たちはバスに乗り、学校へ帰る。
何かモヤモヤする気持ちを抱えてはいるものの、全て終わったことだ。
ようやく、ようやく帰れるんだ……あれ?どうして俺は早く帰りたかったんだっけ?というか、どうして俺たちの班だけ二人なんだろうか。
「なあ木村」
「何?祿怨璽」
化け物の面を隠す彼は、きっと俺のすぐ側にいる。
そして未だ探している。彼女は、探し続ける。
「倉崎君、見ぃつけた」