Three Human Eyes
二日目の夜、俺たちは肝試しに出掛ける。
本当であれば夜中の外出は禁止されているが、そんなのお構い無し。若人というのは盗んだバイクで走り出すように、社会の規範から外れたようなことをするのさ。
しかし、俺はこういうのは苦手だ。超がつくほど苦手だ。
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい……
今俺の心は叫んでいる。
ーー帰りたいと。
「やっぱ木村は怖がりだな。とっとと行くぞ」
祿怨璽たちは怖くないのか、脅える様子もなくそそくさと真夜中の森を平然と歩いている。
このまま一人になるのはもっと怖い。俺は置いていかれないように祿怨璽たちを追いかける。
置いていかないで、置いていかないで、
私は必死に彼らを追いかける。
祿怨璽たちの背中は遠くなる一方で、手を伸ばしても届かない。こんなに暗く木々が揺れる音に俺のか細い声はかき消される。
行かないで、行かないで、
俺は強くなんてない。
弱い、むしろちっぽけな存在で、誰よりも弱くて臆病で腰抜けだ。だから置いていかないでよ、先に行かないでよ。
遠くに行ってしまう彼らを、俺の震えた足では追いかけられない。もう既に視界から遠退いた。進もうにも戻ろうにも、この森は広すぎる。
まだどこかにいるのではないか、隠れているのではないかと周囲を探していると、人が一人歩いているのが見えた。
「祿怨璽」
こんな夜中に森を歩いているのは俺たち以外にはいない。居たとしても少なくともこの森からは抜けられる。
そう希望を馳せて人影が見えた場所へと向かう。俺が叫びながら行くと、このか細い声が聞こえたのか、そこにいた人は止まった。そしてこちらを見た。
「違う。君じゃない」
なぜかそこにいる人はそう呟いた。
その人を見ると、祿怨璽たちではない、少女だった。なぜこんな夜中に少女が?
不自然に思った時、俺は思い出した。
ーー未だに探しているかもな。その少年たちを。
「まさか……」
「何で脅えているの?」
少女は首を傾げる。
しかしどう考えてもこんな夜中にこの森に少女がいるなどおかしい。迷子だったらもう少し焦るか、それとも助けを求めるように俺のもとへ来るはずだ。
それがないということは、意図して少女はこの森へ来たこととなる。ではそれはなぜか……。
「ねえお兄さん。ここら辺で隠れられそうな場所ってどこかあるかな?」
「な、なんでだい?」
「見つけなきゃいけないの。今かくれんぼしてるからさ」
今にも逃げたくなるような恐怖心に襲われた。
あの話が作り話ではないことを悟り、俺は脅え、そして震えた。恐怖が俺の心を支配していた。
まるで心臓が素手で触られているように、まるで腹の中から手が飛び出るような、そんな薄気味悪い感覚を覚えていた。
「ねえ。どうしてお兄さんはそんなに脅えているの?もしかしてお兄さんなの。 ワタシガラニゲテイルノハ」
ーーああ、死んだ。
俺は自分自身の人生の終焉に気付いた。それが今だということが。
「おいおい。いきなりいなくなるなよな」
背後から声が。
祿怨璽がそこにはいた。俺は心の底から安堵する。
「祿怨璽、怖か"っ"た"よ"」
俺は祿怨璽へと抱きついた。
「おいおい。まあ置いていったのが悪かった。だからそう泣くな」
そういえばあの少女は。
振り向いたが、そこには少女は既にいなくなっていた。あれは幻覚だったのだろうか、今となっては知る術はない。
ひとまず祿怨璽と再会できたことに感謝をしよう。
明日の朝、俺たちは帰れる。帰るんだ。
俺と祿怨璽、そして祿怨璽とともに森へ入った倉崎とともに旅館へと帰る。
「貝原君、見ぃつけた」