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逆かくれんぼ  作者: 木村(湯浦部)
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One Human Eyes

 それは修学旅行の一日目の夜。

 俺たちは今、宿の六人部屋で遊んでいた。俺たちの学校は修学旅行の夜でも見回りはなく、会話をしていても怒られることはなかった。

 しかし俺たちは部屋の電気を消し、廊下から漏れる光によってのみ照らされる部屋の中で話をする。この状況で話すといえばひとつしかないだろう。


「なあ知ってるか?逆かくれんぼって」


「何それ?」


 祿怨璽(ろくおんじ)の発言に、他の男子四人は食いついた。

 だが俺は一人布団の中に潜る。それに気づいたのか、男子の一人が俺が被っている布団を引っ張った。


「木村。お前も聞こうぜ」


 俺はそういうのは苦手であり、あまり関わりたくはなかった。

 だが無理矢理布団を剥ぎ取られ、晒された俺は耳を隠すこともできず渋々その話を聞くことになった。


「では話そう」


 地獄の時間が始まった。


「ある公園で、学校帰りの小学生は楽しく遊んでいた。そして一人の少年は言った。()()()()()でもしようと。そこでじゃんけんをし、少女は一人負けた。よって鬼は少女となり、かくれんぼは始まった」


 祿怨璽は刻々と語っている。


「そのかくれんぼで隠れている最中、かくれんぼをしようと言い出した少年は思いつきでこう言った。『このまま帰ってしまおう』と。少女が六十秒数える中で、少年の言った通りに皆公園を後にした。

 六十秒後、少女は『もう良いかい』と叫んだ。しかし返答はない。『まーだだよ』、その返答がなかったため、少女はもう皆隠れているのだと思い、公園の中を探し回った。誰もいないと知らずに。

 生憎(あいにく)公園は大きく、森や川、図書館や遊具など、隠れる場所が多々あり、かくれんぼは……一人かくれんぼは難航していた。探している人は一人も公園にはいないのに。

 いつの間にか夜になり、それでも少女は探し続けた。きっとどこかに隠れていると信じていたから。きっと彼らも見つけてほしいと願っているから。

 ーーだがそんなものはまやかしだ。

 少女は疲れ果て、それでも森の中を歩き続けた。だが足を踏み外し、少女は森の中の坂をごろごろと転がっていく。そしてそのまま川へ落ち、少女は二度と起き上がってくることはなかった。浮き上がりはしたものの……。

 少女は死んだ。だが彼女は未だかくれんぼの鬼として探し続けている。まだどこかで隠れている少年たちを」


 話は終わった。


「なあ、それって作り話……だよな」


 俺は恐る恐る祿怨璽へと訊いた。

 だが返ってきた答えはこうだ。


「さあ。この話が嘘か本当か、それは一連の事件を目の当たりにした者しか分からない。つまりその答えを持っているのはそれを見た者のみ。その者が現れない以上、この話が真実であるということも、嘘であるということも分からない」


「じゃあ……」


「真実でない限り、この話が嘘であるか本当であるかなんて分からない。くれぐれもかくれんぼする時には気をつけようねって話さ」


 俺は話に夢中になっていたため、尿意が迫ってきていることに気づかなかった。

 しかしトイレへ行くにも、少し怖い。もしトイレへ行けば、先の話ででてきたあの少女がいるのではないか、そんな恐怖心が芽生えていたからだ。


「どうした、木村?」


「トイレ付き合ってくれない?」


「まさかビビってんのか。相変わらずだな木村は」


「び、ビビってないし」


「じゃあ一人でもトイレくらい行けるだろ」


「い、行けるし」


 全く、災難だ。

 ついていない。

 まるで財布を落としたように、

 まるで彼女にフラれたように、

 ーーそのどれよりも災難だ。


 脅えながらトイレへ行き、生まれたての小鹿のような足で俺はトイレで用をたす。終わり次第、手も洗わずに部屋へ駆け込む。

 ーーしかし、部屋には誰もいない。


「神隠し!?いや、さっきの話で、少女はまだ探していると言っていた。もしやその霊に……まさか、幽霊などいるはずがない」


 俺は脅えた。脅えるしかなかった。

 消えたあいつらは一体どこに……。


 震えが収まらない中、肩が叩かれた。

 俺は腰を抜かし、その場に座り込んだ。足が上がらない。立ち上がれない。俺は勇気を振り絞り、恐る恐る見上げた。

 そこで視界に入ったのはーー俺を見て笑っている祿怨璽の顔が。




「…………はっ!?」


 神隠し……じゃなかった。

 普通に生きていた祿怨璽に、俺はただただ驚きが隠せない。

 腰を抜かしている俺に、祿怨璽は悪大官のような笑みで一言こう言う。


「ドッキリでした」


 その言葉で俺は安堵する。

 何だ、別にいなくなったわけじゃないんだ。

 神隠しでも、かくれんぼの少女が連れ拐ったわけでもないんだ。


 俺は祿怨璽たちに笑われる中、布団に入る。

 部屋に用意された六つ分の布団が用意されていたが、俺たちは五人。ひとつ多い。

 片付けるのも面倒なので、俺たちは片付けることなく眠りにつく。










湯浦部(ゆうらべ)君、見ぃつけた」

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