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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死んでなくなるその日まで

作者: kai

地球で、ある日全ての食べ物が食べれなくなった。そして、人を喰うことができるようになった。人は、人が喰うことのできるただ一つの食べ物になったのだ。


その結果、人は殺し合いを始めた。国も内側から崩壊していった。自分が生きるために。僕、神谷零(かみやれい)も例外ではない。


「夕飯は脳みそにしようかな」


人の体全てを喰うことができる世界。部位や内臓の種類によって味は変わる。


食糧ひとが少し少なくなってきたな」


僕は人を殺しては、今使っていない部屋に放置してある。それはなぜか腐らない。だが、今食糧ひとはおよそ10しかない。


「火で炙るか」


人を喰うことに慣れてきたても、生で喰うのには少し抵抗がある。


「いただきます」


おいしい、と感じてしまう脳みそ。そのことが、僕は悲しかった。もはや僕の目は死んでいるだろう。殺そうと思って近づく奴や、僕の食糧(ひと)を奪おうと思っている奴もいた。そのせいで、僕は少し人間不信になった。


だが、取り繕うことはできる。相手を騙すことはできる。


「ごちそうさま」


皿を片付けに暗い空の下、川に向かう。水は貴重なので、近くの川の水を使っている。火や水は近くのスーパーやコンビニで調達している。


「?」


ピンポーンと音が鳴る。来客のようだ。


まだ人がいたんだ。この町の人は全員死んだと思っていたんだけど。そう思いながら、ドアの隙間から音を鳴らした人物を覗く。


「子供、か」


いたのは少女だった。僕よりも年下でとても可愛らしいと思える。だが、僕は人間不信。自分の食料を奪いに来たのではないかと思ってしまう。


「疲れたし、殺されるのも悪くないか」


僕は扉を開けた。人生最後、出来るだけ優しく接してあげようと思いながら。


「どちら様?」


歌野可憐うたのかれんです。お腹がすいて仕方ないんです。食糧ひとを分けてくれませんか?」


わざとらしいな、目が笑ってないし。殺す気だろ絶対。そう思いながら家の中に招き入れる。


「いいよ、中においで」


「ありがとうございます。あっ」


歌野は中に入るときにつまずく。僕は咄嗟にを肩を掴んで支える。


「大丈夫?」


「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」


歌野は目を伏せる。僕の目に歌野の赤い耳が写っているのは気のせいだろう。


「何が食べたい?」


「脳みそでお願いします」


「分かった。火で炙るね」


僕は脳みそを取りに、死体を置いてある部屋に向かう。


「これ、全部食糧(ひと)ですか?」


「そうだよ」


「すごいです!え~っと」


「神谷だよ」


そういえば名前を教えてなかったなと名前を口にする。


「神谷さんが殺したんですか」


「……まあ、そうだね」


痛いところをついてくるなあ、と僕は思う。


「歌野は座っときなよ。僕が準備するからさ」


「ありがとうございます」


それだけ言い、歌野はリビングへと戻っていった。


「僕はあの子に殺されるんだよな」


歌野は来た時から目が獲物を狙う目だった。きっと今日か明日には殺されるだろう。


「尽くせるだけ、尽くしてやろう」


僕はそう決めた。


**********


「いただきます!」


歌野の元気な声が部屋に響く。


「やっぱり、脳みそが一番ですね」


「……ああ、そうだね」


歌野の笑顔はとてもまぶしかった。その笑顔で言う言葉が「脳みそ」なのはとても残念だ。


「ごちそうさまでした!」


「よく食べたね。皿は僕が片付けておくよ」


「ありがとうございます」


「そうだ、肩揉んであげるよ」


「え?」


僕は思いついたことを口にする。だが、歌野はなぜか分からないようなので説明する。


「疲れたでしょ。力になるか分からないけど」


「ありがとうございます」


「あの椅子に座って」


リビングにあった大きい椅子を指で指す。そこに歌野は座り、僕はその後ろに立って肩を揉み始める。


「どう?気持ちい?」


「気持ちいです」


どうやら気に入ったようで目を閉じている。


「歌野、君の話を聞かせてほしいんだけど」


「私の、話ですか?」


「うん、君がここに来る前はどんなことをしていたの?」


歌野はきっと何かを背負っている。僕を殺す前にそれを解放してあげたいと思った。


「そう、ですね。つまらないことですが」


そう言って、歌野は話し始めた。


「私には母と父がいました。最初、父が人を殺していました。それで生きていけたんですけど、ある日、父が殺されてしまいました」


「うん」


「そこから、どんどん食糧ひとがなくなっていきました。そして、完全になくなった時、母が私を食べてね。と言って死にました」


「うん」


「私は母を喰いました。私はもう死にたかった。消えたかった。だけどそれだと母の思いを無駄にしてしまいます。だから、だから」


歌野の瞳から涙があふれ出てくる。


「大丈夫だよ。よく頑張ったね」


僕は歌野の頭を撫でる。優しく、優しく。


「うっ、うあああああ!」


歌野はさらに泣く。歌野の泣き声が、僕の家に響いた。


「もう、こんな時間だね。おやすみ、歌野」


**********


私は街をさまよっていた。母と父が死んでから他人の家に上がり込んでは殺してをくり返していた。


そして、ターゲットを見つけた。高校生ぐらいの年だと思う。その人の目は死んでいた。まるで、死を望んでいるように。


私は、家に入るときつまずいてしまった。それを、その人は、


「大丈夫?」


と優しく言ってくれた。なんだか恥ずかしくて、目を伏せてしまった。


その人はご飯の準備を全部してくれた。食糧ひとがあってほめてみた。でも嬉しくなんてならずに、どこか悲しい目をしていた。


ご飯を食べた後、肩を揉んであげると言われた。理由は疲れたと思うから、だった。


どうせ殺すなら、させてあげようと思った。意外に気持ちよかった。


肩を揉んでもらっている時、私の事を教えてくれと言われた。気づいたら私は話し始めていた。


話して、悲しくなって涙をこぼした。その人は、


「大丈夫だよ。よく頑張ったね」


と言って頭を撫でてくれた。とっても優しくて温かった。


私は今日の夜中、この人を殺す。それはもう決まっている。


私は立ち上がり、隠していたナイフを取り出して、その人の元へ向かった。


**********


僕は目覚めた。何かが上に乗ったような感覚がしたからだ。


「歌野、か」


上に乗っていたのは歌野だった。手にはナイフが握られていた。きっと僕を殺すつもりなんだろう。僕は死ぬ。そう思うとなんだか嬉しかった。


「神谷さん。あなたには死んでもらいます」


歌野はそう言ってナイフを振りかぶった。そして、そのナイフは僕の体に刺さ……らず、空中で止まった。


「なんで、殺さないんだ?」


「殺せるわけ、ないじゃないですか。こんなにも私に優しくしてくれた人を。好きです、神谷さん」


優しくしたのは間違いだったのかな、と少し残念に思う。


「ありがとう。僕にそんなことを言ってくれたのは君だけだよ」


僕は少し嬉しくなっていた。


「歌野は、僕と一緒に暮らしたいの?」


歌野はこくりと頷く。


「分かった。じゃあ生きよう。僕達が、『死んでなくなるその日まで』」

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