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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あんどん町の幸せ

作者: 石川 瑠佳

 私はこれでも大手食品メーカーの会社員で食品企画部に所属をしている二十六歳だ。入社して一番最初の配属先で「星倉峰子さん、食品企画部に所属して下さい」で配属された。

 一番、入りたいと希望をしていた食品企画部に所属することができ、二十五歳で小さい班とはいえリーダーになって、やりたいと思っていたことをバリバリとやっていたのであった。

 私は幸せの笑みでなんだ世界に壁なんてないじゃないかと、やや思った。

 その時であった。私の心に、なにか変化が起きたのは。思いもよらぬことに私の心に鏡が出てきた。全身が隈無く映るものだ。イメージとしては。それと私は目があってしまった。(私に阻まれた人間は何人いたんだろう)私は崖下にまっさかさまに落ちるような気分だった。

 しかし、私は正当にいろんなことを、頑張ってきた。その結果だ、これは。大いに胸をはってもいいレベルだと思う。だとしても、不安になった。馬鹿みたいなレベルで不安になっている。気にしなくたって、いい。

 でも、私の心の鏡は消えることがなかった。

 私は忘れるために、遠くへ出かけた。私は電車に乗って、知らない町の夏祭り会場にいた。ネットでなんとなく検索して見つけた。

 やや有名な踊りが名物の場所である。

 よそから来た人間もそれなりにはいると思う。別の場所のものを見ることによって、自分のところのお祭りを素晴らしいと言える訳だから、少しオープンだ。

 だから、なんとなく、お祭りは私を受け入れてくれている気がする。

 薄い青紫に黒をたらした夜が入り込んでも、踊っている人たちは明るく元気に楽しそうに踊っていた。私も、普通より上手く楽しさを取り入れることができている場所に、一人でも明るくなれたのだった。だが、とは言ったとしてもただぼんやりと立っているだけだとしても疲れてはくる。ここは少し、静かなところへ行きたい。防犯は安全のための基本的考えだと思って、意識をしている。私も二十六歳の女性なので、考えはする。

 会場のちょっと離れているところ。そこには、動いた身体を冷やすムキムキとした筋肉の男性。うちわをパタパタとするおばさん。ちょっと草がはえた草むら。でも、うっとうしくなるほどははえていない。あんまりボーッとしていたら、虫とかでかゆくなりそう。しばらくなら涼しそう。そういった場所。

 蚊もいなさそうだし。どうやら近くで蚊とり線香をたいているみたいだ。子どもとかちょっと走ってきてときたま騒いだりする。ということは、まあ、安全。

 後ろに人がいて、しゃべったりもしてるし。私はボーッとしている。

 後、十五分位したら、ネットでも人気で、皆が好きと言っていた踊りの後半でも見に行こうかな……

 ぼんやりとしてしまっているが、気をつけないとなという気持ちでいる。

 普段の疲れがムクッムクッとしている。でも、心はやすらいでいる。ウトウトしているが、立っている。

 なんだろう目の前が揺れている感じがする。眠いからか……

「アッ……」

 私はパッとしっかりと目を開いていた。

「ここ、どこなの……?」

 気がつくと辺り全部が、草むらになっていた。

 どういうこと、これ。まるで、海に出たボートがぼんやりとして、沖に流されたみたい。風は吹いていたけど、こんなことありえるはずがない。祭り会場も、他の人もいない。寝ぼけたのだろうか。こんな鮮明に……

 念のため、ほっぺたをつねると痛いし。辺りを見回しても、人が全然いそうに……いた。

 黒髪に長髪をはやし、黒い服を着た目つきの悪い男が。口と鼻の間にはブーメランのようなひげをはやしている。なんか、あまりありがたい感じがしない。声をかけようか……でも、怖いし。

 私、あの人に誘拐されてたりして。

 お祭り会場へ行って薬品かなんかを使って皆を眠らせ私だけここに連れてきた。

 えっ?なんのためだ……意味不明だな。

 でも、筋だけは通ったな。だけど、あの人も被害者かもしれない。嫌である。目つきの悪さだけで判断するのは。ああ、でも無理。ただでさえ、カオス。女性としては逃げたくなってしまっている。

 そして、私は逃げた。走っている。陸だし、平地だし、海ではないから、そのうちどこか安全な場所に着くと思う。だが、男はなにかしゃべりたそうな顔になった。

 アレ、やっぱりなにかアドバイスかなんかをしてくれる感じなのか。でも、急に止まるのはムリ。ごめんなさい。しかし、男は走りだした。風のように速い。えっ?なにこの人。もしかして、先祖が忍者ですばやく、迫力がある的な感じの人か?

 だが、私も勢いがついているので別の方向へ走った。

 その男はまた、私を追い抜き走り去った。前方にいる。

 私の混乱は学校のチャイムを大音量で耳元で、しばらくの間聞いているぐらいの感じだ。

 最終的に大きな円の形を描くように二人で走り回った。こんな暗いところで、走り回ってよくこけずにすんだものだと思う。こけたら血まみれぐらいにはなったかもしれなかったのに。運が良かった。

 気がつくと、男はいなかった。

 私はその場にゆっくり倒れこんだ。そして、しばらくして起き上がって、周りを見た。あいかわらず、周りは一面、草むらだ。空には満月とちょっとの雲がある。その割には明るい。よく見ると、草と草の間である本当は一番暗い部分が一つの目が光るように部分部分、ある程度まんべんなくオレンジっぽい光をはなつのだった。

 うーん、別の世界に来たのかな。納得できないけど、こうなってくると、納得しそうになる。

 異世界?それとも、こういう現象があるのか。分からなくなってきた……

 すると、近くにポツンと姿見の鏡が一台置いてあるのが目に入ってきた。人がいるのかもしれない。私はこの際、怪しさは捨てて、鏡に近よってしまった。これは鏡の魔力だったのだろうか?分からないが。私は走って近よって、うっかり石で転んでしまった。そのとき、鏡に不思議な陰影ができて、それは下アゴだと思う。私はうっかり、飲み込まれてしまった。

 様々な大きさでくっつけたような、やや影が入っているガラスで、できた両方が崖だ。私はガラスの、両方の崖の間に落ちている途中、だったのであった。

 上も下もずっと続いていて先が見えない。崖は一方がカーブで先が見えない。もう一方はずっと続いている感じで、地形の重なりで途中から見えない。ガラスの大きさは、比較的小さいもので自転車よりちょっと小さいぐらいで、大きいものは二階建ての一軒家に近いくらいの大きさがある。

 ガラスに懐中電灯を当てて、ピカ――ッと光を当てるというなぜだか浮かんだ私の刺激的イメージを、偶然だと思うけどくみ取ったかのように、全体的にガラスはピカ――ッと光って、いった。

 それは、全て別の写真を切り貼りしたような世界。もしくはそれらが穴で全て、別の場所へとつながっている。割と最近の自分の姿が一つ、二つ。

 さらに、自分の身体のアップ。見たことがあったような景色。記憶にない、関係のなさそうな場所もある。

 段々、下の方は暗くなって何も見えない。

 私は目を覚ました。草の上で…

 また、同じ世界なのか。鏡に入っちゃった気もしたけど。向うには森みたいなのがある。別のところだ。キョロキョロ見回すと、四十代くらいの美しい女性がいた。私は目を丸くした。なぜ、助かったと私は女性に抱きつかなかったのだろう。女性は……

 肌が透き通っていて白い。特別で珍しさがすごく輝いていた。

 いや、それはたとえて言っているという訳では、ない。これは、この人は明かりのような人なのだ。ようなも、いらないかもしれない。灯だった。身体が。全てが。オレンジっぽい灯を、身体の内部から造って光らせていた。あんどんみたいな人。

 旅館とか料亭とかに、ありそうな、あんどん。綺麗。

 部分部分の、ちょっとだけ木目の感じのものが、見えていた。紙がすれたようだ。色っぽかった。骨の部分が少し、木な感じがする。本来なら身体の中に骨がある訳だが、この人は正面のりんかくの部分が木のようなものでできている。そこに紙を外付けしているようだった。

 手などはりんかくで言うと指の片道の部分にだけ、骨組みがあって、後は紙で上手く形どってそれがまた、色っぽかった。明かりは身体に微妙にところどころ光源があるようで近いところは橙色で、距離のあるところは白かった。りんかくの骨格はまた部分、部分で木のようなものの厚さが違っている。シルエットの美しさを見せていた。

 もしも、身体を綺麗にするのを行けるところまで磨くと、たどり着くであろう一つの境地か…。掴み取った輝きが消えたりすることがない綺麗な存在が、この人だったりするってことなのかな?

 その人はニッコリと微笑みをくれる。明かりがゆるやかに揺れる。

「行きましょう……」

 付いていって、いいのだろうか……?いい……と、心が示していた。こんな、別の違う世界まで来といて人を信じなくてどうするというのだ。

 私は女性と一緒に付いていく。二人で、歩く。

 女性は名前がホカリだと名乗った。

「…ホカリ、さん」

 心に残る名前だと思った。

「いい名前ですね」

「ここで必要なものは名前ぐらいなものですから」

 意味深だなと私は思った。

 名前は日本のものという感じもさせ、また、別の他の世界を感じてしまうという気もする。

 家々があった。ログハウス。別荘地にあるような木の家が所々にある。

 歩いてると、小太りと痩せた四、五十代の男性、二人が。

 この人たちも灯だ。

「こんにちは」

 こっちの時刻は何時だろう。それとも、灯の人たちだからずっと『こんにちは』になってしまうのであろうか。

 言葉は日本語と同じと耳と口が一緒と言っている。

「別の世界からの人です」

「ありがたい」

 小太りの男性が涙ぐんだ。

 どうなってるんだろう?

 色々あって、私の思考はダメになっている。怪しいが、やすらいでしまう。

「お願いします」と涙ながらの男性に握手されてしまう。ひんやりとした、ガラスみたいな触り心地。

 あんどんは紙だけど、確認して破けたら恐ろしいので確認はしない。肉体が破けたら恐ろしい。

「ここはあんどん町よ」

 ホカリさんは微笑んだ。

「あんどん町?」

「君、頼んだよ」

 痩せた体形の男の人が肩をポンとする。

「はあ…」

 なんのことかさっぱり分からない。でも、やすらいでしまう。

 その後、移動をするのでと言われ別の場所へと移動をした。

 広場みたいな場所だ。

 最初、ホカリさんと出会った場所とは逆の方向へ少し動いて回ったところ。つまり、最初にいた場所よりまだ回ることになる。

 すぐ近くの小山には木の緑が、しっかり見える。木々がたくさん生い茂っていた。ログハウスが二つ、三つ見えた。

 この町にいる人が、たくさんやって来て談笑をする感じになっていった。皆、身体があんどんだ。

「皆さん、楽しそうですけど、いつも何をやっているんですか?」

 私はただ、普通の質問で尋ねた。

 そう言った瞬間、周りから怖い程の視線がやって来た。

「私たちはね、私たちはね……」

 ある、七十代ぐらいの女性が引きつった声で話す。

「この灯を消してもらいたいのよ。もう、たまんないの……どうか、どうか、この灯を私から、私たちの中から、消してちょうだい」

「だって、そんなに綺麗なのに……」私は、なにげに普通に素直に感想を言った。

「もったいない」

「この灯はそんないいもんじゃない。この綺麗な光は……明るくて、芯から心を暖めるが、でも、明日を忘れる火…私たちの魂のにごりの色」

 今度は、五十代ぐらいの女性だ。

「本来、消えるはずだったものが、この世界でとどまり、こびりついた色となって残っているの」

 さらに、十歳くらいの女の子が考えを発表するように話した。

「昔はおせっかいな人が、普通よりヤバいくらい積極的さを用いて、ここまで消しにきてくれたこともあったのですけど、今じゃそんな人はめったに来ないのです」

 ホカリさんが補足のために話す。

「この世界は鏡に導かれた別の世界です」

 鏡に導かれた世界?だから、皆、日本語で話すのだろうか、と私は思った。

「ここは事実のゆらぎの町」

 世界は分かりきったことだけではない。嘘やごまかし、誤解などの精神エネルギーがこの異世界に届き、魔法で普通とは違う姿が出来上がっていると、ホカリさんは説明をしてくれた。

 つまり、私が普段いる世界が出している精神エネルギーが魔法として現れる場所と言えるのだろう。ここは…

 その理論で話すと、この世界は光と闇が作り出す場所だ。

 とは言え、世の中には出てくる心情として、シンプルではなく光だけではなく闇もある。

「良い部分も悪い部分も永遠と反映されて出来ている。しかし、私たち自身が光となっている。おかしくはないですか?」

「と、なるとあなたたちは魔法の世界の住民てこと?」

 そりゃあ、あんどんの身体を持つ人間がいたら、魔法の世界のようだけど実は魔法の力じゃない場合だって、ある。

「そうだと思います。この町では、あなたのいる世界のことが本になっていて皆読んでいるんです。私たち、空を飛ぶというのもできますよ」

 ホカリさんはニッコリ笑って、宙に浮いて、浮いて、ずっと空高くまで。

 私、別に疑っているって訳でもないけどな。あんどんの身体とか、もはや物理的にありえない状態で動いているから。

 ホカリさん、少し降りてきて、「私、雷とか落とせますよ」

「えっ…」

 周りの人が円のような感じでサッと距離をとった。

 あっという間に、黒い感じの雨雲が私の頭上の方辺りの空へと、集まった。

「ゲッ…」

 世紀の実験みたいだ。やらなくたって、いいのに。

 ホカリさんが指を差して「ヤッ」と、言った。

 私から三メートル程、離れた地面がえぐれてしまった。直径、四十、五十センチの穴があいている。黒くなってる。焦げたの?

「かなり、軽めにやったんですけど。信じて貰えます?」

 これ以上強くやってはいけない。いや、これも、もっと考えて使った方が正直、いい。

「もう、大丈夫です。そもそも信じていたので。他の人もやらなくていいですので」

 近くを見ると、でっかい火の玉を、宙に作っている人がいる。やめて欲しいっ。当たったら死ぬ人がいるってことは考えるということをしておかないと。死んでも死にきれないですよ。実際、亡くなってしまった人がいたら絶対に。

「かまくらのようなでっかい玉を作っては、ダメ。…消して。冷静になりましょう、一つ。皆さん、これ以上なにかをやるのであれば私、頑張らないです」

 ハア。やっと皆さんが冷静になった。

「私たちはもう何百年もこの姿でずっと、生きているんです。魔法の世界な、もんですから。楽しい時もあったりはしたんですけど」と、ホカリさんが言った。

「楽しく長く、永遠の時間…気長に過ごして、今って訳ですか」

「たまらないんです。不安で、毎日」七十代ぐらいの女性が、言った。

「なぜ?」

 私には見当がつかなさそうな感じだ。

「私たちはあんまり記憶がないんです。身体や天候の長い生活で起こる微妙な変化を皆、毎日、世間話としてしているだけで」七十代ぐらいの女性は不安げである。

 数えると十七人くらいいた。

 他にも人のけはいはあるが、灯の光が微妙で暗いのでどんな姿かも分かりずらい。

 でも、心の明るさがあるから多分大丈夫な感じが、する。だとしたら灯を消すというのは絶対全員に必要である訳ではないってことか。

「そうですか。よく分からないけど、……消します」

 すると住民たちはパーッと明るくなってハイタッチや抱き合ったりなんかをした。

 ここに来て一番の場が明るくなった気がした。

 そんな、あんどんの人たちを見ていると、つい私まで心が沸き立ちそうだ。

 人々はあんどんのお腹の扉を開ける。

 私は昔の漫画で、読んだ『鉄腕アトム』を思い出した。

 ロボットのアトムはなにかっていうと、お腹のドアを開けて、自分の調子の確認を済まし、人助けや戦闘をするための行動をとったり、する。博士はいるけど、医者はいらないと言った感じである。あの動きは多分、燃料を確認するためであったと思う訳であるのだが。

 今、私は人々の腹の火を消さなくてはならないのだ。大変だと思うが、仕方がないってことだ。

 私は手をグーで握りしめ、ビビりながらも気持ちを定め汗を流して勢いをつけて、決心をして、火を消しにかかったのだった。

「あの、口で消してもいいですか?それとも手の方がいいですか?」

 私はマナーに迷ってきてしまった。仏壇の火とかは手で扇ぎ消さないといけないそうだが人なら、口で吹き消しても構わないとなったりはしないだろうか。

「星倉さん、あなたが心を持って、口で、じゃないと魔法の力の条件で消すことができないので口を使ってお願いします」

 ホカリさんに、さっき、聞かれたばかりの名前で呼ばれた。

「ほ――っ、そういったものですか」

 口でじゃないと消せないのは鏡に導かれた別の世界だからかと、少し思った。

 私は手だと消すの、ムズいと思っていた部分もあったので助かった気もした。

 火は宙に単体で浮き上がっていたのだった。火は、ロウソクや木、ガスが出てくる口などないのに、強く激しく燃えていた。

 私はどうやって燃えているんだろうと、思った。

 しんどそうな燃え方かもしれない。消さないと、仕方がない。

 私は、ホカリさんの火を「フゥア――ッ」、絶対に消えるように願って、綺麗で優しい心地良い空気よ出よと、思って息を吹きかけた。

 すると、火はくるりとひっくり返りそして、お腹の奥へと行くようにどんどん小さくなって消えていった。成功だ。

「星倉さん、ありがとう」

 ホカリさんが、色々と何か考えるところがある感じで微笑んでいた。

 すると突然みるみる身体が透明なガラス細工のようになり、縮んで柔らかく、砕け割れ、粉が舞ったかと思うと、獣模様の羽を持った蝶が現れた。

 他の人からも「お願いします」これでいいのかという疑問もあった。たとえそうだったとしたとしても蝶になってしまうことが、悪いことかそうでないかは異世界で、そもそも町の人があんどんの身体だから、本人たちに頼まれたので、私は次々と消していった。皆、「ありがとう」と、言った。

 外側からも姿は見えないけど、風が“ヒョオッ”っと鳴るように、「ありがとう」と言った気がした。

 蝶は色んな模様をしていた。白、黒、茶色、グレー、ベージュ、青っぽいグレー、赤茶色など。黒い茶色の点の模様もある。全部、獣っぽい色合だと思う。

 鹿、うさぎ、猪、狼、狐にひょう、みたいだ。

 ホカリさんの蝶は上と下へと、何度も舞った。意味があるみたいだ。間違ってたら嫌だけど、話の流れから言っても…。

「ありがとう……」うなずくように蝶は一度舞って、空へ高く飛んでいく。

 飛び方がなんだか手を振っているようだ。

 〈サヨナラ〉と。

 他の皆も手を振るように飛んで行った。高く飛んで見えなくなってしまった。

 つまり、別れだ、今。

 十七人以外の残った人たちは、私と関わりはしないだろう。私が進んで尋ねるまではだが。人がいなくなって暗くなったが、明かりが全然ない訳ではない。動くと何かが起きる、良くも、悪くも。しかし、楽しいものを一つでも見つければ、前向きに頑張って行ける気がする。

 ただ、やはり、疲れてはいるというのを無しにはできるということはない。私はシーンと静まりかえったこの場所で孤独の中で、ずっと〈サヨナラ〉って思った。

 私はちょっと泣いて、目がしばし、孤独の辛い水の中をさ迷った。

 だが、人間しばらくすると、元気になれる。少々待ってみるのが、いい。


「ありがとう」

 振り向くと、あのときの長髪男がそこに立っていた。

 なぜか、いる場所も変わっている。最初の追いかけられて逃げた草むらだ。

「あれは皆、私の知り合いだ。親兄弟、親せきたちもいた」

 男は夜空を見つめる。遠い目で雲のかかっているところに視線があると思う。

「あの者たちは私が原因でなってしまったのだ灯にな」

「あなたは誰?」

 私はずいぶんと前から聞かなくてはいけなかったことをやっとなんとか、この時になって聞くことができたのだった。

「私か?」

 急に顔に影が出た。

 黒い口の上のひげをゆり動かして男は笑った。

「私の名は……後悔」白目になって笑った。

「ハハハハハ、また会おう…サラバだ」

 男は黒い上着を後ろへ跳ね上げ、大きな黒い蝶となって夜空へ飛んで雲の合間へ進み消えて行ってしまったのであった。

「会いたくないな…全く」私は気が付くと、元のお祭り会場へと戻り、立っていた。照明が落ち着き、星が綺麗に見えて、心がなごむ。

 自分の目まで星空で綺麗に澄みわたるかのようだった。





                終


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