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ふたりにしか見えないモフモフ?



「ん……」


痙攣したように瞼が動き、唸るような小さな声が閉じたままの口から洩れる。


寝台に横になるラーラのそばにいた侍女が、慌てたように広い部屋を駆けだした。


「ラーラ様が、ラーラ様がお目覚めになりそうです!」


そんな声を遠くで聞きながら、重い瞼を薄っすらと開ける。


(私……ここは……?)


見えてきたのは、知らない天井。でもすぐに、それは天井ではないと気付く。


木の枠組みに、クリーム色のカーテン。


天蓋の豪奢な寝台に横になっていたことで、ラーラは自分の途切れた記憶にハッと目を大きく開いた。同時に勢いよく体を起こす。


そこに広がっていたのは、紺色の絨毯が敷き詰められ、高貴な家具が置かれた格式高い部屋だった。


(火事で、写真を取りに行って、それで……)


しばらく記憶をたどっていると、部屋の扉が勢いよく開け放たれる。


姿を見せたのはウォルトで、その姿は未だ黒地に金糸の刺繍が入った騎士服に身を包んだままの姿だった。


足早にラーラの横になる寝台へと近づく。


「目覚めたか」


「はい。あの、ここは……?」


まだぼんやりとする頭でラーラはウォルトに問いかける。


「城だ。火の中で倒れ、意識を失っていた」


(そうだ。煙にまかれて、もうだめかと思って──)


そこまで記憶がはっきりと戻ってきて、ハッとする。


「子どもたちは!?」


「全員無事だ。あの後、それぞれ家まで送り届けている」


その知らせにホッと胸を撫でおろしたものの、すぐに逃げた男たちの行方が気になる。


「あの、逃げた男たちは」


「ふたりとも捕えた。今、牢で尋問している」


「そう、ですか……っ、あの! 建物は、火は消し止めることは!?」


立て続けにされた質問にウォルトは即答してきたが、最後のこの質問には一瞬口ごもる様子を見せる。


その様子から、ラーラは頭の中が真っ白になった。


消し止めるどころか、火の手は増していた。


やはり、全て火の海にのまれてしまったということなのか。


「消火活動中、雨も降り鎮火はしたが……ほぼ全焼に近かったと報告を受けている」


(ほぼ、全焼……)


嫌な予感は的中し、ラーラは言葉を失う。


男たちが現れ、去り際に火を投げ込んでいくなど、まったく考えもしない突然すぎることだった。


どうしてこんなことになってしまったのか、今もよくわからない。


「あのとき、子どもたちが泣きながら知らせにきた。お前が中に入っていってしまったと。助けてほしいと。それを、大事に抱えていた」


そう言ったウォルトの視線が、ラーラの後方に注がれる。


つられるように顔を向けたラーラの目に入ったのは、取りに戻った家族写真だった。


「国王陛下が、助けに来てくださったのですね。ありがとうございました」


「礼などいらない。守れなかったものもある」


燃えてしまった子ども食堂のことだろうかと、ラーラはウォルトを見上げる。


「体はどうだ。どこも痛まないか」


「あ、はい。たぶん、大丈夫かと」


「必要があれば王宮医を呼ぶ。不調はすぐに知らせてほしい」


「わかりました」


答えながら、ラーラはやっと動き始めた思考でこれからのことを考え始める。


燃えてしまった子ども食堂を再建することは、今のラーラには力不足で無理だろう。


せっかく軌道に乗り始めたところだった。


子どもたちも集まってきてくれて、やっとやりたかったことが形になり始めたところだった。


そんな矢先、その場所を奪われてしまったことはやりきれない。


現実として、まだ受け止めきれない部分もある。


「明日……状況を確認しに訪れてみようと思う。同行するか?」


「え……?」


焼けて壊れてしまった子ども食堂を目の当たりにしたら、泣き崩れてしまうかもしれない。


「……はい。お願いします」


それでも、ラーラは自らの目で確かめることを選択する。


「わかった。今日はもう夜も深い。眠れないかもしれないが、目を瞑るだけでも少しは疲れも取れる」


「はい。ありがとうございます」


「では、失礼する」


踵を返し、颯爽と部屋のドアへと向かっていくウォルトの広い背中を見つめ、ラーラは「あの!」と声をかける。


足を止め振り返ったウォルトに、ラーラは寝台にかけたまま深く頭を下げた。


「ありがとうございました」


ウォルトは小さく頷くだけで、あっという間に部屋を出ていく。


言われた通り横になって目を瞑っていたものの、一睡もすることはできなかった。



空が白んでくると、ラーラは寝台を出て高い天井まで続く大きなガラス戸から外の景色を眺めていた。


ラーラが滞在する部屋からは、立派な庭園が望める。


非常に景観のいいことから、この部屋は王宮内のゲストルームなのだろうと思われた。


やがて陽が昇ると、侍女が部屋を訪れ、着替えと湯を用意したと告げられた。


火事の中着ていたワンピースは煙を吸い薄汚れ、ブロンドの長い髪も絡まりぼさぼさになっていた。


ありがたく部屋に備え付けられているバスルームを使わせてもらい、用意してもらった上品な深緑色のワンピースに着替えを済ませた。


そしてその後、朝食はいかがでしょうかと尋ねられた。


全く食欲のないラーラはせっかくの気遣いを遠慮し、何か飲み物だけ一杯もらいたいとお願いをした。


「眠れたか」


出してもらったハーブティーを飲んでいると、部屋にウォルトがやってきた。


今日は騎士服ではなく、フリルのあしらわれたブラウスに金ボタンのジャケットを身に着けている。


「おはようございます。はい、少しだけ……」


本当は一睡もしていないが、気を遣わせるのが性に合わないラーラは小さな嘘をつく。


「そうか。朝食を断ったそうだが、食欲がないのか」


「あ……すみません。あまり、食べる気がおきなくて」


伏し目がちに答えたラーラを、ウォルトはじっと見つめる。


状況的に無理もないだろうと思い、「気にしなくていい」と言葉をかけた。


「無理をするな。取りたくなったら取ればいい」


「はい。ありがとうございます」


「それを飲み終えたら、早速出ようと思う」


まだ心の準備もできていない中そう告げられ、ラーラはハーブティーの入るカップを手にしたままウォルトを見上げる。


「わかり、ました……」


「もうしばらくしたら迎えが来るようにしておく」


要件を伝え終えたウォルトはひとり部屋を後にする。


ラーラは決心するように、もう冷めた残ったハーブティーを一気に喉に流し込んだ。



支度を済ませて待っていると、先ほどの侍女が用意された馬車までを案内していく。


初めて訪れたヴィオール城は想像を遥かに超える広さを誇り、一歩部屋を出て歩き出すとすぐに元の部屋がわからなくなるほど部屋数も多い。


仕えている人々はさぞ大変だろうと思いながら、目に映る何もかもが珍しく、ラーラは終始キョロキョロとして歩いていた。


大理石の真っ直ぐに長い階段を下りていくと、そこに広々とした正面玄関が広がる。


玄関を出るとまた直線に緩やかな長い階段が続き、その先にこの間子ども食堂の前にも来たことがある豪華な馬車が停まっていた。


「すみません、お待たせしました」


馬車前で待っていたウォルトの元へ駆け寄り、ラーラはぺこりと頭を下げる。


ウォルトは「参ろう」とラーラの背に手を添え、先に乗り込むよう促した。


王宮を出発した馬車は、ゆっくりとした一定のスピードで進んでいく。


窓から外をぼんやりと眺め、ラーラは次第に鼓動の高鳴りを感じていく。


自分の目で見て確かめなくてはならない。


しかし、それを拒否しようとしている自分もいる。


(昨日のが全部、夢だったらいいのに……。なんなら今だって、全部夢を見ているならどんなにいいか……)


そんなことを思ってみても、馬車は無情にも子ども食堂へと近づいていく。


いよいよその前へと到着すると、静かに車輪を止めた。


自分の手元を見たままじっと動けなくなっているラーラを目に、ウォルトが先に馬車から下りていく。


「ラーラ」


外から呼びかけられ、意を決して腰を上げる。


馬車から一歩外に出ると、辺り一帯に残る焦げ臭さがラーラの鼻孔を刺激した。


その瞬間、昨晩本当にここで火事があったことが証明されたようで、胸がぐっと圧迫感に襲われる。


顔を上げて臨んだラーラの子ども食堂は、変わり果てた姿で主との対面を果たした。


「…………」


いざその現場を目の前にすると、ラーラは言葉が出なかった。


ただじっと、焦げて黒く朽ちた建物を凝視する。


ウォルトはそんなラーラに言葉をかけることなく、ただじっとその横に佇む。


「ここは……母国で教師をしていた両親の、夢と希望の詰まった場所でした」


自分ではなく両親がここに来ていたら、ここには学び舎として毎日子どもたちの声が飛び交っていたはずだと、ラーラは叶わなかった両親の展望を描く。


「この国の子どもたちに、必要な教育を提供したいと、そう思っていたそうです」


今も空から、見ているだろうか。こんな風になってしまったことを、悲しんでいるだろうか。消火活動中に雨が降ってきたと、ウォルトから聞かされていた。


それは、天国の両親の涙だったのかもしれないと、ラーラはふと思う。


鼻の奥がツンと痛くなって、視界が浮かんできた涙でゆらゆらと揺れ始めた。


「初めて会ったとき……『どんな世界でも、子どもは最高の宝物』だと、そう言ったな」


それまで黙っていたウォルトから声をかけられ、ラーラはとなりを仰ぎ見る。


「お前のその言葉が忘れられなくなった」


「え……?」


「何か、心を動かされるものがあったのだろう」


ウォルトの言葉に、ラーラは彼を見上げたまま瞬きを忘れる。


そんな大そうなことを言ったつもりは全くなかった。ただ、それは夢花の頃からずっと心にある想い──。


「ここは、できる限り元の状態に建て直させる」


(えっ……?)


「そしてまた、子ども食堂を再開するといい」


思いもよらぬ言葉をかけられ、ラーラは急激に慌てる。


「あの、でも、国王陛下、そんなことは──」


「その代わり、俺もたまに顔を出させてもらう」


「え……?」


「もっと、お前の作ったものを食べてみたい」


建物を眺めていた視線をラーラに落とし、ウォルトは端整な顔に微笑を浮かべる。


ラーラは胸がいっぱいになって何も言葉が出て来ず、ウォルトに正面から向き合い深く頭を下げていた。


「ありがとうございます……!」


また、ここで子ども食堂を始めることが叶う。それはラーラを励まし、新たな希望を与える。


顔を上げたラーラの目からは、綺麗な涙がポロポロと流れ落ちていた。



* * *



その後すぐに、焼け焦げてしまった子ども食堂は取り壊し作業が始まった。


ウォルトは約束通りその場所に全く同じ建物を建設するよう指示を出した。


レオポルトに再建について話をし、元々その建物を建てた建築家なら設計図を残しているだろうと相談した。


子ども食堂が完成するまでの間、ウォルトはラーラに城に滞在するよう命じた。


住まいを無くしたラーラにとってはありがたいことではあったが、場所が王宮というのが居たたまれない。


「失礼します、ラーラ様」


ラーラは、はじめに通してもらったゲストルームで生活をさせてもらうことになった。


でもこうして、事あるごとに侍女が様々なことをお世話してくれる。


「朝食の準備が整いました。今朝は、ウォルト様がぜひご一緒にと」


「えっ、そうなのですか?」


「ええ。庭園のテラスのほうにご用意させていただいております」


「わかりました。行ってみます」


王宮で世話になり始めてから数日。


ラーラは、自分の滞在している部屋の周辺だけは迷わず歩くことができるようになった。


ひとまず、正面玄関まではひとりでも自信をもって向かえる。


その正面玄関から逆方向に向かって絨毯の敷かれる廊下を歩いていくと、開けた中庭へと出て行く。


その回廊を右手に進み更に廊下を進むと、ラーラの滞在する部屋から望める庭園へとたどり着くのだ。


「国王陛下、おはようございます」


すでにテラスの席に腰を下ろして待っていたウォルトに、ラーラは「お待たせしました」と駆け寄る。


「おはよう。朝から呼びつけて悪かったな」


「いえ! 国王陛下とご一緒させていただけるなんて光栄です」


ぺこっと頭を下げ「失礼します」と、自ら椅子を引き腰を落ち着けるラーラ。


そばで椅子を引こうと待機していた侍女が出番がなくオロオロとしていて、ウォルトは王宮での常識に慣れていないラーラにフッと笑みを浮かべた。


「言おう言おうと思って言いそびれていたが、その〝国王陛下〟という呼び方はやめないか?」


「え! いや、でも──」


「俺にもウォルトという名がある。できれば名前で呼んでもらいたい」


「あ……」


確かに、会話の中で〝国王陛下〟を連発しているのは堅苦しい感じはある。


しかし、ラーラにとっては一国の王を前にしているわけで、何の違和感も感じていなかった。


だが、その国王陛下本人から要望されては、名前で呼ぶよう今すぐ変えるしかない。


「わかりました。では、僭越ながらウォルト様と呼ばせていただきます」


そう言うと、ウォルトはどこか満足そうに微笑み頷く。


「ここでの生活にも少しは慣れたか」


「はい。おかげ様で、少しずつですが。親切にしていただいて、本当に助かりました」


ひとまず一旦、故郷であるファリアン王国に帰ろうとラーラは考えていた。


帰って落ち着いて、これからどうするかじっくり考えようと思っていたのだ。


そんなときに城での滞在をウォルトに提案され、思わぬ選択肢にラーラは動揺した。


自分のような城下の者が、王宮に転がり込んでお世話になってもいいのだろうかと。


しかしウォルトは『国王直々の提案だぞ』と困るラーラは一蹴した。


「再建のほうは早速着工したと報告を受けている。完成するまで、ここで自由に過ごすといい」


「はい、ありがとうございます。ですが、お世話になりっぱなしというのは気が引けて……。何か、雑用でもなんでもいいので、お仕事があればやらせていただけないでしょうか? こういった食器洗いなどでも」


「それで気が済むのなら好きにやればいい。厨房でも、人手を拒むことはないはずだからな」


ウォルトにそう言われて、ラーラはパッと表情を明るくさせる。


「では、あとで手伝いにお邪魔したいと思います!」


そんな会話をしているうちに、目の前には朝食が用意されていた。


出てきたプレートの上には、ハムのような肉を焼いたものと、同じくシュリンプを炒ったようなもの。そこにサラダのようにした生野菜が添えられている。それにパンとミルク色のスープだ。


ウォルトはナイフとフォークを手に食事を始める。


王宮ではどんな食事が出てくるのだろうかと興味を持っていたラーラだったが、やはり予想していた通り王宮内でも食文化はそこまで発展していないことがわかった。


食材は豊富で、物もひとつひとついいものを取り揃えている。


しかし、調理法が未発展で食材を生かせていないのが勿体ない。


ただ焼くだけ、茹でるだけ。味付けも塩を振ったようなものが基本となる。


王宮内で生活を始めてもう何度かの食事を出してもらっているが、〝ここをこうしたらもっと美味しくなるのに〟と思うことばかりだ。


食事が終わると、食器が下げられすぐに食後の紅茶が用意される。


花の咲き乱れる庭園を眺めながらいただく朝食は贅沢極まりない時間で、ラーラは感嘆のため息を静かに吐き出した。


(ん……?)


ティーカップを片手にぼんやりと向こうに見えるチューリップ畑を見ていると、そこに丸いものが見え隠れしていることに気づく。


ちょうど背丈の揃ったチューリップの丸い花の部分、そこに浮かんだり沈んだりして見える。


(ちょっと待った、あれって……!)


「どうした?」


突然カップを置き椅子を立ち上がったラーラに、ウォルトの不思議そうな目が向けられる。


「ちょっと、失礼します!」


それだけを言い残し、ラーラは足早にその飛び回る丸いものに近づいていく。


気配を極力消してチューリップが犇めき合う花壇に迫ると、そこに見えていたのはやはりあの虹色の毛玉だった。


(やっぱり……! やっと見つけた!)


昼間はっきりとした視界で見る毛玉は、小玉スイカほどの大きさ。


明るいところで見ると白い塊に見えるが、よく見るとパステルカラーの虹色をしている。


平常時は体は発光していないようで、ただのふわふわの毛玉だ。


ウサギのような長い耳が垂れ下がり、背後には小さいが羽が生えている。


抜き足差し足で近づいていったものの、毛玉は突如くるんと体を半回転させた。


「あっ」


見つかりつい反応してしまったラーラを、毛玉は動きを止め大きな目でじっと見つめる。


「捕まえたりしないから、逃げないで!」


咄嗟にそう声をかけると、毛玉は更にじっとラーラを見つめる。


(か、可愛い……!)


キュンとしている場合ではないのに胸打たれるラーラは、何から毛玉に言おうかと言葉を探す。


まさかこんなタイミングでまた会うことができるなんて思いもしなかったため、言いたい内容がまとまらない。


『チョコレートを置いて行ったのはあなた?』


『フリオとラモンのときは手助けありがとう』


それから──。

『男たちが迫ったとき、子どもたちを一緒に守ってくれてありがとう』


毛玉の大きな目に吸い込まれていきそうになりながら、静かに口を開く。


そんなとき……。


「ラーラ、お前、メルバが見えるのか……?」


背後からウォルトの低い声が聞こえ、ハッとして振り返った。


「え……メルバ? この子、メルバと言うのですか? というか、ウォルト様にもこの子が見えているんですね!」


自分ひとりだけではないときに毛玉は姿を現しているけれど、なぜか誰も毛玉の存在に触れてこないのがラーラは気がかりだった。


以前、カールに訊いたときも何も見ていない様子で、もしかしたら自分にしか見えていないのかもしれないと思っていたのだ。


でも、ウォルトには毛玉の姿が見えている。名前まで知っているのだから、正体を知っているはずだ。


「ああ、メルバという。この城に住み着いているようだが、俺以外の誰も姿が見えないというんだ。だから、お前に見えていることに驚いた」


「私もウォルト様と全く同じです! 誰にも見えている様子がないので、目の錯覚なのかと思ったり、自分にしか見えていないのかもと思ったり」


そんな話をしていると、メルバがウォルトの肩に向かって飛んでくる。


肩に乗ったと思えば頭に乗ったり、反対側の肩に下りたり、慣れた様子でまとわりつく。


ラーラはその愛らしい姿を見て、満面の笑みを浮かべた。


「あなた、メルバっていうのね。私はラーラ。ラーラ・フィアロよ。よろしくね」


自己紹介したラーラをウォルトの肩の上からじっと見つめたメルバは、目をキラキラさせてラーラの胸元に飛んでくる。


「わっ」


驚きながらも両手でふわふわな体を受け止めると、メルバは下からラーラを見上げてにこりと大きな目を笑わせた。


「どうやらラーラのことが気に入ったようだな」


「え、本当ですか? わぁ、温かいし柔らかい……」


思っていた以上に手触りがよく、つい撫でまわしてしまう。


触りすぎたせいか、メルバはするっとラーラの手をすり抜け、再びウォルトの肩の上へといってしまった。


「あの、メルバは……?」


(動物……ではないよね? じゃあ、妖精とかそういう系? それとも、もっと神聖なる神的な……)


ラーラが何を質問しようか察したウォルトは、「たぶんだが……」と口を開く。


「神の使いかもしれないな」


「神の、使い?」


「ああ。俺は何度もメルバに助けられている」


「えっ、わ、私もです!」


思わずラーラの声のボリュームが上がる。


ウォルトはその内容を追及することはしなかったが、もう全てわかっているように「やはりそうか」とだけ言った。


「それと、時折、何か見慣れないものを出すこともある」


「見慣れないもの、ですか? あっ、それってもしかして──」


(チョコレートのこと!?)


「四角い薄いもので、黒っぽいものじゃないですか?」


「四角い薄い黒っぽいもの……いや、それとは違ったな。しかし、何か食べられるようなものだった。粉のような形状だったが」


ウォルトの話を聞けば聞くほど、ラーラの中で〝もしかしたら〟と考えていたことが繋がっていく。


やはりメルバは何か食材を出しているのかもしれない。


そう、この世界にはチョコレートのように存在していない食材があって、それを出していたりしないのだろうか。


ラーラはそんなことを考えてしまう。


「子どもの頃からそばにいるが、俺もまだ知らないことのほうが多い。しばらく見ないと思ったら突然現れたり、気まぐれだしな」


「そうなんですね……。でも、また会えてよかった。これからもよろしくね、メルバ」


王宮に住み着いているのなら、ここにいる間また会うことができるかもしれない。


ラーラはウォルトの肩の上にとまっているメルバに微笑みかけた。



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