目覚めたら金髪の少女⁈
目を開くと白い天井が見え、小鳥のさえずりが聞こえる。
(ん……朝……?)
さっき見た光景が一気にフラッシュバックしてきて、夢花は追い立てられるように飛び起きた。
「えっ……⁉︎」
しかし、そこは幼稚園の保健室でも病院の病室でもなく、もちろんひとり暮らしの部屋でもない。
四畳ほどの白い壁の部屋で、ベッドそばの出窓は木枠が嵌め込まれ、入り口のドアも木造りのどこか温かみのある空間だ。
かけられていたベッドカバーは、手作りなのかパッチワークで可愛らしい。
(ここは……ていうか、えっ⁉︎ なに⁉︎)
部屋の様子を観察しながら、胸元に垂れ下がる自分の髪に目を見張る。
そこには、綺麗な黄金色のくるくるとカールしたロングヘアがあったのだ。
(ちょっと待ってよ……わたし、さっきまで幼稚園にいて、それで、不審者を撃退して、それで、それで……)
そこまで記憶を辿って、背中が熱く脈打っていたことを思い出した。
(わたし、もしかしてあのとき刺されていたの……?)
ハッとして手を背中へと回す。
しかし、あのとき感じた熱さも、ドクドクと鳴り響く感じも、もちろん痛みも感じない。
これは一体どういうことなのか。
それを頭をフル回転させて考え始めたとき、部屋の扉の向こうで、ドンドンとドアを叩くような音がして聞こえてきた。
「ラーラ、おいっ、ラーラ!」
ラーラ――そう呼ばれて、ばらばらになっていた線が一本に繋がるようだった。
この金髪の髪もこの部屋も、確かに自分自身のものに違いない。
夢花は、自分が〝ラーラ・フィアロ〟という十七歳の少女だったことを思い出した。
だけど、〝伊原夢花〟という自分は……?
(そうか……夢花のわたしは、あの時に死んでしまったんだ……そうに決まってる)
夢花としての最後の記憶をたどると、不審者と応戦し、倒れて薄れゆく意識の中で私を呼ぶたくさんの声が聞こえた。
暗くなっていく視界の先では男は捕らえられていたから、きっと被害に遭ったのは〝夢花〟の私だけで済んだのだと思う。
(子どもたちは、守れたよね……?)
やっと頭の整理がつきはじめたところで、外から聞こえていた声が「ラーラ、入るぞ!」と近づいてくる。
木造りのドアがバンっと開かれた。
「ハッ、ハンス……!」
「なんだ、まだ寝てたのか。寝すぎだぞ!」
現れたハンス・クーアは、両手を腕組みして呆れたように眉根を寄せる。
ラーラは慌ててベッドから飛び出した。
「起きてるよ、今起きたところ」
「それから、鍵はかけておけって言っただろ? 無用心なのはなかなか直らないんだな」
「なによ! いつも勝手に入ってくる人が言うセリフー?」
ラーラの隣に住むハンスは、ラーラの五歳年上の二十二歳。
ラーラが生まれたときにはすでにお隣にいて、言うならば兄のような存在だ。
がっちりとした逆三角形の体は、身長百八十以上もあるど迫力の体格。
ブロンドの短髪はフロントが立ち上がり、色黒で男臭く、見るからにいかつい。
そんな風貌だから、ハンスが睨みを利かせればそこら辺の輩は逃げていってしまうほど。
ラーラにとってみれば頼もしい兄貴だ。
「今日は寝坊してる時間はないだろ。荷造りは終わってるのか?」
「に、荷造り?」
ハンスに問われて、ラーラはまた自分の状況にハッとする。
部屋の入り口横には荷物をまとめたトランクが置かれていて、そうだった!と全てを思い出した。
ラーラの両親は共に教師を務めていた。
しかし、ラーラが五歳の時、不慮の事故でふたりとも命を落としてしまったのだ。
それからというもの、幼かったラーラの面倒をみてくれたのは隣に住むハンスの母親とハンスだった。
それから十二年――。
ラーラが十七歳になった誕生日の日、一通の手紙が届けられた。
それは、隣国ヴィオール王国のレオポルト・グラッツェルと名乗る男性からだった。
【お約束の学び舎が完成しました。先生方のお越しを心待ちにしております】
両親の記憶があまり残されていないラーラには、この手紙の主も内容も何もかもがわからなかった。
でも確かなことは、明らかに生前の両親のことを知っているということ。
はやる気持ちを抑え、ラーラはすぐに手紙の返事を書いた。
両親は十二年も前に亡くなったということ。
知っているのならば、ふたりのことを話してもらいたい。
そう手紙を返すと、返事は間もなく返ってきた。
【一度ぜひ、ヴィオール王国へお越し下さい】と……。
そんな経緯で、今は亡き両親に代わって、ラーラは今日ヴィオール王国に向かうことになっているのだ。
「大丈夫だよ、ちゃんと終わってる」
まとめておいた荷物をせっせと部屋から玄関へと運び出していくと、あとからついてきたハンスは「そうか」と短く言った。
「迎えが来るんだろ? その前に、母さんがたまには一緒に食事をしようって言ってる」
「うん、わかった。すぐ手伝いに行くっておばさんに伝えて」
ハンスが家を出て行くと、ラーラはひとりきりになった家の中、出窓の前に飾った写真立てに近付いた。
まだ幼かった頃の自分と、両サイドには生前の両親が写る一枚の写真。
この家の前で、ハンスの母親に撮ってもらったものだ。
膝を落とし、ラーラに寄り添う両親は共に優しい表情をしている。
(お父さん、お母さん……ふたりの代わりに、わたしが行ってくるからね)
写真立てを手に取ると、ラーラは用意したトランクの中にそっとそれを仕舞い込んだ。
* * *
「ラーラ、気をつけて行くのよ。何かあったら、すぐに帰ってきなさい」
ハンスの母親はラーラを抱き締め、我が子のように別れを惜しむ。
「おばさん、ありがとう」
ラーラも腕を回し、細く華奢なハンスの母親を抱き締め返した。
天気もよく暖かったため、庭のガーデンテーブルで朝食を取った。
食後のハーブティーをいただいていると、ヴィオール王国から約束の馬車が到着し、ラーラは慌てて玄関から荷物を持ち出した。
「本当にひとりで大丈夫なのか? やっぱり、俺が一緒について行ったほうが……」
「大丈夫だって。この国と同じで、とても平和な国だと聞いているから」
例の如く心配をするハンスを制し、ラーラは荷物を馬車へと積んでいく。
「それに、わたしについて来たらおばさんがひとりになっちゃうでしょ。だからハンスはここで、自分のうちと、できたらわたしの家も守っておいて」
「それは、もちろんだけどよ……」
歯切れの悪いハンスの腕をラーラがパシッと叩いたところで、御者から「出発いたします」と声がかかる。
ラーラはふたりと向かい合い、「いってきます」と笑顔を見せた。
ラーラの国、ファリアン王国から、これから向かうヴィオール王国は馬車で走り丸一日ほどかかるという。
隣国ではあるが、ラーラはこれまでヴィオール王国を訪れたことはない。
文化に大きな違いがあり、閉鎖的な国だと聞かされて育ってきたせいか、ほとんどどんな国かを知らないのだ。
それでも訪れようと決意したのは、両親がなんらかの交流を持ち、ヴィオール王国の者とやり取りをしていたということが大きい。
亡き両親の生きていた頃の様子を少しでも感じたい……ラーラはその一心でヴィオール王国へと向かう。
出発すると、馬車は川沿いの道をずっと進んでいく。
眩しい日差しを木々の葉が遮り、川辺には水鳥や小動物がいたるところに姿を見せていた。
ラーラはのどかな景色を横目に、持ってきた写真立てを手に取る。
膝の上へとそれを載せると、思いを馳せてぼんやりと写真の中の一家を見つめた。
陽が落ちる前に一度馬車は停まり、休憩を挟むと、そこから夜通しヴィオール王国を目指す。
揺れる馬車の中で、ラーラは静かに目を閉じた。
体が大きく揺れる感覚でラーラはパッと目を覚ました。
馬車が急停車し、前方から馬の嘶きが聞こえる。
外はまだ薄暗い。時間はわからないが、夜が明け始めた頃だと感じ取れた。
(何……? どうしたんだろう?)
そう思いながら腰を浮かせかけた時、「ほら、邪魔だ! 道を空けないか!」という御者の声が聞こえた。
「この芋をやる! だから、何か食べ物をくれよ!」
ラーラがそっと馬車の入り口を開けた時、前方からそんな声が聞こえた。
声の感じから、まだ小さな男の子だというのがわかる。
盗賊などに襲撃されたわけではなかったことにホッとしながら、ラーラは馬車から顔を覗かせた。
「芋などいらない。早く道を空けるんだ」
まだ夜明け前の暗い森の中。
そこにいたのは、ふたりの子どもだった。
根と葉がついたままのサツマイモを片手に上げるのは、まだ十歳ほどの男の子。
黄金色の綺麗な髪がくるくるとカールしているのが目に留まる。
そして妹だろうか、横で手を繋いでもらっている女の子は三、四歳くらい。
肩下でふわふわとカールする髪は、やはり黄金色をしていた。
(まだこんな暗い早朝に……子どもたち、ふたりきりで……?)
「お前たちにやれる食べ物など持ってない。早く道を空けなさ――」
「ちょっと待ってください」
子どもたちを追い払おうとする御者の声をラーラが止める。
馬車から降りてきたラーラに、子どもたちの目がバッと向けられた。
男の子は警戒するような鋭い視線をラーラに向け、女の子の方は手を繋ぐ男の子の背後に身を隠した。
「食べ物って……なんでもいいの? ちょっと待ってね、わたし……」
ラーラは急いで馬車の中の荷物に振り返り、トランクに入れてきた目的のものを探し出す。
「確か、この辺りに……あった!」
取り出したのは、両手に乗るほどの木箱。
蓋を開けると、中にはこんがりと焼けたバタークッキーが敷き詰められていた。
蓋を開けたまま、ラーラは子どもたちへとゆっくり歩み寄っていく。
「サツマイモよりお腹はいっぱいにならないものだけど……これをあげるわ」
ラーラはふたりの目の前まで行くと地面へ膝をつき、箱の中を見せるように差し出した。
男の子の後ろに隠れていた女の子が、中身が気になったのかひょこっと顔を出す。
「これ……美味しいのか?」
箱の中をじっと見つめ、男の子が訊く。
その質問の仕方は、まるで初めての食べ物を見たような聞き方だった。
「クッキーよ。バターをたっぷり入れた生地をこねて、形を整えて焼いたお菓子。良かったらふたりで食べてね」
ラーラが差し出した箱を受け取りながら、男の子は「クッキー……」と不思議そうに呟く。
顔を見せていた女の子もその中を覗き「わぁ……」と声を上げた。
その瞳がキラキラとしてクッキーに注がれている。
「これ……」
受け取った箱の代わりに男の子はサツマイモを差し出す。
ラーラが「大丈夫、持って帰って」と言ったものの、突き付けるように強引に手渡されてしまった。
サツマイモがラーラの手に渡ると、男の子は女の子の手を引き走り去っていく。
その姿は夜明け前の森の中にあっという間に消えていった。
「ラーラ様、すみません。ありがとうございました」
子どもたちが去っていくと、御者が静寂の戻った森の中でポツリと言葉を落とした。
「いえ、わたしは何も。あの子たちは……?」
「ファリアン王国にはないことかと思いますが、このヴィオール王国ではよくあることなのです。飢えた子どもが、こうして旅の馬車の通行を停める」
「え……飢えた、子ども……?」
その事実にラーラは言葉を無くす。
「食物が取れないわけではないのです。ただ、この国は食文化が発展しておらず……ああやって子どもたちが旅の人間を停めては、物乞いをすることがよくあるのです」
「物乞い……」
「場合によっては、旅のものを集団で襲う連中もいると聞いたことがあります。この国の子どもたちは、多くが十分な教育を受けられずに育っていく。道徳的なことも学べずに大人になってしまうのです」
(そんな……)
御者はそこまで話すと、「すみません、もう少しで到着いたします」と発車を促した。
ラーラが乗り込み、すぐに馬車は動き出す。
さっきの子どもたちの姿を思い返し、ラーラは手渡されたサツマイモをそっと撫でた。
掘ったばかりだと思われる土のついた大きなサツマイモ。
(このサツマイモで、スイートポテトを作ったら、あの子たち喜んでくれたのかな……?)
隣国であっても、閉鎖的なヴィオール王国では自分の国では考えられない食文化の違いがあるのかもしれないと、ラーラは白んできた外の景色を眺めながらひとり考えていた。
馬車が次に停車したのは、すっかり明るく朝陽が出る時刻になってからだった。
トランクを抱えて馬車を降りると、そこは小さな公園のような景色が広がる。
緑豊かな野原には小さな池があり、レンガで囲った花壇には可愛らしい花が咲いている。
その向こうには、クリーム色で縁をレンガで囲ったような可愛らしいデザインの二階建ての建物があった。
「ラーラさん、ようこそいらっしゃいました」
その建物の木造りのドアから、ひとり初老の男性が出てくる。
ブラウスに刺繍の入ったジャケットを羽織り、白髪混じりの髪はしっかりと撫で付けられた身分の高そうな雰囲気だ。
ラーラは荷物を地面へと置き、簡素なドレスワンピースの裾を摘み上げ頭を下げた。
「初めまして。ラーラ・フィアロと申します」
「レオポルト・グラッツェルです。この度ははるばるヴィオール王国までおいでくださいました」
初老の男性は、ラーラの両親に手紙を送った本人、レオポルト伯爵だった。
ラーラがぜひ一度ヴィオール王国へ出向きたいと申し出た返信に、やり取りをしてくれたのもレオポルト伯爵だ。
「お疲れでしょう。さぁ、中の方へ」
レオポルトは踵を返し、ラーラを建物の中へと案内していく。
「お邪魔、します……」
建物の中に入ると、明るい空間が広がる。
天井は高くないものの、多くの窓から自然光が差し込む明るい部屋だ。
二階建ての一階は奥に広いカウンターキッチンがあり、部屋の真ん中にはかなりの人数が掛けられる木造りのテーブルがどんと存在感を放ち鎮座している。
キョロキョロとしながらラーラが入り口のドアを入ってくると、レオポルトは「こちらへどうぞ」とテーブルに入る椅子を引き着席を促した。
「ありがとうございます」
「今、紅茶を淹れますので」
すでにキッチンでは湯気がたっているポットが用意されていて、レオポルトは慣れた様子で紅茶の支度に取りかかった。
「フィアロご夫妻のお嬢様が来てくださるとは、夢にも思いませんでした」
お湯を注ぐレオポルトは、目尻に皺を寄せ穏やかな表情を浮かべている。
ラーラはまず何から話したらいいものかと考えながらも、気持ちだけが先走り「あのっ」と声を上げた。
「レオポルト様は……両親とは、どのようなご関係で?」
「フィアロご夫妻と初めてお会いしたのは、もう二十年近く前のことになります」
トレーに載せたティーポットとカップを手に、レオポルトはラーラの掛けるテーブルへとやってくる。
ラーラの目の前に置かれたカップの中からは、きれいな琥珀色から湯気が立ち昇っていた。
「まだ、ラーラさんが生まれる前のことです。ご夫妻で、この国にいらしたことがありまして……わたしはそのときにおふたりと知り合いました。わたくし自身、孤児院などの施設に携わっていまして、おふたりの話はとても興味深いものがありました」
レオポルトはラーラの向かいの席の椅子を引き出し、ゆったりとした動作で腰を下ろす。
「この国の子どもたちへの教育に携わりたいと、国内を旅されて強く思われたようで……その際に、再びこの地にやってくると約束をしていかれたのです」
「では……いずれヴィオール王国へ移住をと、両親は考えていたのでしょうか?」
ラーラの質問にレオポルトは一度しっかりと頷いた。
「そのようです。この場所はフィアロご夫妻に頼まれ、子どもたちの学び舎をと造ったものなのです」
知らなかった両親の将来展望。
ラーラは初めて知る両親の想いに、造られた学び舎を改めて見回した。
(お父さんとお母さんは、ここで子どもたちを集めて……)
「知りませんでした。両親に、そんな夢があったなんて……」
「それは仕方のないことです。ラーラさんがお生まれになってから、若くして亡くなられたのですから……」
レオポルトはどこか残念そうな、寂しそうにも窺える微笑を浮かべて、部屋の中を見渡す。
ラーラの両親が亡くなっていたということは、年齢的にも考えもしなかったのだろう。
しかし、ラーラにはさっきから気にかかることがある。
両親が何故、自分たちの国から異国の地に移住をしようと思わされたのか。
それほど、このヴィオール王国に貢献したいと思った理由はなんなのか。
教師をしてきた両親がそう心を動かされる出来事が何かあったのか――そこまで考えて、ラーラは今朝方のことを思い出す。
『この国の子どもたちは、多くが十分な教育を受けられずに育っていく。道徳的なことも学べずに大人になってしまうのです』
御者から聞いたことが本当だとすれば、両親が移住しようとした理由は明確になる。
「あの……」
話が途切れたところを、ラーラは静かに切り出した。
「両親は生前、非常に熱心に教師を務めていたと聞いています。こちらに到着する前、この国の子どもたちの話を耳にしました。両親は旅の間にこの国の子どもたちの姿を知り、ヴィオール王国の子どもたちのために移住を考えた、ということでしょうか?」
ラーラの問いに、レオポルトは手にしていたカップをソーサーへと戻す。
そして、ラーラの顔をじっと見つめた。
「この国には、大きな貧富の差があります。そのせいで、教育にも格差が……」
「教育に、格差……」
「はい。上流階級の子どもたちは、貴族の通う学校に通ったり、家庭教師をつけて教養を身につけます。しかし、城下の一般家庭の子どもたちは満足な教育を受けられないのが現状です」
(なんだか、発展途上国の話みたい……)
ラーラは黙って話を聞きながら、そんなことをふと思う。
両親がこの国の子どもたちのために移住を考えたのは、教育を受ける環境つくりに貢献したいと思ったからに違いない。
(だとすれば、何か、わたしにできること……)
両親の想い。
そして、自ら見聞きしたヴィオール王国の姿……。
ラーラは「あのっ」と声を上げていた。
「この場所を、わたしがお借りすることはできないでしょうか?」
ラーラは悩むことなく自然にそう口にしていた。
「両親のように、教師の仕事はしたことありません。ですが、ここで子ども食堂を開いて、一緒に勉強したり、遊んだりは私にもできます」
「子ども、食堂……?」
ラーラの提案に、レオポルトはテーブルに置いた手を握り合わせた。
「はい。この国は、食文化も発展していないと聞きました。なので、この場所で子どもたちに食事を振る舞うんです」
「それは、ラーラさんが料理をするということですか?」
いまいち話の全容が掴めていない様子のレオポルトに、ラーラは「はい!」と力強く頷いた。
「こう見えて、子どもたちが喜ぶ食事を作ることは得意なんです。それに、小さな子どもたちも好きなので、ここで色々なことを教えられたら……」
ラーラの話に、レオポルトは不思議そうにしていた顔ににっこりと皺を刻んで笑みを浮かべた。
「やはり、あなたはフィアロ夫妻の血を引かれておられる」
「え……?」
「ここでの展望を話してくださったおふたりと、同じ顔をされている」
レオポルトの告白に、今度はラーラが不思議そうに目を丸くする。
(お父さんと、お母さんと……?)
そして、胸をギュッと鷲掴みにされたような感覚に息を呑んだ。
「ラーラさんさえ良ければ、ここは自由に使ってください。その方が、フィアロ夫妻も喜ぶに違いありません」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「困ったことや、わたくしでお手伝いできることがあれば、何なりとお申し付けください。そうと決まれば早速、住まいを整える手配をしましょう」
レオポルトはそう言うと、張り切ったように席を立ち上がった。