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21

作者: syo

 男二人は21に興じていた。二人の男は真剣に互いを出し抜こうと考えていた。というのも、このゲームに負ければ、本物の死が待ち構えているからだ。互いの左手は拘束具を装着され、マネーの代わりに、互いの指を賭けねばならなかったからだ。少なくとも、このゲームを仕掛けた馬鹿息子はそう話すのだ。

 ゲームのルールには問題なかった。しかしこの、ある種異様とも言える状況で、どうしてこんなゲームを強制されるのか甚だ疑問だった。それは相手も同じで、早く家族の元に帰りたいんだと訴えかけていた。袋をかぶらされたまま、男たちは相手を見た。娘と妻のいる男のその目と口は潤んでいた。

この男たちは互いの素性はおろか、どういった事情でこの屋敷にいるのかさえよくわからないまま、目の前にカードが配られた。ダブりはなし、全部で13枚しかカードは存在しないからな。後はわかんだろ。勝つために勝つんだよ。

 もう一方の男には妻も娘もいなかった。二人のテレビクルーと共にこの屋敷に乗り込んだが、彼らは多分死んでいることだろう。でもこのゲームに勝てば、生き残れると信じようとした。ゲームに勝つのはわけなかった。相手の読みがことごとく外れ、カードが21をオーバーした。あるいはオープンした際に、妻と娘のいる男はカードが足りずに敗北した。3回も負ければ、猫手袋のような丸い掌になるほかない。

 しかし妻と娘のいる男は生きていたし、勝負を続けることを臨んだ。ゲームを仕掛けた男はこの意志をひどく気に入った。つまりもうワンゲーム展開されるということだ。今度は腕に電気ショック型の電圧装置が装着された。そんな話ってないだろ。しかしゲームは続行された。今度はサブカードを使いながら、妻と娘のいる男と21を繰り広げた。結果はもう一方の男の3連勝。メーターオーバーの電流が妻と娘のいる男の身体を回りきり、ついには機械と男が息絶えるまで続けられた。ついに妻と娘のいる男は死んだ。もう一方の男はほっと息を吐いた。これで逃げられる。しかし彼の肩がわずかに上がり、それから両手を左右に振ることで勝負の意志をもう一度見せた。しかしその背後でワイヤー細工とアームが彼を持ち上げたのも、これみよがしに見せつけた。おいおい、まだ勝負する気らしいな。わかった。もうひと勝負くらい付き合えよ。枠もまだ埋まっちゃいないしよ。ゲームを仕掛けた男はまた新たな処刑器具を用意した。今度はお互いの頭を等距離に置かれた四枚刃回転ノコギリが浮かびあがっていた。

 もうこれで最後なんだろう。しかし勝てばいいと男は思った。実際に二連勝したことで、妻と娘のいる男を窮地に追いやった。しかし妻と娘のいる男の実質ゲームプレイヤーは、ゲームを仕掛けた男自身である。いや、やばいな、負けちゃうなぁ。ニタニタと笑いながらも、ゲームを仕掛けた男は逆転の目がどこにあるのかを知っていた。サブカードがプレイヤーをサポートするとは言っても、裏技やゲームバランスを崩壊させない程度のカードが均等に配されるとは限らない。ゲームを仕掛けた男はサブカードではなく、スペシャルカードを使って自分の手札を21ちょうどにした。ゲームを仕掛けた男はただニタニタ笑うのみで、その笑みの意味を説明しようとはしない。もう一方の男は何らかの企みがここで配置されたのを知るが、何をどうなっているのかやや混乱していた。というのも、カード排出ボタンを押しても、カードが出てこないのである。そこでゲームを仕掛けた男の企みに気がついた。相手がこのゲームに勝利する手はずを整えていること、ベットの数値がいつの間にか互いの限界数を超えてベットされていることに。もう一方の男は頭をかきむしり、かいていないはずの汗を拭おうとした。もしこのままターン終了宣言をすれば、自分が死ぬのである。しかしそれをするわけにはいかない。なんとしても、ここから逃げ果せなければいけない。しかし現状を踏まえれば絶望的である。もう一方の男の手札とサブカードを使っても、21には到達しない。最後に余ったカードはと言えば、相手に最も都合のよいカードを引かせるという、相手に勝ちを持たせるためにある、これまた一種のイカサマに近いカードである。しかし思い直せは、相手がもし21に到達しているなら、このカードを使えば、手札の数値はオーバーするはずである。もう一方の男はこのカードを半信半疑で使うことにした。その予想通り、相手は21ちょうどの手札を手にしていた。そこにたった今、裏向きのカードが配された。そして互いの手札が公開された。勝利の芽は摘み取られたように見えたが、さらにその下にまた新たな勝利の芽は生まれた。

 妻と娘がいる男は生きていた。気を失っていただけであり、たった今眼を醒ました。しかし恐ろしいことに男はまたこれから眠るのである。眠気も覚めるような血の惨劇が頭蓋を通過しようと回転数を増し、ブレーキ無しで目標を切り刻んでいく。その血がこちらへと飛び散ってきた。四枚刃回転ノコギリが空を切り裂くと回転を止め、自らの重みにそよいでいた。もう一方の男はこれで自分が救われたと安堵したが、同時に妻と娘のいる男を気の毒に思った。まあ仕方ないよな。

 これで俺は帰れるんだろう。ゲームを仕掛けた男は今やTVモニター越しにいた。しかし彼は頷かなかった。もういっこ、とっておきのゲームがあるんだよ。今度は身体を動かすゲームだ。そんな、そんな馬鹿なこと…。その科白が吐き出される前に、照明は暗転し、何か妙な匂いがして意識が遠のいていった。マトリョーシカみたく、暗闇から小さな暗闇を取り出す妙な音がした。象の鳴き声のような音が聞こえた。あれはおそらくドアを戻す音だ。

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