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ー過去とカコー

一日の終わり、下校のチャイムが鳴る。俺は下校の準備をして中等部に楓を迎えに行く。いつもなら、荊や真と帰るのだが、荊は委員会の仕事で学校に居残り、真はいつの間にか帰ってしまっていた。かくいう俺も用事があって下校しているのだが。


「桜にぃ待った?」


楓が中等部の前で待っていた俺のところに走ってくる。


「あぁ、ちょっと待った。」


「えぇ、そこは、全然待ってないよとか言うべきじゃないの!?」


俺の声真似をしながら楓は説教をしてくる。なかなか似ている所が腹立たしい。ここでこのまま話しているのも悪くはないが、今日は用があって待ち合わせをしていたため、遅くなる前に出発したい。未だにうだうだ言っている楓の首根っこを掴み、そのまま校外に出る。楓もそろそろ機嫌も直ったようで、自分で歩き出す。


しばらく二人とも無言で歩き、そうして学校から20分程の新都中央駅に着く。ここに来たのは、災害の慰霊碑に寄るためだ。慰霊碑は新都中央駅の復興の象徴とされている白と青のコントラストが美しい塔、新都タワーの一階にある。新都タワーの一階は災害の記念館、2、3階はショッピングモール、そこからは展望台のある最上階まで高速エレベーターで上がるしかない。


 自動ドアを通り、一階に入る。慰霊碑は一階の真ん中にある。あれから十年になることもあり、慰霊碑の周りにはたくさんの人が集まり列をなしていた。随分と前の方に係の人が献花する花を渡しているのが見える。その長い列の最後尾に並んだところで、ようやく楓が口を開く。


「お父さんとお母さんがいなくなってから、もう十年も経つんだね。楓にはついこの間のように感じるのに。」


 そう言うと楓は少し俯いた。


「街も復興して綺麗になって、俺たちも大きくなって。何もかもが変わったように思えるけど、この街も俺たちも何も変わっちゃいない。みんな記憶を、心をあの日に置いてきたままなんだ。」


 俺は楓の頭をなでながら答える。災害の時に俺は7歳で楓は5歳。その時のショックもあるだろうが、楓は災害のことをあまり覚えていない。それが不幸か幸いか、俺には分からない。ただ、今でも両親との別れは俺の中に色濃く焼き付いている、約束も。

**************************************

 十年前、家族で今の新都タワーの場所に建てられていた大型ショッピングモールに遊びに来ていた俺たちはショッピングモールの中で原因不明の地震に巻き込まれ、瓦礫の下敷きとなった。どれぐらい意識を失っていたのか、気づいた時には母と父に覆いかぶさるようにして守られていた。父と母の上には瓦礫が乗っており、かろうじて俺たち二人のスぺースを確保してくれているようだった。父と母の身体はあちこちが傷ついており、助からないだろうということは子供の目にも分かった。だからこそ最後に父と母が伝えようとする言葉を聞き逃すまいとした。


「桜....楓。私たちはあなたたちを愛しているわ。あなたたちの成長する姿を見たい、もっと笑ったり、泣いたりしたかった。でも、それももう終わりみたい。お父さんとお母さんはここでさよならしちゃうけど、桜、あなたは生きて。楓を守って頂戴。」


 そういうと、母は微笑んだ。


 「言いたいことは母さんが言ってくれた。私も母さんや桜、楓を愛している。お前たちを最後まで守れないまま先に逝くことを許してほしい。桜、これは父さんとの漢の約束だ。

自分の愛するもの、大切なものを守れるような漢になれ。頼んだぞ、お兄ちゃん。」


 最後まで陽気な父は母と同様に微笑んだ。


 「分かった。約束する。楓も、これからできる大切なものも全部守って見せる。だからっ」

この先は言えなかった。二人が泣かないのに泣いてどうする。行かないで、なんて叶うはずもない。


「「いい子だ、ありがとう」」


 歯を食いしばり、無理に笑おうとする俺を見て二人は更に微笑み、そう言った。そして、俺が横で気を失っている楓に手を伸ばした時、更に大きく揺れ、俺たちのいる場所が崩れた。俺は必死に楓を抱きかかえたまま意識を失った。意識が戻った時には救助隊員の方々の手によって二人とも助け出され、病院に運び込まれた後だった。その後、俺は楓と再会し、父と母の行方不明であること、天野市が謎の災害に巻き込まれたこと、遺体一つ見つからず、捜査が止まってしまっていることなどを知った。総人口35万人中行方不明者5万人、負傷者3万人。未曽有の大災害と言われた天野市未解決災害事件は今なお一人の行方不明者の遺体も見つからないまま、人々の心に傷跡を残している。

***************************************

 想い返している内に俺たちの順番となった。係のお姉さんから楓が花束を受け取り、多くの犠牲者の名前が刻まれた慰霊碑の前に立つ。その中でも「押上 秀樹」 「押上 木子」つまりは両親の名前を見つけ、手を合わせ、祈りをささげる。横にいる楓が少し嗚咽を漏らすのが聞こえる。災害から5年後、初めてやってきた時は泣き叫んで慰霊碑から離れようとしなかったが、それから何回も来るうちに成長してきた。だんだん妹が頼もしくなっていくのは兄としてうれしい限りだ。妹を見るたび、俺は両親のことを思い出す。意識を失った妹を俺に託し、両親はこの世を去った。俺は父と母と約束した、必ず妹を守ると。

 



異世界転移まであと少し....


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