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ー約束とヤクソクー

 昇降口で上靴に履き替え、二階にある二年生の教室に向かう。そしていつも通り教室に入り、静かに教室の席に着く。そして…


「遅刻ギリギリじゃん。もっと早く来いよ、それとも俺がモーニングコールしてやろうか?」


 前の席のコイツに話しかけられる。初登場でコイツ呼ばわりも悪いな、改めて紹介しよう、俺の目の前でヘラヘラ笑っている金髪の男の名前は尾之上 真。俺の幼馴染の一人であり、俺の親友だ。クラスでも静かな方の俺とは反対に元気で爽やか、そして友達も多い、太陽のような男である。


「いらない。うちはただでさえ妹がいて騒がしいのにお前までいてたまるか。」


真が家にいる生活を想像するだけで寒気がする。俺はできれば平穏な毎日を過ごしたい。


「ちょっと、真と同じ扱いは楓ちゃんに失礼でしょうが!」


 席に座って喋っている俺の真の会話にポニーテールもとい伊原 荊が割り込んできた。伊原は俺と真の幼馴染であり、生徒会長も務めるいわゆる優等生である。俺が心の中でポニーテールと呼んでいるのは荊が小さいころからずっと髪型をポニーテールで統一しているからである。


「あれれ、俺の扱い酷くない!?」


「いつものことだろ。」


「そうね、いつものことよ。そろそろ慣れなさいよ。」


 やはり、この三人でいるのは安心する。いや、いつものことなのになぜ? 

そうこうしているうちに始業のチャイムが鳴り、担任が教室に入ってくる。

 俺たちのクラスはAからDまであるうちのA組。担任は羽根川 夏帆先生。スラっとしたカッコいい女性である。アラサーで独身という事実と何処がとは言わないが、断崖絶壁であるという地雷を踏みぬいて生きていた者はいない。生徒からも夏帆Tとかナッティーと呼ばれるなど慕われており、結婚していないのが不思議であr痛っ。


「おい、押上―。何ぼさっとしてる、先生の話ちゃんと聞いときー。先生が今何を話してたかわかるか?」


 重要なことを忘れていた。先生はエセ関西弁を喋り、チョーク投げを特技としている。

俺はチョークが当たり、少し白くなっているおでこをさすりながら、答える。


「いや、全く分かりませんって痛いっ!」


 もう一度チョークが飛んできて俺のおでこに激突する。教室が笑い声で包まれる。真は口を開けて笑っているし、荊もこらえきれずに噴き出してしまっている。


「はぁ、仕方ない。もう一度話すからよく聞いとき。最近よく聞く不審者の話や。」


「最近、新都周辺で不審者情報が多数挙がっているらしい。私は信じてないけど未確認生物の話もあるしな。みんな気を付けるのと今日からは一人で帰らんようにな。先生との約束や!はい、朝のHR終わり。起立、礼。それじゃあまた。」


そういうと先生は教室から出ていき、HRは終わった。


 それから一限、二限、三限、四限とあっという間に過ぎて昼休みになった。俺は屋上で昼食を済ませることにした。いざゆかん、ボッチ飯に!いや、念のために言っておくが、いつも一人屋上で昼食をとっているわけではない。今日は用事があると言って真がどこかに行ってしまったため、教室でボッチ飯をきめられる勇気もなく、ここまでやってきたというわけだ。そして俺は勢い良く扉を開け、絶句した。俺一人の楽園だと思っていた屋上にはすでに先客が一人いたのだ。その人物はまるで俺が来るのが分かっていたかのように俺に話しかけてきた。


「遅いっ‼何処かに寄り道でもしてたの?せっかくご飯一緒に食べてあげようと思って来たのに。まぁ、いいわ。こっちに来て、一緒に食べましょう」


そう言って、屋上のベンチに座っていた荊は自分の隣のスペースを叩いた。


「別に俺は一人でも……」


「何か言ったかしら?」


「いいや、何でもない。ありがと。」


 これ以上荊の機嫌を損ねても何も良いことはない。俺は大人しく荊の隣に座り、購買で買ってきたメロンパンの袋を開け始めた。


「やけに素直ね。もしかして、またあの事を考えてたの?」


 心配そうな顔で荊がこちらをのぞき込んでくる。長い付き合いだと何でもお見通しか。


「あぁ、いつも昨日のことのように思い出すんだ。新都が物騒になってきた最近は特にな。」


 思い出す度に不安になる。大切なものがこの手からこぼれ落ちていく時、俺はあの時のように何もできないままなのではないかと。


「桜がシャキッとしてないと楓ちゃんが悲しむんだから、お兄ちゃんらしくしてなさいな。」


そう言うと荊は俺の背中を勢いよく叩いた。パチーンと良い音が屋上に響きわたる。


「痛い、いきなり何するんだよ。でも、ありがとな荊。俺が元気ないのに気づいて励ましてくれたんだろう?」


 荊と真には今までずっと支えられてきた。二人はそんな気はしていないかもしれないが、そばにいてくれるだけで俺の心はだいぶんと助かっている。だからこそ何でもないこんな時に感謝したかったのだ。


「ふん、感謝しても何も出ないわよ。そろそろ教室に戻りましょ、生徒会長が遅刻はできないもの。」


 少し顔を赤くしながら荊はベンチから立ち上がり、早足で階下への階段へと歩き始めた。俺も慌てて後を追う。すると、荊は少し先で立ち止まり、振り返った。


「でも、そこまで感謝してるって言うのなら今度、新都駅前に新しく出来たクレープ屋さんにでも連れていってちょうだい。」


「分かった。必ず行こう。約束だ。」


「ふふっ。ありがとう、約束ね」


 荊はそれだけ言うと、ニコッと笑って階段を下りて行く。この笑顔を守りたい。そう思いながら、俺も教室へと向かうのだった。


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