ー天空とイセカイー
落ちる、落ちる。ただひたすらに落ちているという感触だけが、俺を包む。うっすらと目を開く。真下には真っ白な世界が広がっていた…ん?今度はしっかりと目を開く。確かに俺は落ちていた。雲が下に見えるほど上空から。何故?分からない。俺には翼が生えているわけでもなく、ましてや飛行機に乗った覚えもない。なら、きっと夢だ。今頃俺の身体はふかふかの布団で幸せに寝ているに違いない。そうと決まれば、起きよう。いつまでも落下しているというのもむず痒いだけだし。そうして俺は目をつぶり、深い眠りから覚め、覚め
「覚めな-----い!!」
いくら目をつぶっても一向に目が覚める気配はない。逆に冴えてきてしまっている。おかしい。これでは本当に落ちているとみたいじゃないか。落ち着け、俺は押上 桜。どこにでもいる平凡な男子高校生なんだ。今日もいつものように布団でめざめて、、、
「起きて、起きて」
体の揺すぶられる感触。聞きなれた声が聞こえる。もう少しこの声を聴いたままでいたい。揺すぶられる感覚を楽しみながら布団でぬくぬくとしていると
「って、起きろって言ってんでしょーが!」
そう叫ぶ声と同時に俺のお腹に衝撃が走る。その痛みに耐えかね、渋々俺は目を覚まし、目の前にいる声の主もとい妹の押上 楓に話しかける。
「なんだ楓か、早く降りてくれると助かる。お兄ちゃん、腰へのダメージが大きい、って痛い痛い」
そう言うも、楓は降りる気配を見せず、俺の両頬を思いっきり引っ張る。
「桜兄ぃがさんざん起こしても、起きてこないからでしょーがっ!!それに、朝ごはん冷めちゃうんだけど!」
このまま妹と遊んでいたいが、そろそろ腰も限界だし、なにより朝ごはんが冷えてしまうのは妹に悪い。俺はいまだにブーブー文句を言っている妹をベッドから降ろし、リビングに降りる準備を始めるのだった。
朝食はトーストに目玉焼き、ベーコンというごく一般的な洋風の朝食だ。食事は毎日当番を決めて交代で作っていて、今日は楓が当番の日だ。
「ふぁいきん、ふっそうなふぃけんほおいよねー」
食パンをほおばりながらテレビでニュースを見ていた楓が何か言っているが、ほおばっているパンのせいで聞き取りにくい。
「楓、話すか食べるかどっちかにしろよ」
そういうと楓は急いで口にパンを詰め込み始めた。俺もパンをかじりつつ楓が先ほどまで見ていたニュースに目を向ける。それは俺たちの住んでいる街、新都で最近目撃されていると噂される未確認生物のニュースだった。というのも、目撃したとされる人々が命に別状はないものの昏睡状態に陥ってしまっているため、詳しい事件の詳細が分かっていないのである。
「新都と言えばあの災害ですが、この未確認生物と何か関係があるのでしょうか?」
キャスターが専門家たちに問いかける。専門家たちは首をひねるばかりで何かを言おうとはしない。あれから十年近くたつのに何の謎も明らかになっていないのだ。関係性も何もわかるはずがない。ため息交じりに俺はテレビの電源を切る。
新都は元々天野市という普通の街だったが、十年前の原因不明の災害によって周辺の地域と共に崩壊。多数の死傷者が出るなど、甚大な被害を受けた。だが、現在は復興し、国でもトップクラスの近代都市になっている。そのため、災害からしばらくたった今でもちょっとしたことで注目されることが多い。
「最近はそこまでニュースに取り上げられること無かったのにね。UMAだってー、桜兄ぃ。
探しに行こうよ!」
「行かない。それよりも学校行くぞ」
UMAかなにか知らないが、そんなものに踊らされる年齢はすでに終わっている。二個下の妹はどうやらそうでもないみたいだが。
「桜兄ぃはワクワクしない?二メートルくらいあって、角が生えてて、喋るんだよ!」
いかにも胡散臭い情報を並べながら、楓は嬉々とした笑みを浮かべ、こちらに話しかけてくる。妹の笑顔をみるとこちらまでうれしくなってくる。そうこうしているうちに俺たち二人が通っている高校についた。ここは高等部と中等部が存在しており、五分ほど離れた同じ敷地内にある。俺は正門で楓と別れ、高等部の昇降口に向かった。