遥か昔の物語1
それは、遥か昔の物語。
今からずーと昔のその昔、魔王が魔族を率いて世界を滅ぼそうとしていました。
魔王は自分自身の強大な力に呑まれ壊れてしまっていたのです。
多くの国や種族が魔族に立ち向かいました。
しかし、魔族もまた魔王の加護を受け、力を増していました。
そして、次々と勇気ある国や種族が抵抗虚しく魔族に滅ぼされて行きました。
もう、世界はこのまま滅んでしまうのか。
世界中の人々が絶望しかけたある日、神様は世界に1人の人間を遣わしたのです。
神様が遣わしたその人間は、神の加護と勇気、そしてゆまぬ努力をもって魔族に抗いました。
人々はその者の姿を観て、人知れずこう呼びました「勇者」と。
勇者は数々の苦難を乗り越え、その道すがら共に魔族に仲間を集めて行きました。
そして、勇者と仲間達は魔王に使える最も強き4人の魔族をも倒し、とうとう魔王の居城へとたどり着きました。
魔王の城はとても堅牢でこれまで幾多の困難を乗り越えてきた勇者達でさえ簡単に攻略できるものではありませんでした。
1人、また1人、と仲間達が倒れて行くなかで、それでも勇者は諦めません。
嘆き、悲しむ暇さえありません。
この壊れかけてしまった世界を救うために勇者はただただ魔王を倒す事だけを目指しました。
そして、勇者は魔王の城で最後の仲間を見つけました。
彼女は魔王の娘、魔族の姫でした。
しかし、彼女は壊れてしまった魔王を諌めようよして、魔王に投獄されてしまっていたのです。
魔族もまた、その全てが世界の滅びを望んでいたわけではなかったのです。
勇者は彼女を助け、共に世界を救う事を誓いました、また、彼女も世界を滅びから救うために、壊れてしまった魔王を、自らの父を倒すことを誓いました。
魔族の姫とそれと志を同じくする魔族の協力を得た勇者はとうとう魔王のもとにたどり着きました。
死闘の末、勇者達は見事魔王を打ち倒す事に成功し世界は救われました。
魔王の影響により、世界に憎悪を向けていた魔族達もまた、徐々にではありましたが理性を取り戻していきました。
世界は平和になりました。
あらゆる種族が手を取り合う理想郷。
人々は二度と悲劇が起こらないよう願いました。
平和な世界で勇者は魔王の娘を自分の妻にしました。
世界中の人々がこれを祝福し、明る未来を見ました。
しかし、
平和は長くは続きませんでした。
数年後、勇者と姫の間に1人の女の子が生まれました。
一見すると、人間にそっくりな綺麗な黒髪の女の子。
しかし、魔族の血も引く彼女の瞳は血よりも赤く、ルビーよりもなお紅く、輝いていました。
最初はみんながその子の誕生を祝福しました。
けれど、その子はとても異常な子でした。
生まれて僅か1週間後には拙いながらも言葉をしゃべりました。
1ヶ月もした頃には自分の足だけで歩きだしました。
そして1年後にはその見た目は赤ん坊というよりも大人になる少し前、12歳くらいの少女のそれでした。
そこから少女の見た目の成長は止まってしまいました。
けれども、両親はとても優しく、世間からは影では気味悪がられる事もありましたが平和の象徴とも言える彼女は表向きはとても大事にされました。
少女はとても静かな子でした。
それでも、周りと自分自身をくらべ、悩むこともありました。
けれど、彼女は幸せでした。みんなが自分に優しくしてくれて、とても穏やかな世界。
彼女の心は穏やかで、優しく成長していきました。
ある日、事件が起こりました。
少女が14歳になった頃、1人で街の外で遊んでいると人間の男達に攫われてしまったのです。
その男達は元々は国のために、魔王に立ち向かった兵士達でした。
魔族との戦いで怪我を負って後遺症を残したもの、戦いが無くなり職を無くした者、戦争で家族を失った者、理由は様々ありましたが、みな魔族との戦いのあと幸せにはなれなかった人々でした。
彼女を攫った理由もた様々でしたが、魔族への復讐、金銭目的、逆恨み、様々あれど幼い彼女には関係のない理由ばかりでた。
特に戦う力もない平和な時代を生きた彼女は心の底から恐怖しました。
初めて正面から自分へ向けられる悪意、一人ぼっちの孤独感、どれも幼い彼女には耐えられるものではありませんでした。
しかし、彼女の両親はかの勇者と魔族の姫、2人は自らも動き誰よりも早く彼女の元へとたどり着きました。
それが、彼女の悲劇の始まりでしかない事も知らずに……。