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蒼のアクシア  作者: 館 阿木夫
2/8

002 未知との遭遇

 




『ほんとっ!信じらんない』

『バカ!アホ!サイテー!』

「…………」

『シネ、シネ、シネ、シネ……』


 なんとか間一髪、海への墜落は回避出来た。高度を飛行高度まで戻した機内では、隼勢(はやせ)に向けたアクシアの批難が続いている。


「ごめん。調子に乗りすぎた」

『……本当に反省してる?』

 従来の有人機では有り得ない光景だが、隼勢(はやせ)は座席の上で器用に身体を折り、土下座していた。

『(ごめん)ってさぁ、なんか上からだよねぇ。誠意が足りないんじゃないの!』

「すいませんでしたぁー!」

『次やったら、海に落とすからね!』

「はいっ!」

 操縦席の後方から隼勢がインナーを擦り付けた突起部分に、二本のマジックハンドが器用に消臭スプレーの様なものを吹き掛けている。三度往復し、今度は別のマジックハンドがアルコール消臭をしているようだ。隼勢は地味に傷ついている。


『……そろそろ、みっともない土下座止めてください。あと……早く着替えて下さい』

「はい、ありがとうございます」

 やっと土下座から解放され、通学用バックから替えのインナーを取り出す隼勢。機内では換気の為の空調がMAXになっている事を、これ見よがしにモニターに映し出している。

『あ~あ、汗臭いですねぇ』

「申し訳ない、しばらく我慢してくれ」

『……反省の態度が見受けられないなぁ……』

 圧縮空気が抜けるような音が聞こえ始め、キャノピーが”ゆ~っくり”と開きだす。緯度が上がっているのか、明らかに気温が下がっている。

『この季節は少~し海水浴には早いけど……』

「わぁあ!ごめんなさい、僕泳げないんです。寒い、寒い」

 慌てて座席にしがみつく隼勢。”追い出される”時は座席も一緒に飛んでいく事を知ったのは、これよりもう少し先のことだ。キャノピーがゆっくりと元に戻り隼勢は安堵の息をつく。


「アクシアさん、さっき消臭スプレー使ってましたよね。あのブランドだったら僕にも使えませんか?」

 マジックハンドはスプレー缶を器用に持っていて、ラベルは市販のデオドラントスプレーだった。

『使えるよ~』

 そう言うと後方から二本のマジックハンドがスプレー缶を握って伸びてくる……ラベルは馴染み深い雄鶏マークの……

「 殺虫剤かよ!」

『へへへっ……』

 アクシアの声色が急に楽しげになる。

『えいっ!えいっ!』

 隼勢のツッコミも虚しく、マジックハンドが微妙な距離で殺虫剤をプッシュしては止め、プッシュしては止め…… やっぱり楽しそうだ。

「やぁ~めぇ~ろぉ~よぉ~」

 必死に”殺虫”されまいと避けまくる隼勢。

『逃げ出すなら今だよ』

 そして換気の為にキャノピーが再度開く。

「だから、寒いって!!」



 それから、わずかばかりの時が流れた。悪ふざけに満足したのか、アクシアもやっと機嫌を直したようだ。隼勢はモニターに、もたれ掛かってぐったりしていた。

『もうすぐ陸地が見えてくるよ』

 アクシアの呼掛けに反応した隼勢が前方に視線を向けると……

「あ、光が見える……」

 灯台らしき光が確認できた。

『ようこそエゾリアへ。もう少しで街の夜景も見えてくるから』

 地図やテレビでしか見たことの無かったエゾリア。同じ国とはいえ、高校生がおいそれとは来れない場所だった。サヌーキーからは飛行機で、時間も費用も馬鹿にならない。大きな海を越えなくてはならなかったからだ。

「おおー、初エゾリアだよ。やっぱり遠いなぁ、夜になっちゃったし」

『色々有りましたからね、誰かさんのせいで……』

「もう許してよ」

『貸しだからね。ほら、あそこに見えるのが私の基地……』


 眼下に誘導灯に照らされた滑走路と、大きな建物が無数に建っているのがみえた。基地と言うより街に近い。

「大きいなぁ」

『今見えているのは全部、関係施設だよ。聞いたことないかな?NHI社』

「NHI社、聞いたことある。確か…… NISHIYAMA HEAVY INDUSTRIES ……西山重工だったよな」



 ――――西山重工 (通称)NHI (英)NISHIYAMA HEAVY INDUSTRIES,LTD.  火星にて創業した総合機械メーカー。特に軍需産業と鉄道事業に強みを持つ。最近、ヒューマノイドの開発に力を入れていると言われている。



 幾つものモニターが並ぶ部屋の中。ここは西山重工の航空管制室。大勢のスタッフが緊張しつつ、一際大きなモニターを注視する。


「NHI-1、間も無く着陸体制に移行します」

「どうやら無事に帰ってこられたようだな」

 そこは正規の空港顔負けの管制室の機能を有しており、もうすぐ着陸しようとするアクシアを誘導すべく動いている。そして部屋の中央で落ち着き払うこの男こそNHI社のトップ、西山健一博士である。

(あんな事があったというのに、どういうつもりだ)

 管制モニターは二分割に変わり、滑走路に滑り込むアクシアの姿と、機内で顔を強張らせる隼勢の姿を映し出していた。

「NHI-1を第一格納庫へ誘導、各自警戒体制をとれ。私も向かう」



 アクシアに乗せられるがまま、キョロキョロと周りを見渡す隼勢。そこは彼が生まれて始めて見る物で溢れ、異世界観が半端ではなかった。本当に帰れるのだろうか……、彼の不安は的中する。格納庫の中で待っていたもの、それは小銃を構えた兵士達だった。

「うわっうわっうわ!熱烈大歓迎なんて期待はしていなかったけど、予想通りで笑えない!」

『あらっ?当然の反応だと思うけど』

「そりゃ、勝手に戦闘機に乗って来たら…… だけど緊急事態だったしアクシアも乗れって……」

『公然わいせつ罪。六ヶ月の懲役または三十万円以下の罰金……』

「そっちかよ!!」

『そっちかよ?こっちは何?あっ!わいせつ物陳列罪ね。さらに重い罪を背負おうなんて、見上げた根性だわ』

「どっちも違う!ほら、もっと他に有るだろう?軍法会議的なアレとか……」

『なお、黙秘権は認められない』

「厳しっ!!人権侵害だ」

『虫に人権などない。しかも変態だ。ドヤァ~』

「機械の癖にどや顔するな!上手いこと言っても座布団はやらんぞ」

『ふっふっふ。我々は甘くないぞ。生爪がいいか?それとも石抱き?』

「やだやだ!何も悪い事なんてしていないじゃないか!」


 隼勢とアクシアが揉めている間も作業は続いていて、エンジンがゆっくりと止まっていく。キャノピーが開き乗降用のステップが設置された。


『さあ、さっさと降りて頂戴』

「えっ?……」

 アクシアの声色ががらりと変わった。それは認めたくない現実を、受け止めざるをえない時が来たのだ。二本のマジックハンドが隼勢の背中に銃口を押し付ける。隼勢は後がないことを悟った。

「アクシア……そんな、嘘だろ……」

『ごめんなさい、早く終わりにしたいの……』


 失意の隼勢はアクシアを降り、兵士達の前で両手を挙げた。

「……抵抗はしません。でも信じて下さい、僕はたまたま巻き込まれただけで……」

 目の前の兵士が小銃を構えながら顎を縦に振った。隼勢は悲壮な表情をしながら、そのまま床の上にうつ伏せになり頭の後で手を組んだ。ニュースで見る、投降した兵士が敵兵士に銃を向けられてしているアレだ。

「お、お願いいたします。命……命だけは」

 頬に触れた床の冷たさ、大勢の人の前で命乞いをする惨めさ、そして僅かな間でも共に過ごしたアクシアの裏切り……人工知能だと解っていても、隼勢はそれを”一人の”人格として受け入れていたのかもしれない。だから余計に悲しかった……

「アクシア、教えてくれ!何故……僕を助けた?こうなることを解ってて連れてきたのか!教えてくれよ……」

 隼勢の頬に涙が流れた。


『………………あわわわっ!……』


 あたりが静まり返った頃と時を同じくして、西山博士が到着した。そこで彼は驚愕することとなる。

「な、何をしているんだ?」


 隼勢の悲しげな視線が西山に向けられる……(助けて下さいと……)


 兵士達の慌てた視線が西山に注がれる……[何とかしてくださいと……]


 居たたまれなくなった西山ではあるが、組織のトップとしてそれは許されない。


「何故、その少年がうつ伏せで泣いているのか理由を聞かせて欲しい」

「……えっ?!」


 隼勢は耳を疑った。そう……何かがおかしい。自分はこれから拘束されるのではないか、そう思ってあたのだが。何か重大な勘違いなのではないか、隼勢の疑問は兵士の証言によって確信に変わった。


「実は……NHI-1が到着して警戒体制をとって待って居たのですが…… あちらの少年が降りて来て早々、投降する旨を伝えてきたものでして。私達の方では少年の保護としか聞いておらず、敵のスパイの可能性を考慮した次第です」


 兵士長らしき人物が困惑した表情で事情を話す。何かしばらくの間思案した西山は、今度は隼勢の方に問い掛けた。


「……そうか。では、君の方も事情を聞かせてくれないか?」

 何が起きているのか解らないまま、隼勢は自分が怪しい者ではない、偶然助けられただけだと訴える。そしてこのあと待っている……

「尋問なんてやらないよ、君!」

「そんな!だってアクシアが……それに軍の最高機密なんじゃないですか?その機体に関わって……」

「ほう、どうやら話が見えたぞ」

 そう呟くと西山博士は、アクシアの方へ視線を移した。

「君、申し訳ない。うちのバカ娘が脅かしていたようだ。出てきなさいアクシア!」


『とっ、父さん。ち、違うから!』


 すると……さっきまで座っていたコクピットの座席が跳ね上がり、後ろの”謎の突起”の部分から空間が現れた。中から現れたのは……銀髪が綺麗なツインテールの女の子だった。


ネオ・マーズ……テラフォーミングされた火星の俗名。海が出来て二つの大きな大陸と大小様々な島が出来た。現在は、主に資本主義連合と共産主義同盟の二つの勢力に分かれている。ただし、加盟している国の内訳は地球のそれとは若干違っている。



エゾリア……テラフォーミングされた火星に出来た島の名前。北海道に気候が近いので旧国名の蝦夷をもじって命名された。日本領。他に本大陸が有る。


サヌーキー……資本主義連合が集まる大陸の日本領に有る地域。讃岐の国がモチーフ。温暖。隼勢の故郷。

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