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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【夏編─街デート】
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僕は眉目秀麗で運動神経抜群なそこら辺の凡人とは比べ物にならないTHE・ハーレム高校生。


 振り返ればヤツらがいる。


 声から察するに、渚と一緒にいるのはお友達の茜さんだろう。あまりにもタイミングが悪すぎる。


 ……まずいぞ。ここで彼女とばったり会ってしまうのは非常にいけない。例えるならばラスボス戦前なのにも関わらず、セーブと回復をし忘れたときくらいのヤバさだ。


 渚と最後に会ったのは終業式前、安穏と一緒に帰宅したあの日だ。「LINEをする」と言っていたのに、どうしてか音沙汰なしで、今はなんか気まずい感じになっていた。


 そんなギリギリの状態であるのに、明希と二人で映画デートをしているところを見られてしまったら、一体どんな悲劇を招くことか。いやはや如何せむ。如何せむ。



「渚、原作読んでいたよね。366《サムロク》って、どんなお話なの?」


「えっとね。結婚を目前に迫ったフリーの記者がいて、その彼が未解決事件の猟奇的殺人鬼を追っていく話なんだけど、あるとき」


「へー、なんだかすごそう〜!」


「まだ説明の途中っ……」



 生憎、二人は僕たちに気が付いていないご様子。しかし、会話の内容から察するに、彼女たちも『366《サムロク》』目当てで来たらしい。厄介なこととなった。



「チュロスたべよっかなー。んー、だけど、ポップコーンも捨てがたい。いっそ両方いっちゃう? いやー、でもなー。お昼前だしなー。これ以上、祐希ゆうきにバカにされたくもないし……。で、でも、食べたい。──よし! それならいくっきゃないッッ!!」



 なんか呑気に一人で葛藤している明希。



「サスペンス映画なの?」


「う、うんっ。この物語のすごいところは、最後に伏線を全部回収していくところなの。なんでもないと思っていた部分が、少しずつ繋がっていって、物語の結末では『あっ』と驚く展開になるんだよっ……! 作者はね」


「渚、そういうのほんと好きだね〜!」


「まだ話の途中っ……」



 饒舌な渚を背に、僕は思考する。


 この状況を打破するにはこれら三つのプランのうち、いずれかを選ばなくてはならない。



・プランA【さっさと劇場内に入る】

・プランB【観る映画を変える】

・プランC【この場を離れる】



 さて、どれが最良の選択か……。




「あ、新垣くんいるじゃん!」




 ──!?




 咄嗟に呼びかけられて、目を見開いてしまう。背中に透明な棒を入れられたかのように、背筋がピンと立つ。下唇を噛む。



「どしたのさ、ガッキー」


「いや、えっと……」


「お腹でも壊したの?」



 流石に隣の明希にも見抜かれたようだった。とりあえず一旦スルーしておいて、ゆっくりと振り返る。



「岡田純一くんのことっ……? そんなに似てないよっ! 善一くんこんなのじゃない……」


「似てるってー。クリソツじゃん。ま、岡田くんの方が100倍カッコいいけどねー」


「むぅ……」


「もー、すねないでよー、なぎさー」



 渚と茜さんは映画のポスターを眺めていた。どうやら僕にそっくりな俳優がいただけであった。紛らわしい。


 ともあれ、このままだと明希にもいずれは気付かれてしまうことだろう。


 この子のことだ。気軽に挨拶を交わしちゃって、そのままの流れで四人で遊んだりすることもやり兼ねない。流石に、それだけは避けたい。そんなことをさせてたまるか!



「明希、映画はまた今度にしよう。今日はそういう気分じゃない」




 即断即決。予定を変更する。

 366《サムロク》は却下だ。



「ふぇ!? 生田斗真斗は!? チュロスとポップコーンも食べたいのに!」


「次回だ」


「……意味わかんない、ガッキー」



 もちろん不機嫌になるアッキー。説得は失敗だ。だが、そんなことはどうでもいい!


 最優先すべきことは、この場から逃避することだ。


 ーー逃げよう、どこまでも! 我らが自由を手にする為に!!



「カフェにでも行こうか。僕は喉が渇いた」



 四の五の言われる前にさっさと行動する。明希の手を掴んで、強引に連れ出す。



「え?」


「どうしたの、渚?」


「い、いや……気のせいかなっ……」



 明希を連れて、映画館を後にする。


 ※ ※ ※ ※ ※



「映画観にいくって決めてたのにさっ」


「そう怒らないでくれ。悪かったって。カフェで休憩がてら飲み物を奢るから、機嫌を直してくれないか?」


「食べモノで釣ろうだなんて、あたしを安い女だと思わないでよ! でも……まぁ……今回は行ってあげてもいいけど……」



 安い女になっているぞ。



「カフェってどこいくの? やっぱスタバ?」


「ああ、そうだな」



 顎を引く。次なる目的地はスタートバック走コーヒー店。通称スタバに決定した。今年度、二回目の挑戦となる。


 懐かしいな。菜月の件、以来か。久々にチョコレートなんたらペペロンチーノでも飲み干したいものである。


 × × ×



「ふーん♪ ふーんふーん♪ あたしたちは仲良しカップル♪ ガッキー&アッキ〜!」



 鼻歌交じりに繋いだ手をぶらぶらと振る明希は、彼女というよりは妹みたいだった。



 ショッピングモールの中を進む。前方にエレベーターが見えてきた。


 地図によると、スタバは二階にあるらしい。ということは、これにさえ乗ってしまえば、速めに目的地に到着できるんじゃないのか? おお! 僕って、あったまいい〜!


 ボタンを押して、大人間専用昇降機を待つ。

 時計を見ると、まだ11時過ぎだった。



「……んっ」



 しばらく立ち止まっていると、モゾモゾと隣の明希が動き出した。



「が、ガッキーは……平気なの?」



 平気? 平気って?



「ん? なにがだ?」



 言っている意味が、よくわからない。



「ちがくて……あのね」



 彼女の視線が繋いだ手の方に向けられる。離そうとまでしてきた。


 ははーん、わかったぞ!


 つまり恥ずかしいんだな。エレベーター内は沢山の人がいる密室だから、他の人たちから視線を向けられる危険性がある。だから、手を繋ぐのを躊躇っていると。



「……へぇ」



 弱点発見らしい。はにかみながら、抵抗を食い止める。


 何があっても離しはしない。


 点滅した数字が徐々に上がっていく。握られた手にも力が入ってくる。



「は、はずいからっ! ここは離してよ!?」


「どうせ誰も気にしないって。それに、僕の彼女ならば堂々と振舞ってくれよ」


「なんで今日そんなにドSなの!?」


「ふふふ、さぁな」



 あぅあぅと言いながら、明希が耳まで真っ赤にさせている。それを見ていたら、余計に興奮してしまった。嗜虐心とでも言うのだろうか。未知なる己が、目を覚ましていく。


 後ろにも人はいる。

 それでも最後まで手を離すことはさせなかった。



「よし、いくぞ」



 扉がチーンと音を立てて、開く。明希の手を引いて、エレベーターの中へ。




「……いじわる」




 ※ ※ ※ ※ ※



「あはは、子供にすごく見られたな」


「笑い事じゃないよ……。もうっ! ほんとにっ恥ずかしかったんだからっっ!!」


「いやぁ、すまん」


「軽すぎじゃーい! バッカもぉーんっー!」



 肩に何発か拳を決めてきたがダメージはない。いやぁ、楽しかった。まさか、ベビーカーを押す主婦さんと、手を引く男児にあんなに注目されるとは。



『おかーさん、みてー! このひとたちも、おててつないでるー!』



 とヤツが声を発したときの周りの空気の凍りつきようは凄まじかった。響くんだよ、エレベーター内は。ユーフォニアムなのさ。



「子供は正直で可愛いなぁ」


「可愛くないよ! あんなのマセガキだよ!」


「明希、こら。口が悪いぞ」


「誰のせいだ! 誰の!」



 電動式移動装置箱を降りても、明希はずっとこの調子だった。


 さっきなんて、顔を隠して「もうお嫁にいけない……」とまで呟いていたし、案外、乙女なのかもしれない。それなのに、ちょっとゲスの極みしてしまったのは反省すべきところだろう。



「てか、なんで、急に、手なんか……」



 聞かれると、答えはこうだ。



「なんでって、明希とどうしても手を繋ぎたかったからだよ。それ以外に理由はない」



 本当にそれだけだ。



 ──彼女の反応は。




「いや、そういうのいいから。マジで」



「……悪い」




 ガチギレだった。反省します……。


 

 プンスカと怒る明希が先に歩いて行く。ダブルアーツごっこはもう終わりか。



 店を眺めていると、視線の先にスポーツ用品店があるのが見えた。ジャージを着たマネキンがポーズを決めている。


 しかし、丁度良かった。スパイクを購入しようと思っていたところである。



「明希ー! ココ、寄って行っていいかー?」



 声をかけると、彼女は振り向って「べー」と舌を出してきた。


 なんだあのマセガキ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 ひとり先にお店の中を進んでいく。流石はスポーツ用品店といったところか。スポーツ用品がたくさん売っていた。


 まぁ、当然だよな。スポーツ用品店に行って旬のお魚がグローブの横とかに置いてあったら、なんだこのお店ってなるもんな。



「スパイク……スパイクと」



 サッカー関連の棚を捜索する。が、見当たらず。もっとあっちかな?


 野球ゾーンを通り抜けて、更に奥に進んでいく。気分はジャングル探検隊だ。



「あ、あった」



 密林を抜け、巨大ヘビとの激闘を乗り越え、ようやく僕はその場所に到達する。


 棚にはスパイクだけではなく、スニーカーなどの靴も多く陳列されていた。ここに、藤岡隊長が探し求める伝説のスパイクがあるのだろうか。




「なっちゃん的にはどれがオススメなの?」


「あたし? あたしはそうね」




 聞き覚えのある声がして、またしても僕の身体は硬直してしまう。

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