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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【夏編─街デート】
97/279

僕はめちゃめちゃモテまくりのスーパーウルトラミラクル高校生。‬



「彼氏?」


「そ。彼氏」



 視線の先には明希が立っている。小指を突っ立ってて、よくわからないお願いをしてきた。え? これって、もしや……。



「こ、告白?」


「違うよ!!」



 即答で拒否された。帽子を地面に叩きつけそうな勢いである。



「??」



 一体なにをお願いされているのか、よくわからない。一日だけ彼氏になれって、俗に言う『レンタル彼氏』ってやつか? 金銭を払えば、疑似恋愛体験ができるアレのこと?



「だから!」



 小指を引っ込めて、明希が吠える。キャップで目元が隠れているため、身バレを防いでいる芸能人みたくなっていた。週刊誌に熱愛報道されないように気をつけなくては。



「ただのデートをするだけじゃ、普通すぎて面白くないじゃん? こういうごっこ遊びを取り入れたほうが、盛り上がると思うの」


「あー、なるほど」



 確かに、それは一理ある。



「いいよ。明希がやりたいって言うなら、僕はそれに付き合うよ。一日だけ、彼氏・彼女の関係な」


「えー。その言い方はなんかヤダー」


「なんかヤダ!?」



 要求が多いな。なんだよ、次は。



「もっとテンション上げて言ってよー。それってなんか無理矢理やらされている感じがしてイヤだ〜。ちゃんと“ハイ”でしてよ」


「はい」


「そっちの『はい』じゃない! もー、あたしよりも、ボケないで!」



 無茶苦茶だな。ワガママ小娘め。



「あー、わかった。テンションを上げてやればいいんだな? ゴホン……」



 咳払いを一つして、両手を大きく広げる。気分を最高潮に上げて、声高らかに叫ぶ。



「おぉー!! マイハニー明希! 今日は僕の彼女になってくれるんだろ? 嬉しいなぁ〜! あ、そうだ! 今度から君のことを『アッキー』って呼んでもいいか? あだ名で呼び合う方が、カップルっぽいぞ!」



 ミュージカル映画みたく大袈裟なリアクションを取りながら、太陽の下へと飛び出す。我ながら名演技である。歌舞伎役者でも目指そうか。


 僕の過剰な行動を見ていた明希は、電柱の陰で腕を組みながら。



「うーん、及第点かな」



 と呟いていた。


 あれでギリギリ合格なのか。


 ……いや、厳しすぎる!(粗品感)。


 ※ ※ ※ ※ ※



「でも、アッキーってあだ名は好き。いいね、アッキー。可愛い」


「だろ?」


「じゃあさ、じゃあさ! あたしたち、ガッキー&アッキーだね!」


「いいな。歌でもリリースするか」



 ボケにボケを重ねながら、僕らは歩いていく。しばらく雑談を交わしていると、大通りが見えてきた。



「うわ、ゴーカートだ! やったやった! 初めてみた! 外人さんも乗ってるじゃん!」



 目をやると、何やら小さなゲームの乗り物っぽい車両が交差点を停止しているのが見えた。



「写真撮っとこ! SNSにあげてもいいかな? あ、手を振ってくれたよ!? おーい!」



 僕はぼんやりと横断歩道の信号が赤に変わるのを見ている。



「……撮れたぜ。超撮れたぜ。うへへ」


「そんなに珍しいものなのか?」


「滅多にお目にかかれないからねー。あたしも乗ってみたいなー」



 横断歩道で立ち止まる。僕らを一番前の列として、後ろに続々と人が集まり始める。



「……」「……」



 周りに人がいると、お互いに大人しくなる。明希もスマホを触っている。


 もしも、ここに重い荷物を背負っていたおばあちゃんがいたのなら、背中におんぶして家まで送り届けていたことだろう。実際にそんな人と会ったことは一度もないけれど。


 向かいの信号が変わって、車が停止する。信号に引っかかった求人トラックが『チョコ♪』だの『低収入♪』だの、よくわからない雑音を奏でていた。うるさいですね……。



「アッキーはさ」



 言ってから少し恥ずかしくなった。慣れないあだ名で呼ぶもんじゃない。



「どうして今日、僕をデートに誘ってくれたんだ?」



 単純な興味からだった。



「……」



 彼女は答えない。さっきの画像をネットにアップするのに苦労しているのか、スマホを弄っている。



「……」



 再度、質問するのはやめておいた。



「どうしてだろうね」



 遅れた頃に、明希が答えた。足元の白線をスニーカーで地面を蹴って、音を鳴らす。



「……ほんの、お礼だよ」



「えっ?」



 直後、信号が赤から青へと変わる。


 聞き返すものの、もう先に歩き出してしまっている。早っ。渡るの早っ!



「ちょ、早いな……明希」



 既に僕を置いて行っている。え、なんだその、異常なまでの動き出しの速さ。名FWかよ。こっちも一応はハゲダニ高校サッカー部新エースって言われているのに、その僕より速いなんて、二代目神速の星かよ。



「なぁ、今なんて言ったんだ……?」


「なんのことー?」


「渡る直前でなんか言ってただろ?」


「わかんなーい」



 素でボケているのか、惚けているのか、渡り終えた後も、明希はさっきの質問に対して言及することはなかった。



「さて、ガッキーくん。それはそうと、そろそろ目的地が見えてきたよ! 今日は色々と付き合って貰うからね? 覚悟しておきなさんな!」


「お、おう」



 ともあれ、この子が楽しんでいるのであれば、別にいいか。


 ※ ※ ※ ※ ※



 映画はデートの定番スポットである。付き合って間もないカップルにこそ、是非オススメしたい。なぜなら、映画というのはただ画面を眺めるだけでいいので、そこに気まずさなどは発生しないのである。


 また上映後に感想を言い合えるという利点も存在する。「すごく面白かったねー」「泣けた!」「クソだった」「原作のが良かった」「下げたハードルをくぐってきた」などと、どんな内容であれ話のタネにはなるので、映画ってやっぱりすごくいい。



 というわけで、シネマーシアターにやって来た。

 ここはこの街で一番大きなショッピングセンターの最上階にある劇場フロアである。



「うわー……。席取れるかなぁ」


「予約しておけばよかったな。悪い……」



 大混雑だった。どうやら、格安デーとダブってしまったらしい。


 予約くらいしておけばよかったな。


 まぁ、いい。反省会は後にしよう。とりあえず、どれを鑑賞するのかを考えなくて。



 えっと、現在公開されているのは、なにかな、なにかな……?



 上映スケジュールを確認する。

 案の定、話題沸騰の映画ばかりだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[上映作品]


【十七人の死にたい侍たち】(new!!)

【劇場版:ラララライブ!】(new!!)

【ミトコンドリアン・ラプソディ】

【劇場版:スーパーボール 『ドラゴン・ブロッコリー超お買い得』】

【ウソコイ】

【こんな夜明けにバハマかよ】

【花束 ─ キミだけの世界 ─ 】

【来る?】


[上映終了間近]

【うるせぇぞタコ! 声がでけぇんだよタコ! 〜少しくらいは静かにしろでゲソ〜】

【366《サムロク》】

【来ない。】


[近日上映予定]

【アドベンチャーズ8/フロンティア・スピリッツ・ア・ゴォー】

【俺の肝臓を炙って焦がせ】

【来い!】


[上映終了]

【スパイダーキッズ2〜逆襲のモグラン〜】

【GHOST IN THE SHELL】

【来た…】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おお、いっぱいやってるな! おっ、またアドベンチャーズやるのか。5までしか観てなかったけど、もう8までいったんだな」



 洋画は続編をガンガン制作するので、見逃したらすぐに置いてけぼりにされてしまう。時間が過ぎるのはあっという間である。



「いくつか知らない映画もチラホラあるな。あ。“ラ!” も今日からなのか」



 ……なるほど。だからか、さっきから缶バッチを鞄に大量につけている人と大勢すれ違ったのは。



 井口くんも絶賛する映画『ラララライブ!』。正直、自分も多少は興味があった。



「明希は、何が見たいんだ?」



 とは言っても、今日はデートである。大事なのは彼女が何を観たいか、だ。


 変な言動を繰り返す明希も、一応は女の子だ。とすると無難に【花束 ─ キミだけの世界 ─】を選択すると予想する。これは内容はよく知らないけれど、タイトルから察するに少女漫画原作の実写映画だろう。



「えっとねー」



 明希が帽子を上げて、唇に親指を当てる。




「“GHOST IN THE SHELL”かな」



 

 おいおい、随分とコアなところを攻めやがる……!



 ※ ※ ※ ※ ※



「……残念ながら、それは上映終了のようだ」


「ええー……」



 明希は本当に“GHOST IN THE SHELL”を見たかったようで、ツンとした表情をした。



「なら、ガッキーが見たいのでいいよ」



 ぷぅとほっぺを膨らませている。



 ……さて、どうしよう。



 出だしは順調だと思ったのに、早速ズッコケたみたいだ。デートに遅刻してきて「ごめん、他の女の子と遊んでて」と言ってしまうくらいのズッコケっぷりである。



 女の子の機嫌は変わりやすい。ここで気分を落としてしまったら、後々に響いていく気もする。


 なにか他に、良い映画はないかな。



「なら“366《サムロク》”にするか?」



 無難にCMで見かけた話題作をチョイスしておく。


 この【366《サムロク》】は知っている。原作がサスペンスミステリー大賞を受賞した話題作だ。有名俳優も多く出演しており、来年のアカデミー賞も期待されている。



「それ、誰が出てるの?」



 明希が、来秋にやる映画のパンフレットに目を通している。



「えーっと、【366《サムロク》】は主演が松坂桃梨くんと、土屋桃白白ちゃんだな。あ、生田斗真斗も出ているみたいだぞ」


「え? 生田斗真斗出てるの!?」


「……出ているみたいだけど」



 パンフレットから目を離して、食いついてくる。お? お? いけるか?



「はいはーい! それなら観たいです! はーい! 賛成派多数の為、可決でーす!」


「い、いいのか? サスペンス系だから、ちょっと怖いかもしれないが」


「そんなの大丈Vよ? 生田くんに会えるなら、気にしません! というか、あたし怖いのへっちゃらですし、カンパチのお寿司」


「おお……! なら、決まりだな」



 目を輝かせて言われる。完璧なチョイスだったようだ。しかも、この映画が公開されたのは随分前だから、チケットも簡単に取れそうだぞ。よし、やった!



 さてさてと、チケット売り場に並ぼうとした──刹那であった。




「松坂くんに会いに行こぉ〜♪」


「も、もうっ……! 茜ちゃん歩くの早いよぅっ……!!」




 不意に聞き覚えのある声がして、僕の身体は硬直してしまう。しびれごなをくらった気分だ。誰か、早くクラボの実を!



 聞こえてきた会話はすぐ後ろから。あの声の震えは間違いない。



 僕は唐突に理解する。




 ……背後に、渚たちがいることを。




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