Side:E
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──私は、ずっと抜け出せずにいる。
「……」
帰宅してからすぐに思うのだった。自分の心が酷く動揺していることに。
何故ここまで揺れ動かされているのか。考えなくとも、答えはいつも傍にあった。
部屋に戻り、景色を眺める。外は相変わらずの単調な空模様で、なんの変化も感じられない。
雨を嫌う人もいる。雨が好きな人もいる。私はそのどちらでもない。
正解と不正解の狭間に取り残されている。そこからずっと、抜け出せずにいる。
「……はぁ」
雨の足音を遠くで聞きながら、ため息をつく。狭い天井を見上げていると、心が押し潰されそうになる。
あの子のはとても可愛かった。
あの子のお気に入りは、私よりも明るくて綺麗だった。水玉模様がよく似合っていた。
まるでこれからの雨を楽しみにしているようで、キラキラと輝いて見えた。
それに比べて、私はどうだろうか。
脚はすっかり折れて、とてもじゃないけど、使うことなんてできない。一体、何が違ったんだろう。
「……」
枕に顔を埋めて、ひとり考える。
取り留めない妄想を繰り広げる。
それでもやっぱり答えは出なくて、私はそこで考えることを放棄する。
思考停止のほうが、苦しくならないから。
自信がある人が羨ましい。諦めることに慣れてしまうと、全てのことがどうでも良くなってくる。悲しいとか、悔しいとか、そうやって思えるだけ、まだマシ。
ぼんやりと時間が過ぎるのを待っている。好きだった春も、いつの間にか終わってしまった。もう次は来ない。
──桜が、再び咲くことはない。
もしも、だなんて願うこともやめた。簡単に断ち切られるモノを、わざわざ欲しがろうとも思わない。どうせ、わかりっこないんだから。やっても無駄なことはもうしない。
なにも要らない。求めていない。
平穏だけが、寄り添ってくれればいい。
「……バカバカしい」
小さな言葉をその場に吐き捨てる。
誰もいない暗闇へと放り投げる。
殺した息で呼吸を止めて、横目でチラリと向こう側を見る。
まだ雨は降り続けていたけど、
どこか心は穏やかになった気がした。