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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【雨空。ーrainy dayー】
79/279

Side:D


ーーーーー



 ──雨はしんしんと。しんしんと。



 汚れたガラス窓を雫が乱暴に叩いている。垂れた液体が地面に落下して、雑草たちの栄養分となっていく。成長した花や根は虫の餌となり、昆虫達は動物の餌食となる。自然界の法則よね。


 そんな食物連鎖の頂点に立っているのが、我らが人間様。牛や豚を殺して食べているのだって、人間様が一番偉いからなのよ。


 それにしても、どうやって屠殺(とさつ)しているのかしらね。見た事無いから、興味深いわ。



 書類を抱えながら、廊下を歩く。

 モノクロームなセカイに私はひとり。



『うわ〜櫻木先輩だ〜! すっげー!』

『相変わらず、綺麗だよなぁ……』

『今回もテスト一番だったんだろ?』

『才色兼備とか最高かよ!!』

『あ〜! あんな彼女いたらなぁ〜〜』



 教室を横切る度に、下卑たノイズが聴こえてくる。あら、また際限なく騒ぎ立ててくれているの? 飽きないわね。



 廊下の隅で、歳下のオトコ達が肩を寄せ合って、コチラを視姦している。どうして頭が悪いヒト達は、本人が近くにいるのに、聴こえる声で噂話をするのかしら。


 まあでも、つい目で追いたくなる気持ちは分からなくもないわ。だって、私ってこんなに美しいのだから。見なきゃ損よね。注目して欲しいから、アピールしているのでしょう? ……うふふ、可愛い所もあるじゃない。



 でも、ごめんなさいね。質が低すぎて、私とは釣り合わないわ。不出来な顔面、フケだらけの髪の毛、体臭、身長、体重、知能、その他諸々を改善してから出直してきて頂戴。そうね、一度転生する事をお薦めするわ。



【二年生成績(男女総合)】


・学年1位 櫻木 晴香(二年連続)



「うふふ」



 嘲笑を堪えながら、ゆっくりと左右に手を振る。どうぞ、お受け取りなさい。ニキビ面の哀れな小童共。その極めて矮小な脳に覚え込ませておくといいわ。



『おい! こっち見たぞ!』

『え、マジ!?』

『目配せしてくれた……』

『それお前に気があるんじゃねーの!?』

『んなワケあるかよ!……マジで?』



 反応は上々のようでした。



 オトコって、憧れの先輩にこんな態度を取られたら、やっぱり興奮しちゃうのかしら。妄想の中でなら、好きにしてくれても構わない。



「……んふっ」



 責められるのも、悪くないわね。



 渡り廊下を通って、生徒会室へと向かう。途中で、掲示板を発見した。真ん中に堂々と新聞が貼られてある。興味は全く無かったけれど、稚拙なタイトルに目を惹かれてしまう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【まさかまさかの!?】【殿堂入り】【一体、どこまで記録を伸ばすんだ!】



・学年1位A氏(三年連続、殿堂入り)



『この結果を見て、読者の皆さんはどう感じるだろうか? 我々の捏造を疑うことよりも、事実に目を向けて欲しい物だ。彼女は入学して以降、学年一位以外の成績を取ったことがない。一時期はカンニングも疑われたが、テストで毎度満点に近い点数を叩き出して、アンチを跳ね除けてトップに君臨し続けている。秀才どころではない。彼女こそ、真の天才と呼ぶべきだろう──』


     (中略)


『もうひとり、同様の成績を収めている者がいる。二年生のS氏だ。彼女もまた生徒会に所属して、天才の背中を追っている。しかし、どうだろうか? 懸命な読者様なら御察しの通りだが、どうも秀才止まりの気がしてならない。それは我々が前述者の残した伝説と無意識に比べてしまい、下位互換としか見れていないからではないだろうか。そもそも、S氏にカリスマ性は無く(以下略』



     ーー新聞部便り。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ッ……」



 思わず、舌打ちが出てしまう。


 気付いた時には、画鋲を外して、その場でビリビリに引き裂いていた。普段は感情的にはならないように工夫をしているのだけれど、今日はムリでした。


 大体、非力な下賤が自己満足で綴った記事なんて目に毒なのよ。書いた奴を名誉毀損で訴えてやろうかしら。文無しにしてあげる。


 匿名だからって、好き勝手している連中は本当に気持ち悪いわね。新聞部といえば、あの盆暗共の集まりかしら? まだ存在していたのね。部室を燃やしておけば良かったわ。


 そうよ。私が会長になった暁には、あそこの予算をゼロにするように検討しましょう。誰かの共感を得られないと意見に自信が持てないなんて、本当に哀れね。うふふ……。



「死ねばいいのに」



 ゴミ箱に記事を放り投げる。私からしてみれば、アナタ達がやっている事なんて、全ておままごとよ。秀才と天才。その間に、幾千光年もの距離があるのか、分からないでしょう。理解して貰おうとも思わないけれど。



 退屈な日々。色のないセカイ。



 ──ほーんと、つまんない。全てを滅茶苦茶にしてあげたい。



 食物連鎖と同様に、学校にも階級制度が存在している。そのピラミッドの頂上に君臨しているのが、生徒会長。私はそこに立って、低脳共を見下すのが夢なの。



 無能な愚図なんて、社会に不必要でしょ?



 みーんな、みーんな、朽ち果ててしまいなさい。地球を蝕む寄生獣共、アナタ達が滅んでもセカイになんの影響もないわ。即座に自害なさい。


 もし私が吸血鬼だったなら、首筋に牙を突き立てて、みーんな噛み殺しているわね。臭い血を吸いながら、高笑いをして、屍の上に生きた証を刻み込むの。ご馳走様ってね。



「あら?」



 ムシャクシャしていたせいもあって、道を間違えてしまっていたわ。生徒会室に行くつもりだったのに、階段を降りて、帰ろうとするなんて。私って、ドジっ子ね。



 元の道に戻ろうとして、そこで発見する。見覚えのある姿を──。



 ピンと立てた背筋。まだ綺麗な制服。あどけない横顔。整えられた短髪。長い睫毛。口付けしたくなる艶々のお肌。ゴツゴツとした身体つき。良い匂いがしそうな雰囲気。完璧に近いオトコ。


 遺伝子が囁いている。『彼と接触なさい』と。



「ふふ」



 私は口元の笑みを隠しながら、少しずつ近付いていく。悟られないように、逃げられないように。背後からゆっくりと、忍び足で捕まえる。


 第一声は何にしようかなと、そんな事を考えながら。



 六月、とある日の午後。

 無機質なセカイが、セピアへと色づく。



 雨はしんしんと。ただ、しんしんと。




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