Side:B
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──憂鬱なもんよ、こんな日は。
急に降り始めた雨が、その勢いを強め続けていた。窓の外を眺めながら、眉間にシワを寄せる。自分でもブサイクな顔になっていると思う。
お昼休み。食堂の一角。目の前には食べ切れてないサラダ丼。隣にはあの子。浮かない気分なのは、きっと天気が悪いせい。
「急に、降ってきたね」
「……そうね」
器に割り箸を置く。これは正直、あんまり美味しくなかった。次は注文しない。
自分でもヤバいと思う。天気が悪いくらいで、こんなにもイライラしているのは。
天気予報で、今泉さんが『一日中、雨』って言ってたから、ある程度予想はしてたのに。大体、なんでこういう時には当たるのよ。いつもはハズれるクセにっ!
「はぁ」
ため息をつく。雨は嫌い。
いつになっても好きになれない。
外出は出来ないし、ローファーが染みて、靴下を濡らす。前髪はうねるし、頭痛だってする。もー……やだやだ、めんどくさい。
「どうしたの、なっちゃん。体調悪い? 保健室行く?」
裾を三回引っ張って、のどかがこちらを覗き込んできた。心配してくれているのか、小動物みたいに首を傾げてる。一つ一つの仕草がいちいちズルい。
あたしから見ても、可愛いってすぐにわかる。こんなの、あたしがやっても絶対可愛くできない。
たぶん、こういう些細な動作にグッと惹かれたんだろう……あのバカは。
「平気よ。ただお腹いっぱいなだけ」
のどかが手元を見た。ラップに包まれたおにぎりを頬張っている。
「サラダ丼?」
「そ。アンタ、食べる?」
「ごめん、お腹いっぱいだ」
僅か二個で腹を膨らませるのどか。少食な子は羨ましいわね。
「もっと食べた方がいいわ。食べなさすぎ」
「なっちゃんが食べすぎだと思う」
「うっさい! 食べないよりマシでしょ!?」
もう一度、箸を持ち直して口に運ぶ。でも、確かに、さっきミニラーメンを食べたせいってのもあるかも。今度からは控えるわ。
「……そうだね」
両手でラップを包みながら、のどかは無理に笑う。時々見せる、この寂しそうな表情がどうしようもなくあたしは苦手だった。
「なっちゃんはすごいね。いっぱい食べれるし、足速いし、勉強だってできる。期末テストの成績も良かったもんね」
「……」
クシャクシャとラップをボールにして、のどかが言う。テストの話は避けていたから、あちらから切り出したのは意外だった。
【一年生成績(男女総合)】
・学年5位 玉櫛 宗
・学年10位 海島 菜月
・学年17位 新垣 善一
〜 〜 〜 〜 〜
・学年89位 安穏 のどか
〜 〜 〜 〜 〜
・学年241位 井口 義雄
〜 〜 〜 〜 〜
・学年389位 源 蓮十郎(全400人中)
テストの成績は学年十位。自分でもびっくりするくらいの好成績だった。あたしに勉強を教えてくれた善一にも、勝てるとは思っていなかったし。
「なっちゃんはすごいよ」
「……どうも」
褒められても全然嬉しくなかった。皮肉を言われている気がして、なんだかとてもムシャクシャした。そうやって、のどかの言葉を素直に喜べない自分にも、苛立ってくる。
悔しくない。理由がないから。
だからこそ、とても悔しい。
矛盾した感情が、胸の奥のところでずっと渦巻いている。あたしはそれを奥歯を噛み締めて、潰す。悔しくない。悔しくない。理由がないから。あるハズがないから。
きっと、この怒りの原因あたし自身にあるんだと思う。じゃないと割に合わない。
「アンタも勉強頑張りなさいよ。……あたしも頑張るから」
「うんっ。一緒にがんばろ!」
愛らしく頷くのどかは、やっぱりすごく可愛かった。どうしようもなく可愛いから、きっとこの笑顔に魅力される人がいてもしょーがないと思う。
だから、あたしは抱え続ける。
このどうしようもない感情を。
これからも吐き出すことはない。
いつまでも、いつまでも、ずっと。
「ところで、アンタ、この前の勉強会──」
サラダ丼も最後の一口。食べる前に尋ねようとした。誰かさんがヘマをやらかしたあの日のことを。別に気になったワケじゃない。ただ、あたしのせいにされるのがイヤだったから話そうとしただけ。
でも、その言葉は最後まで発することは出来なかった。だって、のどかが急に席を立ったから。
「……っ」
「? どうしたのよ?」
ポケットに丸めたラップを入れて、のどかが下唇を噛んでいる。食堂の入り口らへんを見つめている。
目を向けると、見覚えのある姿がチラホラと映った。怒鳴るような声もする。
「ガッハッハ!! 完全復活とは言わねーけど、そこそこ調子は良い方だぜェーー!?」
少し肌寒い、六月のとある日。
雨はどこか寂しげに、降りやむ事を知らなかった。




