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僕は女子高生を自宅に連れ込む高校生。


 期末試験が迫る翌日。僕はとある人物に校舎裏へと呼び出されていた。


 校舎裏といえば喧嘩や告白、チョコの受け渡しなどが常習的に行われている違法地帯だ。僕も中学時代に何度か訪れたことがあるので、この場所に呼び出されるということがどれほどの意味を含んでいるのか、多少なりとも理解はしていた。


 しかしながら、今回そういったイベントが起きないことは重々承知の上である。緊張はしているが、それもまた別の意味。相手は会話をしたことのない見ず知らずの女子ではないのだから。


 重要な話があると呼び出してきたのは《海島 菜月》だ。陸上部のエースにしてクラスの副委員長、神速の星と呼ばれし彼女。


 アイツがいい話なんてするワケがないだろう。きっと酷く罵倒してくるに決まっている。天候がどんよりしているのだって、恐らくその前触れなんだ。



「……」



 不穏な気持ちを抱きつつ、フェンスに沿って、狭い通路を進んでいく。


 しばらく歩くと、コンクリートの建物に背中を預けている彼女を発見した。腕を組んで、女番長のようにそこへ佇んでいた。


 半袖のカッターシャツにミニスカソックス。スカートの隙間からはジャージのズボンが見え隠れしている。残念ながらもうセクスィーな下着は拝めないようだ。



「なんなんだ? こんな所に呼び出して。話なら教室でも出来るだろうに」


「なんなのって、それはこっちの台詞なんだけどっ」



 菜月が腕を組むのをやめて、スマホを取り出す。そのまま、僕が送ったLINEの履歴を突き付けてくる。



「コレよ! コレは一体どういうつもりっ!」


「どういうつもりって?」


「っ……わかるでしょ!?」


「全然わからないぞ」



 あっけらかんに答えるが、実際少しはわかっていた。菜月が以前『安穏の件には協力しない』と言っていたのに、僕が目的の為に利用するような真似をしたから、お怒りになられているのだろう。


 だから、直接的に誘わずにSNSを活用したのだが、こうなってはもう仕方がない。



「急に誘ったことに怒っているのか? それなら謝るよ……ごめん。時間がなくて。でも、どうしても菜月には来て欲しかったんだ」



 有りのままの本心を伝える。安穏の一番の理解者である菜月がいるだけで、彼女が来てくれる確率が一段と飛躍するのは事実だ。


 この子もそれに腹立っているからこそ、校舎裏に呼び出したに違いない。きっと乱暴するつもりなんだ……あのエロ同人のように!



 目を閉じる。頬に衝撃が走らないかを警戒していると、小さな声がした。



「……なんで、のどかじゃなくてあたしなのよ」


「え?」


「なんでもないっ!」



 聞き返した僕に背中を向けて、さっさと歩き出す。菜月が途中で立ち止まって振り返るまで、油断はしていなかった。



「勉強なんて自分一人でも出来るけど、あたしの教えが欲しいほどにアンタの頭が悪いのなら特別に行ってあげてもいいわ。住所だけ教えてね。ま、行かないかもだけどっ」


「お、おう……。了解した」



 なんとも曖昧模糊な返答ではあったが、どうやら上手く収まったらしい。何故怒られなかったのかはわからないが、協力してくれる以上、余計な事を語るべきではない。



「菜月ありがとう。本当に嬉しいよ」



 感謝の気持ちを伝えて心の中でガッツポーズ。さてと、これで二人は確定したな。よし、後はついでに柳葉も誘ってみるか!



 ※ ※ ※ ※ ※



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


《差出人:葵 渚》


 渚です。

 メッセージありがとうございますm(_ _)m


 お誘いすごく嬉しいです‼︎ (^-^)♪


 私も勉強したかったところです‼︎(*^^*)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 渚から昨日受け取ったLINEを確認する。この子は返事がとても早くて、送った数分後にはオッケーをくれた。流石である。


 丁寧な口調、質素な顔文字、どこか他人行儀な感じはするが、それも渚らしいっちゃ渚らしい。自分の名前が表示されているのにも関わらず、きちんと最初に名前を名乗っている辺りも、善一的にはポイントが高い。


 葵 渚、僕の幼馴染み。昔からよくウチで遊んだことがあった。来るのは久々である。



「ガッキー、はろー! ないすとゅーみとゅーとゅーとゅーゆー?」



 タイミングよく彼女が現れる。


 柳葉 明希、サッカー部のマネージャー。テンションが高めの、天真爛漫な元気っ娘。小柄な身体に不釣り合いな大きな声で、移動教室から戻る僕の背中を叩いてきた。首元のリボンは今日は栗色だ。可愛eeeeee



「グッドアフタヌーン、柳葉。なんかそれ変な英語になってるぞ」


「おぉー、そこに気付くとはさすガッキー! お主はアイアムレジェンドだなっー!?」


「そう、僕は伝説なんだ」



 よくわからないノリで会話を展開させる。柳葉とはいつもこうであった。


 他人からは理解できない言動かもしれないが、僕らの間柄なら別にそれでも良かった。波長を合わせ、ただこのテンションに身を預けておくだけでいい。Don't Think. Feel



「で、どうかしたのか?」



 コミュニケーションの基本は相手の話を聞くことから始まる。僕の話は後回しに。まずは彼女の要件を聞いてから。


 ひまわり娘がニヤリと笑う。一度、咳払いもしていた。



「ふふん、今日はねー。ガッキーにお知らせがあるのです」


「お知らせ?」


「せやでぇ……。もうすぐ待ち望んだ“全高選(ぜんこうせん)”があるじゃん? その為の緊急ミーティングを17時半に開くから、放課後部室に集まれってさ! 先輩からのご命令よっ!」



 語尾が統一されない謎のキャラ設定で、柳葉が予定を教えてくれる。



 “全高選”というのは《全国高校サッカー選手権大会》の略だ。全ての高校が熾烈な戦いを繰り広げる大会のことである。


 今の時期から夏の間にかけて予選を行い、九月の決勝トーナメント出場を目指す。決勝戦は全国ネットでも放送され、テレビデビューも果たせる事で有名だった。


 これまでは甲子園の影に隠れてあまり注目されてはいなかった。しかし、昨年とある田舎の公立高校が準優勝をしたことから、状況は一変。メディアがこぞって取り上げる程、今は話題になっている。



「早いな、もうそんな時期か」


「そうだよー。三年生の晴れ舞台だしね。絶対に負けられないぜよ〜」


「確かに。予選なんかじゃ負けられないな。夢の舞台が待っているんだ。行くしかないぞ! クリスマスボウルに!」


「うん、約束だよ? ちゃんとあたしを連れていってね……ウィンブルドンへ!!」



 ふんと両手を前でグッと握る彼女、僕も自分を鼓舞して頷く。お互いに目指す所は同じらしい。ハイタッチを交わして、硬く握手をする。やる気に満ち満ち溢れているぜ!



 オリエン合宿が終わってから、やけに調子が良かった。精神も肉体も、重りがなくなったかのように軽い。今なら卍解くらいなら容易に発動できそうだ。



 ……夏の大会か。サッカー部の次期エースと呼ばれるだけあって、レギュラーとして出場できる可能性は高い。



 運良く予選を通過して、決勝トーナメントの観覧席に安穏が観に来てくれていて、お付き合いに発展。そのまま電撃プロデビューというのもあるのかもしれないな……!



 静かな闘志と期待を胸に秘めて、拳を強く握りしめる。今はプライベートもそれ以外でも、他の誰にも負ける気がしなかった。



 ※ ※ ※ ※ ※



「で、柳葉。大事な話があるんだ」



 さて、ここからが本題だ。



「なになに? 告白でもしてくれるのー?」


「そうじゃない。ちょっとした頼みで」


「まさか……ヤクの輸入!?」


「そうそう。例のブツを体育倉庫まで運んできて……って違う!!」



 面白そうな設定だったので、ついノリツッコミをしてしまった。いかんいかん! 柳葉のペースに巻き込まれていたら、話が脱線してしまう。このままだと大事故が発生するぞ。


 きちんとしたレールに沿って、話題を進めるように心掛ける。要件は短く、簡潔にだ。



「明日、僕の家に来てくれないか? 柳葉。一緒にテスト勉強しようよ」



 ……ふむ、これで完璧だ。



 しっかりと話せているかをチェックする為に、彼女の表情を見る。リボンを付けた少女は英語の教科書を抱きしめながら、目を丸くしていた。



「ふぇ……? そ、そんな急に大胆なお誘いをされましても……!」



 真っ赤にした顔を教科書で隠しながら、チラチラと視線を浴びせてくる。違う、違う。そうじゃないぞ。



「あぁ、ちなみに言っておくが、菜月と渚と安穏もいるぞ。勉強会だからな」


「……なんじゃいそれ」



 彼女らしからぬ反応だったので、しばらく様子を伺うのも面白かったが、これ以上時間の浪費はしたくなかった。



 さっきまでニコニコとしていた柳葉から笑みが消える。酷い不快感を露わにしているようだった。



「あのね、女の子が勘違いしちゃうから、そういう誘い方は良くないと思いまーす。ガッキーのスケコマシ!」


「す、すてこまし……?」



 よく知らない言葉で罵倒された。なんだよ、ステテコマイって。


 そんな事を言われるとは思ってもいなかった。頭が混乱してくる。ゼンイチはわけもわからずじぶんをこうげきした!



「えっと……じゃあ、来てくれないのか?」



 首を傾げて、もう一度誘ってみる。柳葉 明希は考えたように鼻の下を指で触っていた。


 ポツポツポツと頭に電球のようなモノが点灯し、チーンと光る。手のひらをポンと鳴らして、彼女は決断する。





「うん。そりゃ、もちろん!」





 気さくな笑みが、浮かんでは消えた。






「行くっしょ?」



「……来るのか」



 び、ビックリした。断られるかと思っちゃったぞ。勘違いさせないでよねっ!

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