俺の親友はどうやらハーレム高校生らしい。
(side:玉櫛 宗)
産まれてこの方、十六年が過ぎた。
ここで一旦将来に向けて真剣に考えてみようと思う。人生の将来像ってヤツだ。
卒業して、大学に行って、就職して、適当な女と結婚して、定年退職して、くたばる。基本的に誰もが描くビジョンってのはこんなモンだろう。
だが、俺は違う。
そんな凡庸な人生なんて歩みたくはない。せっかく、この素晴らしい世界に祝福を! 受けたのだから、劇的な生活をしないと生きてる意味なんてねーだろ。
あまり人に話したことはないが、ここに記しておこう。俺の描く人生プランはこうだ。
①エルキュール・ポワロやシャーロック・ホームズのような【名探偵】になる。
②【BAR】で知り合ったセクシーダイナマイトお姉さんとワンナイトラブをキッカケに交際。数年後に婚約。
③ドイツに大豪邸を構えて、仕事終わりには【ブランデー】を嫁と嗜む。娘の誕生や株事業の成功など幸せたっぷり。
④【ギャング】から家族の身を守る為に立ち向かい、凶弾に倒れる。ゴットファーザーのドン・コルレオーネのように惜しまれつつ、この世を去る。
世の中の大半のヤツはこれを読んで、不可能だと口にするだろう。リスクを恐れて、普通で安定した生活とやらを送ることに躍起になる間抜けのクセにな。
だから、皮肉を込めてそういう連中をこう呼ぶことにした。
物語の主人公には絶対になれない“クソつまらねぇモブ野郎” だと。
俺はそんな【モブ野郎】には絶対ならん。
※ ※ ※ ※ ※
「『見るべき場所を見ないから、それで大切なモノをすべて見落とすのさ』」
本の一部分を朗読する。個人的に気に入った台詞だった。
本の大量に詰まった段ボールのガムテープを貼り直す。読書家じゃないとこの量はキツイだろ。ただでさえ、レンのアホは活字を読まねぇんだから。
「はい?」
ヨッシーの野郎が「こいつ何言ってんだ?」的な目で見てくる。うるせえよ。てめぇはシコって寝てろ。
「推理小説の一節だ。レクの景品」
「本ですか?」
「そうそう。イッチーの姉貴が推薦した【学生の内から読んでおくべき書籍リスト】の一冊」
「ふーん、そうですか」
聞いたから説明してやったのに、そこまで興味はなかったらしい。井口がPCを見つめている。画面には女児向けのアニメが映し出されていた。
これは日曜の朝にやってる《二人はマニキュア!》だ。今は続編の《四人でペディキュア!》ってのも放送していたっけ。まあなんにせよ、いい歳して見るモンじゃないわな。
俺が白い目で見ている事に気付いていないコイツは、楽しそうに画面の前でヘラヘラと笑っていやがった。幸せそうで何よりだな。
「……けっ」
舌打ちを鳴らす。自分が何故こんなに苛立っているのか、ある程度理解はしていた。それをわざわざ誰かに言うほど、己が人を信じていないことも。
手元にあったスマホを確認する。
アプリを起動させて、暇潰しがてらに眺めてみた。赤い丸に動きはない。
これはある特定の人物の動向を追えるGPS機能だ。そいつがどこにいようとも、居場所を特定できるスグレモノ。ヨッシーに開発を手伝って貰った俺の探偵グッズだ。
「あ?」
その時、ふと携帯に着信が入りアプリが強制終了させられる。見覚えのない数字が画面に羅列していた。……誰だ、こりゃ?
一応の警戒はしつつ通話ボタンを押す。すると、昂然たる一声がした。
「『もしもし、玉櫛くんか。私だ。突然だが、少し頼みがある。時間あるか?』」
相手はイッチーの姉貴、生徒会長の奈々美さんからだった。急過ぎるだろ。つーか、番号教えた覚えないんだけど。
「あ、ご無沙汰しています。時間っすか?」
部屋の時計は22時半を過ぎている。もう肝試しは開始されている時刻、こりゃ、なんかあったっぽいな。
「後から掛け直します」とだけ告げて、一旦電話を切った。事情はなんとなくわかる。レンが、イッチー絡みでトラブルでも起こしたんだろう。
「はぁ……めんどくさ」
不吉な予感ってのは大体当たる。まあ、将来は名探偵になって後世に名を残す男だから、推理力はあって当然なんだがな。
身支度を整えていると、井口がマウスで動画を止めてヘッドフォンを外した。そういやコイツ、独り部屋借りたとか言ってたけど、行かねえのかよ。
「ちょっくら外出てくるわ。鍵は開けといてくれ」
「あ、はい。それと、一ついいですか?」
「なによ」
「先ほど読んでいた小説は何という作品なんですか? 今更ながら気になってしまいまして」
急いでいるのに、そんなどうでもいいことを尋ねられるとムカついてくる。だから、適当に返答しておいた。
「さぁな。言ってもわからんだろ」
「……知っているかもしれないじゃないですか。せめて作家名だけでも教えて下さいよ」
スマホを片手に、玄関へと向かった。
苛立ちは募るばかり。
「アーサー・コナン・ドイル」
※ ※ ※ ※ ※
安穏とレンが行方不明らしい。それを探しに行って、渚とイッチーもいないとか。もうコレ森のバミューダトライアングルだろ。
イッチーにはGPSを仕掛けているので、位置情報は把握していた。ナナさん(勝手に命名)にはスクショしてメッセージに送り付けておいた。
「離して! 急になによっ!?」
「つべこべ言わずに来い」
ホテルのロビーに海島 菜月がいたので、引っ張って連れて行くことにした。どうせ暇なんだから、俺に付き合えってんだ。
ギャーギャー喚き散らすモンだから「安穏が行方不明」だと事情を話すと、すぐに大人しくなった。目の色が変わったように頷く。
「……なにやってんのよ、のどか。だからあんな男はダメだって言ったのに」
まあ、それは同感だな。
源 蓮十郎、アイツは俺が趣味でやっている《お助け部》の相談者だった。
『イケメンと周りに持て囃される一方で、本当の自分がわからない。オレも新垣みたいにモテたい』
それがヤツの悩みだった。ようわからん。
ただ突っぱねるワケにはいかないから、真摯に聞いてるフリをして、こう言ってやったんだ。感動的な助言さ。
『なら、自分を偽ればいい。少女漫画のヒーローみたく、格好良い男を演出するのがベストだ。そうでもしなきゃ、イッチーには勝てないぜ?』
扱いやすいバカほど、間抜けなモンはない。ま、ただの【モブ】の分際で、あの野郎に喧嘩を売る度胸は評価するがな。
ホテルの出入り口から、森へと侵入していく。ルートはスマホが模索中だ。遠回りして安全な道を確保しないと、帰れなくなっちまう。ここからはポケットWi-Fiの電波頼りだ。
俺が調べている姿を、隣の海島 菜月は興味深そうに眺めていた。ジャージに着替えて運動する気満々だ。つーか、コイツ胸デカいな。D以上か? 揉ませろ。
「……そんなので場所が分かるの?」
「まぁな。とりあえずコイツらと合流すんぞ。帰りの道だけ確保しながら、最短距離で攻める」
赤い点を目で追いながら答える。嘘は言ってない。ただ、居場所が分かるのはイッチーだけだ。陸上部なら「最短距離」なんて言葉に気を取られて、気にも止めてないと思うが。
海島は分かったような、分かっていないような表情で黙って付いて来ていた。このアマ、割とチョロい。押せばすぐに落とせそうだ。後、その乳触らせろ。
「怖くねーか。なっちゃん」
「なっちゃん言うなっ!」
「チビっても知らねーぞ? 泣きついてくるなら、俺の胸にドンと来いよ!」
「は? ふざけないで。いいから、黙って走りなさいよっ!」
適当に弄ってみると、思った以上にいい反応を見せた。Sっぽい感じを出しておいて、Mなのかよ。いいねぇ、そういうの嫌いじゃないわ。巨乳だし。
懐中電灯を片手に、ハイキングコースを登っていく。蛾が多くて鬱陶しい。でも海島の胸がユッサユッサしてたの見れたしいいや。挟んでくんねーかな。
「なっちゃんは肝試しに参加しなかったのな」
「だから、なっちゃんって呼ばないで!」
「え、もしかしてなっちゃん。誰にも誘われなかった感じ? 意外とモテねーの!?」
「……うっさい」
からかってみると、肩をブン殴られた。……ダメだ、コイツ可愛げがねぇ。バージンっぽいのは好みなんだがな。
隣のなっちゃんが必死に誰かに電話を掛けていた。相手は安穏だろう。電波ねぇぞ、この辺。
「優しいじゃん、なっちゃん。安穏のことそんなに好きじゃないと思っていたぜ」
「は? なんで?」
「なんとなく」
「意味不明っ」
汗を拭って、切り捨てられる。その反応から、俺の推理は確信へと変わった。
まあ「好いた、好かれた」だの他人の恋愛模様にそこまで興味はないが、人間関係がグチャグチャになっていくのは見ものだ。
ヘミングウェイを朗読しながら、モーツァルトを聴き、タランティーノ映画を眺める休日の昼間のように、ブランデーでも飲みながら、傍観してやろう。
『付き合うってどこに付き合うんだ?』
新垣 善一。俺の親友で幼馴染み。とんだクレイジー野郎。
ヤツが台風の目になって暴れてくれるのなら、俺は【モブ野郎】に徹しよう。一番近くでお前の動きを見張ってやる。
くだらねぇ色恋沙汰でも、てめぇならどうにか面白くしてくれるんだろ?
木々を避けて、山道を進んでいく。
頭上には月が登っていた。
あー、いたいた。鼻の下を伸ばしてらぁ。そんなどこにでもいるような【モブ女】に必死になりやがって。
ま、今後は苦労するとは思うがな。死ぬほど痛い目を見て、メンタルがぶっ壊れちまうかも。そうなったとしても俺には無関係だし、自業自得だがな。
懐中電灯の光でヤツらを照らす。イッチーはこちらに気付くなり、すぐにデカいリアクションを取っていた。
「なんだ!?」
その反応があまりにもブッ飛んでいて、思わず笑っちまいそうになる。
……そりゃ、こっちの台詞だっつーの。やっぱりお前って最高だわ。
俺は腹の底から叫ぶ。あのアホに向けて。
一人のモブ野郎として。茶番に付き合う。
「うるせぇよ! このヘタレ野郎ッ!!」




