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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【春編ーオリエン合宿(下)】
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善一と渚。

 


「随分と遅かったな」



 篝火(かがりび)が灯された祠には姉貴が立っていた。


 狐のお面を斜めに掛けた巫女装束姿。本格的なコスプレなのか白足袋に草履を履いて、髪飾りのように枝葉を頭に挿している。髪の毛も短く束ねていた。


 随分とピリついているように思えた。その殺伐とした雰囲気は、野生の熊と遜色ない。



「言いたいことは幾らかあるが、まぁいい。ちょっと来い」



 顎で指示されて、木祠の前まで来るように言われる。切妻(きりづま)屋根に観音開きの扉。扉上には縄もぶら下げられている。中には仏像などが納められているのだろう。



「この森には縁結びの神がいると言われていてな、恋愛成就や人間関係を良好にするパワースポットとして有名なんだ」


「縁結び……?」


「あぁ。ほら、祈れ。願いはなんでもいい」



 説教タイムが始まると思ったのだが、どうしてか神さまに祈りを捧げることとなった。


 パワースポットという割には質素に思えるけど……えっと、二礼二拍一礼だっけ?


 姉貴の方を見ると、既に目を瞑って両手を合わせている。錬金術でも発動させそうなポージング。まるで神への祈りじゃないか。



「肩の力を抜いて、心穏やかに。自分を悔いるな。何があったかは知らんが、良くないモノでも見たんだろう。厄を落として行け」



 穏やかにそう諭される。本当に見たのは蛾なんだけど、良くないモノと言われればそうかもしれない。姉貴に続いて僕も祈り始める。


 祈り終えると、姉貴はお守りを手渡してきた。



「今後は軽率な行動は控えるように。頼むぞ」



 肩をポンと叩かれて、先に進むように言われる。クールでビューティーな巫女さんはいつもより優しかった。




「諸君らの歩む道に──幸あらんことを」




 ※ ※ ※ ※ ※



 桜さんと姉貴が持ち場に戻ったので、渚と二人で再び歩き出す。祠の脇道を抜けると、小道付近に生徒会メンバーが待機していた。



「お疲れ様でした。お名前を教えて下さい」



 パイプ椅子に座って、名簿をチェックしている。ちゃんと戻って来たかの確認なのだろう。



「新垣 善一です」「あ、葵 渚です……」


「はい、確かに。では、こちらをどうぞ」



 名前を告げると、椅子の下からブルーシートを取り出して手渡された。え、まだ何かあるのか?



「時間の許す限り、どうぞごゆっくりお過ごし下さい」


「あ、ありがとうございます」



 首を傾げながら、お礼を言う。自由にくつろいで良いよーとの事らしい。


『どうぞ』と合図をされた手の方向に進む。途中で開けた場所が見えてきた。



「わぁ! す、すごいっ……!」


「おぉ、広いな」



 そこは一面が緑の絨毯に覆われた野原だった。馬でも走れそうな、日中にはピクニックでも出来そうな見通しの良い景色。ここが肝試しのゴール地点か。



 既に他の参加者たちはダラダラモードに入っているようで、ブルーシートに座って談笑を始めている。寝そべって、星を眺める者たちも。みんな、楽しそうだ。



 ……あぁ、そういうカラクリだったのか。



 思わず関心してしまう。これこそ真の《吊り橋効果作戦》というヤツなのだろう。


 まずは肝試しという外的要因で怖がらせる。不安や恐怖を感じさせると同時に、夜の森ならば女性は人目を気にせずに甘えられるし、男性も頼れる自分をアピールできる。


 次に祠だ。ここでは生徒会長の姉貴が待っていて、森には縁結びの神さまがいると説明される。例えそれがデマだったとしても、悪い気はしない。お守りなんて貰えれば、必然的に信じてしまうに違いない。


『幸あれ』なんてエールを送ったのも、僕を慰めているのではなくて、ただ参加者全員に同じ台詞を述べているだけ。叱る時間が勿体無かったのだろう。



 そして極め付けがコレ。



 《森の祠でお守りを取りに行く》という共通の目的を果たした二人に、安らぎの時間を提供する。仲良くなりたい人が隣にいて、こんな場所で良い雰囲気にならない筈がない。


 このようにして、生徒会はカップル誕生の手助けをしているワケだ。オリエン合宿の恋愛成就率が高いのも、肝試しイベントの影響だと考えれば頷ける。



「……なるほど」



 俯きながらため息をつく。またしてもあの人の凄さを身を持って体感してしまった。こんなイベントを積極的に企画しているんだから、そりゃ色んな人に慕われるよな。姉貴半端ないって! あの人半端ないって! そんなん出来ひんやん普通!



「こんな場所があったんだ。みんなお星さま観てるのかなぁ……?」


「みたいだな」



 隣の渚が袖を引っ張って、興奮を隠し切れずにいる。うんうん、わかるわかる。僕もお星さん大好きだ。スターダストクルセイダースと呼んでくれ。



「とりあえず、人のいない所へ行かない?」



 渚の手を取って、誰もいない場所を探して動き出す。



 さあ、天体観測の始まりだ。



 ※ ※ ※ ※ ※



「さっき宗くんにね、お本を貸してもらったよ。レクリエーションの優勝賞品って言ってたかなぁ……? たくさんあって、読み切れないって困ってた!」


「へぇ、本か。何を借りたんだ?」



 ざわ……ざわ……と雑談するカップルの横を通り過ぎる。彼らはあそこの星は何座だとか、あれがデネブ、アルタイル、ベガだとか、そんな話をしていた。


 今夜は絶好のお星様感謝デーだ。こんな日に一度、天体観測をしてみたかったものである。



「えっとね、主に伝記小説かなぁ。あとは、哲学書に経済学書。面白そうだったから、不思議植物図鑑ってのも借りちゃった! それからね、天文学に……」



 にへっ、と柔らかな笑みを見せてくれる。



 好きな物の話をするとき、人はお喋りになるという。それはきっと自分の好意を誰かに伝えたい、という気持ちと同じなのかも知れない。


 渚は小学生の頃から、外で遊ぶ事よりも家の中で読書をするのが好きな文学女子だった。人見知りで内気という自身の性格もあってか、誰かと交流するよりも、自分一人で過ごすことの方が楽だったのだろう。


 休み時間には、サイズの合わない黒縁眼鏡を掛けて、分厚い本を読んでいたのを覚えている。



「むぅ……」


「ん? どうした? そんな顔をして」


「善一くんがっ、ちゃんとお話を聞いてくれていない……!!」


「ええっ!?」



 渚がしかめっ面で、ハムスターみたくほっぺを膨らませている。とっとこ拗ね太郎である。


 自ら話題を振った癖に、話を膨らませるのではなく、ほっぺを膨らませてしまった。これはいけない。なあ、拗ね太郎!!!!!!お前もそう思うだろ!!?!! そうなのだ!!!! 上の空で聞いていなかったので、きちんと反省すべきなのだ!!!!!!



「わ、悪い」


「もうっ……!」



 痺れを切らしたのか、手を離された。立ち止まって、上目遣いでジッと眺めてくる。口を尖らせて。



「……」「……」



 謎の沈黙が続く。このまま睨めっこでも始めようかと思い出した時、彼女は自分の腕を強く握りしめた。いつものとは微妙に違っていた。



「善一くんは……わたしのこと、嫌い?」



 とても、か細い声で質問される。心の中に溜まっていた空気を吐き出したようだった。



「嫌いじゃない。そんなわけないだろ」


「……だったら、好き?」



 条件反射で否定できたものの、次なる質問をぶつけられる。まるで『嫌いではない』というのを想定していたように。



「どうして、そんな事を聞くんだ?」



 理由を知りたかったのではない。これは逃げの一手だ。どう答えればいいのかを、決めかねているだけ。


 正直に「好き」だと言えばいいのに。何を戸惑っているのか、己は。



 目の前の幼なじみ、葵 渚は一度だけ空を仰いだ。瞳に億千万の星が映る。


 だが、それも一瞬の出来事。


 腕から手を離して、すぐに向き直る。




「だって、わたしはっ……!」




 唇が、僅かに震えた。




「あの約束を……まだ覚えているから」





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