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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【春編ーオリエン合宿(下)】
50/279

僕は断りきれないハーレム高校生。

 ※※


 渚がはじめての“お願い”を発動させたのは九年前、小学二年生の時だ。


 あの頃は幼馴染み三人で行動する事がとても多くて、学校が休みの日にも度々顔を合わせていた。もう飽きるほどに。


 親同士の仲が良かったこともあって、夏場にはキャンプやプールに訪れた事もある。宿題なんて二の次で、頭の中はどう遊んでやろうかとそればかりを考える毎日だった。


 特によく遊んだ場所は学校の裏山にある秘密基地だ。秘密基地と言っても、誰も使わなくなった小屋をそう勝手に呼んでいるだけなのだけど、それでもそこは僕らにとっては秘密の場所であった。


 ここでよくやる遊びがある。



『ただいまーかえったよー』


『おかえりー』



 昆虫採集から帰ってきた宗を迎え入れる。宗は言わば一家の大黒柱、お父さん。僕と渚は養子で引き取られた兄妹役だ。基本的に基地で絵本を読んでる渚と、ゲームをしてる僕。外で何かしら暴れている宗と、三者三様自由に動いている。



 これぞ《リアル家族ごっこ》だ。名前の通り家族のようなかりそめの生活を送るフリをする。現代の仮面夫婦みたいなものだ。


 僕ら幼馴染み三人の絆はここから形成されていた。友人関係を超えたホントの家族のような存在だった。



『きょうはたいりょうだった。りょうりしてくう?』


『む、むしはたべたくないよぉ……!』


『でも、いがいとうまいかもだぜ? ほれ』


『ひ、ひぃっ……!』



 コガネムシを持ち上げてヘラヘラと笑う宗。昆虫が苦手な渚は涙目になって、僕の腕に抱きついてくる。そんな二人の様子を見ながら、僕は一人今日の晩ご飯はなんだろうと考えていた。



『なぎちゃんはこわがりだなぁ……。このくらいのりょうりもできないと、しょうらいお嫁さんになれないぞ?』


『ママはなれるっていってたもんっ……!』


『なぎちゃんのママも、むしりょうりできるから。だからお嫁さんになれたんだよ』


『えー、そうなのっ……?』



 悪ノリをして相手を困らせるのが好きな宗は、今でも何も変わっていない。何故かゲームをしていた僕に尋ねてくる渚も『蒸し料理食べたいな』と思ってしまった自分も、当時から何も変わっていない。



『でもしんぱいしなくてもいいぜ。おれと結婚するなら、なにももんだいない』



 宗はよくこうやって渚をからかっていた。本人曰く、反応が面白かったからだという。



『しゅうくんはやだ! わたしはぜんいちくんがすきだもんっ……!』


『うわーふられたー。いっちー、なぎちゃんが好きなんだって』



 話を振られて、僕も何気なく答える。




『呼んだ? そうだな、僕はハンバーグかな』




 本当に晩ご飯のことばかりを考えていた。




『いっちー、ちがう! たべものの話はしてないから!』


『後はオムライスも好きだ』


『ちがうって! めしからはなれろ!』



 当時[お嫁さん]とか[政略結婚]とか[トツギーノ]だとかの言葉は知っていたが、意味までは理解してはいなかった。だから、あんな約束を気軽にしてしまったのだろう。



『ぜ、ぜんいちくん。”おねがい”がありますっ……!』



 腕に抱きついていた渚が離れて、立ち上がる。急に何を思い立ったのか、自分の両手をギュッと握りしめていた。




『わ、わたしはっ……ぜんいちくんのおよめさんになりたい! いつか結婚してね……?』




 彼女のお願いとは、僕との婚約だった。



 ※※


 渚からの頼みごとを今まで断った試しがない。なんでもかんでも引き受けてしまう。結婚の約束なんて、重要な事柄でさえも。


 だから僕は彼女が覚えていない事を願うばかりだ。あんなの若気の至り、過去の産物なのだと。約束を守る保証なんてできない。



『いいよ』


『ほんとっ……? やくそくだよ?』


『うん。僕は()()()()()()()



 ……一昔前から何も変わっていない。無責任な言葉を並び立てるのが、どうしてこうも上達してしまったのか。



 逃れたいだけなのだろう。安穏を譲ってしまった情けない自分でも、彼女はきっと受け入れてくれるだろうから。単に甘えたかっただけだ。


 だから、差し伸べられた手を掴んだ。大切な幼馴染みのお願いは聞かなければならない、という大義名分に則って。頼みごとを聞き入れた。



「ペアか。……わかった。よろしくな、渚」



 その言葉にどれだけ深い意味があろうとも。今も昔も、考えようとすらしていない。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 肝試しが実際に夜の森で行われると聞いて、自室で色々と準備を整えた。虫除けスプレーを鞄に詰めて、大きめのパーカーを羽織る。虫よけ対策と冷え予防である。ついでに柳葉に借りていたタオルも持って、再度ホテルのロビーまで戻った。



 時間も遅いからか、参加者は意外と少なかった。


 数名のカップルに囲まれながら、渚の到着を待つ。先着順にスタートするので、僕らの順番は最後の方だ。


 受付の説明によると《森の奥の祠》でお守りを貰って帰ってくればいい、とのこと。青少年の条例に基づいて、一応の時間制限も定められているらしい。そこまでの長丁場にはならないみたいだな。【最恐戦慄迷館】を経験した後だと、余裕すらも感じてくる。



 ……まぁ、アレは安穏がいてくれたお陰というのもあるけど。



 いつでも俊敏に動けるようにと準備体操をしていると、隣にレンが立っていた。安穏のことを待っているのか、腕を組んで携帯を触っている。



「……」「……」



 横顔もやっぱり男前だった。僕でさえそう思ったのだから、彼女もきっと同じことを思うだろう。


 あの話を聞いた後だとどうしても印象が変わってくる。一見女慣れしたような行動も、相手に好かれる為にわざとやっているとしたら、本来の彼は一体どこに在るのだろうか。



「……」


「……」



 近くにいたら集中力が途切れるな。こっちは股関節屈伸運動をしているってのに……。



 もぞもぞと動き始めたので、僕も体操をやめて時計を見る。途端に声をかけられた。



「……善ちゃん、ありがとうな」



「え?」


「のどかちゃんとの事を応援してくれて」



 その言葉は嘘か真か。思わず聞き返した僕にお礼を言って、レンは胸ポケットに携帯を入れる。


 エレベーター前に安穏が立っていた。今到着したようで、キョロキョロと誰かを探している。その相手が誰なのか言うまでもない。




「それじゃ───貰っていくから」




 歩き出す直前、耳元で皮肉を囁かれる。

 悔しいが何も言い返せない。



 急ぎ足で向かって。

 強引に安穏の手を握る。




 僕はそこで、見るのをやめた。




 ×××


 風を浴びたくなって外に出た。

 独りになりたくて、建物の陰に座り込む。


 オリエン合宿ではカップルの成就率が38.5%と比較的高い数値が出ていると聞く。実際、その通りなのかもしれない。


 きっと、今日という日をきっかけに、二人は付き合うことになるのだろう。


 レンの告白に安穏がオッケーしてめでたしめでたしのゴールイン。

 晴れて美男美女カップルの誕生だ。


 卒業して何年も過ぎた後に、あの手を繋ぐ二人の間には子供が出来ちゃったりして。SNSのアイコンが変わったことでようやく気が付くのさ。



 あぁ……もう遅いんだなぁって。



 同窓会で久々に再会した時には「今がとっても幸せ」って安穏は笑うんだよ。薬指に指輪をはめながら。


 結婚式には呼ばれるだろうか。

 呼ばれたのなら僕は、心からのエールを二人に送れるのだろうか。


 いや、きっと……その時も同じように。



 ───後悔しているんだと、思う。




 風が吹いた。ひどく荒れるような風が。


 上空の星空はあんなにも輝いているのに、どれも全然綺麗と思えなかった。手を伸ばしても決して届かない真上にある。あれは一体何万年前の光なんだろう。


 結局の所、僕は星に向かって「綺麗だ」と言っていただけなのだ。女なんて星の数ほどいるって? 星に手は届かない。



「……僕はなにを浮かれていたんだ」



 一緒に観覧車に乗ったくらいで、付き合えるなんて夢を見たのか? 本当に単純バカだな。馬鹿も休み休み言え。


 当たって砕ける勇気もない愚か者。

 挙句の果てには嘘をついて、アイツに嫉妬なんかして……最低だ。


 考えれば考えるだけ、己に苛立ってくる。


 後悔なんてしないと思っても、心に嘘はつけなかった。


 視界がボヤけてきて、涙が出そうになる。



 だからそこで、目を閉じた。




 「ぜ、善一くんっ……?」





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