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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【春編ーオリエン合宿(下)】
46/279

僕は傷つきやすいハーレム高校生。


「……僕の敗けだ」


 ぜんいちは、めのまえがまっくらになった!


 出せる手がない。残っているのは♠の5だったりと、使えないカードばかりだった。これで七連敗目。

 大富豪ってローカルルールが多すぎて混乱するんだよな。



「はい、罰ゲーム~。残っているゲテモノ兵器の処理を頼むな」



 大富豪の宗がフィールド上のトランプを回収し始める。大体、前々から思っていたのだが、強いカードを貧民から盗って独占するのは卑怯ではなかろうか。そりゃ革命も起こるぞ。


 ともあれ文句をつらつらと並べ立てたところで、負けたことには変わりはない。仕方なく”千味(せんみ)ビーンズ”に手を伸ばす。

 

 このビーンズはUSJの【コーンポッター】で購入できるお菓子の一つである。中には想像も付かないようなクソ不味いグミまで混入していることから、僕らはゲテモノ兵器とそう呼んでいた。



 ちなみにさっき「ウノ」を言い忘れて負けたとき、罰ゲームとして引き当てたのは《顔ダニ味》と《膿栓(のうせん)味》だった。これでも充分キツい。


 なのに追加で《カメムシ味》まで食べさせられた時は、流石に開発者を恨んだぞ。何故これを作るに至ったか、その経緯を小一時間問い詰めたくなったぐらいに。ホントに吐きそうになったし……。



 袋に入っていた最後の一粒を取り出す。レーズンのような黒模様がある白ビーンズ。それを無理くり口に押し込んで、奥歯で噛む。


 酸っぱいような、苦いような、よく分からないマズさが浸透してきて、思わず喉の底が唸った。ぐぇえ……なんだこの味。


 急いで説明書を開いて、名前をチェックする。



「粘着カビ味……。うわ、最悪だ」



 用意していた水筒を開いて、中に入っていたスポーツドリンクを一気に流し込む。口内を洗浄しながら粒を飲み込むと、ようやく苦みは消え失せた。


 こんなに頑張って食べたのに、友人たちは見てくれてもいなかったけれど。


 ×××


 レクリエーションを終えて、僕らが部屋に戻ってきたのは21時を過ぎる頃だった。


 これからお楽しみの入浴タイムが待っているのだが、女子風呂が混雑しているとかなんとかで、男子は21時半以降に入らなければいけなくなった。だからこうやって、楽しく遊んでいたのである。



「混浴すれば早い話じゃないですか。全く、これだから日本の女性は! バスタオルをはだけさせて『オーイェイ』と踊りだす海外の方々を見習ってほしいですよ」


「マジでそれな。手厚く迎えてやるってのに、何がそんなに嫌なのかねぇ……」



 君らみたいなHENTAIがいるからだ。



「でも、そのお陰で僕らの入浴時間にも余裕が出来たんじゃないか。就寝前ならいつでも入浴可能なんて、かなり良心的だぞ。肝試しだって22時過ぎと少しズレるらしいし」


「単なる覗き対策のような気もするがな。後はレクに尺を取られ過ぎたとか」



 レクリエーション。そういえばあの後、女子は百人一首をやったんだっけ。決勝まで見れてなかったな。



「ていうかよ、男同士で入浴してなにをするってんだ。身体の触りっこか? けっ、バカバカしい」


「……浴槽に浸かるだけでいいだろ」



 考え方が変質者の傾向にある宗。変態行為で捕まって、監獄送りにならないことだけを願おう。え、マイケル・スコフィールドするって!? 出来らぁっ!



「それにしてもあのクソナル野郎は帰って来ませんね。どこをほっつき歩いてるんでしょうか」



 井口君が畳の床に持参したPCを置いて、カタカタとキーボードを叩いた。さっきからずっとレンの悪口ばかり言ってる。まだ根に持っているらしい。どれだけ嫌われているんだ。幼稚園児のピーマンかよ。


 帰って来たらガツンと言うらしいが、肝心な彼の姿は未だに見えなかった。



 僕の予想だと今頃は多分……。



「あぁ、アイツならきっと女子部屋に行ってると思うぜ。例のあの子を迎えにいく! とか粋がっていたし」


「ふーん、そうですか。どうでもいいですね。そのままバレて停学処分になればいいんですよ。お相手の、ええっと……安穏さんでしたっけ? あんなのに付け狙われる彼女が可哀想です。ま、お互い様だとも思いますが」



 ヨッシーが唐突に安穏の名前を出す。棘のある言葉に反論しようと思ったが、喉の奥に詰まって口から出てきやしなかった。お互い様、なのだろうか。


 ※※※



『のどかちゃん。オレとペアになってよ』



 あの時、公の場でも臆することなく、レンはその名を呼んだ。


 途端に辺り一面から歓声が上がる。こんなに多くの人がいる前で、胸を張って堂々と彼は誘ったのだ。一緒に肝試しに行きたいと。



『おお、男らしいな。そういうのは嫌いではない』



 姉貴の声が響く中、視線は一斉に安穏というクラスメイトに向けられる。柳葉辺りに背中を押されたのか、観客席から一歩前へと歩み出てくる。


『……』


 彼女は僕がこれまで見たことのなかったような顔をして突っ立っていた。困惑、焦り、嫌悪、拒否、怒り、辱しめ、複雑な気持ちの入り混じった表情を目の当たりにしていると、胸が痛くなってくる。



『あぁ、君か。確か、善一と同じ班の子だったよな?』



 名前をそこで出しては欲しくなかった。


 もし僕にあと少しの勇気と行動力があったのなら、すぐにでも飛び出してこの状況を邪魔していただろう。


 事情を知っているのだから「待て! 彼女は嫌がっているだろう! ええい、きたまえ! 君は僕と一緒に行くのがセオリーだ!」なんてステージ上に颯爽と現れて、あの子を連れ去って行ったに違いない。



 だが、それはIFの話である。現実はこうはならない。



『部外者が人の恋路に、手ェ──出すな』



 アイツに言われたことを僕はきっと気にしていた。だから、大人しく引っ込んだんだ。友達でもない、恋人でもない、単なる知り合いがしゃしゃり出てくるのは違うだろうと、目を逸らして。



 ……そこからのことはあまり思い出したくない。



 あぁ、分かっている。OKを出したからって、好意的な感情なんて持ち合わせてはいないんだろうなって。


 ただそれでも僕はハッキリと拒絶して欲しかった。「No」と言う姿を目に焼き付けたかった。でなければきっと、諦めがつかなくなると思うから。




『早く返事をしてやれよー!』

『急なことだし、困るのはムリもないよ』

『ここで断られるのは流石に可哀想』

『公開処刑っぽいよね』

『でも、しょうがなくない?』

『ラブコメの波動を感じる……』

『どっちに転んでも面白そう!』




 囃し立てる声に僕は耳を塞いだ。この現場で断るのは難しいのは理解している。それでも……それでも、首を縦になんか振って欲しくなかった。



『……はい』



 こんなの全部、自分の一方的な願望にしか過ぎないけれど。



 ※※※


 思い返してみると、やるせのない気持ちが戻ってきてしまう。本来ならば、仲間の恋路を応援すべきなのにな……。



「心配そうだな、イッチー。そんなにあの二人が肝試しに行くのが不安か? フゥーハハハ!」



 わざとらしくマッドサイエンティストのような笑い方をして、寝転んでいた宗が僕をおちょくってきた。人の不幸は蜜の味、を座右の銘にしているコイツからすれば、今は楽しくて仕方ないんだろうな。



「軽率な発言は控えてくれ。こっちがどんな気持ちかを知りもしないで」


「人の気持ちとやらを考えたら立派になれんのか? 少なくとも俺には、レンが人の気持ちを考えて発言してるとは思わねーが」


「うるさい。この揚げ足取り」


「黙れヘタレが。傷心ぶるなよ小心者。そんなに気になるなら、今すぐにでも邪魔してこいよ!? その気概があれば、だけどな!」



 ……会話にならない。



 気遣いのない発言に苛立ちを覚えて、僕はその場を立つ。フラストレーションが溜まってきていた。この部屋にいても、何の生産性もない。外に出よう。



「おっ、いくのか? なら、カギだけ持っといてくれ。俺ら後で風呂行くと思うから、レンのアホを見つけたら渡しといてくれりゃいい」


「……」


「無視か、オイ」



 鞄から替えの下着などを取り出して袋に詰める。お風呂にいつでも行ける準備だけして、掛け軸近くに置いてあった鍵を手に持つ。もう一本は既に宗が持っているのか、見当たらなかった。こういう所は真面目だな。

 


 袋を片手に部屋の襖を開く。黙って立ち去る。別にレンを探しに行くわけじゃない。ただホテルの探索をするだけだ。



 襖を閉じる直前に、枕が飛んでくる。急いで閉めたので当たりはしなかったが、激突音と共にすぐに怒声が聞こえてきた。



「拗ねてんじゃねーよボケが!」



 ……なんでお前がカリカリしてるんだよ。芋けんぴかっての。



 親友の態度に呆れつつ、スリッパを履いて部屋を出る。外の廊下は薄っすらと明るい電球と、部屋が続いているだけの質素な空間で、どこか本物の監獄のように思ってしまった。

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