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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【春編ーオリエン合宿(下)】
45/279

ハーレム主人公と陽気な野郎たち③



 絶対に負けられない闘いがそこにはある。



 例えば貴方は恋敵が現れたとき、どのように対応するだろうか。


 椅子に画鋲を置いて肉体的苦痛を与える?


 靴箱に「調子に乗るな」と書いた紙を貼って、精神的に痛めつける?


 それとも男なら拳で語り合おうと言わんばかりに、正々堂々とタイマンで決着をつける?


 いや、そのどれもが現代的ではない。


 同じ人を好きになったとて、嫌がらせや暴力行為、口喧嘩をする必要など全くないのだ。そんなもの卑怯者のやり口である。


 きちんとしたルールの上で相手を完膚なきまでに叩きのめして、好きな人の前で良いところを見せつける。その方が効率的だし、スマートだ。



 よし、決めた。この闘いが終われば、彼女と結婚しよう……!



 と、まぁこのように敗北フラグをビンビンに立てていると、高らかに笛が鳴った。試合開始らしい。



[投球者:新垣 善一]

・先行チーム一球目、現在0−0。



 手首をスナップさせて準備運動をする。足元に引かれた白い白線から、投げるのがルールだ。小刻みに足でリズムを取る。サッカーボールよりかは小さくて柔らかい。



 レンというバスケ部のエース相手には分が悪いと思われるかもしれない。が、これでも一応は中学時代キーパーなど経験も多少はある。肩が出来ていないわけではない。



 ゴール前にはレンと宗。手を広げてまだかまだかと立ち塞がっていた。運動神経抜群の彼らの防壁を破って得点を入れることは難しいだろう。予選での試合結果を見る限り、圧倒的な火力を秘めたチームだ。



 なら、方法としては二つ考えうる。一つ目に相手が怖気付くほどの速球を投げること。二つ目に相手の予想だにしていないスペースに投球することだ。どちらにせよ彼らの予測を超えなくてならない。



 右手でボールを掴んで、左半身をゴールに向ける。速球を投げるコツとしては、肩甲骨を大きく動かすことが重要だ。


 骨の面に沿って、腕を回し、身体の軸がブレないように全身を使って投げること。


 肝心なのは投げた後に肘を伸ばすことだ。


 なお、これらの知識は独学ではなく、野球好きの父がキャッチボールをした時に教えてくれたものである。



「寝てるのか、善一。早く投げろ」



 指揮をしていた姉貴が促してくるものの、相手にはしない。自分のペースを掻き乱されてはダメだ。焦って、簡単にキャッチされるところに放り投げては元も子のないのだから。


 深呼吸して息を整える。



 ……よし、行こう。投げる方向は決まった。



 コントロールに自信はないが、構えて全力で投球する。場所はレンの足元辺り。二人の間に空いたスペース。


 トン、スー、ポンと効果音がしそうな三テンポを駆使して腕を振り上げる。そのまま真っ直ぐにボールを投げた。


 スピードは出なかったが、妙な回転がかかったのかジャイロボール気味となる。結果としては大成功なのだが……。



「無駄ァ!無駄ァ!無駄ァッ!!!」



 けたたましい咆哮と共に、それは弾かれた。勢いよく投げたボールは、レンの長く大きな手により速度を殺されて掴まれる。


 ベストを尽くしたとしても、やはりここまで快進撃を見せてきたチームだけある。他とは明らかに“格”が違っていた。



 ちなみに続く井口くんはてんでダメで、得点には至らなかった。くぅー! 悔しぃ〜!



[投球者:源 蓮十郎]

・後攻チーム二投目。未だ0−0。



 大本命が登場する。前座の宗は加減でもしていたのか、ヨッシー相手でも獲れるボールを投げていた。


 本人は「やべ、ミスった」とか言って舌を出してたけど、たぶんワザとだと僕は思う。きっと、この展開にしたかっただけなんだろな。


 アイツの掌の上で踊らされている感じは気に食わないが、ここまでお膳立てしてくれたのは宗のお陰と言ってもいい。正攻法で勝負ができる良い機会だ。



「レンくん頑張ってー!」「一発KOしちゃえ!」「いっちょ良いとこ見せちゃってー!」



 僕らの投球と違って、彼の囲いが黄色い声援を送っていた。安穏の方をチラリと見るが、彼女は特に反応せず成り行きを眺めているようだった。つまり、僕に勝ってほしいようだな!!(お花畑)



「……ギャーギャーギャーギャーうるせぇな。発情期かよ、バカヤロー」



 一方のレンもようやく本性を見せた。頭を乱暴に掻きながら、隠していた牙を剥き出しにする。期待に応じなくちゃならないな、と言わんばかりにオレ様状態に変貌を遂げる。



 待っていた。僕はこのときのアイツと戦いたかったんだ……!



 白線の外側に立つレン。さっきまでのおふざけモードとは違う。本気のようだ。


 対する僕も大きく手を広げて迎え撃つ。隣の井口くんは縮こまっているが、これも作戦の一つ。アイツが勝ちに来るなら、絶対に僕とは逆の方に投げてくるハズなのだ。


 ワザとヨッシーにはビビっている演技をして貰って、そちらに投げるように仕向ける。方向さえ分かっていれば後はタイミングの問題。どんなに強烈な速度でも、二人なら怖くない!!



 が、僕の考えとは裏腹にレンはボールをくるくると指で回す。こんな事まで問いかけてきた。



「なぁ、善ちゃん。一騎打ちにしねー?」


「え?」


「ソイツ足手まといだろ。1on1のが気持ち的にラクじゃね」



 乱暴な言葉を並べ立てて、隣の井口くんを嘲笑するレン。コイツは本当に何を言ってるのだろうか。



「楽じゃない。むしろ、井口くんが居てくれるから、気持ち的に助かってる部分もある」


「ふーん、友達想いなのな。あ。なら、ついでに一つ言っておきたい事があるんだけど」



 会話途中にも関わらず、レンは構える。大きく振りかぶった。物凄い気迫に一瞬大気が震えたようにも思える。表情が業魔の悪神と化す。



「友達だかなんだか知らんが、アイツはオレの女にすると決めたんだ。いいか、邪魔立てするなら覚悟しろ」



 口と同時に腕を動かす。あまりの速さに手を離す瞬間が見えなかった。いつのまにか高速の弾丸が勢いよく放たれている。速い……!これぞバスケ部エースの真骨頂か。




「部外者が人の恋路に、手ェ───出すな」




 予想を反して、僕の真っ正面へと飛んできた速球。反射的に手を出すが、ストレートの回転がかかっていたのか、直前で伸びてきている。抵抗も虚しく、指を弾いた。そのまま弾丸は背後のコートへと突き刺さる。直後、笛の音が響いた。



 ゴォオオオオオルゥゥウウウウ!! ピィィイイイイィイイイイ!!!



「試合終了です。優勝はAブロックの『う』チーム。おめでとうございます。これより、メダルと優勝商品授与式。ヒーローインタビューを行います」



 淡々と桜先輩が試合結果を報告する。ゲームセット。完敗だった。惜しくもなんともない。完膚なきまでに、叩き潰されたのは……僕らの方だった。




「よっしゃあぁあああああ!!! ガオーーー!! まぁ、オレだし? 当然だよな!! 当然の結果だよなぁーー!?」




 敗者はステージを降りるのが宿命。壇上ではガッツポーズをしながら、勝利の美酒に酔っているレンがいる。拍手が送られているが、僕はどうしても彼らの勝利に喜べる気分にはなれなかった。



 観客席の皆の顔すらまともに見ることが出来ない。チクショウ……! なんだ。あの隠し玉。あんなの取れるかよ。



 ともあれ、正々堂々と見せかけて、僕は卑怯な手で勝とうとしていたのだ。正攻法でやり合えないから逃げただけに過ぎない。手の痛みと震えが、敗北という二文字をハッキリと思い知らせていた。



「ふむ、優勝おめでとう。あの愚弟に勝つとは大したもんだ」



 時間がないのか、ステージ上ではすぐにヒーローインタビュー的な優勝者ミニセレモニーが開かれていた。姉貴がレンと宗の首にメダルをかけている。準優勝にはなにもないのか。



 レンにコケにされた井口くんはトイレでも行ったのか見当たらない。僕も一人観客席から離れて、近くにあった水を飲む。



 ……投げる直前に言われた言葉を思い出す。アイツはハッキリと言った。『邪魔をするな』『部外者のお前が手を出すな』と。やはり、先ほどの行動に内心苛立っていたのだろう。



 だが、彼は一つ勘違いしている。何故なら、僕と安穏は友達と言えるのかも曖昧な関係なのだ。


 前に一度友達申請したのに、その答えも拒否されている。つまり、僕とあの子は単なる知り合いでしかない。



「おぉ、こっちは玉櫛くんか。久しぶりだな。君もハゲダニ高校に入学していたのか」


「えぇ、そうっす。奈々美さんもまた一段とお美しくなりましたね〜」


「ふむ、当然だ」



 優勝インタビューは未だに続いていた。今は宗と姉貴が、数年ぶりの再会を果たしている。いや、いいから。早く終わらせてくれよ。そろそろお風呂入りたいんだ。



「受け取れ。これが私からのギフトだ。中は部屋に帰ってから開けるがいい」



 姉貴が後ろからなにやらダンボールを持ってきて、それを宗に手渡していた。一体なにが入っているのだろう。検討もつかない。



 二人に再び拍手喝采が送られる。輝かしいステージの上で、レンが誰よりも光っていた。華がある、とでも言うのか。人気者というのは、やっぱり生まれ持った才能なんだなと改めて気付く。



 僕は所詮、敗北者だ。姉貴の七光りに当てられた単なる小市民でしかない。



「よし、せっかくの機会だ。なにか最後に伝えたいことはあるか?」



 生徒会長は二人が気に入ったのか、マイクを向けた。と、その時だった。レンがその手に握られたマイクを乱暴に奪って、声を荒げたのは。



「なら、お言葉に甘えて。えーっと、一年B組の安穏 のどかちゃん」



 ヤツは呼びかける。全員が集うこの場を借りて。一番呼びかけて欲しくない彼女の名前を堂々と宣言する。それは僕にとって、耳を塞ぎたくなるような一言だった。



 聞きたくない。聞きたくはなかった。





「優勝したから、肝試しのペアになってよ」





 そこで、ようやく悟る。




 僕は……レンには敵わないと。




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