ハーレム主人公と陽気な野郎たち②
「では男子諸君。早速だが《好きな二人組》に分かれてくれ。今回のレクリエーションゲームは個人のペアで行うからな。あぁそれと、女性陣は後ほど別のゲームを開催予定なので、待機を願おうか」
姉貴が壇上から呼びかけながら手を鳴らした。
ステージ上では何やら準備を行っていた。どこから雇ったのか屈強な青Tシャツの男たちを上手く利用して、コートを作っている。
「『二人組に別れろ』という言葉が、私は一番嫌いなんですよね……。ぼっちにとっては拷問でしかないじゃないですか」
「体育の授業じゃあるめぇし、しれーっと抜け出しても問題ないんじゃねーの」
「これって強制参加なのか?」
井口くんはこの手の競技は苦手のようで、うへぇと唇を歪ませていた。それについて宗もサボる前提で話を進めている。二人とも、やる気が微塵も感じられない。
僕も正直乗り気ではなかった、のだが。
「おっ? なんか面白そうだな! 善ちゃんか玉ちゃん! どっちかオレと組まねェーー?」
……ここに来て、喰いついてきたのがあの男であった。ジュースを両手で運びながら、ジャストタイミングで戻ってくる。その顔に悪意は見当たらない。
が、あからさまにヨッシーの名前を呼ばずにハブっている辺り、そういうことを無意識にやるヤツだと分かってしまう。
文化系の井口くんを、運動神経が悪そうだからと判断して切り捨てたのだろう。相手を下の立場だと見くびる。同じ班メンバーだってのにさ。
スクールカーストとでも言うのか。アメフト部のキャプテンとチア部のリーダーが付き合うのが定石、みたいな。
「なら、俺がコールだ。ノるぜ」
どうにか断る口実を付けようとしたのだが、それより先に宗が動いた。さっきまで乗り気でなかったのに、レンの提案に即座に承諾する。意味深な笑みを向けてくる。
「どした、イッチー。なんだか不満そうだな。俺らに優勝を奪われるのが怖いって?」
「ガオーー!!言ってくれるなぁー! おいおい、善ちゃん。ビビってるのかよ!?」
レンの肩に手を回して、あからさまに挑発してくる宗。おまけにレンも便乗してきた。そんなもの全く危惧していないが、そこまで言われるとこちらとしても黙ってはいられない。
「負けるのが怖い、だと? バカなことを抜かすな」
あぁ、わかっている。宗は冗談で言ってるのだと。だけど、レンの場合はおそらく本気だ。負けたくない、絶対に。
「こっちはヨッシーとだ。残念ながら、最後に笑うのは僕らだぞ」
近くにいた井口くんの腕を掴む。舐められたものだな、僕らも。よし、ならば一矢報いてやろう。ウチの相方をバカにした罪は大きい。
「ほう、言うじゃねーか。なら“決勝”で会おうぜ……!」
「ガッハッハ! マジで負ける気がしねーなァ!!」
睨み合う僕ら。スポーツ漫画によくある前フリ的なことをやると、レンと宗は背中を向けて先にステージの方へと向かって行った。余裕がありそうな振る舞いに、ますます闘争心が沸いてくる。
「ヨッシー、頑張ろう! 優勝するぞ!」
励ますように井口くんの背中を叩く。
が、苦笑された。
「え、私も出場しなくちゃいけないんですか? ……そういうのダルいんですけど」
はい、無関心と。負けたらドンマイだ!
※ ※ ※ ※ ※
「ゲーム内容は【ハンドボールPK】だ。サッカーのPKのように投球側・守備側に分かれて、一名ずつ交互にボールを投げる。二人が守るゴール内に入れば得点だ。獲得得点が多かったチームの勝ち。単純なルールだろう」
生徒会が目の前でデモンストレーションを行ってみせた。ゲームの流れとしては ①じゃんけんで順番決め ②先行の攻撃側が二回投球、後攻の防御側はゴールを守る ③順番交代 ④得点の多かったモノが勝ち、ということらしい。
補足説明として[故意に顔を狙うなどの行為]、[足は使わない]、[一人一投まで]、[引き分けの場合は、時間的に余裕もないのでじゃんけんで勝敗を決める]というのも定められた。
青Tシャツ軍団がコート外を守り、審判にはあの桜先輩が笛を担当するという謎布陣。公正なルールを厳守するように、見張っているのだろう。
ゲーム内容を聞く限り、腕力を使う競技のようだ。素早く相手ゴールの死角に投げ込む必要性がある。野球部は断然有利だな。
……あとバスケ部と。
姉貴の説明によるとハンデなどは特にない為、圧倒的に文化部は不利になる気もする。が、そこは気合いでなんとかしろという事なのだろう。
「ちなみに新垣くん。私、スポーツテストでのソフトボール投げの記録は1メートル50センチでした」
「う、うん。その情報は今は要らなかったかな……」
列に並んでいる最中に、井口くんがドヤ顔で言ってきた。そのような記録でどうしてドヤ顔になれるのかは疑問である。ま、まぁ飛距離は関係ないと思おう……。
前の方にいた宗がクジを引く。Aブロック、Bブロックと書かれてあるトーナメント表に名前が記入される。ゴールは全部で四つあるので、同時に試合をやっていくのだろう。結果、レン達はAブロックだった。
「チーム名は何にしますか? μ'zやAquorsなどが狙い目ですが」
「……別になんでもいいぞ」
ヨッシーがクジを引きながら尋ねた。運が良かったのか、僕らはBブロックだった。ちなみに宗とレンのチーム名は『う』である。平仮名一文字て。
「では、チーム名は『し』で行きます。決勝では『う』対『し』の猛牛対決となりますからね。白熱しそうです……!」
「しないだろ、ソレ」
なんでもいいとは言ったが、ヨッシーもアイツらに対抗したのか、なんかテキトーに決めていた。それなら、さっきのスクールアイドルユニットっぽい名前の方が良かった感はある。別にどうでもいいけどな!!
×××
結果だけ簡潔に話すと、僕らは決勝まで駒を進める事が出来た。
理由としては出場グループが意外に少なかったこと、案外二人で守備を固めると投球は防げること、引き分けになっても井口くんのじゃんけんが無駄に強かったこと、などが挙げられる。
勝利の決め手となった得点を、僕が獲得したというのもあったが、基本的には運が良かったのだろう。ノーコンですっぽ抜けるようなボールしか投げない井口くんが相方でも、ここまで来られたんだしな。
という訳で、運命の最終決戦。その記念すべき相手こそ! 強敵と名高い『う』チームである!!
「では代表チーム、それぞれ前へ。先行、後攻のじゃんけんをどうぞ」
審判である桜先輩が笛を吹いた。同時に前に出て行く。レンと宗が相手となると、今回は僕がじゃんけんをする出番だ。
「やるなァ!! 善ちゃんチーム!」
「それでこそ、俺らの“ライバル”だ……!」
いいから、早くじゃんけんをするぞ。
決勝戦ともなると、流石に注目度は今までとは比較できないほど高くなっていた。ステージ下には女子たちが僕らの活躍を見に来たのか、集まっている。当然、その中には安穏たちの姿も。
「ガッキー! クッシー! どっちも頑張れー!」
柳葉が声援を送ってきてくれた。感謝の意を示すために手を振る。近くにいた安穏がそれに気付いて、手を振り返してくれる。
……うむ、やはり負けられないな。ここでしっかり因縁の男に、正々堂々と勝つのだ。
源 蓮十郎。通称レン。バスケ部の新エースにして、女子の前では態度を豹変させる野獣。なんか過去にはカットモデルの経験もある、手の大きい高身長のイケメン。
そして、僕の恋敵。
じゃんけんの結果、『し』チームである僕らが先行側となった。投球側である。これはルール無用のデスマッチだ。先手必勝こそが絶対条件……!!
「えー、これよりAブロック代表『う』チームと、Bブロック代表『し』チームの決勝戦を始めます。それでは試合開始です」
ボールを手渡されて、開戦の合図を待つ。戦いの火蓋が今───切られた。