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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【春編ーオリエン合宿(下)】
41/279

ハーレム主人公と陽気な野郎たち。


 楽しい時間ほどすぐに過ぎ去ってしまう。


 長期間追い続けた作品が最終回を迎えたとき、なんとも言えない虚無感が押し寄せたことはないだろうか。まさに今はそんな心情。


 夢の国USJでの冒険が今終わろうとしている。出口を出てしまえば、現実へと引き戻されてしまう。まだオリエン合宿は続くというのに、このテーマパークから離れたくない気持ちでいっぱいだ。エントランスゲートのBGMを耳にしながら、柄にもなくそんな事を思った。



「帰りたくないなぁ。夜のパレードだって見れなかったし、もっと遊びたかったー……」


「だよね……。寂しい」


「絶対また皆で集まろうね。約束だよー?」


「う、うんっ……! 約束!」


 

 柳葉と渚の会話が聞こえてくる。半日限りのグループメンバー。男子一人と女子五人という謎編成ではあったが、別段周りから不審な目で見られたり、辛辣な意見を言われることなく無事に終えることができた。振り返ってみると、おもひでがぽろぽろだ。


 凶悪なジェットコースター【あかんやないけ】に、本物の恐怖を味わった【最恐戦慄迷館】。謎の男”パトリシア・マーティン”さんが活躍した【シャーク】。そして、最高の夢心地気分を味わえた【Rainbow】。どれも非常に楽しめて、余は満足じゃ。


 作戦は大成功。終わり良ければすべて良しとはまさにこの事なのだろう。



「結局、善一くんはどの子がタイプなのかしら。お姉さんに教えてくれない?」


 

 最後の最後までこんな調子だった櫻木先輩。前方を歩く菜月と安穏を見つめながら、コソコソと耳打ちしてきた。冗談なのか本気なのかわからない問いかけにも、そろそろ慣れてくる。



「やだな。そんなの桜さんに決まっているじゃないですか。こんなにもお美しいのだし」


「あら? 随分とお世辞が上手くなったのね。調教した甲斐があったわ」



 どうやら僕は調教済みらしい。勝手に芸を仕込むのだけはやめていただきたい。



「でも、まだレディーを甘く見ているわね。あの子達がシナリオ通りに動くとでも思っているんじゃない? 貴方だけがプレイヤーではないというのに」


「……? どういう意味ですか?」



 よく分からなかったので聞き返すと、桜さんはクスリと微笑を浮かべるのだった。



 「“油断は禁物”ってことよ」



     ×



 集合場所で点呼を取った後に、バスへと乗車する。行きと同じ席だったので、隣には宗が座っていた。



「スルメイカ。お前も食わなイカ?」


「サンキュー。こんなの売っていたのか」


「空港のミヤゲ屋にな」



 空港というと“ワシントンエアポート”エリアだろう。そこのお土産屋さんね。ミヤネ屋みたいに言うからわかりづらい。


 貰ったスルメを口に入れて噛んでみるが、思うように噛み切れない。案外硬い。引っ張って、乱暴に喰い千切ってみる。微妙な味だった。



「安穏とはうまくいったか?」


「ぼちぼち、だな」


「ほりゃほうか(和訳:そりゃそうか)」



 スルメをしゃぶりながら、宗が肘掛けに肘をつく。


 正確には何も無かったワケではないが、大きく進展したとも言えなかった。そう簡単にうまくはイカない。



「まー、オリエン合宿はまだまだ先が長いしな。これからなんかあるんじゃねーの? 最悪、女子部屋とか忍び込めばいいだろうしな」



 そう言って再びスルメイカを手渡してくる。あんまり美味しくなかったので別に要らない。というかコイツ、不味かったから僕に押し付けてきているだろ。



 バスが動き出す。帰りはレクリエーションなどは特にないようだった。正面のテレビには白黒映画が映し出されている。



 車内は静か。みんな遊び疲れているのだろう。宗としりとりでもやりたかったのだが、気付いた時には既に寝息を立てていた。朝はクイズ大会の司会をしていたし、ロクに眠れていなかったんだな。


 僕は一人、陽の沈んだ空を眺めていた。意識がぼんやりとしてきた頃に、カーテンを閉じる。




『なっちゃんのことをどう思ってる?』




 ふと安穏のあの言葉が蘇る。未だに妙に引っかかっていた。



 海島 菜月。一年B組の副委員長で、半日近く一緒にいた仲良し(?)のクラスメイト。怒ったりするけれど、根は優しい素直になれないだけの女の子。


 当然ながら嫌いではない。もし今の関係を[友達]と定義するなら、友達としては好きだ。



 ……でも、答えは変わらない。異性としての好意は抱いていない。恋人同士になるなんて想像もできない。もし付き合えたとしても、喧嘩別れするのがオチである。



 異性と付き合う、か……。



 今更だが考えたことがなかった。付き合うという問題から避けてきたから、何をどうすればいいのかわからない。具体的に何をすれば安穏と僕は恋人同士になれるんだ?



 ……本当に何もわからない。



 考えればキリがなかった。不安な気持ちを消すために僕は乱暴に瞼を閉じて【シャーク】での一幕を思い返す。謎の男“パトリシア・マーティン”さんが鮫の歯を拳で叩き割ったシーンが一瞬だけ上映されて、それからすぐに映像は途切れた。

 


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 バスが目的地へと到着したのは18時半過ぎの事であった。荷物を持って下車する。スーツケースを受け取ってホテルへと向かう。


 宿泊のしおりによると、今後の予定はこんな感じだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 19時:晩ご飯。その後レクリエーション。

 21時:入浴。

 22時:※未定※

 24時:就寝。


 ※生徒会が現在バラエティに富んだ企画を考案中。参加希望者のみ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うん、先が長い。お楽しみはこれからの晩ご飯兼バイキングとレクリエーションかな。生徒会の企画なんて嫌な予感しかしないので、参加したくない。



 名簿を確認していた西田担任教師から鍵を受け取る。先生の説明によると、男子部屋は二階。女子部屋は別館の三階らしい。



「部屋が離れている理由はわかるよな。原則として男女不純異性交遊は禁止だ。学校も責任が取れん。最悪の場合、停学処分もあり得る。くれぐれも面倒な揉め事を起こすなよ」



 クリップボードをボールペンで叩く先生。いつにもなくマジトーンである。とりあえず「行かず」「行かさず」「立ち寄らせず」この三原則だけはしっかりと覚えておこう。



 それからヨッシーと宗を連れて、早速部屋へと向かった。場所は202号室。鍵を開けて、中を見渡すと四人部屋なだけあって、とても広かった。リッツカールトンだな。リッツカールトン。



 窓を開けると近くには高山がある。自然が豊かで風が気持ちいい。今、ちょうど二酸化炭素が酸素に変えられている最中だな。だって、呼吸がしやすいもの。



「山沿いなのにWi-Fiがあるのはありがてーな。てか、ヨッシー。お前タブレットとか持ってきたのかよ。なに見てんの? アダルト系?」


「いえ、来週のネタバレをチェックしようかと思いまして」


「ふーん、そんなの無料で見れるのか。便利な時代になったもんだな」



 ……いや、多分それ違法なヤツだと思うけど。



 宗と井口くんがベッドで各自好きなことをやり始めたのに対して、僕は荷物の整理を行っていた。下着、タオル、洗面具、ドライヤー。部屋にあったとしても、一応の準備はしてきた。



 綿棒の補充があるかを確認して、手が止まる。



「そういえば、宗。四人目はまだなのか? お前が誘ってくれたんだろ」



 空いていたベッドを見ながら尋ねる。宿泊グループは基本四人。つまり僕と宗と井口くんの他に、もう一人来るハズなのだ。


 事前のコイツの説明によると【バスケ部の次期エース】で【厄介者】と聞いている。警戒した方がいいとも言っていたけど……。



「さぁ? ロビーで誰かと一緒にいるんじゃねーの。連絡先聞き忘れたから、詳しくは知らん」


「……知らないって。迷っていたらどうするんだよ。可哀想じゃないか」



 立ち上がってスーツケースを閉じる。僕はクラス委員長で班長である限り、探しにいく義務がある。連絡事項が伝わっていないと今頃困っているかもしれない。



「名前はなんて言うんだ? 髪型の特徴とかは?」



 ベッドで寝転がって欠伸をしてる宗に聞くも、携帯に夢中で聞いていない。なんと無責任か。呆れた僕が、今度は井口くんに聞こうとした時、部屋のドアがガチャリと開く。




「ガオーーーー!!! 悪りィ!! フツーに遅れた!! てか、ハゲダニの女子ってスゲェー可愛くね!? ガッハッハ!!!」




 見ると、変な猛獣が発狂しながら突っ立っていた。

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