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僕は幼なじみと結婚の約束を交わした高校生。



「てめえ、俺を放置した上に、抱腹絶倒LINEを既読無視してくれやがって。マジでブチ殺すぞ」


 殺されたくはないものだ。



 最寄り駅から約四駅。時間にすると約十五分と、意外と近くにハゲダニ高校はある。


 電車を乗り終えると、そこからは徒歩十分とこれまた近い。ハゲダニ高校は、これらの面から地元の学生からとても人気だった。


 そんなガタガタと揺れる車内で、吊り輪を片手に隣の大親友こと、玉櫛 宗が説教をはじめていた。いつものようにワックスでガチガチにセットされた髪を携帯で確認している。



「なあ、聞いてんだよ。俺ってそんなに存在感ねーか? 陽キャラバチバチだと思うが」


「すまん、宗。僕のせいなんだ。僕が渚との再会に必死で、宗の存在を一時的に記憶から抹消した。ただそれだけなんだ」


「それ存在感ねーじゃん。やっぱ殺させろ」



 殺されたくはないものだ。



 宗が携帯から目を離し、どこからか漫画雑誌を取り出してくる。



「つーか、イッチー。お前なぎちゃんに会ったんだったらすぐ俺に報告しろよ。何事も[ほうれんそう]って大事なんだからさ。これくらい知ってるだろ?」



 ……ほうれん草? そんなもの知っていて、当然だ。あまりバカにしないで貰いたい。



「知っているよ。[ホウレン草]は[ヒユ科アカザ亜科ホウレンソウ属の野菜]だろ。栄養分としては[ビタミンA]だったり、[葉酸]などが多く含まれているから[貧血]などの予防に効果的なんだ。また冷え込むと柔らかくなって味も良くなるそうだよ」



「へー。博識だなぁ……って違う。そっちじゃねぇ! 報告・連絡・相談の方だ」



 ナイスなツッコミだった。流石は幼なじみの大親友。



「はぁ……。イッチーは時々変な事を言うから頭が痛くなるぜ。そんな調子じゃ学校で彼女なんて作れねぇぞ?」



 頭が痛いならほうれん草を食べるべきだろうという新垣ジョークはさておき、後半部分の言葉は聞き捨てならなかった。



 彼女? そんなものを作って一体何の利点があるというのか。



「宗。前から言ってるだろ。僕は彼女なんて作る気は毛頭ない。異性とお付き合いしたいとも思わない」



 僕は恋愛に興味はない。彼女なんて要らないのだ。



「でもさ。年頃の女の子とあんな事やこんな事をしたいとか普通は思うだろ? お前がズレてるだけで、世間一般の男子高校生は皆女子高生と不埒な関係になりたいと思ってるぜ」



「普通とかズレてるとか一体誰が決めたんだ。恋愛をする、しないは個人の自由だろう。性欲があるのは仕方ないけれど、その為に彼女が必要だなんて僕は思わない」



「まー……お前がそう思うなら別にいいんだけどさ。それなら」



 何かバツの悪そうな表情で宗は揺れる車内から窓の外を眺める。街の中を走っていく電車は見覚えのない景色を次々と追い越していた。この風景も将来は見慣れた光景に変化してゆくのだろうか。



「なんで渚と結婚の約束をしたんだよ?」



 いつか僕が忘れた頃にでも。



 ※ ※ ※ ※ ※



「懐かしいことを覚えているな、宗」


「まぁ天才だからな」



 適当なことを答える友人に続いて、僕らは電車を降りた。改札口で定期券を入れてから、ようやく会話を再開させる。



「渚はきっとあの約束を覚えてはいないだろう」



 他愛もない約束を、彼女がまだ覚えているとは考えにくい。



「どうだろうなぁ。意外と覚えていたりして。実は言い出せないだけかもよ。もし覚えていたら、イッチーは渚と結婚すんの?」



「はは、悪い冗談はやめてくれ。まだ僕は学生だぞ? 現時点では、経済力に不安があるしな。家族が出来た時、養えるようにもしとかなきゃいけないし、当然良い仕事には就いておきたいだろ。それに年齢的なものもあるから、多少は待ってもらわないと」



「ごめん、そこまでマジになって答えてくれなくていい」



 ……こっちは真剣に考えたんだけどな。



 まあ、最近は独身のまま生涯を終える人も多いしな。いつか自分も結婚を視野に入れる時が来るのかもしれない。



「うん。意外と結婚について考えてみるのも面白い」


「さっきの恋愛に興味はない発言を俺は忘れてねぇから」



 宗は呆れたようにボイスレコーダーをポケットから出してくる。何で持ち歩いてるんだ、そんなの。


 駅を出て、急な登り坂を歩いていく。この坂を超えて、狭い道を抜ければハゲダニ高校はすぐだ。


 今日は入学式もあってか、学生たちが多い。新品の制服に身を包む同世代の皆は、何を考えて歩いているのだろう。



「今のうちに可愛い子を探そっかなぁ♩ いないかなー。ガッキーばりのとんでも美女ちゃーん♩ おや?」



 自作ソングを口ずさんでいた宗がふと眉をひそめて何かを見つめている。僕にはまるで彼が戦場を指揮する軍団長のように映った。



「……どうした?」


「いや、少しばかり気になる事があってな」



 こう見えても彼は成績が優秀な優等生。真面目さはほとんどないが、テストの学力において、僕は彼より上の順位を取ったことがないのだ。


 それほどまでに有能なこいつが何かに気づいたぞ?



「気になる事? 一体何を見たんだ、宗!」



 ゴクリと唾を飲み込むと、宗は薄目で坂の上の方を指差す。「大した事じゃないさ」と前置きを入れてから、静かにこう続けた。




「あそこの女子のおパンティが見えかけた」




 よし、学校いくか。

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