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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【春編ーオリエン合宿(上)】
38/279

ハーレム高校生と愉快な仲間たち⑤


 それからすぐに皆と合流した。ようやく全員が改めて揃ったところで、僕らは次のアトラクションへと向かう。


 場所はロングビーチアイランドエリアの【シャーク】。《海上に突如として現れた人食い鮫との決闘》を描いたショーだ。


 開演ギリギリにチケットを取ったので、会場は既に満席状態であった。後ろの席しか空いていなかったので、六人並んでそこに座る。開演は午後15時半からだった。



「あら、なんだ帰ってきたの。二人だけで抜け駆けなんてズルいわね」



 僕と菜月がしばらく単独行動をしていた事に対して、咎めてきたのは櫻木先輩だけ。いつの間にか姉貴と同じようなカチューシャを付けて、大いに遊園地を満喫している。別にそこまで気にしていなかったのか、それ以上の事は聞かれなかった。



 ショーが始まる。



『ここは南トリシマラナ海。そこに一つの漂流船が漂っていた……』



 ナレーションによる状況の説明、ステージ上には俳優に扮したスタントマンたちが現れる。



「食糧が尽きたってのはどういう事だ? ()()には()()()すらないってのか!」


「ケイト、冗談は顔だけにして!」


「なんだと? このクソアマ!」



 取っ組み合いの喧嘩が始まった。チンケな効果音を流しつつ、バク転や背負い投げ&受け身などをやってのけるミニコント。急にパフォーマンスを見せつけて、会場全体の空気を一気に掴む。ちなみに勝利したのは、関節技を決めたクソアマさんだった。



 このように劇が始まったのだが、正直僕は上の空であった。


 それもそのハズ。このショーの後には遂に念願である”安穏との観覧車”が待っていた。つまりは【シャーク】なんてものはメインディッシュの前菜に過ぎない。


 後は序盤の展開にご都合主義的なモノを感じてしまって、どうも納得がいかなかったというのもある。



『食糧難だということで魚を獲ろう』

→『ダメだ、腹が膨れない』

→『クジラでも襲うか!』

→『法律で禁止されてる』

→『ならサメだ! 小舟で獲りにいこう!』

『OK! 槍を持って来い!』

『今夜はシャークパーティーだぜ! ヒャッハー!!』


 ……と、こんな感じ。明らかにお粗末だ。



 まぁこのように散々文句を言っていた僕ではあったが、後半にはそのあまりの熱量や迫力に度肝を抜かれる事となる……。



 集団のサメに襲われる一同。四肢をもがれて、海に引きずり込まれていく仲間たち。絶望的な状況の中、ある一人のおっさんが立ちはだかる。



「安心しな、この船には”オレ”がいる。クソ野郎どもの酒の肴にはなりやしねェよ……」



 どんな状況下であっても決して動じない、自称無敵の漢。


 中盤のシリアスから突如として話に参加してきた、名前を名乗らない正体不明の人物。


 バンダナを巻いて歴戦の傭兵のようにアクションをこなす彼の活躍ぶりを、思わず固唾を飲んで見守ってしまう。



「海の藻屑と消えな───腐れ野郎」



 煙草をふかしながら、鮫との対峙でバズーカ砲を出してきた時は、なんかもう一周回ってカッコよかった。



 この【シャーク】の劇中で印象的だったシーンは幾つかある。


 《サメが観客席に向かって、波を起こしながら牙を向けて飛び出すシーン》や《謎の男が親指を立てながら海に沈んでいくシーン》などなど。涙なしでは見られなかった。



 けれど、僕は胸を張ってこう言うだろう。最後のラストシーンこそ、No.1であると……。



 沈みゆく船。足に傷を負ってまともに歩くことさえ出来ないヒロイン。周囲にはもう誰もいない。彼女は死を望む。観客の誰もが、もう助かりはしないと思っていた。



 ───そう、彼が現れるまでは。




「ションベン臭いガキが、こんな所で何をやってやがる」




 駆けつけたのは、あの男であった。




「あ? 死んだって? オレは無敵の男だぜ。あのくらいでくたばるかよ」



「フンッ、ビービー泣くんじゃねェよ。いつでも会えると言ったろ? 困った時にはオレの名を呼べ。そしたらまた迎えにきてやる」



 ハンカチを取り出して涙する観客たち。あの無名の男はなんと生きていた! 驚愕と感嘆の声が挙がる中で、彼が最後に言ったセリフが今でも脳裏に焼き付いている。




「オレの名前はパトリシア・マーティン。気が向いたら、また会いにきな」




 男が名を名乗って、ショーは終演した。なんだかんだですっかり見入ってしまった僕であった。絶対また会いに来よう……。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「うー……あたしゃ【シャーク】ロスだよ。泣いたし、パトリシアがかっこよかった……」


「う、うんっ……! 面白かったね」


「全く、救えない駄作だったわね。素人の劇団以下の酷さ。脚本も滅茶苦茶だし、まさにC級映画レベル。あんなので泣ける感性が理解できないわ」


「なんだかよくわからなかった。なっちゃんはどうだった?」


「……寝てた」



 ふむ、誰もが平等に楽しめる作品づくりというのは難しいのかもしれない。賛否両論の意見こそその証拠。


 【シャーク】の出口を出て、さりげなくルートを調べておく。観覧車はどうやら『ラスベガスタウン』にあるらしかった。



 さてさてさてさて、時刻は16時15分。ここでようやくお待ちかねの観覧車タイムに突入……って、もうこんな時間なの!?



 思えばショーは45分と長丁場であった。バスの出発時間は17時だ。最低でも15分前には着いておきたい。それを過ぎると置いてけぼりを食らうハメになる。姉貴ならやりかねないし……。



「ありゃりゃ、時間経つの早いねー。【FUJIWARA】とか乗りたかったなー」


「明希ちゃん元気だねっ……」



 柳葉と違って、渚はお疲れのご様子。そりゃそうだ。朝から動きっぱなしだしな。けど、まだ今日の予定はてんこ盛り。しおりの第17部に記載されているように、夜もスケジュールがギッシリだ。芸能人みたいにね。



「せめて【コーンポッター】のお土産屋さんは回りたい! 最後に寄っていきませんか?」


「今からだとエリア的に厳しいかもね。それにレジにも長蛇の列が出来ていると奈々美さんが言っていたわ」



 へー、姉貴も寄ったんだ。ていうか、あの人帰った?



「じゃあさ! じゃあさ! 提案があるんだけど」



 先頭を歩いていた柳葉が不意に声をあげる。全員に向けてこんなことを呼びかけた。



「今度またこのグループで遊びに行こうよ! せっかく皆と会えたんだし、勿論桜パイセンも一緒にですよ!!」



 突然の提案に誰もが足を止めた。両手を叩いて、彼女はそれぞれ全員の顔を見つめていく。賛成も反対もなかった。



「ねぇ、ガッキーいいアイデアでしょ? こんなにおんにゃのこと一緒に遊べる機会なんてあんまりないんだしさー。パイセンも、ツッキーも、のどちゃんも、なぎたんも、あたしも。みーんなでまた遊びたいよ! ここが嫌なら、他の場所でもいいし!」


「あー、いいかもな。楽しそうだ」



 振られたからには正直に応えるしかない。個人的には大賛成である。というかこっちから是非ともお願いします! だ。なにせ、安穏と関われる機会があるなら、もうマジでハッピー。幸せならOKです。



「あら、いいわね。それなら夏休みに私の別荘に招待するけれど、どうかしら?」


「ええっ、櫻木先輩ってその歳で別荘とか持っているんですか!? ボンボンじゃないですかい……」


「別に大したことはないわ。海が近くにあって、夜には潮の香りとさざ波の音が聴こえるだけの、なんの変哲も無い別荘だしね」



 サラリと答えて、サラリと自慢する、サラリとした桜梅酒先輩。別荘なんて普通の人は持ってないだろ……どんな家庭で育ったんだ、この人。



「決定、でいいかしら?」


「だ、大丈夫ですっ……!」


「はーい。なっちゃんもね」


 

 桜さんの問いかけに渚は頷く。返事をしなかった菜月の腕を掴んで、安穏は無理やり手を挙げさせていた。言いなりみたくなってたけど、別段菜月は特に不満は漏らしておらず。アレは単に別荘自慢された事にムカついてるだけだな、多分。



 それにしても夏に旅行か。そんなの浮かれ気分になっちゃいそう……。



 海辺で安穏と二人きりになっちゃったりして「海綺麗だな」と言うと「そうだね」って答えてくれるのさ。そして、僕は言うんだ。「でも、一番綺麗なのは海を見てるキミだよ」なーんて。




「……(我ながらドン引き三点リーダー)」




「!!(大事なことを思い出した感嘆符)」




 いや、違う! 観覧車だ!!! 観覧車!!! 安穏とKAN–RAN–SHA!!! 英語だとFerris Wheel ANONとのFerris Wheel さっさと行かないと時間がなくなるぞ!!!



 のんびりと話をしてる暇はない。こうしている内にも、安穏との貴重な二人きりタイムが刻々と失われつつあるのだ。時間は有限、善は急げである。善一だけに。



 さりげなく合図を送る。バレないように抜け出せるのは不可能。だからもう、皆の前でちゃんと告げてから行くことにした。



「あ、急用を思い出した! 安穏ちょっと付き合ってくれない?」





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