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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【春編ーオリエン合宿(上)】
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僕は空気が読めるハーレム高校生。


 困った、困った。こまったさんのビーフストロガノフ。


 勢いで飛び出して来たものの、菜月の居場所なんてこんな広い遊園地で簡単に見つけられるハズがなかった。なんかいつも怒らせてばかりな気がするな……。


 LINE電話しても出ない。『謝りたい。どこにいる?』と送っても既読すら付かなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


《ちゃんと上手くやれてる?》


《ここ想像以上に怖いから》


《アンタも気を付けてね》


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 菜月から送られてきたメッセージを最初に無視していたのは、自分の方だった。アイツから送られてきていたLINEを今更読み返して、笑ってしまう。


 腰を抜かすほど怖がっていたそうなのに、人の心配かよ。苦手なのをそこまで我慢して、どうして僕に協力してくれているんだ。


 もう一度、電話を掛けてみる。コール音がしばらく鳴り響いた後、今度はしっかり繋がった。



「『……なに』」



 ぶっきらぼうな返事が返ってくる。なにとはなんぞや。なにとは。



「お陰様で頭は冷やした。今、どこにいるんだ? みんな心配してるぞ」


「『知ってる。のどかから連絡あったし。アンタこそどこよ』」



 マップを広げて辺りを確認する。適当に走り回っていたものだから、位置情報を特定出来ていなかった。えっと、めぼしいアトラクションはあったかな。


 【激震の巨人】の等身大模型がある。垂直型のジェットコースターも見えたから、現在地は……ここか!



「今、居るところは『ワシントンハイウェイ』と『マサチューセッツ州』。二つのエリアのちょうど境目だ。そうだな、近くに【ド・ドドドドドドドドドンパ】がある」



 説明すると、唐突に電話が切れた。そっちに今から行くから待っておれ、という意味であろう。


 ……わかった、わかったよ。わかったさんのゴルゴンゾーラクリームパスタ。


 ため息をつきながら、渚にLINEを送る。『菜月発見。後から行くから、適当に遊んでて』と。全く手間がかかる女の子だ。


 ×××


「探したぞ。神速の星」


「そのあだ名では呼ばないで」


 待ち合わせはチュロスやチキンなどが売られているワゴン近く。こちらに気付いていなかったので呼び掛けると、あからさまに嫌そうな顔をされた。



「で?」


「あぁ、僕が言い過ぎだった。ごめん」


「……それだけ?」



 頭を下げるが彼女の怒りは収まってはいなかった。それだけと言われればそれだけである。うーーーむ。ならば、コレの出番か。


 ゴソゴソと僕はポケットから麻薬風の芳香剤を取り出す。例のお店で無料でお試しプレゼントされたモノだ。女性はこういう香り系が好きと何かの雑誌で見たことがある。



「じゃあ、どうかこれで許してほしい」


「はぁ……? なによこれ」


「ブラックマーケット市場では高値がつく密輸品だ。普通のお店では売ってないからレア品だぞ。それに、すごくいい匂いがする」



 菜月に袋に入ったヤクを手渡すと、この子は呆れた様子でそれを受け取ってすぐにその場に捨てた。こ、こら! 希少価値があるのに!



「要らない。ふざけてんの?」


「……ふざけてないよ。な、なら!」



 僕はワゴン車を指差す。



「なにか買ってこようか? さっきから何も食べていないし、お腹が空いてるからイライラしてるのかも。あ、お金はいいぞ!」


「要らない! 食べないって言ったじゃないのよっ! 大体、あたしがなんで怒っているのかわかってんの!?」



 やっていることは完全にパシリだ。ご機嫌取りパシリ新垣。


 ていうか、なんで怒っているのかってそんなのわかりっこないぞ……。読心術なんて使えないしな。



「それを僕がわかっていないから、余計に怒っているんじゃないのか……?」



 答えると菜月は固まっていた。思考停止したようだ。けれどその後、すぐに乱暴な言葉を発する。



「そ、そうよ。それがわかっているなら、どうしてもっと信じてくれないワケ!? 別にムリしてわかってほしいとは言ってないけどっ! 少しくらいは信用してくれたっていいでしょ!?」



「す、すまん……」



 曖昧な表現だったのでピンとは来ていなかったけど、とにかく【信じてほしかった】というのは理解できた。菜月を僕は信じきれていなかったのだろうか。



「味方だって言ってくれたのに、あたしの存在がそんなに足を引っ張ってた!? それなら言えばいいでしょ! お前なんか要らない、用済みだって!」



「……菜月は足を引っ張ってない、むしろ手を引いてくれた方だ。ごめん、本当にごめんな」



 相槌を繰り返して、自分の非を認め、ただ彼女の話に耳を傾ける。余計なことを言うのはやめておいた。



 僕としては『菜月に遊園地を楽しんで欲しかった』だけであった。確実性のない作戦ばかりに必死になって、僕の協力ばかりに時間を浪費するのではなくて、自分の為にもっと使って欲しかった。



 ……それを吐き出すことはしなかったけれど。



 しばらくの間、ずっと僕は怒られていた。何に対して怒られているのかどうでもよくなった頃合い、気持ちが落ち着いたのか菜月は黙った。足元の芳香剤もそこで拾う。



 ここで僕もようやく重い口を開く。



「あのベンチに座って、一緒にホットドッグでも食べない?」



 妙に小腹が空いてきてしまった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 プラスチックの容器にはまだ熱が残っている。食べ終えたホットドッグの櫛を入れて輪ゴムで閉じる。とてもジューシーで美味だった。


「……確かにいい匂いするわね」


「よな」


 クリスタルを開封して、手を扇ぐように嗅いでいた。別にアンモニア臭とか出ないから安心してくれ。それ合法だし。



「のどか達、さっきまで【バック・トュ・ザウルス】乗っていたんだって。服が濡れたから、今は【火事】に並んでいるらしいけど、どうする?」


「僕はもう乾いているし、遠慮しておくよ」



 菜月がスマホを開く。絶賛安穏とLINE中。もう他のメンツは僕らを置いて、遊び始めたようだ。


 ちなみに【バック・トュ・ザウルス】は過去や未来を飛び交いながら、恐竜から逃げる乗り物だ。最後に『3.2.1……GOー! スプラッシュ!!』と叫びながら落下して、激しい水しぶきを浴びせられるのが特徴的。


 【火事】はそのまま、バックドラフト現象が起こるのを肌で感じるだけの体感的なアトラクションである。全てパンフ情報な。



 僕も携帯を取り出して時刻を見る。もう15時か。乗れるアトラクションも待ち時間次第では一つや、二つ程度か。


 時間をチェックしていたからか、菜月がスマホから目を離した。



「行かなくていいの? あたしと一緒にいたら、のどかと二人きりになれないでしょ」


「グループ行動だし、もう諦めたさ。それにオリエン合宿は遊園地だけじゃない。先は長いんだ」



 ともあれ、流石にそろそろ戻らなくてはな。僕らが代表班なのに、そのリーダーであるクラス委員長と副委員長が勝手な行動をしているなんて言語道断だ。



「あっそ。なんにせよ、もうあたしは協力しないから」


「うん、ありがとな。色々と手伝おうとしてくれて。菜月がいてくれたお陰で、気持ちに余裕が出来たよ。感謝する」



 立ち上がって、近くにあったゴミ箱にプラスチックの容器を捨てる。なんだかんだで一時間くらい寄り道していた気もする。



「よし、行くか。【火事】の出口付近で待っておこう。『ロングビーチアイランド』エリアだったよな?」


「ちょっと待って。今、電話して聞いてみるから」



 スマホのスピーカーをオンにして、安穏と通話を始めている。ほほう、安穏のLINEアイコンは「犬」か。「猫」の菜月とは対照的だ。いいなぁ、連絡先交換したい……。



「『もしもし、なっちゃん? 善一くんも一緒かな? 今、どこにいるの?』」


「後で向かうから待ってて。てか、のどか。()()()()()()()()()()()があるって言ってなかった?」


「『うん、言ったよ。“観覧車”。でもなっちゃん高所恐怖症じゃん』」


「……違うし。ただ高い所が苦手なだけ」



 一体なんの話をしているんだ? 観覧車、そんなものあったっけ。


 マップを開いて調べてみるが、それらしい名称は見当たらない。遊園地の定番ではあるけど、絶叫マシンが多めのUSJでは不人気アトラクションなんだろうか。



「『それを高所恐怖症って呼ぶんだよ。それがどうしたの?』」



 珍しく安穏と意見が一致した。すると、菜月がこちらを見ながら呟いた。




「そうそう、善一が一緒に乗ってくれるんだって。観覧車が好きで好きでたまらないらしいから、二人で行ってきなさいよ」




「へ?」




 観覧車、二人きり、好きでたまらない? いやいやいやいや、待て待て。状況がつかめない。え、え、なんて? え、なんて?



「あ、うん。了解。伝えておくわ。はい」



 電話を切って返事を交わす彼女。はい? へぇ? 何が起きていますのん……。



「一体どういうことだ? あの子が観覧車が好きだなんて聞いてないぞ……。というか協力はしないって」


「言ってなかったし、これで協力は最後よ。念願の二人きり。感謝なさい。ね? ()()だって言ったでしょ」



 ニヤリと笑って菜月は立ち上がる。要するに、そもそも最初から計画の一つとして用意周到に準備をしていたらしい。最後の切り札として。作戦が上手くいかなくても、全てを帳消しにするカードを残していた。



 ……予想外だった。こんなの卑怯じゃないか、どうして教えてくれなかったんだ。



 『具体的な方法はない』って大嘘にもほどがある。てか、作戦なんか要らなかったじゃないか。



 呆れながら僕はつい頬を緩めてしまう。す、好きな人と二人きりで観覧車って。本当にいいのか……?



「菜月。お前、それは性格悪いぞ……」



 苦笑しながら彼女の方を向くと、アイツはなんら悪びることなく堂々と返答してきた。



「よく言われるわ」



 あっけらかんとした態度で海島 菜月はスマホをポケットにしまう。よく言われる、それは過去の経験からか。古傷がすっかり癒えたように開き直る彼女の様子に、ある種の尊敬の念を抱いたのは言うまでもない。

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