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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【春編ーオリエン合宿(上)】
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僕は可愛げのあるハーレム高校生。



「え? いや、そういう事を言ってるんじゃなくてだな……」



 口に運ぶ直前のポッテトが手から零れ落ちる。膝上を弾んで、そのまま地面に落下した。


 言い訳を考えながら、僕は足元へ手を伸ばす。三秒ルールを遵守したとしても、既にタイムオーバー。罰ゲームとしてトルネードスピンされているくらいの失態である。


 紙ナプキンへと包んでいる最中でも、菜月の顔色は変わらない。トレーに置いていた紙コップを、いつの間にか自分の手元に引き寄せていた。


 あ、それ僕の……。



「ただ、なんとなく思っただけさ。()()だって言うのに、行き当たりばったりな作戦ばかりで、具体的な方法はないのかなって」



 仕方なく買ってきておいたコーラを口にする。お水と炭酸ジュースを同時に準備しておく二刀流っぷり。これならメジャーでも活躍できそうだ。



「ないわよ、そんなの」



 菜月は開き直った口調でそう言って、乱暴に水を飲む。おまけに氷を歯でガチガチと砕いていた。獣か。



 ……ふむ、なるほど。最初から根拠はなかったと。ただの恣意的な行動だったんだな。



「……そうか。なら、そんな無理して協力してくれなくてもいい。別に僕から頼んだワケでもないしな」


「は? なんでそうなるのよっ!」


「じゃあ聞くけど、だったら何で協力してくれているんだ? お前にメリットなんか無いじゃないか」



 冷静かつ慎重に切り出す。無償で協力するのは変ではないだろうか。


 普通は利害関係があってこそだ。一方的に協力させてばかりだなんて、なんだか申し訳ない。


 ストローをいじりながら、彼女の回答を待った。アイツは詰まらせながら「えっと、だから、その」と歯切れの悪い言葉を並び立てている。



「アンタが言ったじゃない」



 ん?




「い、委員長が困ってる時は……副委員長がフォローするのが当たり前なんでしょ!?」




 唐突に立ち上がり、指を突き付けて声まで張ってくる菜月。えぇ……急になにを言い出すかと思えば、なんだよそれ。



「……そんなの言ってないぞ」



 クラス委員長の話題なんて今は関係のない事柄である。それに僕は菜月の時みたいに切羽詰まるほど追い詰められていないし、そこまで困ってもいないしな。



 だから、ハッキリと伝えよう。



「わかった。作戦はここまでにしよう。後は一人で頑張ってみるよ。ありがとな」



 ───その言葉を言い終えるか否かの瞬間に、唐突に僕は水を被った。



 アイスバケツチャレンジなんてやっていないのに、体温が一気に下げられて瞼に氷がぶつかる。髪の毛から雫が落ちるのが見えて、ようやくそこで自分が水を掛けられたのだと悟った。これぞ真の水掛け論(大嘘)



「なんだよ……いきなり!」



 ステーキかよと、目をやると菜月は紙コップを握ったまま、僕を睨み下ろしていた。


 周りにはお客さんもいたのに容赦なしだ。彼女の瞳から怒りの感情が曇ったとき、ふとこんな言葉を水の次に浴びせられる。




「あっそ。じゃあ、ひとりで勝手にすれば!?」




 罵声を言い残して菜月はどこかに立ち去っていく。


 

 シャツが雨に打たれたようにビショビショになっていた。替えは持ってきているが、スーツケースはバスの中にある。幸いなことに濡れたのは上半身だけだったので、なんら問題はなかったが、感覚的に気持ち悪かった。



「なんなんだよ、菜月のヤツ……」



 意味が分からない。どうして怒られなければならない。流石にムカついてくる。追いかけて引き止める気にもなれなかった。



 水の溢れたテーブルを紙ナプキンで拭きながら、唇を噛む。濡れてボロボロになった紙から、しなしなになったさっきのポッテトが出てきた。すっかり冷めたそれを再び口にしようとは、今はもう思わない。


 ※ ※ ※ ※ ※



「えええええ! なんでガッキー濡れてるの!? 」



 一番はじめに帰ってきたのは、柳葉だった。トレーにラーメンと炒飯セットを乗せて目を丸くしている。いっぱい食べる君が好き、なんつって。



「ちょっと、諸事情で……。安穏と渚は?」


「そんなので納得できるかーい! のどちゃんとなぎたんはもう少しで帰ってくると思うよ。あー、もうビチョビチョじゃん……」



 柳葉がトレーを置いて、自分の鞄からタオルを取り出してくる。パンダ柄の黒と白のヤツ。



「もー、どうすりゃこんな濡れるのさ。拭いたげるから。目は閉じててー」


「……うーっす」



 言われた通りに目を閉じると、顔をタオルで拭いてくれた。鼻先から柳葉の匂いがする。あるよな、人の匂い。上手く説明出来ないけど、柳葉のいいにおひ。



「んっしょ。ガッキーくんはやんちゃ坊主だなぁ……」


「な、なんだその設定」


「こら! 喋らんでええ!」



 ビッグなマムよりも愛情たっぷりでゴシゴシと拭かれていると、なんだか変な気持ちになってくる。髪をグシャグシャとされて、まるでペットみたいだ。……すごい、恥ずかしい事をされてるような。



「それにしても、ガッキー。こうしてみるとやっぱり男前だよね。水も滴るイイオトコってやつ?」



 グイと顎を持たれて、両手でギュッとほっぺを押し込まれる。アッチョンブリケだ。アッチョンブリケ。



「おー、こんな変顔状態でも超かっくいい」


「……もごもご」



 上手く喋れなかった。とりあえず人の顔で遊ぶのはやめてほしい。



「はい、後は自然乾燥ね。タオルは今は貸しておくから、帰りに返してくれたらいいよー。あ、いっけなーい! ラーメンが冷めちまうぜ!」



「お、おう。ありがとうマミー」



 首にタオルを巻かれてようやく解放される。……悪くない良い心地だった。柳葉マミーありがとう。



 ようやく目を開けると、安穏が既に戻ってきていた。トレーにカップアイスを乗せたまま、微笑している。あ、ヤバい……。




「善一くん、意外と甘えん坊さんなの?」




 半笑いで席に着く安穏。あぁああぁああ!!! 見られてたぁあああ!!



 ……取り乱した。少し反省。



 ×××


 渚も戻ってきて、事情聴取が始まった。なんら噓をつく必要もなかったので、正直に話す。と言っても安穏本人がいるので、作戦のことは伏せて喧嘩したって事にしたけど。



「んー。なっちゃん電話出ないね。どこ行っちゃったんだろ」


「さ、探しにいくっ……?」



 電話には出ないとなれば、渚の言うように探しに行くしかないだろう。ともあれ、会ったとしても気まずいな……。



「大体……モグモグ、なんでうみちゃんと喧嘩したのさー?」


 

 炒飯を口にしながら尋ねてくる柳葉マミー。こら、食べながら話すのはやめなさい。お行儀が悪いんだから。



 なんで喧嘩したと言われたら、一体なんなんだろう……。本当のことは言えないので苦笑しておいた。



「あいつの気持ちを汲めずに、つい言い過ぎたのが原因かもしれない……。僕が悪いんだ。頭に水を掛けられたのも、冷静になれって意味なのかもな……」



 大まかな理由は言えない。ただ自分の心境を訴えると、柳葉が箸を置いてふむふむと頷いた。なにがわかったんだ。



「いやー、青春ですねーダンナ~。友達にキツイことを言って凹むって、可愛げがありますぜ。世の草食系男子も見習うべきだ」



 草食系とか言われても分からない。どちらかといえば肉が食べたい方だ。肉だ肉を持ってこーい。




「反省したのなら、謝るのが大事よガッキー。悪いと思ったらきちんと謝る。そんな素直な気持ちがあれば、うみちゃんだって許してくれるよ」




 肩に手を置いて、柳葉はニコリと笑った。その言葉とか、仕草とかがとても温かくて、なんだか少し泣きそうになってくる。



「ほりゃ、思い立ったらすぐが吉日だよ。謝りたいなら探してきんしゃい。ツッキーも反省してるかもだし!」


「そ、そうかな? あっ、ありがとう柳葉! ちょっと一人で探してくる。ちゃんと謝ってくるよ!」



 席を立って鞄を手に持つ。余ってるポッテトはきっと置いていても食べてくれるだろう。というか、うみちゃんなのかツッキーなのか。どっちだ。



「へいへい、いってらー」


「善一くん、気をつけてね」


「わ、わたしたちも後で行くねっ……!」



 三人に見送られながら、僕はフードコートを出て行く。





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