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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【春編ーオリエン合宿(上)】
33/279

僕はビビリでヘタレなハーレム高校生。


「ふふふ、善一くんはつくづく滑稽よね」


「からかわないで下さいよ……」



 セールストークから解放されて店外に出ると、早速桜さんから弄られてしまう。コケコッケイー。


 結局さっきのお店では何も購入しなかった。ただ『せっかく来たんだから持っていけ!』と芳香剤を無理矢理プレゼントされた。無料お試しセットとかなのかな。



「何か買ったの……?」


「ううん、貰ったんだ。渚は?」


「わ、わたしは怖くて買えなかった……」



 袋を持っていたからか渚が尋ねてきた。首を横に振って否定している。そりゃあんなマフィアの資金源みたいな場所、怖いよな。アウトでレイジな抗争とか起こりそう。


 と、人気が少ない道路へと差し掛かった。マップによるとここはデトロイトシティの”ゴーストリート”らしい。



「あら、この辺りには有名なアトラクションがあるらしいわよ。せっかくだから入っていかない? 善一くんも気に入ると思うのだけれど」


「僕ですか? どこでしょうかね。楽しみだ」


「ほら、あそこよ」



 桜さんが指差した方向には大きな洋館がそびえ立っていた。ルイージマンションっぽい雰囲気の建物。近くの看板には血のような文字でこう書かれてある。




【コノサキ 最 恐 戦 慄 迷 館 】




 ……この人はさっきから何なんだろう。



 口元を抑えながら笑っている桜さんに、少し戦慄する僕だった。


 ×××



「【最恐戦慄迷館】って一度入ったら40分は出られないらしいよー。あまりにも中が広いから、途中棄権をする人が後を絶たないんだって!」



 なんか柳葉が余計な説明をしている。これには渚の顔も曇っていた。ジェットコースターに引き続き、今度はお化け屋敷て。どこのスリル大好きっ子だよ。



 しかし、40分はとんでもないな……。



 次なる目的地の【最恐戦慄迷館】。日本のお化け屋敷No.1として名高い場所。名前くらいなら僕だって聞いたことはある。確か『世界一歩行距離が長いお化け屋敷』としてギネスには記録されていたような……。そんなのばっかり!



「ホラー系苦手な人いるかしら?」



 周りを見渡して桜さんが尋ねるが、みんな特に反応はない。菜月だけが渚の方に目を向けている。



「渚は平気?」



 グループの中では自己の意見を主張しない彼女。聞くと小さく苦笑しているが、無理して笑っているのが見え見えだった。……ダメそうですね。



「えっと、先輩。渚がちょっと苦手みたいで」


「ひゃれかと一緒ならっ……! え、えっと。誰かと……なら」



 上ずった声を出して渚が縮こまる。両手をギュッと握りしめて、なんとか今度は意見を言えたみたいだ。その声に素早く櫻木さんが反応する。



「あら、そう。なら善一くん宜しくね。葵さんの面倒を見てあげて」



 即決らしい。反論する余地も与えられない。お世話係認定だ。


 ふと隣を見ると菜月がまたしても睨んでいる。こればかりは……しょうがないだろう。



 ×××



「なんとかしなさいよっ!」


「無茶を言うな」


「今度こそ“吊り橋効果作戦”絶好の機会じゃない!」


「だからって、外で待っていてくれとは言えないだろ」



 なにせ40分だ。そんな長時間を一人で放置させるなんて拷問じゃないか。



 菜月の言い分もわかる。確かに世界最恐のお化け屋敷で二人きりなど、滅多にないチャンスではある。


 だけど、渚がいる時点で《どっきどき☆気になるあの子を守ってあげて…!? 恋のらんでぶーおばけやしき(きらきら)作戦》は不成立だ。どうあがいても三人が限界。



「だから三人ずつに分かれて行けばいいじゃないか。僕と渚と安穏、これなら一応は問題解決だろう」



 つまり、僕が二人を守る”騎士(ナイト)”になればいいのだ。



「……ま、アンタがいいならそれでいいわ。とりあえず後でまた連絡して。不測の事態もあるかもだし」


「アイアイサー」



 作戦会議終了。やはり会議は密度を濃く、端的に行うのがベストだな。



 列の最後尾に並んでいると、ふと知り合いの顔を発見した。前の方に並んでいたのは威風堂々と構えている姉貴。なんでこんなところに?


 僕にとってはお化けよりも怖い存在である。ある意味では。



 最恐お化け屋敷、果たしてどんな困難が待ち受けているのか。勿論、僕はビビったりなんかしていない。怖がってもいない。イエスキリストに誓ってもいい。断じて悲鳴をあげたりなどしないと。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「う、うわっ!」



 物陰で何かが動いた気がした。ちなみにこれは単なる威嚇である。ミイラ取りがミイラになるように、お化けを逆に驚かせてやるのだ。そうだ、幽霊バスターズしてくれる。


赤紫色に照明が光っている。頬を撫でる生暖かな風が気持ち悪い。奇妙な効果音の響く部屋の中を、僕ら三人は探索していた。


 入り口で支給された懐中電灯だけが、先の見えない道を照らしている。足元は暗くて歩きずらい。視界が真っ暗闇に包まれているせいで、今にも何か飛び出してきそうな不安に駆られている。


 上手くグループ分けは出来たが、僕が先頭を歩かなきゃならないのは中々辛い。せめて他のお客さんの後ろを付いて怖さを軽減させたい。


 よくあるじゃないか。お化け屋敷あるあるだ。道中で出会ったお客さんと一緒に探索して、なんか仲良くなる現象。ないか。



 ここは古びた屋敷。一家惨殺事件が立て続けに起きた呪われし洋館だ。管理人である夫が何故か急に気が狂ってしまって、家族である双子の娘と奥さんを斧で惨殺して、最終的に自殺した場所……だとか。



 と、そんなこんなで真っ正面に姿鏡が現れる。近付きたくない。絶対潜んでるパターンでしょ……。



 幽霊なんかよりも危害を加えてくる人間の方がよっぽど怖い、と僕は思う。つまり、驚かせてくるタイプのお化け屋敷が一番タチが悪いのだ。あれはズルい。あんなのは卑怯だ。お化け役という立場を利用して人を怖がらせるなんて、とんだ大悪党じゃないか。



 足が震えるのをなんとか我慢する。幼なじみの渚と肩を合わせて、鏡の前へと向かう。


このくらいの距離感だと体温が伝わってきて安心する。大丈夫だ、お化けなんていない。怪奇現象とか色々とあるけど、大体ほとんどは妖怪のせいなのだから。



 「…………」



 頭の中で楽しい事を思い浮かべながら、全力で恐怖と戦った。


 姿鏡の前を通り過ぎると、幸運なことに何も出てきやしなかった。近くで見ると鏡は割れていて、ガラスの破片がそこら中にまき散らされている。危ないな、怪我でもしたらどうするんだ。



 よく辺りを見渡す。今更ながら、意外と内部が汚れている事に気が付いたからだ。天井にはクモの巣が張られているし、おまけにどこか埃っぽい。これは何年も掃除してないな? 買い手が付かないで、空き家になった理由も分かる。




「……ったく、だから幽霊がでるんだよ」




 最恐お化け屋敷、ハウスダストにご用心と。

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