ハーレム高校生と愉快な仲間たち②
『えー、まもなく当バスは目的地であるUSJに到着致します。シートベルトをよく締めて、もう少々お待ち下さい』
……おっ、いつの間にかそんな時間か。
アナウンスと共に身体を起き上がらせる。思いの他、寝過ぎてしまった。酔い止めの効果は発揮されているので、頭痛などはしなかったが、肩が少し重い。ストレッチ代わりに首を回すとポキポキと音がする。一説によるとこれは骨が爆発しているのであまり良くないとかなんとか。
「やっとお目覚めか、イッチー。せっかくあれだけ大盛り上がりしてたってのに、よく寝てられるぜ」
僕に気付いた宗が自慢してくる。へー、あれ盛り上がったんだ。
興味はなかったので、適当に頷いて時計を見た。時刻は9時45分。ふむ、しおりの時間ピッタリだ。
×××
集合場所には他クラスの生徒も勢揃いしていた。総勢ザッと四百人程度はいるだろう。
「えっと、ここからは班ごとに整列してください」
欠伸を我慢しつつ、クラスメイト達に召集をかける。寝起きだと声はあまり出なかった。
「おはよう諸君、昨夜はよく眠れたか? 本日は課外学習がメインとなっているので、ハゲダニの一生徒として、責任と自覚を持った品位ある行動をするよう心掛けてくれたまえ」
駐車場近くの集合場所で僕らの前に現れたのは、親の顔よりも見たことのある生徒会長のツラであった。寝起き早々はキツい。朝からラーメン食べるくらいに重たいぞ。
そもそもこのオリエン自体が生徒会主催のイベントなので、今回は先生方よりも姉貴達の方が立場が上なのだろう。仕切り等は任されてはいないが、その分責任は重いだろうな。朝からカツ丼くらい重そう。
「さて、現在時刻は午前10時前。バスの出発時間は午後17時だ。という事は何時にココへ集合するか分かるな? 社会生活の基本だぞ。十秒でも遅れた者は置いていくので自腹でホテルまで来い」
情け容赦ないのがこの人の基本スタンスである。高校生にまぁまぁ無茶言ってるな……。せめて一分は待ってあげて。
ともあれ、今からだと遊べる時間は六時間程度か。昼休憩だったり、アトラクションの待ち時間などを考慮すると、思ったより余裕がないかもしれない。
「では行こうか。皆、承知の上ではあると思うが、帰宅するまでがオリエン合宿だからな。寄り道せずにちゃんと戻ってこいよ」
それは締めの言葉じゃないか? 内心そんな疑問を感じつつ、僕らは立ち上がる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ねぇ、なっちゃんは乗りたいアトラクションある? 私はね」
「待って。写真撮りましょ」
ゲート前の地球儀のところに班全員で集まっていた。作戦会議だって言ってるのに、菜月と安穏なんかは二人で写真を撮っている。こらこら、僕も混ぜてくれ。みんなで撮ろうよ、そういうのは。
「みんなー、やっはろー! あれ、どうしてガッキーもいるのー?」
リュックを背負った少女が、自前の好奇心を引っ提げて早速切り込んできた。どうして女子グループにコイツ混ざっているんだ? 的な視線を向けるのはやめてほしい。僕だって好きでいるワケではない。やれやれだぜ……。
「僕もわからん。とりあえずどこから回るか決めないか」
「そんなの適当でいいじゃん! レッツラゴーだよ」
『うるせェ! いこう!』とどこかの海賊みたいなことを言いだす彼女。おっしゃァ! 行けたらいくぞ!!
ウチのサッカー部のマネージャーは今日も今日とて楽観的であった。制服の首元にまたリボンを付けている。オレンジシャーベットのような色。
行動班一人目、元気っ娘。柳葉 明希だ。
「でも、混雑状況とかを考えて効率的に攻めた方が良くないか? 時間だって限られているんだし、どのようなアトラクションが人気なのかとかあんまりわかってないしだな……」
「なんだいユニバお初なのー? なら、あたしにまかせてー。色々紹介してあげる。なんてったって、年パス所持者だかんね。えへへ」
「なん、だと……?」
聞いたことがある。年間パスポート、略して年パス。これを所持していれば一年間は無料で入園が可能だとか。でも、株式優待とかの特典でしか手に入らないハズ……!
「一体、どうやってそれを!?」
「ふっふっふっ、懸賞で当たったのさ」
財布から出てくる金色の輝きを放ったゴールドカード。間違いない、本物だ……。これはユニバ博士と呼んでも差し替えなさそうだ。すごい、はじめて見たぞ!
「明希ちゃん……。わ、わたしも年パス持ってるよぉっ……!」
「えええ! ホント!? 見せて見せてー!」
と、負けじと応戦してきたのがもう一人の年パス所持者。声を上擦らせながらゴールドカードを出してくる。なんだ、意外とみんな持ってるんだな。
ラピスラズリの財布を手に持った行動班二人目。幼なじみの葵 渚である。
「あら、これが今日のメンバーかしら? ふふ、なんだか可笑しいことになってるわね。どうしてかしら、善一くん」
「どうしてなんでしょうね」
ラベンダー色のショルダーバッグを肩に掛けた桜さんが、お手洗いから戻ってくる。ちなみに制服着用は決定事項だが、カバン類は特に制限などはない。僕も大のトートバッグを持ってきたし。
今回の合宿では生徒会の先輩が付き添う事になっている。で、僕らの班だとその役割が書記である櫻木さんというワケだ。相変わらず、含み笑いに真意は読めない。
行動班三人目、ミステリアスウーマン櫻木 晴香さん。
「……さっさと行きましょ。混むし」
腕を組んでこちらを睨んでいたのは、さっきまで安穏と吞気に写真を撮っていたウチの副委員長であった。今日は色々と協力してくれるそうだが、あの言葉に嘘はないだろうな? 現状なんの話もしてないんだけど。
シャム猫のような澄んだ瞳でこちらを睨む行動班四人目。神速の星、海島 菜月。
そして。
「みんな揃ったし。いこっか、善一くん」
「……おう」
最後に話しかけてくれたのが、クラスメイトの安穏 のどかだった。
行動班最後の一人、純白純粋可憐スウィートピー最強美少女ガールこと大天使ヒューマンofヴィーナスinかぐや姫にして、僕の初恋の相手。今日もおっとりとした態度を取っている。
彼女と会うと、まるであぜ道のたんぽぽを眺めているような気持ちになってくる。
……つくづく僕もバカだな。さっきまで『班に男子一人なのはふざけてる』とか思っていたクセに、この子が現れたらすぐコレだ。口元が自然と緩んで何もかもが許せてくる。
なにが効率的に回るだよ、適当なことを言いやがって。本当は彼女が退屈しないように、楽しめるルートを考えていたってのが本心なのにさ。絶叫系は大丈夫なのかなとか、ホラー系は苦手かなとか、そう思っていたんだろこの大バカモノめが。
……あぁ、好きな人が近くにいたらどうしてこんなに心が軽くなってしまうのだろう。恋をした乙女がポエムを口ずさんでしまう気持ちが少し分かってしまったぞ。
友達になりたい、という最初のアクションは失敗だった。返事は有耶無耶で流れてしまったし、なんか変な感じになってしまったけど、今になって考えてみたらどうでもいいことである。
もっと近づきたい。同じ場所で感動を共有して、喜びを分かち合いたい。今日はそれが目的なのだ。一緒に過ごせるだけで充分満足なのだから。
さあ、いこう。
────オリエン合宿の開戦だ。