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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【秋冬編─如月 冬華】
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善一と冬華②



 月曜日、朝から頭が痛かった。誰かに見られている。そう感じる。校舎のゴミ拾いをしてるときも、渚のお弁当を食べてる時も、休み時間にノートに[To-Doリスト]を書いてる際も、見られてる感覚は消えなかった。


 最初は殺害予告の犯人か、はたまたファンクラブの過激メンバーの一人がストーキング行為をしているのかと思っていたのだが、そうではなかった。

 正体が発覚したのは、五限目の地理の授業中である。


 ×××


 教室は暖房が効いていて、空気が重かった。長袖シャツをまくると、日焼け跡が地図のように見えた。


「なんだよ」


 正体は隣の席の如月だった。

 目を合わせても、逸らそうとしない。


「地図記号でもわからないのか?」


 低い声で尋ねると、丸めたルーズリーフを投げてきた。クラスメイトがよくやる手紙回しだ。授業の妨げになるからやめてほしい。84円切手を貼ってほしい。



──────────────────────


     あやまりたい


──────────────────────



 ひらがな6文字が綴られている。

 僕は何も言わず、ノートにそれを挟んだ。



 ※ ※ ※


 雨が降っている。柔らかい地表が盛り上がっている。どこかタイムカプセルでも埋めれそうな「土」だった。


 南校舎裏、屋根の付いた休憩所。

 誰もいない自販機エリア。

 錆びたベンチの上で、僕と如月はアイスを食べている。寒いとき、食べたくなるのはどうしてなんだろう。


「やっぱ『3.1(サンテンワン)』は定番だよな」


 彼女は応えない。

 クセ毛が揺れる。


「3種類の[バニラ][チョコ][抹茶]のフレーバーがありながら[チョコバニラ抹茶]という+.1(テンワン)したミックス味を同時に販売してる点が、逆に一個のフレーバーを引き立たせる形になっていて、企業戦略として成功してるというか、開発部門の発想/着眼に脱帽というか……」


「……ごめんなさい。」


 気まずさを払拭するための自販機アイス講釈は早々に打ち切られてしまった。アイスの棒をぱきりと折る。


「まだ、怒ってる?」

「怒ってない。アンガーマネジメントは心掛けている」

「アイス…食べる?」

「いや、食べ物で釣ろうとするな! 誰がアイス大好きっ子だよ。好みでアイスの話をしてたわけじゃないぞ?」


 頭を冷やせ、という皮肉かもしれない。

 ゴホンと咳払いをする。



「……先週のことは、こっちも悪かった。ごめん。ちょっと言い過ぎてしまった。なんていうか、踏み躙られた気がして。己のポリシーを」



 左側に微かな温度を感じる。

 また少し、頭痛がした。



「僕は、恋愛脳ってやつかもしれない。脳内メーカーでいうところの『愛』という文字で頭がいっぱいになってる状態に近い。故に凝り固まっているんだ。今の自分の死生観は恋愛観と同義だから、お前の科学的な視点は確かに正しくて、良い視点の提供で、ある意味では面白いんだけど……どこか“正しさの奴隷”のように見えた」



 如月にはこの説明が伝わっていないようで「…?」と首をかしげている。

 僕自身もどう喋ればいいのか、困難だった。



「えっと、例えば野球が好きな人に対して『ただ長い棒で硬い球を遠くに飛ばしてるだけじゃん』と言ったら、良い気はされないだろ? それとおんなじだ。大雑把に括ってしまえば意味を失う。温泉は集団の湯浴びだし、映画はデカい画面の前に並んで座って偽の映像を垂れ流すだけ。食事は単なる栄養補給。過程の重要性を無視して、結果だけ見てしまえば、日常はただの消費になる」


「……わからない。」



 如月がそうつぶやく。

 その正直な反応が、むしろ人間らしかった。



「人間には感情があるからさ、安易に認めたくないんだよ。無意味な行動を取ってる自分を正当化したりもするもんだ。……でも僕はそれでいいと思っている」



 たとえば、傘を失くさないために高価な傘を買ったのに、使うのが勿体無いと渋って、結局はビニール傘を持ち歩いているような、そんな無意味さが好きだった。

 逆に、マッチングアプリは好まなかった。

 恋愛は偶発的な出会いの連続の中で発生してゆく事象なのに、企業が介入してビジネスにしてしまったら、こんなのはもうディストピアの入り口だろう。


 だから僕は──自分の決断で、自分の心で、人を好きになりたかった。



「……理解不能。」

「だよな」


 雨が、降り続けている。



「……提案をしたのは間違いだった。あなたを怒らせてしまった。後悔でいっぱい。私には早計だった。」


「意地悪なことを聞くんだけどさ、どうして謝罪しようと思ったんだ? 『協力はしない』『友達ですらない』と言われた時点で、関わるのを辞めればいい。わざわざ自分の気持ちを弁明する必要があるのか?」



 文化体育祭の実行委員同士だから仲良くしておきたいという打算があったのかもしれない。

 もしくは、影響力がある僕に嫌われて、陰口を叩かれることを恐れているのかもしれない。

 どちらにせよ、普段から自己完結的な振る舞いをしている彼女にしては意外な行動ではあるが。



「…………あなたとの、関係性を失いたくなかった。」



「えっ?」



 更に意外なことを言われた。

 彼女はうつむいている。



「私は本が好き。本は雑音を防いでくれる。世界は雑音でいっぱい。物語の中には度々『恋』や『愛』の描写が挟まる。恋愛を知らない私にとって、それは不明瞭で非科学的な感情。『憧れ』や『好奇』があった。私は本の中でその知識を得て、その経験への期待を抱いていた。そこへあなたがきた」


「……」


「あなたと話していて、私は『好奇』を抱いた。雑音を感じなかったのは初めての経験。提案は早計だったので、やり直したかった。まずは友達になりたいと思った。より良い関係性を築きたい。親しくなりたい。でなければ、最初から提案などしていない」


「……お前も充分恋愛脳かもしれないな。大切な感情だぞ、それ」



 照れ隠しでそう言ってみたものの、本当は彼女はコミュニケーションが下手ってだけで、単に「友達が欲しい」だけなのかもしれない。

 誰かの輪に入り、世界と繋がってみたかった。

 きっとそれが、彼女のいう『好奇』。



「新垣善一」

「なんだ」


「──今日、私の家にくる?」


 またしても、唐突な提案だった。



 [To-Doリスト]


 □文化体育祭の打ち合わせ/スケジュール確認

 □ノンアルBAR企画の発注準備等(認可おりれば)

 □安穏に謝る(LINEする?)

 □菜月とジムにいく

 □明希の撮影協力

 □渚にお返しの品を渡す

 □自主練・筋トレ(全高選に向けて)

 □買い出し/晩ごはんを作る

 □殺害予告捜査(念のため)

 □京都旅行(生の舞妓をみたい)



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