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僕は友達が少ないハーレム高校生。


「善一、今日部活休みでしょ。放課後付き合って!」


「ん?」


「じゃあ、そーいうことだからっ」



 昼休みに菜月からそのようなお呼びがかかった。


 例の一件が終わった後、僕と菜月は少しだけ打ち解けられる仲へとなっていた。以前のように暴言も吐かれない、金的キックもされない、健全なクラスメイトの関係として。



 勿論、変わったのは菜月だけではない。



「おいおい、聞いたか井口氏。こいつ今デートに誘われたぞ。好きな子がいるってのに、別の女と仲良くしてるってどーよ」



「ゲス不倫の兆しが見えますね。彼女が出来たとしても気苦労されるのでは?」



 鼻くそをほじっている宗が話しかけたのは、コン研の新部長である井口くんことヨッシーであった。


 彼も僕らのパーティの仲間入りを果たしたのである。これぞいつメンだ。いつメン。


 二人とも根っこが腐っているので意外と気が合うらしい。仲良しなのは良い事である。けれど、先程の言葉は聞き捨てならない。



「別になにもないよ。ただのクラス委員長同士だし、あっちが誘ってきたんじゃないか」



「責任転嫁乙。なーにがクラス委員長だ。お互いの名前を呼びあって、堂々とデートの約束をする。見せつけてくれるよなオイ」



「私も以前にそれを指摘したんですよ。普通の男女関係で名前を呼び合うのは、かなり親しい仲で無ければ有り得ませんしね。ちなみに名前を呼び合わないカップルの破局率は86%ですので、そちらの意味では順調かと」



 胸ポケットからなんか《マル秘》と書かれたメモ帳を取り出して、読み上げているヨッシー。……なんだそれ、付き合ってないぞ。



「ははーん、分かったぜ。どうせアレだろ? 弱みに付け込んで、優しい言葉をかけたんだろ? まー、イッチーにはギュッと抱きしめて慰めてあげるなんて気概はないしな」



 僕を煽るのが趣味なクッシーこと玉櫛くん。……正直、その辺りは弁明したら反感を買いそうなので黙っておく。は、ハグとかしてないと思うよ? う、うん。



「なにはともあれ、僕は安穏を諦めてないし機会を伺っているだけだ。ほら、もうすぐオリエン合宿だろ?」



 ずっと待ち望んでいた一泊二日のオリエンテーション合宿が、遂に目前へと迫っていた。二日後の木曜日。部屋の班割とかもまだ済ませていないから、明日には片付けないといけない。



「ハゲダニのオリエン合宿と言えば、カップルの成就率は38.5%と比較的高い事で有名なイベントですからね。『告白は出逢って三ヶ月以内の方が成功しやすい』とも言われておりますし」



 ……だからさっきからなんだ、その知識お披露目会は。どこからデータを集めたんだ。あといちいちドヤ顔しなくていい。もう十分情報通ってのは知ってるから。



「そんな事も書いてんのか、スゲーな。ちょっと読んでもいい?」


「ええ、どうぞ。お勧めはこのページです」



 手帳を読み合いっこしている二人。なにやらコソコソと半笑いを浮かべている。気持ち悪い……。僕は絶対読まないからな。



「ハゲダニには”四天女(してんにょ)”と”三銃紳士(さんじゅうしんし)”ってのがいるのか。へぇ……」


「代々歴戦の猛者たちは、この名を受け継ぐために死闘を繰り広げたそうですよ。ですが、見て下さい……! 時代は大きく変わろうとしています。これこそ」



「【玉の世代】か……」



 だからなに言ってるんだ、この二人は。頭ファンタジーか?



 楽しそうに談笑してる彼らを尻目に、僕は窓の外の晴れた青空を眺めていた。


 最後の宿泊メンバーに、一体誰を誘おうかなと頭を悩ませながら。


 ※ ※ ※ ※ ※



 オリエン合宿のしおりを開く。班構成に関しての記載をもう一度だけ読み直すことにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


・宿泊部屋は四人部屋と六人部屋のどちらかが選択でき、同性限定で好きなメンバーを自由に選ぶことができる。他の部屋に行くことは原則として禁止されており、厳しい罰則に処す場合もある。※1



・グループメンバーは基本的に男女混合五名自由班である。また+1人生徒会の先輩が付き添う事となる。場合によっては2名となる可能性も。委員長と副委員長のみ同じ班になって貰うようにお願いしている。基本的に彼ら二人が「代表班」として、他の班の点呼などを行なって貰う。※2



※1 しかしながら例外も存在し、もし希望者があれば一人部屋も用意することができる。設備に関しては特に問題はないが、一人部屋のみ階層が違うので注意しなくてはならない。また部屋数も決まっており、希望者多数の場合は抽選によって決定する。



※2 どこのグループ班にも入れなかった者は、特別措置として[生徒会特別陣営]に入隊を許可している。友達ができない、ひとりの方が好きという方でも是非参加するようにお願いしている。このグループは生徒会長が指揮を取っているので、なんら不安無く行事に集中することが可能で(以下略)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 はえー、特別措置ね。いわゆるぼっち化を防ぐ対策をしているのか。一人部屋用意はまだしも、生徒会特別陣営とか絶対入りたくないな……。まぁ、菜月もいるからグループ班は問題ないんだけど。



 校庭のベンチに座りながら、もう一度思考する。問題は宿泊班の方だ。



 残念ながら正直なところ、僕には男子のクラスメイトの知り合いがあまりいない。クラスの同級生たちは既にグループが作られており、僕と宗とヨッシーは孤立した状態なのだ。ここから立て直すのはかなり厳しい。


 三人グループと合致というのも良いのだが、ウチの宗も井口くんもあまり団体行動が得意ではないので六人となると嫌がることだろう。なので、四人にすることが先決だ。



 せめて、後一人。誰か知り合いを見つけないと。一緒の部屋を過ごす大切なメンバーを誰か……。

 


「隣、いいかしら」



「あ、すいません。ど……ウェッ!?」



 綺麗な女性の声が聞こえたので視線をやる。隣に座ったのは文庫本を片手に持っているサクラ先輩だった。意味深な笑みを浮かべて、スカートをひらりと払う。



「あら、どうしたの? そんなスケベな顔をして」


「どんな顔ですか」


「はい」



 ポケットから手鏡を取り出してこちらに見せてくる。あぁ、確かに。鼻の下を伸ばした間抜けな顔にーーって違う!



「一体なんなんですか、櫻木さん!」


「あら、本名教えたかしら? できれば下の名前で呼んで欲しいわね。“晴香”って」



「やっぱりからかいにきたんですね……」


「当然よ。だって善一くんの反応おもしろいんだもの」



 ウフフ、と口元を抑えながら笑っているサクラさん。からかい上手の櫻木さんだ。



「こ、こんにちは」


「ええ、こんにちは。帰らないの?」



 きちんと挨拶を交わす。距離が近い。これでは付き合っているカップルと勘違いされてしまうぞ……。



「ちょっと知人を待ってまして……」


「あら、そうなの。一緒に帰りたかったわね、残念」



 僕を弄ることをやめない先輩はどうやらこれから帰宅らしい。オリエン合宿の影響で今はどの部活も活動はしていないのだ。



「そうですね。僕も一緒に帰りたかったです」


「それはそうと、善一くん。お友達が大変だったそうね」



 便乗したのに華麗なスルーをしてくる桜先輩。もう二度とやらないと心に決めた。


 櫻木さんが口にしたのは菜月のことだろう。姉貴が動いたのだから、生徒会が関与しているのは間違いない。勿論、生徒会書記であるこの人も関与しているのだろう。



「海島菜月のことですかね。姉貴もそうですが、解決の力添えをして頂き、本当にありがとうございます」



「いえいえ。奈々美さんが先陣切ったのだから、私たちは何もしていないわ。彼女を説得したのは貴方なんでしょう? 学校を辞めるまで追い込まれていたのだし」



 桜さんはそう言って、頭を下げた僕の頭をトントンと叩いて顔を上げるように合図をする。そしてこのような言葉をかけてくれる。



「彼女、ずっと誰にも見えない所で抱え続けていたのね。その氷を破ったのは貴方。あの子の背中を後押ししたのは貴方のお陰よ。陸上部で活躍しているそうじゃない」



 頷きながらちゃんと褒めてくれる。お世辞でも、からかいでもない、本心の言葉。



 けど、素直には喜べなかった。



「嬉しいですけど……僕は実際なにもしてません。アレは菜月がちゃんと過去を乗り越えただけであって、解決と言っても……任せろと言いながら姉貴に全部任せてしまったし」



「そうね、じゃあ何もしてないわね。貴方がそう思うならば」



 ズバリと冷たく彼女は切り捨てる。ハッキリとした言葉に、この人はお世辞を言わないタイプだと気付かされた。


 けれどね、と桜さんは続ける。



「海島さんだっけ? あの子は感謝していると思うわ。貴方にね。だからそこは素直に受け入れてあげなさい。謙虚が時には嫌味に聞こえるのだから、今後は注意すること」



 弱音を吐く自分を奮い立たせるような暖かい助言だった。先輩はスカートの砂を払って、立ち上がる。



「授業はおわり。では、また明後日ね」



「ありがとうございます! また明後日」



 言ってから思う。明後日って?



 手を振りながら颯爽と去っていく先輩。いつも思うのだが、長話は嫌いなのだろうか。兎にも角にも励まされたのは事実だ。



 気持ちが少し軽くなった。何事もプラスに捉えなくちゃな。頷きながら前を向く。



「ねぇ、善一。なにしてるの?」




「へっ……」



 と、目の前には鬼の形相で僕を見る菜月が立っていた。

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