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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【夏編─海合宿(下)】
229/279

夜のほどろ。

(side:葵 渚)


 明希ちゃんと善一くんが帰ってきました。

 善一くんが櫻木先輩のお手伝いに行ったので、わたしたちは明希ちゃんが買ってきた食材の調理をすることにしました。

 先程は仕事を何もしてなかったので、今度はわたしが働く番です。


「のどかさんはさっき頑張ってくれたから、ここはわたしがやるね。休んでいていいよっ」

「あ、おねがいー」


 素っ気なく言われたのでムカついて、手元にあったニンジンを強くバッサリと切ってしまい、もう少しで小指すらも切ってしまって、ヤクザさんの仲間入りを疑われるところではありましたが、それはなんとか回避できました。

 隣の明希ちゃんが向日葵のエプロンを付けてます。

 とってもかわいい。のどかちゃんよりかわいい。


「うしろ結んでおくれー、なぎたーん」

「うんっ……!」


 わたしが結んであげると、明希ちゃんはあっという間にドレスコードを終えました。なんて可愛いのでしょうか。

 それはそうとさっきは買い出しのときに何やら善一くんと楽しそうに会話をしながら帰っていましたね。純粋ぶって、そうやって抜け駆けするのは一番タチが悪いですよ?

 でも、明希ちゃんのことだからそんなことしてないって信じてます。

 本当に明希ちゃんは友達想いのいい子ですから。


「……で、なんかあたしは手伝うことあるわけ?」


 菜月ちゃんがダルそうに腰に手を当てて、頭に料理頭巾を被っています。なぜか、ノリノリです。


「菜月ちゃんは一緒に手伝って……? 明希ちゃんは串の準備をお願いっ! のどかさんは休んでいてね。なにもしなくていいからね」


「じゃあ、飲み物の準備とかしておくねー」



 わたしの言うことを無視して勝手に作業をするのどかさんに腹が立って、また野菜で手を切りそうになりました。

 それを見ていた菜月さんが後ろで「はぁ……」とため息をついている。

 傍観者ヅラをして中立を保っている素振りを出してはいるけれど、菜月さんだってせっかくわたしと善一くんがかき氷を買いにいこうとしたとき、コソコソと付いてきた邪魔をしてきたクセに。コバンザメのクセに。

 わたしを敵扱いして善一くんの好感度を上げようとするとは、なんて卑怯な女でしょうか。いざというときにのどかさんという親友を裏切って、切り捨てて、そういう魂胆が見え見えです。結局、菜月ちゃんも澄ましているのに下心の塊なんだね。そういうの興味ないですよー、みたいなつんけんした態度をとって、善一くんの前ではついついお尻を振っちゃうんですね。品が良いのか悪いのかはわかりませんが。



「菜月ちゃんって可愛いねっ」


「……はぁ? なにを急に。気持ち悪い」


「わたし、菜月ちゃんみたいになりたい」


「……意味わかんないから」



 言うと菜月ちゃんは照れ隠しではなく、本当に心の底から興味がなさそうに切り捨てました。わたしは野菜のヘタを切り捨てました。菜月ちゃんは野菜の皮剥きをしています。手際が良いです。狭いキッチンの中で、わたしと明希ちゃんと菜月ちゃんで作業をおこなっています。


 その間、のどかちゃんはスマホを触っていました。

 しばらくしてから申し訳なさそうに紙コップの準備とかをしていましたが、わたしは絶対に善一くんにそれをチクってやろうと思いました。


 性格が悪い? そんなことをしても善一くんはわたしには振り向いてもらえないよ?って。

 そんなのは覚悟の上です。

 わたしはただ善一くんとのどかさんの恋路が成就しないように、嫌がらせをしたいだけなのですから。


 ※ ※ ※



「善一くんっ……! わたし、料理作ったんだよ?」


「おお、そうか……。お疲れ様!ありがとう」



 明希ちゃんや菜月ちゃんと楽しげに喋っている善一くんにイラついて椅子にタックルをくらわせると、彼は愛想笑いを浮かべました。その顔を見たくなくて、言葉を続けます。


「野菜はわたしが切ったの。串のセッティングは明希ちゃん」


「準備大変だったろうに。ありがとうな、渚。安穏も、菜月も、明希も」


「のどかさんは何もしてなかった」


「え」


()()()()()は何もしてなかったよぉ……?」



 指をさしてチクチクと嫌味を言っていると、のどかちゃんは反撃を始めました。



「……してたじゃん。紙コップとか飲み物の準備してたし。それに葵さんがスペースを独占してたから邪魔かなと思って端っこにいただけ。洗い物とかはがんばるから」



 本当に頑張るのでしょうか。

 どうしても嘘に聞こえます。



「……いやいや、それは決めつけが過ぎるんじゃないか」



 すると善一くんものどかちゃんの味方をはじめました。

 そりゃそうです。誰が見たって不快に思います。

 好きな女性が目の前で傷つけられていて黙っていない男性はいません。いたとしたらそれは好きではないか、小物ですから。


 

「善一くん、あんまり相手にしないほうがいいよー。その子、会話通じないから」


「……はい?」



 わたしをアスペ呼ばわりしてきたのどかちゃんにはついついイラッときてしまいました。



「え、会話通じないってどういう意味? 今、現に会話できてたじゃん?」


「……あー、めんどくさい。こっちに絡んでこないでよ。もう早くご飯たべない?」


「そっちが絡んできているじゃん。そっちが絡んできたクセに何が『会話が通じない』なのっ? 安穏さんって家事も何も出来ないクセにえらそうだよね」



 言い争いになりかけたのですが、



「……もういいって! さっきから面倒くさいのよアンタ! なんなの!?」


「あ、ごめんなさい……菜月ちゃんを怒らせるつもりはなかったの。許してっ……! 菜月ちゃんのことは好きだから。ごめん。ごめんね」



 途中で菜月ちゃんまで参戦してきたので、謝ってその場を収めることにしました。


 その間、ずーっと櫻木先輩は陰でニタニタと笑っていました。性格悪いなーと思いながら、自分も他人のことを言えないなと感じ、つられて自虐的に笑ってしまいました。


 ※ ※ ※


「こわいんでしょう?」


 BBQの片付けをしているときです。

 櫻木先輩がそっと耳打ちをしてきました。

 わたしは白い皿を両手に持ちながら、顔を向けます。


「……え?」


「顔に出ているわね。敵役(ヒール)になるのが怖いって。ずーっと我慢していたのね。自分の言いたいことをぜんぶ。だからいざ自分が言いたいことを言うようになったとき、ワガママじゃないかなと他人の目を極度に気にし過ぎている。本当は争いなんて好きじゃないのね。御免なさいね、嫌な立場を押し付けてしまって」


「い、いえ、そんなっ……」


 指先が震えて皿を落としそうになる。

 のどかちゃんに見られてはいないだろうか。

 彼女は宣言どおり、彼と洗い物をしに別荘へと戻った。

 どうせまたイチャコラしていることであろう。


「損な立ち回りよね。幼馴染みって。正妻にはなれずに一生親戚扱い。可哀想に。動揺を隠して切れていないわ。女優に徹するなら情は捨てなきゃ。根っこの臆病さが目に出ている」


「……えっ? ご、ごめんなさいっ」


 目を伏せて謝ってしまう。

 声が小さくなる。


 見極められている。わかられている。そうです、そのとおりです。本当はこんなことはしたくありません。のどかちゃんをいじめたくはありません。嫌がらせなんてしたくないです。むりやり自分の心を騙して、あの人は敵だと嘯いて、彼女を悪だと正当化して、攻撃をしています。

 サイテーな女なのは、わたしのほうです。

 こわいです。今すぐに謝りたいです。

 だけど、だけどだけど、このままだと何も状況が変化しないこともわかっています。

 それはいやです。だから、覚悟を決めてやっているのです。

 前に進まないと欲しいものは手に入りませんから。

 果報は寝て待て、なんて嘘っぱちです。



「……彼はつくづく罪な男ね。おいで、抱きしめてあげる。可哀想にね。我慢してたのね」



 桜さんが誰もいないところでわたしをギュッと抱きしめてくれました。

 なんだかとっても優しくて泣きそうになりました。

 おっぱいがわたしを包み込んでいます。



「大丈夫、その調子でいい。彼女たち皆が敵に回って、彼すらも嫌な顔をして、周囲が皆んな白い目で貴女を嫌いだと避けていたとしても、私だけは貴女の味方よ──。苦しいでしょう、悲しいでしょう、解放されたいでしょう。ならば決着をつけるのよ。ピリオドをつけて。今夜に、ね」


「……決着、ですか?」


「そ。決着をつけるの。負けるとわかってても挑まないといけない時だってある」



 櫻木先輩が私の頬を両手で包んでニッコリと笑いかけてくれました。

 その笑みは女神のようにも、悪魔のようにも見えました。



 ※ ※ ※





 洗い物をしているのどかちゃんと善一くんに会おうとリビングの扉を開くと、善一くんがソファーで寝ているのが見えました。残念です。善一くんも交えて話をしたかったのに。


 のどかちゃんはジーッと寝顔を見ていました。

 洗い物はぜんぶのどかちゃんがやったみたいです。

 ブランケットを被せて、彼をジーッと眺めています。


 私は見てはいけないものを見た気がして、しばらく固まっていましたが、勇気を出して声をかけました。



「のどかさん、なにやってるの?」


「……あ。帰ってきてたんだ。びっくりした」



 のどかさんは本当にびっくりしたように「わっ」と声を上げました。

 その様子がとっても可愛くてムカつきました。

 同時に胸が痛みました。



「みんなで銭湯にいこうって話をしているんだけど、いかないの?」


「あ、私はなっちゃんと別荘のシャワーで入ろうかなって話をしてて。みんなでいってきなよ」


「のどかちゃん、一緒にいこう? さっきはごめんね」


「でも、なっちゃんが……」


「じゃあ、菜月ちゃんも一緒にいこう? あれ、菜月ちゃんはどこいったの?」


「お風呂の準備しているみたい。くるかな?」


「んー、とりあえずのどかちゃんは準備できたらいこ? 外で待っているねっ……!」



 明希ちゃんと櫻木さんも外で待っているよ、と促しながら玄関の扉を開きます。

 明希ちゃんがゴミ捨てを終えたみたいで「ふぅー」と額を掻きました。



「あたしははらぁいっぱいでさぁよぉー。一仕事終えましたべ! 温泉!温泉!さいこうだー!」


「あら、のどかさんたちは来ないの?」


「今、準備をしているそうです」



 玄関の扉が開きます。

 のどかちゃんが出てきました。



「ごめん、なっちゃんが銭湯には行かないって。裸とか見られるの恥ずかしいみたい。だから、私も残るよ」


「え、なんで? のどかちゃんはいこうよ」


「……なっちゃんが行かないのなら行かない」


「なんで?」


「……そっちこそ、なんで? さっきまであんな態度取っていたのに、なんでそんなに一緒にいようとするの。こわいよ」


「こわくないよ。のどかちゃん、いこっ……?」


「いかないって」


「──それは、少しでも善一くんと一緒に居たいから?」



 私は手に持っていたバスグッズを足元に叩きつけながら、そう聞き返しました。

 後ろにいた明希ちゃんが「ええっ!?」と声をあげました。

 のどかちゃんを睨みつけると、彼女は少し悲しそうな表情を見せていました。



「……善一くんは関係ないって。もうやめようよ、渚ちゃん。気を悪くしたなら謝るから。仲良くしようよ」


「じゃあ、謝って。土下座してもいいよっ? 一体なにを謝るのか、わたしもイマイチわかってないけど」



 のどかちゃんが両手をぎゅっと握りしめました。

 それはわたしがよくやるポーズです。

 わたしのです。

 なんでのどかちゃんは、のどかちゃんは!

 わたしの全部を奪おうとするのですか──?



「仲良くなんてできないの。わたしだってしたいよ。でも、できないよ。だって、のどかちゃんは明日、善一くんと二人だけで夏祭りにいくもんねっ?」


「……えっ? なんでそれを」



 ドアが開きます。菜月ちゃんが現れました。

 今の状況に苦言を呈そうと頭を掻いていました。



「菜月ちゃんもよく聞いててね。のどかちゃんはね、明日善一くんと二人で夏祭りに行くの。そこで大事な話をするって言われたんだよねっ……?」


「……」



 沈黙はイエスを意味していました。

 善一くん以外、全員そこにいましたが、誰も茶々を入れることはありません。



「大事な話ってなんだろう。でも、簡単だよね。男女が二人で夏祭りにいく。そして【大事な話がある】と前置きをされている。相当に鈍感じゃない限り、なにを言われるかなんて想像はつくよね。のどかちゃんもそこまでバカじゃないよね?」


「…………」



 彼女はなにも言いません。

 わたしはまるでスティーブン・ジョブズのプレゼンのようにその場を動きながら、のどかちゃんを追い詰めるための言葉を並べます。



「本来はみんなで行く約束だったのにね。それを抜け駆けっていうんだよ。善一くんと二人で夏祭りに行く、きっとそれは少なからずみんなが望んでいたこと。だけど、あなたがそれを勝ち取った。そこに対して怒っても仕方ない。だから、せめて答えを聞かせてほしいの。あなたの答えを。あなたの本心を──。それが責任だと思うから。逃げないでね?」



 反論の声はありませんでした。

 見ててくださいね、櫻木先輩。

 わたし、勇気を出しますよ。





「のどかちゃんは──善一くんのことが好きなの? 彼の告白を受け入れて、恋人になりたいの? おねがい。今ここで、わたしたちの前で、答えを聞かせて」









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