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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【僕はハーレム中学生。】
202/279

僕はハーレム中学生ですが、なにか?


 ──僕は、恋愛に興味はない。


 

挿絵(By みてみん)


 バカなクラスメイトたちがまたしても退化した猿のように愚かな話で盛り上がっているのを、机に突っ伏しながら舌打ちと貧乏揺すりを混ぜ込みながら、やることもないのでラジオ感覚で聴いていた。


 最近◯ちゃんが×くんに告白されて付き合って泊まりにいって云々して、□くんと△ちゃんは付き合っていたけど最近浮気がバレたらしくて揉めて別れて他の学校の野球部のα先輩と云々して……それで云々閑雲でどうたらこうたらなあーだこーだでちんぷんかんぷんのアジャラカモクレンテケレッツのパーだ。


 クソくだらないという言葉で一蹴すれば早い話ではあるが、そうやって奴らをわざわざ否定するのも同じ土俵に立っている気がして、ムカついてきて吐きそうになった……というか実際に吐いた。


 脳内お花畑の連中を見ていたら苛々してしまう。


 とはいえど『俺、人生わかってまっせ?』感を出して物事を達観してるやつもそれはそれで腹が立つ。

 この国は終わっているなどといって、朝日の美しさや楽しさから目を背けて、一方的に死んだように目をして、SNSで文句ばかり言ってる奴らに比べたら、まだコイツらはマシかもしれない。

 そうすると下世話な話も許容できる。


 ああ、許せてくる。許せてくるぞ。

 許す、許す、許す、許すのが男だ。


 というわけで、休み時間の間、僕はイライラしつつも、だけどそんな自分を嫌いながら、ひたすら思考を深めていた。


 朝日坂中学二年の教室の中で、僕はいつも独りだった。


 ※ ※ ※


 今日も下駄箱に手紙が入っていた。

 「昼休み、校舎裏に来てくれませんか」という文字を見た瞬間、頭痛がしてついつい早退したくなったが、それでも相手をしなければいけないと思い、足早に向かった。


「あの……新垣くん、急にごめんね」


 学生服に身を包んだ女の子が立っている。

 短い髪にメガネをかけた、目がぱっちりとした女の子。


 彼女は同じクラスの──(ひいらぎ) 香織(かおる)さんである。


 この子はどちらかといえば地味めの女の子で、図書委員をやっていた。

 本が好きなようで、タイプとしては渚によく似ている。


 何故かは知らないけれど、ちょくちょく僕に話しかけてくれたりしていて、こうやってたまに手紙を渡してくれたりするのである。

 ああ、なんとなくわかっている。

 この子はきっと僕のことをそれなりに好いてくれていて、きっと仲良くなりたいんだろう。

 だけど、僕はその子のことを好きではなかった。

 

 こんなことを言ったらすごく失礼だし、その子のことを傷つけてしまうからとても言えないけれど、あまり可愛いと思えなかったのである。


 声だって小さいし、質問ばかりしてくるし、正直僕は鬱陶しいと思っていた。

 だからいつもあまり良くない態度を取ってしまっている。

 この日もそうだった。



「大丈夫だけど。用ってなんだ?」


「あの……昨日、話してたドラマって見た? 吉沢亮真くんがすごくカッコよくてね、ドキドキする展開だったの」


「ごめん、ドラマはあまり見ないんだ」


「そっか……。じゃあ、映画は? 映画はみる?」


「……映画はまぁ」



 言葉に詰まる。映画はそれなりに見てはいたけれど、それを聞いたところで彼女に一体なんの利があるというのだろうか。

 そもそもわざわざここまで呼び出してきて、そんな話をする必要はない。

 教室でできる話である。



「じゃあ、今度の週末に一緒に映画を観にいかない……? 新垣くんがよかったらだけど」


「ああごめん。土日は部活があって」


「そうなんだ……残念。じゃあ、来週は?」


「来週なら……」


「来週空いてるの?」


「空いてるっちゃ空いてるかもしれないし、空いてない可能性もなきにしもあらずだけど……現状は空いてるがもしかしたら予定が入るかもだし、でも空いてはいる」



 言葉を濁す。空いてる店は空いていて、閉まっている店は閉まっている、というくらい至極当たり前の言い分である。

 本当はハッキリと断ってもよかった。

 映画は一人で見る派だし吹き替え派だし、もし柊さんが字幕厨だったら喧嘩してしまう可能性だってあったが、でも近頃観たい映画が何本かあったので、無下にはできなかった。



「そ、そっか。まだわからないもんね。ごめんね」



 彼女が小さくお辞儀をすると同時にチャイムが鳴る。

 そろそろ教室に帰らなくてはならない。



「あ、そういえば新垣くんってLINEとかやってる? スマホって」


「ごめん、LINEはやってない。携帯を持ってないんだ」


「そ、そっか。じゃあまた買ったら教えてね。また手紙書くね! ばいばい」


「あ、うん。ではまた」



 彼女はそう言って、そそくさと先に帰ってゆく。

 残された僕はその場にしゃがみ込んで、頭を抱えて「はぁ〜〜〜」とクソデカため息を溢すのだった。


 ※ ※ ※



「おい、イッチー。柊さんがお前と遊びたいって間接的に俺に伝えてきてたぞ」


「知らん。ほっとけ」


「いやならちゃんと断れよな。俺を巻き込むなっての。俺はお前のバーターじゃねぇから!!」



 部活の休憩中、汗を拭いているといつもの大親友がくだらないことでウザ絡みしてきた。

 彼はサッカーが上手いし、色んなことを知ってはいて魅力的ではあるが、人間としては終わっている。



「……バーターって。確かに宗は知名度が低いしな」


「うるせぇよ! 知名度はあるだろ。街を歩けばみんな俺のほうを振り向くからな」


「そんな絶世の美女みたいな」


「あのオードリーヘップバーンも俺に嫉妬したからな!」


「嘘こけ!」



 だったら、ティファニーで朝食でもとってろい!



「そりゃよー、あの完璧超人クールビューティー大先生の親族の者に比べりゃさぁ、俺の知名度なんてミジンコに等しいけれども」


「そんな自分を卑下しなくとも」


「いやいや、事実事実。あ、ごめんなさい! ワタクシみたいな凡人があの怪物のご令弟様に話しかけてしまって……も、申し訳ございません〜! あなた様のお靴が大地で穢れぬように、どうぞワタクシの背中を踏んでくださいましぃ〜〜〜!!」


「……もういいって」



 呆れつつもそれでも宗と喋るのはラクだった。

 女子との会話はどーしても疲れてしまう。

 みんな女子と話したい!と鼻息を荒くしているけれど、正直全然共感できなかった。

 さぐりさぐりのジャブのような質問をぶつけてこられても「だからなに?」と思うだけである。

 インタビューされてるみたいで、全然楽しくない!



「それにしても、お前の姉貴は本当に天才だよな〜。またなんかの大会で優勝したんだろ? すげえわマジで。推せる」


「人の姉を推すな」



 姉貴はすごい。それはこの街の共通認識である。

 つまるところ彼女は魔王を討伐した勇者だ。かつては“魔女”なんて畏れられていたけれど、今や誰しもが彼女を敬畏している。

 クールビューティーなんて新しいあだ名までついていて、彼女自身もすっかり天狗状態だ。


 つい、先日のことである。


 姉貴が剣道を始めたのは噂で聞いてはいたが、始めた翌日に、市内一の剣道の達人に勝負を挑んで、真剣な試合で勝利を収めたらしいのだ。

 趣味で始めた彼女が、である。


 流石の僕も「それはない」と容易には信じられなかった。

 武道マスターでもない限り、そんなことはない。

 だから直接、姉貴に問い詰めることにした。

 絶対そんなことはない! 嘘に決まっている!そう思いたかった。



『姉貴、剣道始めたんだって?』


『ああ、よく知ってるな。いかにもそうだ』


『市内一の達人に勝ったって噂で聞いたけど、本当か?』



 姉貴は『ん、』と眉をひそめた。

 彼女は伝説的なエピソードが多すぎるが故に、彼女自身も噂にどんどん尾ひれがついてゆくのを良しとしなかったのだろう。

 と、僕は勝手に思ってしまっていた。


 だが、現実はもっと恐ろしかった。



『いや、市内一ではない。県内一だ。だが勿論、余裕勝ちではない。ギリギリだった。流石に強かったよ』



 姉貴は相手を讃えるように腕を組んで『ふむふむ』と笑っていたが、僕は自身の鳥肌を抑えることができなかった。

 その瞬間に気づいてしまった。

 彼女こそーー真の天才なのだと。


 ※ ※ ※


 部活帰りに塾へと向かう。

 勉学でも運動でも姉貴には到底追いつかないし、別にそれを母さんも父さんも咎めたりもしないけど、周りの視線というのか、変に比較をされているような気がして、どうしてか塾に通うようになっていた。

 あと一年もしたら受験が始まる。

 志望校などは決まっていない。


 姉貴はこの春、柱劇第二高校ーー通称【ハゲダニ高校】へ入学した。

 彼女の学力をもってすればもっと高いレベルを狙えたはずである。

 だけど、彼女は周囲の期待を打ち消すようにハゲダニを選んだ。

 かつてムラオカ兄に学歴の重要性を説いていた、少女がだ。


 志望理由について、彼女はこう述べていた。



『受験とはかなり多様性に長けた制度だ。きちんと勉強さえすれば、一定の学歴を保証できる。だが、一定のラインを超えれば後は名誉欲を満たすだけに過ぎない。年収だって800万円を超えれば幸福度は上がらないと聞く。柱劇第二は決してかなりの進学校とは言えないが、偏差値だってそれなりに高く、なんといっても地元の人から愛されている。だから柱劇第二を貶めるような発言は許せない。私は将来何をやりたいのかまだ定まっていないので、可能性が広がる場所を選択したまで。あとはそうだな。一番の決め手は……家から近いから、ですかね?」



 地元の新聞で彼女はジョークを交えながらそう回答した。

 新垣 奈々美の名前は見出しに大々的に載せられ、またしても一躍有名人となった。



『善一、柱劇第二(ハゲダニ)はいいぞ。お前も来るか?』



 そう勧められるも、内心あんたのいる学校なんて行くわけないだろ、と思っていた。

 またしても比較されるだけである。


 だが、やりたいことが定まっていないという発言は不思議と僕の心を軽くさせていた。

 あの姉貴でも将来に不安を抱いたりするのか、と考えるとなんか少しだけ嬉しくなった。


 ただ、これもまた噂ではあるが、今姉貴はハゲダニ高校の生徒会に興味を持っているそうである。

 あれだけ優秀な彼女だ。

 生徒会側からオファーがあってもおかしくない。


 しかしやはり、姉貴と同じ学校に行くなんてやっぱり感情が許せない。

 生徒会長になんかなってしまえば、どんな好奇な目に晒されるか……。

 やはり、僕はもっと学力の高いところを狙おうと思っている。

 ハゲダニ高校なんかよりも偏差値の高い高校を、だ。


 少しでもいいから姉貴を超えたい。

 あの人に追いつきたい。

 だから、僕は塾に通うことにした。

 彼女が独学であそこまで辿り着いたのだから、僕は他人の力を借りて、ちゃんと正規のルートからのし上がりたかった。


 ×××


 エアコンの効いた部屋。

 狭い雑居ビルの一角。

 一流大学を卒業した肩書きを持つ塾講師が書いたホワイトボードの文字を必死になってノートに書き写しながら、ひたすらにテスト範囲を頭に詰め込んでいた。


 ふと、隣の席の女の子が筆記用具をガザカザとまさぐっているのが視界の隅を捉えた。

 集中できなくてウザいなぁ……と思っていると、不意に肩をポンと叩かれる。


 女の子が僕を見つめている。





「ねぇ、消しゴム貸してくれない? 忘れちゃってさ」





 ──古垣 眞礼と初対面したのも、この頃だった。

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