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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【僕はハーレム小学生。】
182/279

悪ノリ少年とぼく。



「ぼくは魔女じゃないよ」


「んなこと、わかってるよ」



 アイスクリーム柄のTシャツを着た少年がボールを蹴り上げて、するすると木から降りてくる。

 地面に降りてから、上空から落ちてきたボールを足元でキャッチした。


 そのまま、ニヤッと笑う。



「おまえのねーちゃんだよ。知らないのか? おまえのねーちゃん、まじょってよばれてるんだぜ」


「おね、……あ、じゃなくて、姉貴は魔女じゃないよ」


「よばれてるだけ。みんな、本当にまじょだとはおもってねーし。おまえ、ばかなの?」


「……バカだよ」



 しゅんとしてしまう。当時の僕は泣き虫だったので、この時もすぐに凹んでしまった。



「えっ、ないてんの? まじょの弟のクセになさけねーな」


「……ごめんなさい」


「あやまらなくていいって! ごめん。俺もわるかったよ。ほら、泣くな。ガムあげるから」


「ガム苦手」


「めんどくせーなおまえ!」



 彼は名前を玉櫛 宗と言った。サッカーボールを片手に荒っぽい言動をする少年はどこか大人っぽくて、とても同い年には思えなかった。



「飴がいい」


「もってねーよ! そんなの! なら、だがし屋いくか?」


「駄菓子屋?」


「おやつ売ってるところ! え、そんなのもしらないの?」


「わかんない」


「おーけー。安心しな。この玉櫛さまはむちだからといって、みくだしたりさべつをしたりはしない主義のにんげんさ。故にだんでぃだぜ!」


「わー。よくわかんないけど、かっこいい!」


「だろぉ?」



 彼の背中はすごく大きく映って見えた。

 幼稚園の頃、誰とも馴染めなくて、友達がいなかった僕にとって、はじめてできた友達が彼であった。



「おまえももっとだんでぃになれよ。今の泣き虫こぞうだと女子にすかれないぜ。しゃべりかたも子供っぽいし、声もちいさいし、なんにもかっこよくない! もっと“しんし”になれよ」


「紳士?」


「おう。しんしだ。男たるもの、しんしであれ!」


「わかった。頑張ってみるね!」



 憎たらしい顔をしてるのに、思った以上にいいやつである。



「みるね!って言いかたが女子っぽくてキモいぞー。なんか、もっと、ないのか?」


「わかんないよ……ごめんなさい」


「すぐにあやまらなくていいから! どうどうとすりゃいいのさ」


「堂々と?」


「そう。あと、おまえ、人の言うとおりにばかり動いてたらなんにもできなくなるぞ」


「……なんにもできないよ」


「なんで」


「だって、ぼくは姉貴の奴隷だから」



 本心である。



「ごめん。ちがうんだ。ええっと、なんにもできなくなくはない」


「??」


「こきゅうもできてるし、歩けているだろ? そのじてんで、おまえはなにかをできている。だからその、なんにもできてないってのは、まちがい!」


「ぼくも、なにかできてるの?」


「できてるとも! できてるから、おれとおしゃべりができているんだろ? だから、大丈夫。きにしなくていい」



 彼がぶっきらぼうに笑って、手を差し伸べてくる。

 僕も握り返した。

 ギュッと掴んだ掌は、なんだか温かい。



「よーし、せっかくだから、この玉櫛さまが! おまえに“だんでぃ”な男の遊びかたっぅーもんをおしえてしんぜよう! ついてきな!」


「うん!」


「あ、その前におまえの名前きいてなかった。なんだっけ?」


「えっと、ぼくは……新垣 善一だよ」


「まてまて。さっきいっただろ? 堂々とだ!」


「堂々とってどうやるの?」



 宗は少し考えてから答える。



「そうだな。たとえば、しゃべり方を変えるとか? 『だ』とかいいきってしまったほうがだんでぃさはあがるぞ。おれなら、こういうかね。『俺の名前は、天才・玉櫛 宗さまだ』みたいな?」


「なるほど〜」



 宗は当時からマセていた。



 言われた通り、僕はやってみることにした。

 映画の字幕にあるようなキャラクターの口調を真似て、精一杯背伸びして、胸を張って、普段は使わないセリフを、出来る限り太い声で………………




「僕の名は──新垣 善一だ」




 ※ ※ ※ ※ ※



 それからというもの、僕と宗はよくつるむようになった。

 家が近所なので“幼なじみ”としての要素は強いのだが、それよりは僕らの関係は普通の友人というほうが近かった。

 出会い方が親関連ではない、というのが大きかったのかもしれない。

 だって、それってなんかお見合いみたいだし。


 宗はアウトドアな性格で室内でゲームをすることはほとんどなかった。どちらかといえば、外で暴れているタイプでーーというか、きっと彼の当時のブームが《昆虫採取》と《サッカー》ということも大きかったのだろうけど、なんにせよ外で遊ぶことは多かった。

 家にひきこもりがちだった僕にとっては、宗の存在は(健康面なども考慮して)価値のあるものであった☺︎



「いっちー、おまえさ、むしきらいなの?」


「虫は苦手でな……」


「うーん、いっちー。そのしゃべりかたとても“だんでぃ”だけど、ちょっとちがうかなー」


「虫はやや苦手だ」


「ややついちゃってんぞ」


「虫は大嫌いだ」


「お、おう。それでいいや……」



 いつからか宗は僕のことを[いっちー]とそう呼ぶようになっていた。

 そしてまた僕も彼のことを[宗しゅう]と呼んでいた。

 実のところ、最初は漢字を読み間違えて【そう】だと勘違いしてたけど。



「カブトムシ、ほれ。さわってみ?」


「むりむりむりむり! むりだよ!!」


「……もとにもどってる。いいから、さわってみ!」


「ちょっ、ちょっと、投げないでよ!?」


「へへへ、さわらねーとおまえの自転車のなかにほりこむぞ? もしくはせなかに幼虫いれてやる!」


「こいつは最悪だ!!」



 彼は昔からブレない。単なるクソガキである。



 僕らはよく小学校の裏山で遊んでいた。

 これも全部、宗が「景色の良いところがあるぞー!」と言ったからである。


 人気の少ない場所に小屋を見つけて、よくそこを隠れ家にしていた。

 幼い頃に読んだ「IT(イット)」という本に影響を受けたのだ。

 宗はその秘密基地のことを「ルーザーズクラブ」から取って「ウィナーズクラブ」とそう呼んでいた。だが、途中からややこしくなって、ソーセージ畑と呼ぶようになった。

 どこにも原型がない。



「くぅ〜。きょうはよくはたらいたなー。サイダーのみてぇー」


「大人だ。なんだかビールみたい」


「ビールでもいいけどなぁ。でも、あれ、まずいだろ?」


「飲んだことあるの!?」


「あるよ。とうぜんよ」



 未成年飲酒を堂々とやってのける宗は、やはり当時から生意気なクソガキだった。

 ウヘヘヘヘと白い歯を見せながら、Tシャツを肩までまくって「マッスルぅぅうっっ!!」とやってくる彼は、やはり当時から生意気なクソガキだった。

 でも、当時の僕からしたら憧れるべきクソガキだった。



「……さすがだよ、宗。さすがは僕の友達だ」


「くされえんだろ?」


「……すごいなぁ。そんな言葉も知ってるだなんて」


「まあ、天才なもんで」



 二人で笑う。そんな宗との日常はそれなりに楽しかった。


 ※ ※ ※ ※ ※  


 夏休みは共に過ごすことが多かった。お互いの家を行き来したこともあった。

 宗には弟が二人と妹が一人いる。おまけにペットとして犬と猫もいる。玉櫛家は大家族なのである。

 そんな大家族の長男坊として産まれた彼は、様々なことを知っていた。

 駄菓子屋だったり、小さな遊園地だったり、フードコートのあるデパートだったり、それなりになんでも知っていた。

 僕らは都心部から離れている田舎町に住んでいたので、都会の子供たちの遊びはほとんど経験したことはなかった。ここにはカフェやカラオケなどもなかったのである。

 でも、宗は遊び場を自分の手で作り上げていた。彼は田舎町を自らのテーマパークに変貌させていた。

 宗と一緒にいて、退屈することはなかった。


 × × ×



 宗と出会ってから三年の月日が経過しようとしていた。

 それは小学校二年生、初夏のこと。



「いっちー、おまえそれあつくねーのか?」


「暑い」


「なんできてんの」


「アイス食べすぎてお腹冷やしたら嫌だから」


「やっぱ単純だなー、いっちーは」



 その日も、半袖半ズボンに虫網を持ってる宗に冷やかされながら、蒸し暑い夏の日にパーカーを着ながら、僕らはとほとぼと通学路を歩いていた。



「はらこわしたくらいでなんなんだよ。うんこなんてあいどるだってしてんぞ」


「僕はアイドルじゃない。うんこもしない」


「あっそ。なあ、いっちーはさ。“カレー味のうんこ”と“うんこ味のカレー”どっちをくう?」


「僕はカレーなら何でも食べるぞ」


「うわー、うんこもくうんだー! きもちわりぃー。ぷーくすくす」



 よくわからない話をされながら、路地の電柱付近にまで辿り着いたとき、見覚えのある顔を発見した。

 母さんだった。

 母さんが手招きしている。



「あ、おったおった。ぜんいちー! 宗くんー! ちょっと来てやー」


「あ、母さんが呼んでる」


「ん? だれ、あの小さいの」



 みるともう一人女性と、小さな女の子がちょこんと隣に立っていた。

 前髪パッツンのサイズの合わない黒縁メガネをかけている少女。

 女性の後ろに隠れながら、ぴょこんと顔を出している。



「挨拶できてなかったんやけど、ご近所の(あおい)さん。で、こっちが(なぎさ)ちゃん。仲良くしたってなー」


「ほーん。女子か。よろ(しゅう)



 鼻くそをほじりながら宗はその手で女の子に触ろうとする。

 もちろん、僕はそれを食い止めておいた。

 流石に失礼だったからだ。

 ちなみに彼は学校でもよくこういった悪戯をしていたので、クラスでは“悪ノリの帝王”として崇められていた。


 そんな宗を押しのけて、僕が代わりに挨拶を交わす。



「はじめまして、新垣 善一です。こっちが友達の玉櫛 宗。君は?」



 笑いかけながら堂々というと、女の子はわかりやすく動揺をはじめた。

 目線をぶらぶらと動かしながら、手をぷるぷる震えさせている。



「…………っっ…………!」



 目を伏せている。

 一体、どうかしたのだろうか?



「ごめんなさい……。この子、緊張しやすくて。恥ずかしがり屋なんです」


「あ、そうなんですか!」



 僕は近づいて、警戒心を解くように接することにした。

 女の子と接するときには、堂々と。

 紳士的に。

 紳士アラガキとして。



「ごめんね、怖がらせちゃったかな?」



 笑いかけて、頭を撫でる。

 ちなみにこの当時、僕は渚を完全に歳下だと思って接してしまっていた。

 瑠美と同じ幼稚園児くらいの年代として。

 とても同い年には思えなかったのである。


 頭を撫でたとき、彼女はびっくりしたようにビクッと震えて、すぐに目を瞑った。


 すぅーすぅーと呼吸をして、息を吐く。

 両手をギュッと握りしめながら、首を振っている。

 しばらくしてから、ギョッと目を見開いた。



「えっと、その……わ、わたしは」




 少女が上目遣いになる。




「あ、(あおい) (なぎさ)ですっ……!」






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