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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【夏編─海合宿(上)】
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僕は友を守るために体を張る英雄系ハーレム高校生。


 世界なんかに、期待した自分が愚かであった。


 地球は何度も自転と公転を繰り返して、くだらない毎日を消費していく。

 どれだけ回ろうともなんら変わらないのに。


 バカな政治家が「明るい未来を!」などとのたまう。

 こんな暗黒な時代に一体なにを望めばいいのか。


 理解はしている。

 理解はしていた。

 その、つもりだった。



『今日も清々しい朝だ。今を生きられたことに大いなる感謝をしよう!』



 祈りは届かない。

 僕の声は、時代に呑まれて消えてゆく。


 毎朝、目を閉じて平和を願っているのに、全くといっていいほど叶いやしない。

 夢は夢のまま、散っていく。


 向いてないのだろう。全部が。

 だからみんなが当たり前にこなしていることができないのだ。

 だから姉貴が当然のように出来ていることが、僕にはまるっきりできないのだ。


 今朝は挨拶を忘れてしまった。

 だから、今日に限っては神に見放されたのだろう。じゃないと運が悪すぎる。厄年だろうか。


 僕の目の前にアイツがいる。すぐ目の前にあの子がいる。



 ーー僕が、最も会いたくない人がそこにはいる。



 ※ ※ ※ ※ ※



「あのさ、ずっと君たちみたいな人間に聞きたかったことがあるんだけど、聞いてもいーい?」



 偶然なのか、それとも必然なのか、定かではないが、古垣 眞礼がいることだけは確かであった。


 古垣がチャラ男たちの強引なナンパの間に入って、安穏たちを守っていた。


 ぶらぶらと手を左右に揺らして、幽霊みたいに青白い顔で、にへぇと笑っている。



「なんで君たちは嫌がっているのを分かった状態で見知らぬ女の子たちに声をかけたりするのかな? それでもしかして、付き合えたりだとかエッチができるとか勘違いしているのかな? まあ、きっとなにも考えていないと思うけれど、それでもさ、自分がイケると思えるレベルの子を狙うのなんて卑怯じゃない? 気が弱そうで、強引に誘えばすぐついて来ちゃうようなバカ女を口説きとも言えないアプローチではんば無理やりホテルまで連れ込んで、種付けしたりするんでしょ。経済力も責任感もないのに『俺を信じて!』だなんて口上を使ってさ、私たちを傷つけるんだ。それってもう半分強姦だと思うけどね。いいよねー、君たちはさ。平気でそういうことができるんだから。恵まれているよねー。うんうん、わかるよ。恋愛なんて所詮は性欲発散の言い換えでしかないもんね。くだらないバカ親どもの失敗の弾みでできたバカなガキが、また同じことを繰り返して、そうやって種は繁栄していく。世の常だ。ああ、気持ち悪いと思いたいけど、それもしょうがないことだから受け入れておくよ。だって、男の子ってさ、恋愛ができないと『生きていけない』もんね。女の子がいないと自分に価値が見出せないんでしょ? あっはっは、可哀想。女性はね、一人で生きていく力があるんだよ。でも、君たちは違う。【モテない=人間失格=人としての魅力が皆無=死んだ方がいいくらいの存在】だもんねー。可哀想。それじゃあ、女の子を求めちゃっても仕方ないよね。同情するよ。私ってさ、いい子だから君たちの味方をしてあげたいんだよね。リア充っていうのかな? カップルにさえ、なることができれば誰でもいいのなら、別に選ぶ必要なんてないじゃん。そこらへんに女の子はたくさん転がっているんだから。選び放題。ダメだったらさっさと切り替えて次に行ったほうがいいよ。数万人に一人くらいは君たちとランチに行ってくれるような尻軽女もいるかもしれないし。だから、この子たちはやめときなって。絶対むりって雰囲気でわかるじゃん? バカなの? あ、ごめん、バカだからそんなことをしているんだった。脳と生殖器が繋がっていて命令を出しているんだもんね。『ほら、あの女だ! 声をかけろ! いいぞ! これでこの女の身体は全部俺のものだ!』ってさ。お前のモノじゃないってのにね。勘違いしちゃうなんてとても愚か。とっても、とっても、愚か。愚かすぎて笑える。ほら、愚かすぎるから帰れよ。ここから消えて。目障りなの。あとその水着ダサすぎな?」



 息継ぎ無しで言い切った古垣 眞礼は相変わらず狂っていた。

 せっかく良い行動をしているのに、自分の発言で台無しにしているあたり、最初から私怨で動いていただけなのだろう。

 全ては誰かに対しての復讐。


 自分の憎しみや怒りを他人にぶつけてるだけ。



「はぁ? はぁ?はぁ? はぁ?はぁ? はぁ?はぁ? はぁ?はぁ? はぁ?はぁ? はぁ? 誰お前? 急にわけわかんねぇこと言ってきて、しゃしゃり出てきて、意味不明なんだけど。いや、マジでマジでマジでマジでマジでマジでマジでマジでマジでマジで! お前、頭おかしいんじゃねぇ〜〜〜か!?」



 髪を尖らせた茶髪の男が、眉間にシワを寄せる。



「ねぇーちゃんには関係なくね? つーか、ホント誰? 口出ししてくれんな、マジで。部外者のクセにうぜぇわ。小声過ぎて何言ってんのかわかんねぇし、キメェし、病気かよガチでガチでガチでガチでガチで!!」


「私が病気だって言える根拠なんてあるの? 私が病気だと思う君たちのほうが、私からしてみたら病気だと思うけどねー。良い精神科紹介するよぉ?」



 古垣はビクともせずに、言葉を返す。



「人を無意識的に傷つける人間がとても嫌いなんだよね。私ってさ、性格がとても悪いからこういう現場を見てたら煽りたくてしょうがなくなっちゃうの。ごめんね、でもこんなバカどもの相手をする必要はないよ。さっさと焼きそばを持って帰って、テントで食べなって。じゃないと、こいつら厄介そうだから、焼きそばだけじゃなくて色々と食べられちゃうよ?」



「おい、無視してんじゃねぇ〜〜〜〜ぞォ!?」



 振り返って、安穏たちに話しかける古垣に怒声が浴びせられる。

 古垣は手を振って、尚も続ける。



「こういうね、“小物”はすぐに感情的になって暴れだすから関わると負けだよ。将来性もなければ、荒っぽい行動ばかりを繰り返す。どうせランチに行っても、店員さんにクレーム入れたり口説いたりするタイプだよ。誰でもいいんだよ。よくいるじゃん『ムシャクシャしてやった』ってアレ。それと同じ類。『ムシャクシャしてヤッた』りするんだ。DV男の典型例。モテないカスみたいな男。モラハラ気質の雑魚。何の価値もない愚図。まあ何の度胸もない粘着気質な陰キャラヲタクイキリネットキッズよりかは百倍マシだけど」



「おい、聞いてんのかァ〜〜〜〜〜〜!?」



「聞いてないよ。聞きたくもないよ。聞いてると思った? 動物の鳴き声かと思っちゃった。えへへ、良い喩えだ。私って芸術的センスあるかも。じゃなくて、なんだっけ? 私の連絡先? 教えないよ。ナンパならあっちでやってくれるかな? てか、聞いてなかったの? ダサいから、その水着。よくそんなの着て生きていけるよね。服とかに気を遣ったことないの? だからモテないんだよ。髪型もダサいし、顔もキモいし、肌も荒れてるし、目は一重だし、口も臭そう。あー、全部ダメ。私の好みじゃない。同じ人間とは思えない。キモすぎる。吐き気がする。あっちいって。イケメン以外が気安く話しかけたりすんなよ、シコッて寝ててな」



「クソボケがああああぁぁぁぁぁぁ!」


「やってやろうぜえええぇぇぇぇぇぇ!?」


「任せとけええええぇぇぇぇぇ!」


「犯したらああああぁぁぁぁぁ!!」



 発狂した男たちが、古垣に手を出そうと拳を振り上げる。

 彼女は何も言わずに、にっこりと笑って手を広げた。

 頬を突き出している。

 殴られるのが、怖くないのだろうか。



「女に暴力を振るうなんて最低。できるならやってみなよ、ほら? ほら!ほら!ほら!ほら!ほら!ほら!ほら!ほれ! さあ、やってみせて!」



「もちろんじゃああああぁぁぁぁぁ!!」


「やったらああああぁぁぁぁぁ!!」


「上等だぜえええええぇぇぇぇ!?」


「舐めんなよクソアマぁぁぁぁぁぁ!!」



 渚と安穏が困惑している中、極めて悪質な暴力行為が行われようとしている。

 古垣は目を閉じた。


 髑髏集団のリーダーが拳を振るう。


 僕は居ても立っても居られなかった。




「──そこまでにしろよ」




 拳を掴んで、僕は髑髏を睨みつける。

 体格的にも僕の方が大きかった。

 こんなやつ、本気を出せばワンパンである。



「ぜ、善一くんっ……!?」


「……遅いし」



 急な僕の登場により、渚たちが声をあげる。

 古垣がゆっくりと目を開けた。



「……なんで君がいるのかなって、聞いてもいい? 新垣くん」


「それは後だ」



 即座に返答する。髑髏が僕を睨んでいる。



「あァ!? 誰だテメェはよォ〜〜〜〜〜〜!?」



「その子たちのツレだ。女の子たちに暴力を振るうなんて最低だぞ」



「ソイツが生意気言うからだろうがァ!! 手を離せ! クソ野郎が調子に乗ってんじゃねぇ〜〜〜〜ぞぉ!?」



「こっちの台詞だ。彼女たちは僕の友達だぞ。これ以上困らせるのはやめてくれ。止まらないようなら警察を呼ぶ」



 僕は警察官の息子である。僕が動くと厄介だぞ。親のコネを使えるからな。国家権力でぶっ潰す。安穏たちに危害を加えた罰だ。



 僕が嫌いなのはーー友や家族を傷つける輩である。



 古垣は【元友人】ではあるけど、一応は顔見知りの知り合いだ。好き嫌い関係なく、危機のときに見捨てるのはよくない。

 どんな状況下でも、女の子がピンチなら助けてなんぼが紳士の役目である。



「ナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメ舐め腐りやがってぇ!! イキってんじゃねぇ〜〜〜〜〜ぞぉ!? ナルシスト野郎がァ!! 遅れてきたクセに、とんだヒーロー気取りか!?」


「黙れ、小悪党が。早くおウチに帰ってママに甘えていろ。ビスケットを焼いて待ってくれているぞ」



 ヒーロー気取りだと言われたので、完全に洋モノのアメコミ感を出しておいた。

 今日の僕はスーパーヒーローだ。



「ふざけんなよ! ただその子らと遊びたかっただけじゃねぇ〜〜〜〜〜〜かよ!? なんで邪魔されなきゃいけねぇ〜〜〜〜〜〜〜んだよ!? ちょっと可愛いから声をかけただけじゃねぇ〜〜〜〜〜〜〜か!? なぁ〜にがいけねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んだよ!?」



「“プロセス”だよ」



「あァ!?」



 僕は手を離す。



「何事も“プロセス”が大事なんだ。順序を間違えちゃいけない。誤解しないでくれ。君らの気持ちはすごくわかる。この子らは可愛いもんな。うん、気持ちはわかる。僕だってランチに行きたいし」



「はァ?」



 ごめん、これはちょっと調子に乗りすぎた。



「でも、やり方が違うんだ。誘う前に警戒心を解かないと上手くいかない。自分の大欲を曝け出した状態だと確実に失敗する。これだと、その子がさっき言ったように“強姦”と同じだ。犯罪者にはなりたくないだろう?」



 古垣を親指で示す。

 何故か彼女は楽しそうに手を叩いて笑っていた。



「ナンパ自体はおかしくない。そこから始まる恋があっても良いと思う。でも、ちゃんとしたプロセスを踏まないと失敗するだけだ。相手をよく見て、ダメならすぐに引く。じゃないと反感を買うぞ。それと、声を張ることで自分を強者に見せるやり方もよろしくないな。弱い獣ほどよく吠える。魅せ方を考えないと警戒心は解けない。大事なのは[親しみ]と[好感]だ」



 これらは全部恋愛心理学で学んだ知識である。



「『賢人は歴史に学ぶ。愚者は体験に学ぶ』。ナンパが廃れた理由をもっと考えた方がいい。助言(アドバイス)は以上」



「あァ!? なにを偉そうにいいぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜!! イケメン如きが調子こいてんじゃねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぞぉ!?」



「……やれやれ。これだから脳筋は嫌いなんだ」



 僕は頭を掻く。


 ここまで懇切丁寧に話をして伝わらなかったのなら、もう良きにはからえである。

 勝手にすればいい。

 犯罪だけは起こしてくれるなよ。


 僕は髑髏に目をやる。上から見下ろす。


 なんでこの程度のやつが僕の大切な安穏に気安く声をかけたのか、理解ができない。

 全くもって理解ができない。


 優しく諭すことはもうやめた。言っても聞かないだろうから。どんなに言葉を柔らかくしていても、怒りの感情は抑えられない。


 ーー僕もまだまだ子供だな。



 息を吐いて、髑髏を睨みつける。

 じわじわと足を踏み出しながら、脅しをかける。





 「この子らに二度と関わるな」






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